「お願い。看護婦をやっているなら。お金もあるでしょ」そんなことを言ってくるが
「ないわよ」と答える。
実際に貯金とかはほとんどない。看護学校に通う際に借りた奨学金の返済に追われる毎日だ。もう何年かは貯金する余裕などない。
それにいまの私には付き合っている彼氏もいる。
結婚の話も出ている。そんな時にこんな妹が出てきてくれても困る。
冷たいようだが、いまの彼女の事は私にとっては他人事だ。
「これあげるわ」そう言って財布から一万円だけ出す。
「あなたの事情は分かったけど。私には私の生活があるのよ。あなたの面倒まで見る事は出来ないわ。」それだけ答えた。
そうしてファミレスを出た。
その後で知ったのだが、妹は自殺したそうだ。
私と別れた後で、橋から海に飛び込んだと聞いている。
警察が来て、色々と聞いてきたから。私は仕方がないとファミレスでの事を正直に話した。
下手に嘘をついて、後でそればバレるような事になれば余計に面倒になると思ったからだ。
警察にも口どめしておいた。
「捜査上、知り得た事には守秘義務があります」と警察官は事務的に淡々と答えた。
遺骨は受け取り、墓に納めた。
ただ、墓碑銘を刻むことはなく、我が家の代々の墓に私が一人で入れた。
妹の事が他人に知られる事が嫌だったからだ。
自分でも冷たいとは思うが、私にとって母や妹は、もうとっくの昔に死んでいる。いまさら彼女たちに自分の人生がかき乱されるのは嫌だった。