支局長からの手紙
一歩先を行く /滋賀
https://mainichi.jp/articles/20180129/ddl/k25/070/316000c
皆さん、おめでとうございます。近江、彦根東、膳所。第90回記念選抜高校野球大会に、滋賀から初の複数選出となる
3校が出場を決めました。プレーヤーとして、指導者として、裏方として、ファンとして、湖国の野球に関わってきた方々
とともに、喜びを分かち合いたいと思います。
大津市の膳所高校で26日、歓喜にわく野球班(野球部)の姿に、心地よい違和感がありました。
体育会系のノリではしゃぐ選手たちと、少々緊張気味に笑うデータ班の2人の間の「温度差」です。
21世紀枠特別選考委員会の議論では、ここが一つのポイントでした。「新しい野球との関わり方」への挑戦が評価されたのです。
データ班は野球未経験の男女各1人。「野球観戦が好き」「コンピューター操作のスキル」というそれぞれの特徴を生かして
分析の任務をこなし、試合での戦術選択を下支えします。プレーせず勝利に直結する2人の貢献には、
「目からうろこが落ちた」と評した選考委員もいたそうです。ただし膳所のデータ野球の面白さは、そこにはとどまりません。
「セイバー・メトリクス」(セイバー)という言葉をご存じでしょうか? 「アメリカ野球学会」(SABR)が提唱する、
統計を用いた野球の分析手法をこう呼びます。膳所の上品充朗監督(48)は3年ほど前から、
セイバーを参考にしたチームづくりを始めました。セイバーの基本姿勢は、思い込みを排除し、プレーの各要素を数値化して、
得点や勝敗との関連性を導き出すことです。その結果、何が起きたのか……。
膳所の4番打者・川村いつき選手(2年)は、8強入りした秋季県大会4試合で7打数無安打でしたが、
上品監督は「貢献度は非常に高い」と評価します。打席に16回立って四死球で9回出塁し、うち8回を得点につなげました。
続く5番の今井竜大選手(2年)が好機で打席に立つことになり、何と10打点です。もちろん川村選手は長打力も備えているのですが、
打者の「出塁する力」を重視する膳所では、川村選手の無安打を「不振」とは捉えていないのです。
セイバーの考え方に基づき、「打てる球だけ振る」「野手の間を抜ける安打は投手の責任ではない」などの姿勢を徹底することで、
選手が失敗を恐れずプレーできるという新たな効果も生まれ、膳所の戦績は安定してきました。データは「相手の弱点を突く」だけでなく、
「自らの長所を生かす」ためにも有効だということを、甲子園で証明してほしいと思います。
方、彦根東の関係者は「うちではずっと前からデータ野球をやっている」と話します。
部員による分析班が相手チームのビデオなどを解析し、選手に攻略法をアドバイス。
また、栄養管理の基本を選手と家族で学びながら体づくりを進めるなど、先進的な取り組みをミックスして、力を蓄えてきました。
昨夏の甲子園、ほぼ直球一本で相手を抑え込んだ左腕・増居翔太投手(2年)を中心に、守り勝つ野球を期待します。 (以下省略)