ロックダウンで都市の大気汚染が軒並み改善 200キロ離れたヒマラヤの姿も

インド・デリー首都圏でメッセージアプリ「ワッツアップ」を利用するグループの間で、4月に入り、
いくつものスクリーンショットが拡散され始めた。
それぞれのキャプションには、信じられないという思いがさまざまな言葉で語られていた。
デリーの住民は自虐的な朝の習慣として、大気の汚染度を示す大気質指数(AQI)を毎朝チェックしているがこの週はほとんどの人が自分の目を疑った。
これまで見慣れていた、おどろおどろしい赤いバナーがなくなっていたのだ。
赤いバナーは、息を吸うごとに実は、肺に有害な一撃を加えているのだということを示していた。
そのバナーが、健康的で明るい緑色に置き換わっていた。
デリーの大気汚染レベルが「良好」と分類されるほど改善することなど、本当にあり得るのか?
「明らかに山の空気だね!」と感嘆の言葉を書いた人もいた。
新型コロナウイルスの感染拡大を阻止するために、インド全土では3月25日から、
世界的にも最大規模のロックダウン(都市封鎖)が実施されている。
これにより国内で3億人とされる貧困層を中心に、
大混乱と苦悩が広がっている。
しかし、世界で最も大気が汚染されているデリーでは、
ここ数十年で最も澄んだ空気が観測されてもいる。
新型コロナウイルスという災いの中で、ロックダウンから生まれたこの明るい出来事は、世界中のあらゆる大都市で起きている。
タイのバンコク、中国の北京、ブラジルのサンパウロ、コロンビアのボゴタなどでは、
新型ウイルスの流行を抑制するためにさまざまな行動制限が課された結果、大気汚染がかつてないレベルに改善したと報告されている。
しかしこれには残酷な皮肉が伴っている。
これらの都市の住民のほとんどは厳しい規制下で自宅に閉じこもっており、せっかく生まれた新鮮な空気を味わう方法は、
窓を開け放つか、スーパーマーケットへ足早に買い出しに行くくらいしかない。
世界保健機関(WHO)は大気質指数が25を超過すると危険とみなしているが、デリーでは通常、ましな日でも200程度と強烈な数字だ。
昨年の汚染ピーク時には人命にかかわるとされる900台にまで上昇し、測定可能値を超えてしまうこともあった。
しかし、デリーで登録されている1100万台の車両が道路からいなくなり、工場や建設作業が急停止を余儀なくされると、
指数は定期的に20を下回るようになった。
空には突然めったに見ることのないまぶしいほどの青さが広がった。
鳥のさえずりでさえ、いつもより大きく聞こえる気がする。
政治家であり作家であり環境問題を声高に訴えてきたシャシ・タルール氏はこれが人々の目を覚ますきっかけになってほしいと話す。
「青空という幸せな光景と新鮮な空気を吸える喜びは、私たちが今まで自分たちに対してしてきたことと正反対だ。今、デリーのAQIは30前後になっている。ある日の午後にはスコールが降った後、7まで下がった」
タルール氏は信じられないといった様子で再び「7だ!」と声を上げた。「デリーで!ただただうれしい!」
環境保護団体「科学環境センター」のスニタ・ナレイン所長は、
これまで自動車がいかにデリーの大気汚染の要因になっていたかを、ロックダウンとそれによる汚染の急速な改善がはっきりと示したと述べた。
「新型コロナウイルス流行後の新常識が何であろうと、デリーの大気汚染解決に向けて私たちは今吸っている新鮮な空気をきっかけとして真剣に取り組んでいかなければならない」
ここ何年もの間で最も澄んだ空気を味わっているのはデリーだけではない。
インド北部パンジャブ州ジャランダールでも先週、
大気汚染が30年ぶりの低水準となった。
住民は朝目覚めると遠くに信じられない光景が広がっているのに気づいた。
ヒマチャルプラデシュ州にあるヒマラヤ山脈の一部、ダウラダー山脈が見えたのだ。
約200キロ離れたこの山脈はここ30年近くパンジャブ州の地平線に姿を見せたことがなかった。
一方、新型コロナウイルスの流行から脱しつつあり
ロックダウンも緩和されつつある中国での兆候は明るくない。
1月下旬の春節以降の4週間、コロナウイルスの流行が猛威を振るっていたとき中国全体の大気汚染は25%改善した。
だが3月上旬以降、工場の操業や企業る活動、発電所の運転などが再開され、交通量が戻り始めると、二酸化窒素による大気汚染は再び少しづつ悪化し始めている。
エネルギー・大気汚染研究所の主任アナリスト、ラウリ・ミリビルタ氏は次のように述べた。
「重要な問題は、2008年の世界金融危機の時のように、政府の刺激策で大気汚染が再びコロナ危機以前の水準に戻ってしまうか否かだ」