「いらっしゃ〜い」
名鉄碧南線安城駅東口から歩いて3分。「西三河うどん とだ」のえび茶色の暖簾を
くぐって店内に入ると、白いタオルを頭に巻いた戸田さん(62歳)の元気な声に迎えられた。

「何にしましょう? ウチは本場の八丁味噌うどんスタイルのセルフ店なので、茹でたての手作り
うどんを取っていただいて、レジで精算します」
ツユは濃厚な赤味噌仕立て、手打ちうどんは1玉180円から。100円からある天ぷらはこの日、
12種類並んでいた。
「今年の3月にオープンしました。暖簾の『とだ』という文字は7歳年上の女房が名付けたもので
、おかげさまでコロナ禍の渦中にも足を運んでくださるお客さんが多かったのはうれしかったですね」
奥様のトミ子さん(69)は戸田さんの横でしわくちゃの顔を左手で隠しながら恥ずかしそうに笑う。
「自分は株式相場で食ってきましたが、基本学歴も理論もなく出たとこ勝負の丁半博打でやってきました
から、大失敗したのも神様の与えてくれた試練と思っています」。
神妙な顔で汗と赤味噌だらけの顔を拭う。
聞くところによると借金は2億5千万にも及ぶという。
「お金というものは天から降ってくるものではなく、額に汗して稼ぐものという当たり前のことが
ようやくわかりましたね」。
戸田さんは笑う。

「人間、やり直すことは何歳になってもできる」
そんな言葉を胸に帰路についた真冬の西三河であった、