>>955
ユニコーンのことだよ

ひとびとはこれを知らず、それでもやはり──そのさまよう姿、その歩みぶり、その頸を、そのしずかな瞳のかがやきすらを愛した。

たしかに存在はしなかった。しかし人々はこれを愛したから、純粋の獣が生まれた。
人々はいつも余白を残しておいた。そしてその透明な、取っておかれた空間で獣は軽やかに首をあげ、そしてほとんど存在する必要さえもなかった。

人々は穀物では養わず、いつも、存在の可能性だけでこれを育てた。
可能性こそ獣に大いに力をあたえ、ために獣の額から角が生まれた。ひとふりの角が。

ひとりの処女(おとめ)のかたわらに、それはしろじろとよりそった──。
そして銀(しろがね)の鏡のなかに、そして処女のうちに、まことの存在を得たのだ。