2018年11月10日16時30分
連載:惜別
(惜別)渚ようこさん 歌手

■負の叫び、クールに熱く
 9月28日死去(心不全) 本名・年齢非公表
 グサリと突き刺すような歌声だった。行間からあふれる負の叫び。クールに構えながらも情熱にあふれていた。
聴く人の心の痛みと孤独と不幸に、精いっぱい寄り添ったのだろう。
 自らの過去はほとんど語らない。山形から上京し、1994年、渋谷にあったDJバーのイベントに登場した。
96年にCDデビュー。クレイジーケンバンドのリーダー横山剣さんや作詞家・阿久悠さんと組んで、
昭和の気分がたっぷり染みこんだ独自の歌謡世界を再現した。
 「この街にはまだ雑多なエネルギーが満ちている」。そう言って新宿にこだわり、
2008年には閉館となる新宿コマ劇場で単独の「新宿ゲバゲバリサイタル」を開き、話題を呼んだ。
 「さあ次は何をしようか、と懸命に考えていた人でした」。20年近い付き合いだったシャンソン歌手のソワレさんは話す。
研ぎ澄まされた繊細な感性。最後まで商業主義になじめず、違和感を覚えていたにちがいない。
あこがれていた歌手の藤圭子さんが13年に新宿で亡くなったとき、雑誌のインタビューに語っていた。
「歌を歌う人って、すごく紙一重なところがあると思います。そのぎりぎりのところを超えてあちら側にいっちゃったんだなと思いました」
 新宿ゴールデン街には、オーナーを務め自身も時々カウンターに立ったバー「汀(なぎさ)」がある。
ミュージシャンやライターらと傾けたグラス。深く悩んだとき人との出会いや言葉に助けられたこともあった。
故郷で営まれた葬儀。ひつぎにはピンクや赤の衣装と愛用の帽子が納められた。(編集委員・小泉信一)