若い頃は足にまかせて
九州から北海道まで様々な渓流を釣り歩いた

日高では35センチを超えるような尺イワナが入れ食いで釣れた事もあったし、
岐阜遠征では、宿先の若女将との濃厚なワンナイトラヴなんてのもあった。

しかし
いい事よりも大半は苦しい事の方が多かった
渓が土砂崩れで埋まり、竿も出せずにあえなく撤退せざるを得ない時もあったし、
桝形川源流では恐ろしく険しいゴルジュ帯を、2日もかけて遡行し、いざ釣りという矢先に、鉄砲水で手持ちの餌を全て流されてしまった事もある
いつも大物が釣れるなら最高だが、現実はそんなに甘いものぢゃない

俺は、イワナ釣りから人生の教訓をいろいろと学んだ。
イワナ釣りは、他の釣りとは違った特異な釣りである。

魚を釣り上げるという行為だけでなく、山を歩いたり、沢を登ったりする事が重要なウェイトを占める
魚を釣るだけなら、僅か30センチに満たないイワナなどは、さしたる釣り味も感じない事だろう
しかし、人里離れた山深い源流で、滝をよじのぼり、激流を渡歩した果てに、そこに棲む神秘的なイワナを釣り上げたとすればどうだろうか?
普通の釣りとは違った感激があるはずである

釣り場まで舟で運ばれ何の苦労もなく竿が出せて魚が釣れるイージーさは源流イワナ釣りでは無縁である。
むしろ、1尾の魚に出会うまでに、どれだけ苦労を重ねたかで、感激の深さが決まるのである。

イワナ釣り師は、険しい谷を遡行し、目もくらむような滝を越えて源流へ源流へと進むのである。
時には遡行の難しさに身震いする事もあるだろう
しかしそうした困難を乗り越えた時ほど、内より沸き起こる自分の力に限りなき喜びと自信を感じるはずだ。
イワナ釣りは、困難を乗り越えていく自己との戦いだから面白いのだ。

それは釣りという行為を通した男のロマンチシズムといってもいいかもしれない