時計が切れたら審判が盤面を見て勝ち負けを判定っていう謎ルールの囲碁大会で、小川誠子さんが審判だった。
俺の相手が大石取られて大差になってるのにクソ長考した挙句に中盤で自分のほうが時計の針が落ちてしょぼくれ返ってた。おれもなんだか不憫になってたところに判定に来た小川誠子さん、首を斜めに傾げて頬に手を当ててんーーってしばし悩んだあと、
「まだ先の長い碁ですし、引き分け(引き分けは両者勝ち扱い)でいかがですか?」って俺の方をあの表情で見た。さすがに俺が怒るかなと心配してる風だったが、俺も誠子さんの意図が痛いほど分かったので快諾したら、誠子さんすごく嬉しそうな顔して去っていった。
この大会では他にも、俺がどうあがいてもコミが出ない局面で、中盤に長考続きだった相手の時計が絶体絶命になったときに、最後に俺がたっぷり時間使って目算し直してから投了したら、あとで「こんな気持ちのいい対局は久しぶりに見ました。素敵でした。」と褒められた。いつ見てたのか気がつかなかったけど勝つより嬉しかった。