「9時方向に敵影あり!」
「pauke-pauke」
さわやかな索敵の無線通信が、澄みきった青空にこだまする。
総統閣下のお庭に集うゲルマン闘士たちが、今日も天使のような
無垢な笑顔で、対空砲火の嵐の中ををくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の飛行服。6時は取られないように 、
旋回戦には持ち込まれないように、一撃離脱に徹するのがここでのたしなみ。
もちろん空域に到達した途端、燃料切れで逃げ帰るなどといった、はしたないガーランドなど
存在していようはずもない。

バトル・オブ・ブリテン。
1940年夏に始まるこの一大空戦は、もとは第三帝国の英国打倒のために始められたという、
伝統ある撃滅系航空作戦である。
ドーバー海峡上空。Uボート雷撃戦の面影を未だに残している海の多いこの戦域で、ゲーリングに見守られ、
編隊飛行から爆撃機護衛までの実践教育がうけられるむくつけき益荒男の園。
時代が移り変わり、爆撃の主眼が戦略爆撃からロンドン報復爆撃へ改まった戦闘末期でさえ、
80時間も飛び続ければルフトバッフェ育ちの純粋培養エースさまが棺入りで無言の帰還をする、
という仕組みが未だに残っている過酷な戦場である。