蝶が飛んだ夏の思い出

高校卒業してアルバイトではいったドーナツ屋さん
わいはすぐに恋に落ちた
大学4回生の年上の女性だ
大人びた先輩の白く長い手でドーナツを運ぶ姿
わいには蝶が舞っているように見えた

わいはまだまだガキで無邪気やった
とにかく何にでも挑戦して失敗して夏休みの少年のように笑った

浴衣のお客さんが多い日
「どっかで花火大会でもあるのかな
こんな日の仕事は嫌だな」

そういった先輩はどこか悲しげだった

先輩が大学を卒業しドーナツ屋のバイトをやめる最後の日
ロッカールームで「オガタってさカブトムシの匂いがするね」
悲しそうな目でそう言うとさっと帰っていった

これから学生から社会人になるナイーブな時期の先輩には夏休みの少年のようなわいがうらやましかったのかな
先輩に告白する勇気があればと後悔した

あれから20年ドーナツ屋の社員は定年でいなくなり
かわりに年下の社員が入ってきた

物事をなんでもハキハキ言う苦手なタイプの社員がやってきた

わいは厨房の係にかわりドーナツをもくもくと揚げる日々が続いた

今日は浴衣の客が多かった
仕事終わりにロッカールームで白い手の先輩を思い出していた
そこに年下の社員が入ってきた怖い目をしていた
「オガタさん他のバイトの子があなたのこと
おがくず先輩って言ってるよ
とにかく臭いよ」

わい「えっ」