親父は剣の達人として知られていた。小さな道場を持っていたが、弟子は俺以外いなかった。
物心がついた頃から…俺は親父に朝から晩まで、みっちりと剣術を叩き込まれ続けた。
親父がやれといった事をやる。そんな人生に疑問すら抱かなかった。
道場破りも、親父の編み出した奥義も、家の流派に伝わる秘伝も「やれ」の一言でやらされた。
「やれ」と言われた事はやった。出来た。だが、親父は決して俺を誉めなかった。

最後に親父に「やれ」と言われたのは、真剣での立ち合いだった。やれと言われたから、やった。
親父が俺を誉めたのは、その立ち合いの後の「見事」の一言のみ。
医者に診せたが、俺から受けた傷は思いの外深かったようだ。傷が元で、親父は数日後に死んだ。

俺は、する事がなくなってしまった。

・ ・ ・ 

「手入れの行き届いた庭だな」

俺は今、妖夢に連れられ白玉楼の庭にいる。
妖夢は何も言わない。極力俺と話す事を避けているようだ。

「こういう庭を、のんびりと眺めて暮らせたらなぁ」

妖夢は俺の方をちらりと一瞥すると、また俺に背を向けた。
どうやら視線すら交わしたくないらしい。

「庭に出たのは…俺の血で部屋を汚したくないからか?」

俺の言葉に、妖夢はゆっくりと振り返る。鋭い目付きで俺を見つめる。

「幽々子様は…」

「幽々子様は、あなたは死を恐れていないと仰っていたわ」

ぽつり、ぽつりと妖夢が話し出した。

「私にはそうは思えない!」

妖夢の語気が強くなる。

「あなたはただ、一生懸命生きていないだけよ!」

俺の心が騒つく。思わず妖夢から目を逸らす。

「それだけの腕を持ちながら、あんな奴の為に利用されて!」
「あんな奴?俺を雇ってた奴の事か?」
「そうよっ!あいつはね、自分の命惜しさにあなたを売ったのよ!」
「ほう、こんな俺でも誰かの命を救えるとはねぇ」
「なっ…なんて暢気なっ!!」

妖夢は呆れ果てたといった表情で俺を見る。だが、暫らくすると肩を震わせて怒りだした。

「少しは見所があるかと思っていたけど…どうやら見込み違いだったようね!」
「あなたがこれ程の愚か者だったとは!もはや是非もありません」

差していた刀を構え、妖夢は俺を睨み付ける。


「あなたの処分が決りました!覚悟は…よろしいか?」