夜、喉が渇いて起きてきた尊は、若君の部屋から姉の声が聞こえてきて、すわ夜這いかと仰天。
唯「次の満月に二人で戦国に戻りましょう」
若君「何を申す。今一度使えば道は閉ざされるのじゃ」
唯「わかってます」
若君「戻ると申して今や戻る城はなく皆の行方も知れぬ。左様な中にお前を連れて行けるものか」
唯「若君は私に二度と離さないと言いました」
若君「故にわしはこうしてここにおるではないか」
唯「若君は羽木家の総領として大きな責任を負って育てられていつも自分のことより家族や家臣や領民みんなの幸せを大事に考えるじゃないですか。
その責任を投げ出したままでは本心から幸せにはなれないと思います。みんなにとっても若君は心の支えです。若君が戻るのをみんなどれほど待っているか」
若君「唯が皆を案ずる心は有難いが」
唯「木村先生の話を聞いたから言ってるんじゃありません。私は最初からそのつもりでした。二人で戦国へ戻って一生若君の側で若君を守って生きる。
だから今のうちに一緒にいろんな所に行っていろんなことやって、若君にもたくさんのものを見せたかった」

尊(そうだったのか。何も考えてないと思ってたお姉ちゃんが)
いつのまにかいた母「あの子、あんなことを考えてたのねぇ。あとさき何も考えずにつっ走ってるだけだと思ってたのに」

唯「戻りましょう、二人で」
若君「唯、お前はまこと、大たわけじゃ」

尊(そうだ、大たわけはぶれない)

9月号に続く。