歳はすごく離れてるんだけど登山仲間の女性がいた。

いつも考え方がポジティブで、自分に良い事があると「みんなのお陰だわ」と、ただのラッキーと言わずに「みんなのお陰」と言う言い回しをするから、なんとなくこちらも幸せというか良い事をしたような気分にさせられる。
無事に登山が終わった時も「お疲れ様でした」じゃなく「みんなのお陰で今日も無事に登り切れたわ。ありがとう」と必ず言ってくれる。

私は親子ぐらい歳の離れたその女性が大好きだった。
ある日、朝のニュースを見て愕然とした。地下鉄サリン事件だった。
いつも彼女が乗る時間帯で事件のあった駅も彼女の職場の駅だった。当時は携帯も普及してなくてどうにかして彼女の安否が知りたくて、登山仲間を辿っていろんな人に連絡を取りまくった。
つい前日に一緒に登山をしたばかりなのに、笑顔で「また来月の登山で!」と言ったばかりなのにと涙が出てきた。

そしたら彼女から昼過ぎに家に突然電話が掛かってきた。「無事なんですか?!」って聞いたら
「うん、心配してくれてるって聞いてね。実は昨日の登山の時に自分の身体が前より重くてね。お正月で体重が増えてたみたいで、今日から降りる駅を2つ手前にして会社まで歩く事にしたの。だから今日からあの地下鉄には乗ってなかったのよ」と言われた。

あんな良い人が彼女が死ぬわけない!!と自分に言い聞かせたり、もし彼女に何があったら…と泣いたり、突然電話かかってきたり、偶然にも今日からあの地下鉄には乗らないと決めてたり、あの日は一生分の衝撃的事件が起こった様な日だった。