おっと 押しちまった。


すれ違いざまに、かみそりで相手の頚動脈をスパッと。
切られたことに気がついた頃には、血しぶきの中にうずまってしまう相手。


なたは、まったく逆で、今なら宮沢とか、往年の加藤正夫があてはまる。
切れ味は全然よくないのに、力任せに一直線で、かみそりにはできない致命傷を相手に与えるイメージ。
頭蓋骨があごまでへこむようなイメージ。

読みに裏づけされた、鮮やかな手筋一閃の坂田。

かつて「木谷はここまで深く読むのか、坂田はここまで広く読むのか」と比較された坂田。
年間30勝2敗で、坂田は遠くなりにけりと周囲を嘆かせた、坂田。

64歳で64個目のタイトルを手にした坂田。

タイトルを失い、無冠になった日の夜、
一人暗い部屋の中でウイスキーを飲みながら「一番強いのは俺だ」とわめきまくっていた、坂田。

橋本宇太郎と、その背後にある関西棋院、さらにそれをささせる財界の重鎮たちを
あと一息のところまで追い詰めながら、捲土重来、勝負氏としての泣きが入った坂田。

格好悪さそのものが、絵になってしまう、究極のスタイリスト、坂田。

碁が芸術の梶原と対比して碁が勝負の筆頭に上げられる、坂田。



100歳までは生きててほしかった。