とても痛い男と付き合っていたこと。
私が20代前半くらいの頃に付き合っていた男は、異世界を護る騎士(ナイト)だと自称していた。
その影響で、彼が自分の体を抜けて異世界を護っている間は異世界に暮らすという住人たちが彼の体に入っていた。
いわゆる多重人格のような状態だった。
そんなドリーミーな話を、私は本当だったら面白いなーという気持ち半分、疑い半分くらいで聞いていた。
それぞれの住人に応じて綿密なキャラ設定がなされていたので、話していて普通に面白かった。
だが料理がシェフレベルに得意なはずの住人が、現実で料理をしている場面では決して表に出てこなかったり、
二人で謎解きをしている時に凄まじく頭の良いはずの住人が私が答えを見つけた後に「俺もそう思っていた」と答えを後出ししてきたりと、設定に粗が出始めた。
何か言い合いをしていて私と彼の意見が食い違うと
「僕も彼の意見に賛成だな、君が悪い」
と他の住人が全員彼の味方をし、何故か多勢に無勢のような状態になることも多く、付き合うのに疲れてきたので、結局彼とは別れた。
別れてもう何年か経つが、いまだに彼は異世界で戦っているのだろうか。
付き合っていた自分まで痛い奴になってしまうので、他人には言えない墓場まで持っていく話。