「もしかしてアベック喫茶の一種なのかな、行ってみる?」
私が答えるとすかさず彼女は
「あ…やらしいこと考えてるぅ」
「いや…考えてないけど…本当にアベック喫茶みたいなとこなのかな〜?」
「私にきかれたってわかんないよ」
「じゃあ行って確かめるしかないよね」
「…」

純朴だった当時の私にできた誘い言葉はこの程度が精一杯だ。
それでも彼女が気を利かせて乗ってくれたのか、好奇心本意だったのか、ともかくその個室喫茶に入ることになった。
たしかドリンクが2つついて90分か120分で1500〜2000円くらいの料金だったと思う。

部屋は狭い。2帖に満たない程度だ。
細い簡易ベッドがソファ代わりにおかれ、その前に小さなテーブルがおかれているだけ、ベッドの上には大きなクッションが2つ、ブランケットはない。
壁は薄いらしく隣の話し声はもちろん、タバコに火をつけるライターの音まで聞こえる。

5分ほどでドリンクが運ばれてきた。
私はアイスコーヒーあたりだったと思うが、彼女が頼んだのはチチかマイタイか、乳白色の「トロピカルドリンク」だったことだけ覚えている。
当時はカフェバーと並びこの「トロピカルドリンク」なるカクテルがブームだったのだが、トロピカルドリンクには必ずストローが2本ついていた。
1つのドリンクを2人で飲む、これが当時の「昭和アベック」が親密になる1つのツールだったのかもしれない。

私たちもおでこをつき合わせながら2人で飲んだ。
ひたいをくっつけたままドリンクから口を離せば目の前には相手の唇がある。
たしかにこれは便利なツールだ、私は妙に感心したのを覚えている。

キスをしながら抱き寄せて緊張してプルプルとこわばった手で胸をまさぐる。
いろいろ試行錯誤しながらセーターをめくりブラに手を伸ばしたまではよかった。
当時のブラは今のようなハーフカップでも谷間ブラでもない。
フルカップとでも言えばよいのだろうか…
手を差し込もうとすると分厚い生地が邪魔をする。
四苦八苦した末に後ろに手を伸ばしてホックを手探りしていると…
「これ…フロントホックなんだけどぉ…」

すったもんだしているうちに酔いも回り、バストに到達したところで力尽き、ついでに終電タイム

…なんともさえない顛末である。

ほろ苦い人生最初で最後のアベック喫茶体験談でした