「『残酷な神が支配する』を書くことで、悪夢を見なくなった」
私の少女マンガ講義
U章 少女マンガの魅力を語る

萩尾 『残酷な神が支配する』を描いた時には、主なストーリーができていたので、編集部に
「二年くらいで終わる話です」と言っていたのに、実際には九年かかってしまいました。

 何故かといえば、グレッグという困ったお父さんを描き始めたら、意外と悪役を描くのが楽
しかったんです。グレッグという人はヒール(悪役)ですから、原稿に取りかかる前は「この
人を描くのはつらいかな」と思っていたんですが、実際に描いてみると、別の視点から見られ
るせいか、ものすごく面白くて。ついつい主人公イジメに力が人ってしまいました。

−−−- 残酷な神が支配する一のグレッグは、主人公のジェルミに執着して、わざわざ彼の母親
と再婚までする人物です。ジエルミの母親や社会に見せる表の顔と、ジェルミを性的に虐待す
る裏の顔がある。徹底した悪人ですから、描くのが大変なのでは、と思っていましたが、面白
かったとは! 悪意を描くというのは、物語にとっても大切なんですね。でも悪役が魅力的に
見えるのは、どういうことなんでしょうね。自分の好きなようにふるまうからなのか(笑)。

萩尾 そうかもしれない。ある意味、悪役が何かを解放してくれるんじゃないでしょうか。自
分の中に抱えこんでいた。ものが、全部出てくるというようなものかしら。
 人間にはやられたことをやりかえす習性があるといいますね。強い人に殴られたら「畜
生!」と思って、自分より弱い人を探して殴るという。だから親切にされたら誰かに親切をか
えすという、よい面もあるんだけれど・・・。
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