気が付くと、俺は薄ぼんやりと天井を見上げていた…

「おや、気が付きましたか」

この声は…?ああ、そうだ。少し前に、俺を完膚無き迄に叩きのめした少女の声だ。
起き上がろうにも体が鉛のように重い。節々が痛む。

「あまり無理はしない方がいい。急所を打ちましたから」

俺の顔を覗き込みながら、ニコリともせず少女が呟く。
まだ幼さも残る、整った顔立ち。どこか澄ましたような顔が何とも憎らしい。
俺はこいつに、一太刀も入れる事も出来ず無様に負けたのだった。

それなりに腕に自信はあった。今まで負けた事などなかった。
天才といわれても、別に嬉しくもなければ誇らしくもなかった。
ただ、そんなものか、と思うだけだった。
ところがどうだ。俺は少し前に、こんな年端もいかない少女に手も足も出ずに負けたのだ。

「本当は殺しても良かったのですが。幽々子様にお伺いをたててからでないと」

幽々子…?ああ、こいつの主人の名だったな…

・ ・ ・ 

西行寺幽々子の可愛がっている従者を、人質に取って欲しい。

この依頼を受けたのが事の発端だった。
依頼人は何でも幽々子に酷い目に遭わされたそうだ。
だから幽々子にはどうしても復讐したいのだと。

復讐にも、人質を取るなんて下衆な考えにも興味は無かったが、その従者とやらが気になった。
名は魂魄妖夢、かなり剣を使えるとの事。しかも珍しい刀を持っているらしい。
その刀を報酬に頂く事を条件に引き受けたのだが…

・ ・ ・ 

結局上手くいったのは件の従者、魂魄妖夢をおびき出し立ち合いに持ち込んだ所まで。
俺の初太刀はあっさり見切られ…後は背中に強かに打ち込まれた事しか覚えていない。
すると、ここは…?

「ここはわが主、西行寺幽々子様の住まう白玉楼」
「まだ動けないはず。もう少しじっとしてなさい」

「あなたの処分は…あなたのご主人の処分が終わった後に、幽々子様が決めるそうよ」

なるほど。俺は俎板の上の鯉か。

「聞いたい事があるんだが…」
「私に答えられる事でしたら、どうぞ」
「ここまで運んでくれたのはアンタかい?」
「えぇ、まぁ。あなたのご主人にも手伝ってもらいましたが」
「傷の手当てもアンタかい?」
「幽々子様のご命令でしたから」
「…包帯の巻き方は下手くそなんだな」

今まで澄ました顔だったのが、見る見る赤くなる。
何も言わずに立ち上がると、妖夢は乱暴に襖を開けて部屋から出ていってしまった。

ぴしゃり!一応襖は閉めていった。