MMTは貧しい者に配るために留める者に税金を課す、というロビン・フッド的アプローチは支持しない。すでに見たとおり、政府の税金が何かの支払いに使われているわけではなく、税金によって誰かの生活水準が向上するわけではないからだ。しかも財政赤字を懸念すべきだという神話は、民主主義の機能不全というきわめて現実的問題の原因となっている。公共の利益のために支出を増やすには富裕層に頭を下げなければならない。あるいはそのための資金を確保するには富裕層と闘わなければならないと政治家が思い込んでいたら、政府は富裕層の弱点、関心毎、非現実的な政治的要求ばかり気にするようになる。
 ただし、税金には別の存在意義がある。『世界格差レポート』は「アメリカの収入格差の増大は、税制の累進性が薄れていることによって説明できる部分もある」と指摘している。税制は莫大な富の蓄積を防ぐ手段になりうる。これが重要なのは、富裕層は資金力を活かし、政治プロセスに介入する力を得るためだ。すでに税制を自分たちに有利に変えたほか、労働法、貿易協定、特許とその保護に関するルールなどを都合よく書き換えてきた。公共政策も自分たちの経済的利益に役立つようにつくり変えてきた。...(略)