低空のLa-7の後につきながら、積年の疑問を考えていた。
それは「なぜソ連の国籍標識は赤いのだろうか」という問いである。
簡単に見えて、奥の深い問題だ。
「赤いから赤いのだ」などとトートロジーを並べて悦に入る浅薄な人間もいるが、
それは思考停止に他ならず、知性の敗北以外なにものでもない。
「赤方偏移」という現象がある。
宇宙空間において、地球から高速に遠ざかる天体ほどドップラー効果により、
そのスペクトル線が赤色の方に遷移するという現象である。
つまり、本来の国籍標識が何色であろうとも、La-7が我々から
高速で遠ざかっているとすれば、毒々しく赤く見えるはずなのだ。
目の前のLa-7は高速で動いているか否か?
それはLa-7の前方に回ってみることでわかる。
運動の逆方向から観察することで、スペクトルは青方遷移し、
青く見えるはずなのだ。
前に回り込んでみたところ、La-7は漏れに射撃してきた。
うわああ、ミューラー! こいつを追い払ってくれ!!