十数年前の話。
浅草の神谷バーで一杯やって、ほろ酔いのいい気分で浅草始発の銀座線に乗ったところ、観光に来ていたとおぼしき韓国人の一家が発車間際になって乗り込んで来た。
独特の発音と、俺でも知ってる単語がちらほら聞こえる言語でがやがや話していたので間違いなく韓国人。
構成は祖父母、両親、子供三人。しかし座席は空席をほんの少し残して埋まってる状態。
その一家は空いてる座席に座ったのだが、いちばん年下の五歳ぐらいの女の子が一人あぶれて立ったままになってしまった。
俺は不憫に思って席を立ち、女の子にジェスチャーで「ここに座っていいよ」と指さすと、彼女は嬉しそうにそこに座った。

そこまではいいのだが、その韓国人の一家は礼を言うでもなく、むしろ「なんだこいつ」みたいな目を俺に向けてくる。
別に「カムサハムニダ」と言われたくてそうしたわけでもないが、せっかく親切をしたのにそんな目で見られては気分が悪い。
結局、その韓国人の一家は新橋で降りたと思ったが、俺は「これだからチョ〇公は」とモヤモヤした。

その数年後、職場のパートのおばちゃんに「こんなことがあったんですよ」と世間話的に話したところ、そのおばちゃんは韓国通だったらしく、
「韓国ではね、長幼の礼が先だからそういう場合は年上から座るのよ。それと、子供は足腰を鍛えるために敢えて立たせるの」
とのことだった。

ことの善し悪しはさておき、文化の違いをまざまざと見せつけられ、別に根に持っていたわけではないが数年ぶりに「そうだったのか」とモヤモヤが晴れたのは衝撃だった。