プロデューサーとは決闘する生き物である──
スタジオジブリ 鈴木敏夫×クラフター 石井朋彦×クラシコム 青木耕平 鼎談【前編】
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石井:鈴木さんに残った思いは
 「なぜ、あれだけの時間を費やして映画づくりを共にしたのに、
 一度も礼を言わずに去ったのだ」といった、怒りにも似た納得のできなさ。
 つまり、亡くなっても、未だに高畑さんとの戦いは終わっていないわけですよ。
鈴木:終わってないですねぇ。考えていますよ!
石井:先日、宮崎さんと雑談したときに、チラッとそのことを言っちゃったんです。
 そしたら、宮崎さんが本当に嬉しそうで……。
鈴木:はははははっ!
石井:「鈴木さんが思っていることはよくわかる」と。
 ただ、宮崎さんが言ったのは「そこに答えはない!」でした。
 高畑さんから感謝がなかったことに対する答えはないと。
 なぜならば「俺は鈴木さんより、もっと早くから思っていたからだ」。
一同:(大笑) 〜
青木:その人が5回も作品を撮るのはすごい。
 だからこそ、それを決闘という観点から見ると、非常に面白いんですね。
鈴木:『ホーホケキョ となりの山田くん』なんて、
 僕は本当に頭に来ながら作ったんですけど、
 結果的にMoMA(ニューヨーク近代美術館)の
 パーマネントコレクションに選ばれたときは嬉しかったですよ。
 あれはささやかな、僕の勝利なんです。
 高畑さんはもちろん喜んだけれど、僕は別の意味で嬉しかった。
 「私のおかげであなたは今、喜んでいるんだよ」って。
石井:いや、でもその感情は最高に健全ですよ。 

鈴木:宮さんは引退した後でまた作るって言うわけだから、
 それはすんなり「はい、わかりました」とはいかないですよ。
 それはそれなりに苦しんでもらおうと。

石井:鈴木さんと宮崎さんは
 「どちらが長生きするか」の決闘をしていますよね。
 これは、この世に生を受けた人間にとって、最高の決闘なんです。
 答えが出たときには、どちらかがいない(笑)。〜