行方訳

気の毒に青年はおろおろと迷うばかりだった。相手が口にするのは、感情のことばかりで
貴族にまつわる話題としか言いようのないことばかり話そうとするのだ。条件だの金額だの
言いだすのは、大変な努力を要した

しかし契約がまとまったとして、その面でもう少し常識的な話し合いをせずに、辞するのは嫌だった。
太い宝石で飾った手で汚れたスエード手袋をしごきながらそこに座っている大柄で愛想よい夫人の態度に、
切り込むのは難しくはあった。彼女は、押しつけがましいわりに話をかわすのも巧みで、こちらの聞きたいこと
以外のあれこれを、繰り返し語っているからだ

青年は給料の額を知りたがったのだ。ところが、もじもじしながら、その話題を切り出そうとしたまさにその時
少年が戻ってきた。モリーン夫人は、この子に扇子を持ってきてちょうだいといって、部屋から出したのであった。
扇子を持たずに戻り、見つからなかったよと平然として言うだけであった。皮肉をこめてそう言いながら、少年は
自分の勉強を担当する栄誉を受ける候補者を熱心に直視した。