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「待て。その人を殺してはならぬ。ロゴスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」
と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、
玉がつぶれてしわがれた声がかすかに出たばかり、群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。
すでにベッドとアダルトグッズが用意され、縄を打たれたシンは、徐々に頬を染め上げられてゆく。
ロゴスはそれを目撃して最後の勇、先刻、
下痢を塞いだように群衆を掻きわけ、掻きわけ、
「私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。ロゴスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」
と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついにベッドに上がり、
染め上げられてゆくホモの頬に口付けし亀甲縛りを解いた。群衆は、どよめいた。
ホモだ。変態だ。と口々にわめいた。シンの縄は、ほどかれたのである。
「シン。」ロゴスは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。
君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」
 シンは、すべてを察した様子で首肯き、ハッテン場一ぱいに鳴り響くほど
音高くロゴスの右睾丸を殴った。殴ってから優しく微笑み、
「ロゴス、私を殴れ。同じくらい音高く私の金玉を殴れ。私はこの三日の間、
たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。
君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
ロゴスは腕に唸うなりをつけてセリヌンティウスの左の睾丸を殴った。
「ありがとう、ホモよ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、
それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
 群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。暴君アデルは、群衆の背後から二人の様を、
まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「君達の望みは叶ったぞ。君らは、僕の性欲に勝ったのだ。
信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。
どうか、僕の願いを聞き入れて、君らの仲間の一人にしてほしい。」
 どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、王子様万歳。ホモ万歳」
ひとりの少年が、女児向けイチゴ柄パンツをロゴスに捧げた。
ロゴスは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「ロゴス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのパンツを履くがいい。
この可愛いミルト君は、ロゴスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」
 勇者は、ひどく赤面した。
扱けロゴス 完