日本経済を「復活」させた、リーマン・ショックの衝撃
ピーター・タスカ(経済評論家)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/10/089.php
もっとも、意識改革が必要なのは日本の当局者も欧米当局者と同じだ。残念ながら、日本は組織的なプライドと惰性ゆえに、
量的緩和政策の導入で欧米に大きく後れを取った。

12年末の総選挙後に安倍晋三首相が再登板するまで、日本の政策論議は財政・金融タカ派に支配されていた。特に有害
だったのが、日本は(世界最大の債権国であるにもかかわらず)「過剰債務」を抱えているという意識だ。

当時は1ドル=80円の円高が日本の製造業を窒息させ、日経平均株価は8000円、有効求人倍率は40年間で最悪レベルに
あった。にもかかわらず、議論の中心は財政再建とリフレ政策(金融緩和で人々のインフレ期待を高めてデフレ脱却を図る)
の危険性だった。「痛みを伴う構造改革」こそ繁栄への道、というのが当局者の常識だった。

この考え方は金融危機以前、小泉純一郎首相の時代の支配的イデオロギーだった。

ただし、当局者の間には以前の政策に戻ろうとする危険な兆候がある。日銀の守旧派とメディアや学界の同調者は、量的緩和
の終了を働き掛けている。財務省の官僚たちは安倍首相を脅し、不要な消費税増税を実施させようとしているかのようにみえる。

過去のこうした動きは最悪のタイミングで行われた。日銀による最後の金融引き締めは、世界金融危機の始まりと同時だった。
97年の消費税増税は、アジア通貨危機と日本国内の不良債権問題が顕在化するなかで実施された。

日本やその他の国々の当局者を納得させるために、再び大きな景気後退が必要......とはならないことを願う。リーマン・ショック
の影響がまだ色濃く残る世界では、緊縮財政と金融引き締めではなく、経済成長こそが唯一の進むべき道だ。