プロ野球は視聴率を気にしなくてもいい|野球報道
By khiroott, on 4月 24th, 2011
http://baseballstats.jp/?p=9092

民放地上波でのプロ野球放送の視聴率が下げ止まらないそうだ。巨人戦でも10%を超えることがない。
震災復興のムーブメントでの高視聴率を期待した民放各社は中継をやめて、他の番組に差し替える算段をしているとのことだ。

もともと野球は、CM枠で縛られた日本の民放枠には向いていないコンテンツだ。いつ終わるかわからないし、イニングの所要時間もばらばらだ。
おまけに試合時間の大半は投手がボールを持って打者とにらめっこしているだけだ。注意して見ていなければ、見どころは一瞬で終わってしまう
のもTV向きではない。

これまで巨人戦がTV史上有数のコンテンツたり得たのは、一にかかって読売グループの大キャンペーンの成果だ。
夜になったら巨人戦を見なければはじまらない、そういう刷り込みがされていたのだ。

今のように価値観や嗜好が多様化し、マルチチャンネル化が進む中では、野球の視聴率が下がるのはやむを得ないことだ。

現在の民放は、高度なマーケティング戦略によって視聴者をくぎ付けにする施策をとっている。見どころの直前になるとCMが入るとか、
面白い場面は何度でも見せるとか。他番組内での番宣も露骨だ。盛り上がりを最大限にするためにタレントも必死で声を上げる。
本当に面白いものも、大して面白くないものも、みんな同じ扱いで大盛り上がりさせるのだ。

料理に例えれば、A5霜降りの和牛であろうが、最低ランクのゴムみたいな輸入牛肉であろうが、ケチャップを塗りたくって食べさせているようなものだ。

野球はそうした大げさな演出がやりにくい素材である。タレントが騒ごうと、アイドルが笑おうと、ストーリーは彼らに関係なく進展するからだ。

ケチャップ塗りたくりの料理に慣れた視聴者には、こうした薄味の料理は物足りない。そもそも、そういう人たちは何かが起こるまで黙って
見ていることが出来なくなっている。余談めくが、昔の落語や文楽などの古典芸能の上演時間は、3時間以上が当たり前だった。
しかし今は長くても2時間までになっている。関係者によると「とてもお客がもちませんから」ということらしい。

これを「劣化」と決めつけるのは一面的に過ぎようが、少なくとも民放地上波テレビの前にいる視聴者の多くは、すでに野球のお客ではなくなっている。
5分に1回笑わせてくれない、感動させてくれないものなど退屈でしかたがないのだ。

しかし、一方で野球が好きなお客は確実に存在する。BSやCSやネットTVで熱心に野球放送を(当然ながら試合終了まで)見るお客。
球場に足を運ぶお客。そしてネットでひいきチームや選手の動静をキャッチするお客。昔なら「変わりもの」と言われたディープな人は確実に増えていると思う。

球団もそれをよく承知していて、球場へ足を運んでもらうためのプロモーションを積極的に行っているし、ネットなどでの情報発信も活発だ。
セの各チームが巨人がらみの古いビジネスにとらわれているなかで、パは一足早くこうした施策を打ってきた。
最近セリーグよりもパリーグの方が元気が良いのは、これが原因だろう。

ネット社会の進展、コンテンツの選択肢の多様化によって、地上波テレビは単なる1メディアに過ぎなくなってきている。
TV局の社員の中には未だに特権意識を持っている人もいるようだが、明らかに斜陽産業だと思う(ついでにいうとスポーツ新聞も斜陽だ)。
今、厳しく選別されつつあるのはプロ野球ではない。地上波TVそのものだと思う。

これからはもっとファンに近い、そしてもっと面白さに肉薄する新しいメディア、新しいネットワークが野球の魅力を伝えると思う。
視聴率を気にしているのは、古いタイプの広告代理店とクライアントの担当者だけだ。プロ野球は視聴率が何パーセントになろうと全く気にする必要はないと思う。