ポール・シェアード「日本はMMTを実践していない」

 米国や日本で毎年巨額の財政赤字を垂れ流し、日銀が異次元の金融緩和で、
事実上の財政ファイナンスをしている状態から、日本は「現代貨幣理論(MMT)」
を実践していると指摘される。 しかし、私は違うと言いたい。
 MMTの基本的洞察は貨幣の創出者たる統合政府には、資金調達の制約がない。
金財分離の制度的枠組みが、そういう制約を恣意的に作り上げているだけだ。本
来、政府には資金の枯渇があり得ない。真の制約は、実体経済の在り方にある。
 確かに2013年に黒田東彦総裁率いる日銀が大掛かりな量的緩和に踏み切ったの
は、MMTをほうふつとさせた。なぜならば、量的緩和は統合政府が返済期限のあ
る国債を返済期限のない中央銀行の負債に変形させるからだ。金融政策と財政政
策の境目を溶かす策だ。
 日本の長期停滞の教訓は、金融緩和と財政出動の一体政策を欠いたことだった
と私は考えている。ゼロ金利や量的緩和政策を実施し、財政出動を実施したかと
思えば、00年にゼロ金利を解除したり、小泉政権では公共投資の削減に踏み切る
など緊縮財政に取り組んだ。
 また、量的・質的金融緩和のスタートからたった1年(14年4月)で、政府が消
費税率を5%から8%への引き上げに踏み切った。まさにアクセルを踏みながら、
ブレーキを同時にかけるようなちぐはぐな政策を続けてしまった。
 対照的なのは米国だ。 08年のリーマン・ショック後、米国は日本の失敗の教訓を
生かし、金融緩和と銀行資本投入も含む財政出動で景気の底割れを回避し、いち
早く回復基調を取り戻した。
 翻って日本は、また過去の失敗を繰り返そうとしている。2%の消費者物価指数
(CPI) 上昇率の実現が見通せないまま、10月には財政再建への配慮から消費増税
を実施しようとしてる。日銀の黒田総裁も予定通りの消費増税実施を支持してい
る。こういうことでは、金融と財政が一体となり、財政制限を取っ払うMMTとは
程遠い。