「それじゃ、別れの握手をするか」
拘置所長が手を差し出した。『ドジっ娘。ゆ〜れい』はそれに応えた。この世で接する最後の他人の掌である。
それが合図ででもあったのか、待ち構えていたように二人の刑務官が『ドジっ娘。ゆ〜れい』に目隠し、
手錠をかけ腰縄で固定させた。仕切りのカーテンが開き、『ドジっ娘。ゆ〜れい』は1メートル四方の踏み
板へ向かって誘導されていく。
灰色の護送バスの後ろには黒塗りの乗用車が二台待機している。所長をはじめ、看守部
長、教育課長、医官などが乗るためだ。  
白麻のロープは、長さを『ドジっ娘。ゆ〜れい』の身長に合わせて調節してある。首にかける部分が輪にな
っていて鉄環で止めてある。
『ドジっ娘。ゆ〜れい』が踏み板の上に立つと、待っていた刑務官二人が素早く首にロープの輪をかけ、
膝を紐で縛った。『ドジっ娘。ゆ〜れい』は目隠しをされた時から、口の中で何か呪文のようなものを唱
えつづけている。それが呪文なのか、ロープを首にかけた刑務官には「ケロイドがー、元がー」と
言ってるように聞こえた。
ロープが首にかけられ、首の後ろでギュッと絞められたと思った次の瞬間には、もう岐阜珍
の姿はなかった。心臓にズキンとこたえる轟音とも例えたいような踏み板が落下する
音。医官は『ドジっ娘。ゆ〜れい』の体が地下に呑み込まれる直前、つまり刑務官のひとりがハンドルを引く
瞬間をとらえてストップウォッチを押した。
刑場内は芝居の幕が下りた後のように急にざわついてきた。皆ほっとした思いなのだ。
地下室では、まだ『ドジっ娘。ゆ〜れい』の肉体はしぶとく生きていた。首を絞められ窒息しているというのに、胸
部は深呼吸をしているように、ふくれたりしぼんだりを大きくくり返している。手は空中
を泳ぎ。足は地面を求めるように歩く動作をしていた・・・。   ち〜ん(笑)