リン酸ジヒドロコデインと塩酸メチルエフェドリン。前者はモルヒネに似た鎮痛作用があり、後者には覚せい剤に似た覚醒作用がある。もちろん麻薬と比べれば効き目は弱いが、大量に摂取すれば同様の影響があらわれる。
「2016年9月から10月にかけて全国の精神科医療施設における薬物関連精神障害患者の実態を調査しました。対象となった全2262人のうち、覚せい剤の使用経験があったのは1458人なのに対し、ブロンやパブロンゴールドをはじめとした市販薬の乱用は236人。
一見すると少ないですが、これは氷山の一角にすぎない」

例えば覚せい剤などの場合、所持が発覚すれば逮捕されるし、使用を続ければ幻覚や妄想を抱いて生活が立ち行かなくなり、医療機関に運ばれることになる。統計に表れやすいのだ。

 しかし、市販薬は乱用しても幻覚などが出づらく、また価格も麻薬に比べて安いため、生活が破たんしにくい。結果、乱用者は誰にも知られることなく摂取を続けることになる。
まさに“見えない薬物汚染”である。松本医師は「水面下の使用者を含めれば、最も大規模な汚染かもしれない」と語る。

 放置できる問題ではない。薬局に売っているという安心感からか、市販薬の乱用に陥る危機感は非常に低いが、その先に待つのは麻薬となんら変わらない地獄だ。