新人が入ってきた。50歳。警備業界では珍しくはない。特に悪名高きこの現場だ。万年人不足で入れ替わり随一の物件だ。
まぁ、新人さんには取り敢えず立哨してもらってた。
無線を持たせて何か分からないことがあったら、連絡して下さいと言って、コンコース付近で立哨させておいた。
渋谷はその日寒かった。
長時間ただ立っていると、色々なことを考える。夕飯は半額弁当買えるのか?正月明け何をするか?正月手当て1500円は出るのか?色々なことが頭を過ぎる。
東コミュの人がヒョイと顔を出して、
「外に立っている新人さん、泣いているよ。具合が悪いじゃないの?」と言ってきた。
「何だ?」と思って見に行くと、本当に立ちながら泣いている。
通行人は泣きながら立っている警備員を呆れながら通り過ぎて行く人、
怪訝な顔をする人、笑う人、スマホで撮る人と反応は様々だった。
「どうしたんですか?」と声を掛けると、嗚咽の後にようやく振り絞るような声で一言。
「辛いです。」
防災で話を聞くと、立っている間に今までの人生を振り返り、
何で俺はここまで堕ちてしまったのか?
何で今、こんな所で生き地獄のような人生を送らなければならないのか?
そんなことを考えていたら、涙が溢れて止まらなくなってしまったそうだ。
彼が下番した次の日、防災センターに退職代行が来た。