空気が寂しく紅色に染まる夕刻の時に、
波の音と潮のにおいだけが孤独に浮かぶタツマイリの西の一端で、
頬を赤く染めながら相対する一組の男女がいた。
「・・・用って、なに。ナナ、さん。」
控えめな口調の金髪の男の子の問いに、
同じく金髪の女の子はこれまた同じく控えめな口調で返した。
「その、まぁ・・・大事な用っていえば、大事な用、なんだけどね・・・
 ちょっと長くなるかもしれないけど、最後まで・・・聞いて、くれる?リュカ、くん。」
「う、うん。聞くよ、最後まで。」
一層顔を赤らめ、溢れんばかりの期待と緊張をうまく胸に押さえつけながら、耳を澄ます。
しばらくして、女の子の舌が廻り始めた。

「 リュカくん、運命の赤い糸って知ってるわよね。赤い糸。
 ほら、あの運命の相手とは赤い糸同士で結ばれていて、
 その人とは必ず結ばれ、幸せになれる的な言い伝えあるじゃない。
 例えば・・・私の小指とリュカくんの小指とが同じ糸で繋がってたら素敵じゃない?
 いやだ、例えよ例え。そんな霊的なもの、私には見えないわ。
 あなたにも見えないでしょ?見えないわよね。もし見えてたら言ってくれていいわよ。
 どう?見えない?それならオッケーよ。見えたら気味悪いもの。
 でも、私はリュカくんのコト好きよ。ほら、だって笑顔が可愛いじゃない?
 私の話を最後まで聞いてくれるのはリュカくんだけよ。
 ホントいい人よねリュカくん。いい人・・・というか、ホント、いい人。
 そういえば、私達同じ髪の色じゃない?運命的なものを感じたりしないかしら?
 いや、別に感じなくてもそこまでふてくされる事は無いわよ。私も感じないもの。
 それでも私はリュカくんのコト好きよ。ほら、笑って。かわいいー!
 そういえば、まだ聞いてなかったけど・・・いえ、まぁいずれ聞くときには聞こうとしてたし、
 今から聞くわけなんだけれども・・・そう、今から聞くわよ。心の準備はオッケー?
 リュカくんは私の事好き?あーーー、いい、いい。緊張するだろうから、応えなくてもオッケーだわ。
 仮にリュカくんが私の事好きだったってコトにして、今から話を進めるわ。
 一度舌が廻ったら止まりにくいのよ、あたし。わかる?ごめんね。
 あたしね、最近シースーにはまってきてるのよ。わかる?シースー。
 お寿司の正式な呼び方よ。ファッショナブルな人達はみんなこう呼んでるわ。
 でね、リュカくんと初デートのさいは、まずはシースー屋さんにいって、
 一つの皿を二人で食べたいのよね。ほら、シースーってさ、一つの皿に二つ乗ってるじゃない?
 一人前のモノを二人で食べるって、なんか素敵よね。とてもチックロマンよね。
 ・・・チックロマンってわかる?私が今作ったの。
 ロマンチックの呼び方をカッコよくしたのよ。どう?結構ナイスじゃない?
 これからは一緒に”チックロマン”を流行らせましょうよ。
 きっと流行るわ。流行は私達人間が作っていくのよ。
 ・・・長々と理想談をごめんね。まだリュカくんと付き合うって決まったわけでもないのにね。アハハ
 でもね、何事も理想から語った方がなにかと素敵じゃない?そんな気がするのよ、あたし。
 私、リュカくんと付き合って、みんなにチックロマンを流行らせたいの!
 ・・・あ、勘違いしないでね。あくまで主体はチックロマンじゃなくて、リュカくんと付き合う方だからネ。
 チックロマンを流行らせたいのか・・・リュカくんと付き合いたいのか・・・どっちかというと私は後者を優先するわ。
 後者って分かるかしら?二つ目に言ったほうを選びますってことよ。
 つまりこの場合、『リュカくんと付き合う』ほうを優先したってことになるわ。オッケー?
 ・・・・あ、ちょっとリュカくん、大丈夫?なんかフラフラしてきてるわよ。大丈夫?私の話聞いててくれた? 」

「『リュカくん』まで読んだ」