ほのぼの怪談

池田市渋谷に伝わる狸の話である。
渋谷に昔、小さな寺があってそこの住職は大の餅好き。毎晩、餅を焼いて食べるのが楽しみであった。
ある夜、いつものように餅を焼いていると、ひげだらけの男がひょっこり現れて「ええ匂いやなあ、わいにもひとつくれへんか」と言う。
住職が気分よくひとつやると、「おおきに」と大喜びして帰って行った。

 それから毎夜、そのひげの男がやってくるので、餅をひとつやるようになった。ある夜、住職がふと見ると、男の影に尻尾がはえている。
「はーん、こいつ、裏山の狸やな」と気づいて、ちょっとからかってやろうと、次の夜は餅のかわりに石を焼きながら待っていた。
ほどなくひげの男が現れたので、「それっ」と焼けた石を箸で投げると、男はパクッと食いついた。
「あちちちち……熱い熱い」と、ころがるうちに大狸の正体を現した。真っ赤な顔の大狸は、捨てゼリフに「よくもだましたな。
これからは渋谷の餅はみんな石にしたるからな」と言って帰っていった。

 それからというもの、渋谷の餅はどの家でついても、かたくて食べられなくなったそうだ。