「………………ありがと」


そっぽを振り向きながらも顔を赤くしながら礼を述べる小泉。動作はともかく、いつもの
の彼女なら「お世辞言っても何にも出ないわよ」ぐらいの言葉は出るだろうに。
それには当人も気付いていなかった。……絶望病のために。
だから「じゃあ罪木も呼んで一緒に食べよう」という日向の言葉に「蜜柑ちゃんはまだ良
いでしょ、かえってお仕事の邪魔になるから」と返した。

日向が気付くべきだったのだ。 同性には優しい彼女にしては、奇妙な言動だと。
尤も、直前まで狛枝凪斗という最悪の不発弾の相手をしていた彼にその配慮は酷であった
かも知れない。
おかげで別の爆弾をも抱え込む事となったが。


二階の会議室でテーブルを広げ、日向と小泉は向かい合う形で座って弁当を食べ始める。
弁当の中身は握り飯・卵焼き・マカロニサラダにタコさんウィンナー。 日向は一つ一つを
口に入れ、噛み締める。
「ふまい」 シンプルで正直な感想が、自然と出た。 「アンタ、行儀悪いわよ ちゃんと
呑み込んでから、ね」
小泉はそう言いながらも、クスクス笑っている。 田中の飼っているハムスターのように頬
張っているのは何処かおかしく、可愛らしい。

(そうだ)
小泉は愛用の一眼レフカメラで日向を撮り始めた。
日向はいつもの事だとは思いつつ、妙にくすぐったい気分だった。 それでも三大欲求の一
つに突き動かされてるため、視線は弁当の中身を覗き、手は箸を動かす事を優先した。