「弱者を含んでいる組織の方が、集団として生き延びる力が強い」という
ことです。この人類学的教訓を古来無数の物語が伝えています。

「社会に役立たない人間は死んだ方がいい」というタイプの言説を多分
ご本人たちは「リアリズム」だと思って語っているのでしょう。でも「強者
だけで作られた組織」は原理的にそのつど「当該組織内の最弱者」を
指名し排除することを宿命づけられているので最終的には構成員ゼロ
になります。

病人や老人を置き去りにし、妊婦や幼児を「足手まとい」と捨てることを
義務づけられた「強者だけから成る集団」というものが仮に過去に存在
したとしても、その集団は一世代後には消滅していたはずです。まっすぐ
自滅を目指す人たちを「リアリスト」と呼ぶことに僕は反対します。

パニック映画では(『タワーリング・インフェルノ』や『ポセイドン・アドベン
チャー』などなど)「足手まといになる弱者」を構成メンバーに迎えた
グループ「だけ」が生き延びられるという話型が繰り返し語られます。
別にこれは「倫理的美談」ではなく、「過去の成功事例」が訓戒化された
ものです。

「弱者を含む集団」では、生き延びるために全員が「余人を以て代え
難い」異能の発見に向かいます。一方、「強者連合」では全員が同一の
能力の優劣を競い、格付けをし、それによって資源を傾斜配分するよう
になります。構成員全員が自尊感情を持ち愉快に生きられる集団の
方が危機に強いのは当然です。

「成果主義」とか「実力主義」というのは、集団構成員それぞれの豊かな
潜在可能性を押しつぶし、集団を弱体化させるだけのものなのですが、
それで集団が「強くなる」と本気で信じている人たちが(たくさん)います。

彼らは別に冷酷でも邪悪でもありません。単に愚鈍なのです。