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福本漫画バトルロワイアル part.10
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0001マロン名無しさん
垢版 |
2013/05/06(月) 23:55:42.47ID:???
また前スレ落ちたので立てました。
福本漫画のキャラだけでのバトルロワイアルをしようというリレー小説企画スレです。

前スレ 福本漫画バトルロワイヤル
      http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1212909658/l50
     福本漫画バトルロワイヤル part.2
      http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1216725766/l50
     福本漫画バトルロワイヤル part.3
      http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1227249586/150
     福本漫画バトルロワイヤル part.4
      http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1240318445/l50
     福本漫画バトルロワイヤル part.5
      http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1250696919/
     福本漫画バトルロワイアル part.6
      http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1260650346/
     福本漫画バトルロワイアル part.7
      http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1271079773/
     福本漫画バトルロワイアル part.8
      http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1307226613/
     福本漫画バトルロワイアル part.9
      http://kohada.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1363087946/
     

まとめ ttp://www31.atwiki.jp/fukumotoroyale/
避難所 ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/11641/

2chパロロワ事典@Wiki ttp://www11.atwiki.jp/row/
0002マロン名無しさん
垢版 |
2013/05/06(月) 23:59:59.86ID:???
書き手の注意点
・予約は任意
・予約後一週間経過で予約取り消し
・本スレ投下前にしたらばの一時投下スレに投下する時も、
 予約スレに予約をおこなうこと。
・トリップ必須(捨てトリ可)
・無理して体を壊さない
・完結に向けて諦めない
・予約はしたらば「予約スレ」にてお待ちしてます

キャラが死んでも、泣かない、暴れない、騒がない!!
0008◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣1
垢版 |
2013/05/26(日) 22:49:09.11ID:???
代理投下します。

****************

「我々が『回収』した首輪をいつ、どのタイミングで『処分』するかなど、こちらの自由だ…生き残るには他の参加者を始末し、優勝する以外ありえない……どうだね、『現状を見直すことをお勧めする』よ…森田くん…?」
森田は黒崎の脅迫めいた勧告を鼻でせせら笑う。
「オレが殺し合いに乗ると思うのかっ…!オレは誰が何と言おうと、人は殺さないっ…!
ましてや、お前たちに騙されて、戦いを強いられている参加者達なら尚更だっ!!」

森田は憤怒を滾らせた眼光で、画面の先にいる黒崎を射抜いた。
拒否権を与えない状況に追い込んでまで、殺し合いを促進させようとする主催者たちのあざとさに、怒りを通り越して、殺意が湧きおこる。
もし、黒崎が目の前にいたなら、胸元に隠しているナイフでその喉を裂いていただろう。
これ以上、こんな屑どもに人生を弄ばれるのはご免だ。
森田は吐き捨てるように言い放つ。
「オレはお前の提案を拒否したっ…!さあ、オレを殺せっ…!」
解除権を零に譲った今、森田がこの島ですべきことはない。
あとは零たちに、未来を託せばよい。
冷静な判断力、行動力を持つ彼らであれば解除権を有益に使ってくれるであろう。
それにこの島には平井銀二がいる。
銀二の真意は分かりかねる点もある。
それでもこの主催者を倒そうとしていることには間違いない。
銀二と零達の目標が同じ方向を向いているのであれば、このゲームを転覆させることができるかもしれない。
確証はないが、確固たる予感が、森田には存在していた。
「やるなら、さっさとやれっ…!」
森田は目を瞑り、首輪爆破の瞬間を待った。
0009◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣2
垢版 |
2013/05/26(日) 22:49:52.57ID:???
――後は頼みます……銀さん……
森田が心の中で覚悟を決めた瞬間だった。

「まぁ、そんなことを言うだろうと思ったよ…森田くん……」
森田という人間を鑑みれば、殺人という手段を選択するはずがないと、簡単に分かる。
森田に嫌々マーダーの役を押し付ければ、会場に戻るどころか、この場で自殺することは目に見えていた。
黒崎はお前の思考などお見通しだと言わんばかりに椅子にもたれ、カメラを見下ろす。
「殺し合いが嫌いな君でも、こう言えば、気持ちが変わるはずだ……」
この瞬間、黒崎の柔和そうに垂れた目に鋭い光が宿る。
「君への要求を変更しよう……。
殺すのはただ一人。帝愛グループ総帥……兵藤和尊っ…!」
「なっ…!」
黒崎の想定外の展開に言葉を詰まらせる。
兵藤和尊はこのバトルロワイアル主催者――最大の要の人間である。
その人間を、部下である黒崎が殺せと命令したのだ。
「な……何を言っているんだっ……!」
森田や他の参加者の知らない所で、大きく事が動き始めようとしている。
寒気に近い不安が大きく膨らんでいく。
0010◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣3
垢版 |
2013/05/26(日) 22:50:23.18ID:???
森田の反応は期待どおりだったと見えて、黒崎は嘲笑を漏らす。
「兵藤和尊は、今、D−1の発電所にいる…。最もゲームに近い安全圏にな…」
「なぜ、そんなことを教えるっ…!」
「ふふっ……なぜかって…?」
黒崎は身体を少し前のめりに崩す。
「我々に首輪を回収された君は、今や私の駒(ポーン)だ……
ポーンは余計なことなど考えず、黙って“プレイヤー”の指示に従えばよい……」
“これで以上だ……”と、黒崎が腕を伸ばし、画面を切ろうとした瞬間だった。
「待てっ!黒崎っ!!」
森田は画面に掴みかかる。
「どうやって、D−1の禁止エリアに入ればいいんだっ!!
そもそも、本当にそこに兵藤はいるのかっ!!」
腕を止めた黒崎は、焦る森田とは対照的に、“ああ……そういえば言い忘れていたよ……”と余裕に満ちた表情で返答する。
「D−1エリアはこちらで解除しておく……
これで侵入できるだろう……。
もう一つの質問に関してだが、それは行ってからのお楽しみだ……」
「“行ってからのお楽しみ”か……どうして、言葉を濁す……」
森田は胡乱げに眉を寄せる。
0011◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣4-6
垢版 |
2013/05/26(日) 22:52:06.20ID:???
「お前からの初めの指示は、“他の参加者を減らせ”だった……。
もし、仮に、オレがお前達の言葉を鵜呑みにしてその場へ行けば、そこにあるのは別の誰かっ……。
例えば、首輪の解除に成功して、禁止エリアの潜入した参加者とかだっ……。
一度、禁止エリアに入ってしまえば、あとはゲームが終わるまでそこに居続ければいいっ……!
けれど、それではお前達には都合が悪いっ……!
そこでオレを送り込んで殺害させるっ……!
違うかっ……?」
「ほほう……」
黒崎は感心したかのように、目を細める。
「ふふっ……君にそこまで言われたら、もう語ることなどない……
そこにいる人間を殺せっ……!
その意志が見受けられない場合は、首輪を爆破させるっ……!」
黒崎は森田の返答を聞かず、通信を切ってしまった。

「くっ……もう一度、黒崎と話はできないのかっ!!」
森田は近くで待機していた黒服に噛みつく。
しかし、黒服からは、“お前が来る直前に、パソコンを用意しておけ”と命令されただけだ。
それ以前に、自分はこのパソコンの使い方がよく分からないと、頼りない答えしか返ってこなかった。
「そうか……」
情報機器に熟知している者であればクラッキングし、黒崎のサーバーに不正アクセスすることもできたかもしれない。
しかし、森田はフロッピーの起動の仕方すら覚束ない、情報機器に対してはド素人である。
そのような高等技術などできるはずもない。
「クソ……!」
森田は黙ってギャンブルルームから出るほかなかった。


「なんとかなったか……」
黒崎は椅子に持たれ、深いため息をつく。
大きな仕事を終えた今、本音を言えばゆっくり休みたい。
しかし、黒崎には定時放送以上に重要な仕事が残されている。
黒崎は椅子から立ちあがり、部屋を出た。
0012◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣6-7
垢版 |
2013/05/26(日) 23:01:09.17ID:???
「お待たせいたしました……」
黒崎が赴いたのは袋井の部屋。
そこで待っていたのは袋井と後藤利根雄、そして、誠京グループ会長、蔵前仁である。

蔵前専属の執事という身分だけあって、在全側が袋井に用意した部屋は要人待遇と言ってもよい。
普通のホテルの一室はワンルームであるが、袋井に用意された部屋は居間と寝室が隔離され、ホテルというよりは高級マンションの一室を思わせる。
蔵前たちの面子を立てるためか、室内の調度品は高価なものばかりであり、その力の入り様はさすがに黒崎も苦笑してしまう。
しかし、真の贅沢に慣れた蔵前からしてみれば、所詮、富裕層を演出するためだけの寄せ集めの品。
シルクのカーペットにワインがこぼれようとも、慌てることなく、次のワインへ手を伸ばす。
蔵前にとって、袋井の部屋は通常より少々気を使った作業部屋でしかないのだ。

高齢にもかかわらず、朝からよく飲むものだ。
黒崎はそう心の中で失笑しながらも、顔にはおくびにも出さず、本革のソファーに腰を下ろす。

「これでよろしかったでしょうか……蔵前様……」
「ククク……中々面白い趣向ではないか……」
蔵前はくぐもった笑声を立てた。
「森田鉄雄、平井銀二のおかげで、わしは…いや、誠京はかなりの痛手を被った……」
「確か……民政党代議士58人の借用書と500億でしたか……」
黒崎の言葉に、蔵前は頷く。
誠京という企業にとって、500億円の損失はかなりの痛手であるものの、致命傷とまではいかない。
しかし、問題は民政党代議士58人の借用書の方である。
0013◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣8
垢版 |
2013/05/26(日) 23:03:07.85ID:???
それを知るには、誠京というグループ企業とその背景を説明しなければならない。
誠京はいくつものグループ会社を抱えていたが、法律上、独立した会社が多く、その会社が出資して子会社・孫会社を作っていった。
本社とグループ会社が切り離された仕組みはグループ拡大と税金対策を狙ったものである。
自治体による土地開発の情報をいち早くキャッチすると、誠京は周辺の土地を安く買い、新たな子会社――誠京傘下の百貨店やホテルなどを立ちあげる。
誠京主導による生活圏形成。
それが軌道に乗れば、おのずと地価も上がる。
地価が最高値まで上がったところで、その土地と、そこの地域を作るために作られた子会社を担保に銀行から資金を借り、新たな地域へ投資する。
企業と土地などの不動産を担保にし、銀行から引き出した融資をそのまま自分たちの資産に変化させる。
この手口は『企業担保法』と呼ばれている。
銀行からの融資だけではなく、子会社が得た利益も、一旦本社へ吸収された後、儲けが少ないグループ会社に分配され、孫会社設立の投資へとまわされた。
資産は増えていくものの、決算上、利益は生み出していないため、会社の利益に対して課せられる法人税や事業税を納める必要がない。
また、名義上、別会社であるため、場所代として課せられる市町村民税やその他地方税は本社がある地域ではなく、その地元へ落とされる。
こうして商店街などの反対勢力を抑え、自治体を味方につけてきた。
誠京の恩恵を授かりたい、新たな自治体が土地開発の情報を提供。
その地域に地価高騰の可能性があると分かれば、誠京グループ総出で進出していく。
無限の連鎖の中での巨大化。
これが“錬金術”と言われる所以である。
0014◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣9-10
垢版 |
2013/05/26(日) 23:05:25.77ID:???
しかし、この錬金術もバブル崩壊と共に陰りを見せることとなる。
バブル崩壊後、土地や住宅、株式など、定価が定まっていない時価資産が日本全土、軒並み下落した。
誠京の不動産も例外ではなく、担保としていた不動産は融資額を下回り、差額は不良債権として、銀行の損失となった。
当然、銀行はその不良債権を補うため、追加担保・保証を誠京に求めた。
しかし、利益や融資を投資にまわし続けていた誠京に不良債権の埋め合わせを準備する余裕などない。
そこで、不良債権を審査する基準を甘くし、不良債権を正常債権であると銀行に無理やり認めさせたり、銀行による一時的な救済処置
――補填融資、いわゆる“追い貸し”を繰り返し、不良債権ではなく正常債権とみなす操作を行うなど、不良債権総額を低く見せて経営状態を取り繕ってきた。
このような横暴とも言える方針ができたのも、民政党代議士に対して、ギャンブルの借用書という名の貸しがあったからである。
借用書という鎖がある限り、誠京の拡大路線は約束されていたようなものであった。
それをこともあろうに、平井銀二と森田鉄雄が麻雀勝負で奪ってしまったのだ。
その日を境に、与党・民政党は誠京グループへ手のひらを返したように不動産の再審査を行うように促してきた。
再審査を行い、正当な不良債権額が露呈すれば、グループとしての信用は失われ、不良債権補填の催促がより一層厳しくなる。
のらりくらりと追跡をかわしているが、それもいつかは限界に来るだろう。
誠京グループは瀬戸際に立たされて始めている。

「やつらさえ……わしの前に現れなければ……わしがこんな苦しい思いをするはずがなかった……」
「ええ、おっしゃる通りです……蔵前様……」
蔵前に同調しつつも、黒崎は悟られない程度の小さなため息をついた。
確かに、銀二達に負けた日から誠京の転落が顕著になったのは間違いない。
しかし、土地は値上がりするが値下がりはしないという“土地神話”を盲目的に信じていたこと――誠京グループの見通しの甘さが全ての原因であった。
銀二と森田に対しては逆恨みとしかいいようがない。
0015◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣10-11
垢版 |
2013/05/26(日) 23:06:47.01ID:???
そもそも苦境に立たされているのであれば、バトルロワイアルを悠々と開催しているよりも資金作りに奔走した方がよい。
おそらく、蔵前は苦しい苦しいと喘ぎながらも、心のどこかでは思っているのだろう。
再び経済は回復し、不良債権が正常債権に戻る日が来るだろうと。
だからこそ、このゲームに多額の投資を平気でしているのだ。
不況が長引いているのは不良債権の増加によって銀行の体力が奪われ、他の企業に対して貸し渋りを行っているためである。
もちろん、不況の要因はこれだけではない。
しかし、銀行の不良債権が解決すれば、景気が大きく回復するのもまた事実である。
誠京のような大企業でさえ不良債権を返せずにいるというのに、他の中小企業が不良債権をどうにかできるはずがない。
不況はさらに続くであろう。
数多の判断材料が存在しているというのに、それを受け入れようとしない――未だにバブルから抜け出せない哀れな老人。
それが黒崎の蔵前への評価であった。

黒崎が実は見下しているとも知らず、蔵前は語り続ける。
「わしはやつらに復讐する機会を伺っていた……
その機会はついに訪れた……バトルロワイアル開催の誘いじゃ……」
蔵前は森田と銀二の殺害を何度も考えた。
しかし、彼らの足取りを追うのは難しく、何より、彼らの背後にいる伊沢が与党幹部になってしまい、ますます手出しがしにくくなってしまった。
蔵前自身が誠京グループの不良債権問題に奔走していたのも、それに拍車をかけていた。

そんな時に帝愛から、バトルロワイアルを共同で開催しないかという提案が来たのだ。
殺し合いというフレーズに初めこそは眉をひそめた蔵前であるが、次の一言が気持ちを一転させた。
『平井銀二と森田鉄雄を参加させます……』
蔵前は大いに喜んだ。
帝愛からの話によると、銀二と森田は神威事件をきっかけにパートナー関係を解消、その後、銀二は伊沢が力を失い始めたこともあり、前ほど派手に活動をしなくなったらしい。
0016◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣11-12
垢版 |
2013/05/26(日) 23:12:44.08ID:???
「奴らがこの島で無様に殺されると思うと……これほどうれしいことはないっ……!」
殺される瞬間、彼らはどんなことを思うのであろうか。
人生の幕が呆気なく閉じてしまうことへの悲憤か、それとも、蔵前という絶対的な権力者に楯突いてしまったことへの後悔か――。
想像しただけで、酸っぱいだけの安いワインも極上の美酒に変化する。
そんな展開を蔵前は待ち焦がれていた。
しかし、現実は――

「奴らは殺されなかったっ……!!」
彼らに恨みを持つ者や、無差別に殺人を犯しそうな人間は序盤で勝手に自滅。
残ったのは彼らの考えに賛同するであろう無能者ばかりであった。

「それゆえに……森田鉄雄に首輪回収の依頼をしたっ……!強制的に殺人を犯すようにっ……!」
殺人を積極的に犯せば、おのずと命を狙われる率も上がっていく。
それで他の参加者に狙われるもよし、殺人を犯したことによる罪の意識から精神が錯乱していくのもよし。
あの首輪回収は停滞していた殺し合いを加速させると同時に、森田の精神と人生を転落させる意味があったのだ。

“我ながら何という名案だ……!”と言いながら、蔵前は奇怪な笑声を出して膝を叩く。
それに対して、黒崎は薄く笑っただけで口に出して反応を示さなかった。
黒崎にとって、これ程厄介な要求はなかった。
このバトルロワイアルは蔵前からすれば復讐の場にすぎないが、帝愛としては立派なギャンブルの種目なのだ。
公平さが求められるにもかかわらず、蔵前の要求はそれを覆すものであった。
蔵前からこの提案があった時、黒崎は異議を唱えた。
しかし、蔵前は要求が通らなければ、自らゲームの中止を宣言すると言い始めたのだ。
黒崎は蔵前の説得を諦め、その意志を尊重することにした。
しかし、蔵前主導で森田に首輪回収を依頼すれば、何を仕出かすか分からない。
そこで黒崎が間に入り、公平さを失わない方向で話を進めていった。
これが森田の首輪回収という特殊イベントの経緯である。
0017◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣13-14
垢版 |
2013/05/26(日) 23:14:01.33ID:???
「奴は結局、誰も殺さず、首輪を集めてしまったがの……」
蔵前はつまらなさそうにため息をつく。
黒崎はそんな蔵前を憮然とした眼で見つめる。
蔵前はかつての麻雀勝負から森田のことを金に貪欲な強運の持ち主と思っているようであるが、その実は逆である。
森田は冷徹になりきれない、お人よしの人間であり、損得抜きで行動することが多々ある。
それが打算に溢れたギャンブルにおいて、予測できない方向へ転がっていくのだ。
行動原理が金や命に囚われている人間――例えば、蔵前のような人間であれば、首輪回収の依頼を殺人という方法でこなしていただろう。
しかし、人がいい森田がそんな行動をするはずがない。
首輪回収依頼は森田の人格を理解できない蔵前らしい提案だったと言える。

(蔵前とは同盟関係だ……しかし……)
蔵前のわがままのせいで公平なギャンブルどころか、今や黒崎の立場も危うくなってきた。
森田の首輪回収に不満を持ったギャラリーから非難が相次ぎ、その声を押さえることに労力と神経を使わざるを得なくなってしまった。
また、前例ができてしまったことをいいことに、もう一人の主催者である在全が和也たちに金庫解除という特殊ギャンブルをしかけてきた。
そして、今、ギャンブルルームで村岡の謎の死が――。

(これものちのちのためっ……!)

黒崎はそう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替える。
今は酒に自白剤でも入っているかのように饒舌に語る蔵前の機嫌を取ることが最優先である。
「ところでな……」
蔵前の両眼に毒を持った光がちらついた。
「兵藤がD−1にいるのは……本当かの……?」
蔵前の疑問に対して、それまで口を閉ざしていた後藤が答える。
「それは間違いございませんっ…!」
自信に満ちた顔で後藤は用意していたパソコンを蔵前に見せる。
0018◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣14-15
垢版 |
2013/05/26(日) 23:14:50.47ID:???
そこに映っていたのはバトルロワイアルの会場の地図であった。
D−1の発電所に赤いポイントが点滅している。
「D−1の発電所はこの島の電力を安定に供給されるために最初から禁止エリアにしておりました……。
万が一、ゲームの転覆を目論む参加者がここを破壊するという可能性をなくすために……。
ゲーム開始から無人のエリアにもかかわらず、そこから通信形跡があり、しかも、それは村岡の空白の時間と符合する……。
そして……」
後藤は画面を操作した。
パソコンから流れ出したのは――

『違う…この声は…会長だ…』
『なんだ…?ワシでは不満かの…?忙しい黒崎の代わりに…お主の要求を呑んでやろうと思ったのだが…』
『いやいや…まさか!この村岡隆…感謝の気持ちこそあれ、不満なんて思いは…これっぽっちも無いざんす…!!』
『ククク…そうか…。ならば…お主には死んでもらうぞ…村岡隆…!』


それは村岡と黒服、そして、兵藤のやりとりと思われる会話の音声であった。
村岡がギャンブルルームに入ってから出るまでの間、突然、音声、画像共に遮断。
回復した時、そこに映っていたのは村岡と黒服の死体と、卓に並べられた麻雀牌だった。
その時間、E−2に立ち寄った参加者は誰もいない。
ギャンブルを行ったのは第三者――主催サイドの犯行である。
蔵前とも在全とも意志疎通が行われている今、バトルロワイアルを荒立てて得をする人間はただ一人――兵藤和尊のみである。
しかし、黒だと分かっていても、決定打となる証拠はなかった。

「全てのギャンブルルームと盗聴器、隠しカメラは帝愛の方々が準備してくださりましたが、
そこまで帝愛の方々に甘えてしまうのは申し訳なく思い、
こちらも僅かではありますが、ご用意させていただきました……」
後藤は帝愛も把握していなかった盗聴器の存在を恩着せがましく暴露した。
0019◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣16-17
垢版 |
2013/05/26(日) 23:15:36.61ID:???
(やはり、在全は帝愛と誠京を信用していなかったか……)
黒崎は皮膚の表面に不快感をにじませた。
しかし、この証拠のおかげでギャラリーに説明することができる――村岡の死は兵藤の身勝手な振る舞いによるものであり、黒崎に非がないということを。
在全サイドの行動は主導権を握る側としては非常に不愉快であるが、結果的にそれが黒崎の首を繋ぎ、森田に兵藤殺害の命令を下すことができた。
黒崎は今回のことは不問に付すことに決めた。

後藤はその音声をコピーしたCD−Rを黒崎に渡した。
黒崎は安堵にも似た苦笑を浮かべながらそれを受け取る。
「後藤さん、余計な手間を増やしてしまい、申し訳ございません……」
「兵藤の行為は明らかに我々を陥れようと目論んだもの……
これ以上、野放しにしてはゲームが破綻する恐れがあります……
それに兵藤を潰す……我々が結束した理由はそこですからな……」
「そうですな……」

黒崎は後藤に当てて、一通の書類を送っていた。

『今回のギャンブルが成功しました折には兵藤和尊を会長の座から引きずり落とし、
帝愛と在全、そして、誠京…その三者で手を結び、更なる発展を築きましょう』

在全はそれを了解し、三者同盟が成立していた。

在全も兵藤も共に日本を代表する資産家である。
在全はアミューズメントパークなどのレジャー産業、兵藤は消費者金融業界でそれぞれ勢力を伸ばしていた。
本来であれば業種が違うため、同じ富豪であっても張りあうことはなかった。
しかし、近年、兵藤が在全の得意分野であった、エンターテイメント性を重視した裏ギャンブルを催すようになったのだ。
良い例が、鉄骨渡りである。
金と裏ギャンブルを足掛かりに、帝愛はあっという間に政界と太いパイプを築いてしまった。
噂によると、特に元総理大臣の橋爪竜蔵とは懇意の間柄であり、彼が在任中、通した法案は帝愛が優位に立つものばかりだったという。
自分と同じ手口を使い、社会で伸し上がる。
要は兵藤という存在自体が、在全にとって面白くないのだ。
0020◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣17-19
垢版 |
2013/05/26(日) 23:21:08.59ID:???
黒崎と後藤のやりとりを横目で見ながら、蔵前もクスクス笑う。
「在全のところもそうであろうが、わしにとっても兵藤は邪魔な存在っ……!
奴を消すことも黒崎との密約の一つじゃ……」
帝愛と誠京との間で、兵藤を亡き者にすることは確定済みであった。
第一回定時放送前の黒崎と袋井の密会はその相談であった。
いくらこのホテルが在全グループ主導で用意されたものとは言え、どこで兵藤の目が光っているかは分からない。
そもそも、兵藤は行方を晦ましている。
だからこそ、筆談でやりとりをしていたのだ。

「我々の目的は初めから同じであった……
ならば、初めから我が在全グループも話に加えてくださればよかったものを……」
後藤は拗ねたような表情で腕を組む。
第一回定時放送終了直後、帝愛に疑心を抱いた後藤は主導権を握ろうと、森田と銀二を餌にした取引を蔵前達に持ちかけた。
その密約はすでに黒崎との間で交わされていたため、後藤は突っぱねられてしまうのだが。
図らずも道化を演じてしまった後藤が、不機嫌になるのも無理はない。
そんな後藤を見ながら、袋井は肩をすくめる。
「だからおっしゃったではありませんか……“いずれ分かる”と……」
黒崎と袋井の密会では兵藤殺害のプランの他に、在全グループと手を組むか否かという議論も含まれていたのは言うまでもない。

黒崎は表情をやわらげると、両手を組んだ。
「兵藤は何かしらの護衛策を用意しているはず……
強運の持ち主と言われた森田鉄雄とて兵藤に敵うかどうか……」
普通に考えれば、碌な武器を持っていない森田が兵藤と戦えば、あっけなくやられてしまうのは目に見えている。
しかし、冷静な判断力と強運を武器に、裏社会のフィクサーの相棒として生きてきた男である。
もしかしたら、相打ちという形で兵藤の息の根を止めることができるかもしれない。
「しかし……」
後藤は顎に手を当て、考え込む。
「森田は本当にD−1へ向かってくれるのか……」
森田が一筋縄ではいかない性格であることは後藤も認識している。
黒崎の命令にきな臭さを覚え、あえて向かわない可能性もある。
0021◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣20-21
垢版 |
2013/05/26(日) 23:21:57.67ID:???
「森田は我々の希望通りにD−1へ向かいますよ……」
黒崎は朗らかな表情で後藤の疑問に答える。
「森田はD−1に首輪解除に成功した参加者がいると睨んでいる……。
森田が自分の予測を信じ続けるのであれば、その参加者を助けるため、首輪解除の方法を知るため、向かうでしょう……。
また、もし、我々の発言を信じるのであれば、主催者を倒すチャンスと考え、やはり向かうという考えに行きつくはず……。
もちろん、森田もそこまで愚かでないでしょうから、そこに命を脅かす罠が存在するであろうことは承知しているはず……。
ただ、自分を殺せとまで言える男が、その罠程度で怯むことはないと思いますよ……」
黒崎は“まぁ、それでも向かわない時は首輪を爆発させれば済む話です……”という言葉で話を締めくくる。
「なるほど……」
後藤は合点が行ったかのように、満足げに頷く。
「森田は割と慎重な性格だ……。
もしかしたら、多少の準備はするかもしれませんな……
例えば、他の参加者を連れだって乗り込むとか……そうなれば……」
後藤はニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべる。
「こちらとしても有難い……
ギャラリーにより刺激的な映像や音声を提供することができますから……」
「実は私もそうなることを願っているのですよ……」
後藤の意見に、黒崎もどす黒い笑いで返した。

「ほう……森田が兵藤を殺害できる可能性があるというのか……」
蔵前の森田への要望はあくまでも参加者の大量虐殺であった。
しかし、強制的に指示をしても森田は動かないであろうと予測していた黒崎は、土壇場になって参加者殺害から兵藤殺害へと指示を切り替えたのだ。
蔵前としては森田が殺人という“醜い”行為を経て、“醜い”人間になり果て、無様に死ぬことを望んでいる。
対象が誰であれ、その過程を目撃することができればいいのだ。
兵藤殺害の手間も省けるということもあり、結果的に黒崎の独断を受け入れた。
「結果が読めぬ戦いか……実に面白いっ……!」
気分を良くした蔵前はワインを一気に飲み干すと、深く息を吐きだした。
0022◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣22-23
垢版 |
2013/05/26(日) 23:23:14.81ID:???
「では、さっそく作業に入りましょう……」
黒崎はD−1禁止エリアを解除しようと、自らのパソコンに手を伸ばした、次の瞬間だった。

『そんなことする必要はないぞっ……!!』
黒崎と後藤のパソコンの画面に、新たなアクセスが入った。
「あ……あなたはっ……!」
黒崎と後藤は同時に息を飲む。
映っていたのは在全グループ総統・在全無量であった。
二人の驚きを他所に、在全は晴れ晴れとした微笑で尋ねる。
『ククク……森田が禁止エリアの解除権を託したのは宇海零っ……!
零ならどこを選ぶと思うっ……?』
「彼ならば……」
後藤の口元が不敵に吊り上がった。
「おそらくはD−1っ……!
標の意志を継ごうとしているのであればっ……!」
標はゲームの序盤、赤松と共にD−1エリアの近くまで赴き、その様子をメモに詳細に記録していた。
そのメモは赤松を経由し、零の手の中にある。

欲しい答えを得た在全の表情は笑顔で歪む。
『その通りじゃっ……!!さすが、我が右腕じゃっ…!』
後藤を褒めたたえる在全の全身から陰惨な冷気が帯び始める。
『ゲームはあくまで“公平に”じゃっ……!』

皆、一瞬呆然とするも、在全の意図が分かるや否や、噛み殺したかのような笑いを次々に漏らしだした。
「そうですね……あくまで公平に……」
ギャンブルはルール――限られた環境の中で知恵や気概で乗り切ることに醍醐味がある。
禁止エリア解除権というルールを設けた以上、そのルールは尊守しなければならない。
このルールを適用したために兵藤が死ぬことになったとしても、それは命が狙われるような場所に居合わせた兵藤自身が悪い。
0023◇uBMOCQkEHY 代理投下 巨獣23-24
垢版 |
2013/05/26(日) 23:24:55.28ID:???
「ふふっ……ルールは不備がないように設定したつもりだったのですが……」
「それでも起きてしまった事故はやむを得ぬ……。
まぁ、その事故で最も危険な“対主催”が消えてくれれば、わしらも安心してバトルロワイアルと“事業”を続けられる……」
「そうですね……我々の今後のために……」

このゲームに集まった主催者達は猛悪なだけでなく、際限がないまでに自分の利益に貪欲であった。
人間の格好をした獣。
金と権力で膨れ上がった巨獣。
巨獣たちは獲物が弱るのを今か今かと待ちわびている。


【G-6/ギャンブルルーム/朝】

【森田鉄雄】
 [状態]:左腕に切り傷 わき腹に打撲
 [道具]:フロッピーディスク(壊れた為読み取り不可) 折り畳み式の小型ナイフ(素材は絶縁体) 不明支給品0〜2(武器ではない) 支給品一式  船井の首輪・村岡の首輪(いずれも爆発済み)
 [所持金]:1000万円
 [思考]:遠藤を信用しない 人を殺さない  首輪を集める 銀さんに頼らない E-3銃声の場所を調べる(利根川の死体) 宇海零か伊藤開司と接触をはかりたい
※フロッピーで得られる情報の信憑性を疑っています。今までの情報にはおそらく嘘はないと思っています。
※遠藤がフロッピーのバックアップを取っていたことを知りません。
※以下の依頼を受けました。契約書を1部所持しています。
※黒崎から支給された、折り畳み式の小型ナイフを懐に隠し持っています。
※黒幕が帝愛、在全、蔵前であること、銀二がバトルロワイアルの首脳会議に参加し、今回の企画立案をし、病院がらみのスキャンダルで主催者を潰すこと、D-4ホテルで脱出の申請を行うことができる可能性について聞きました。
※黒崎からD−1にいる兵藤を殺せという命令を受けました。

*****************

代理投下は以上です。投下時に警告が出たため、一部こちらで改行しました。
0024マロン名無しさん
垢版 |
2013/05/27(月) 20:13:46.52ID:???
投下乙です。
主催者側の思惑、背景と、話の厚みがすげぇ。
話してるだけなのに、圧迫感がひしひし伝わってくる。
黒崎も気になるけど、D-1への引きに零と森田が気になってしかたない。
相変わらずのクオリティ乙です。
後藤の拗ねたような顔w
0025マロン名無しさん
垢版 |
2013/05/27(月) 21:52:32.21ID:???
投下乙です!
黒崎の思惑、蔵前がゲームに投資した動機、在全の動き…読んでいてとても引き込まれました。
三者三様の思惑が絡んでいた、状況説明がとても秀逸。
今までの主催サイドからの参加者達への干渉も、こういうことだったのかと納得できる。とても面白かったです。
D−1は解除されるのか?今後の展開にも期待!
0030マロン名無しさん
垢版 |
2013/06/28(金) 18:00:54.84ID:lvNzCKrv
保守
0032マロン名無しさん
垢版 |
2013/08/08(木) NY:AN:NY.ANID:XAR+Fubb
守保
0038 ◆h.axs11sfY
垢版 |
2013/11/03(日) 21:31:17.29ID:???
初投稿です。
至らない点など多々あるかと思いますので、ご指摘いただけると助かります。
それではよろしくお願いします。
0039出動1
垢版 |
2013/11/03(日) 21:32:26.92ID:???
畳の上に、朝の光が降り注いでいる。
ここが殺し合いの舞台であっても、いつもと同じようにやってくる朝に、伊藤カイジは少しだけ緊張の糸が解れる思いがした。
沢田と涯が見張りに立っており、部屋に残っているのはカイジと零の二人のみ。
カイジは窓から差し込む朝日に目を細めると、先ほどから標のメモや地図を見てはメモに何かを書きつけている零をちらりと見て、腕時計に目を落とした。
時刻は午前6時53分。
そして、ここ数時間の出来事を思い返していた。


まだ夜が明けきらない頃に現れた、森田鉄雄という男。
そして彼が告げた主催者とのギャンブル……。
彼に課された試練は厳しいものだったが、それによって手に入れられる報酬――禁止エリアの解除権――は魅力あってあまりあるものだ。
さらに、三回目の放送後の突然の来訪者、もたらされた情報の集約。
井川ひろゆきと平山幸雄のおかげで、この島で起きていることについて、かなり多くのことが分かった。
禁止エリアの解除権を譲渡された零にとって、これほど多くの情報は、またとない僥倖だったことだろうとカイジは思う。
(ただ問題は……制限時間だ……)
森田が交わした契約によると、進入禁止エリア一箇所の永久解除権は、権利が発生してから60分以内に使わないと無効なのだそうだ。
零は6時丁度に、エリア解除権が譲渡されたと宣言した。
つまり、権利を行使できるのは7時まで。
その後ひろゆき達との情報交換もあり、残された時間は10分を切った。
(間に合うのか……?)
カイジは内心焦っていた。

そんなカイジの心配を感じ取ったのか、零はふと顔を上げた。
「カイジさん……」
零の口が何かを告げようとする前に、カイジは玄関へ飛び出していた。
「沢田さんと涯を呼んでくるっ……!」
「ありがとうございます……助かります」
はじかれたように見張りに立っている涯と沢田を呼びに行ったカイジの背中に、零がつぶやく。
零は、カイジが自分の意図を言葉もなしに汲み取ってくれたことに嬉しさを感じ、切迫した状況とのアンバランスさに苦笑した。
0040出動2
垢版 |
2013/11/03(日) 21:33:11.46ID:???
はたして涯と沢田はすぐに戻ってきた。
カイジと涯と沢田。緊張の色が浮かぶ六つの瞳が零を見つめる。
「解除エリアはD‐1にしようと思います」
零は落ち着いた声で告げた。
「D‐4とD‐1、どちらを開bッるべきか悩みbワした……でもD‐1にします」
零は、カイジ、沢田、涯の三人に、零に近づくよう手招きした。
近づいてみると、デイバックで作られた死角の中に、何枚かのメモを用意されており、それを読むよう促された。
促されるままに、カイジ、沢田、涯は、息をのんでメモを覗き込む。
そこには、走り書きではあるが整った読みやすい字が連なっていた。

『D‐1を解除エリアにするのは、謎の灯台があるから。
怪しいのは次の二点』

「……じゃあ、理由を説明しますね……」
三人がメモを読んでいるのを眺めながら、零は話し続けた。盗聴する者へ向けたカムフラージュの説明だ。零の真意はメモに記されている。

『まず真新しいアンテナ。これが送受信しているものとして考えられるのが次の二つ。
首輪を爆破する電波または盗聴器の音声や監視カメラの映像。
この二つのうちいずれかと考えて間違いはないと思います。
そして動いている室外機。このことから、灯台は人が管理していると思われます。
が、灯台という建物の性質上、それほど多くの人間はいないはず。
そこにいられる人数が少ないとなると、島中に仕掛けられた監視カメラの映像や、参加者につけられた盗聴器の音声を少人数ですべてチェックするのは至難の業。
よって映像と音声をチェックしているというパターンは却下。
消去法で考えて、少数精鋭で首輪の管理にあたっている公算大。
そして、そこにいる人物ですが、ギャンブルルームにいるような黒服だと踏んでいます。
黒崎のような大物はいないはず。なぜなら、多くの兵を配置できない危険な場所を、主催者が拠点にするとは考えにくいから』

「D‐4は言うまでもなく敵の本丸……奴らの拠点……!
D‐4こそ真っ先に解除されそうなエリアだというのは彼らもわかっているはず……。
ならばなぜ、禁止エリア一箇所解禁という契約を、なぜあの主催者たちがのんだのか……?それは、奴らの戦う準備が寸分の狂いなく整っているから……!」
0041出動3
垢版 |
2013/11/03(日) 21:34:38.49ID:???
零が続けるカムフラージュの説明を聞きながら、カイジ、沢田、涯の三人は、そっとメモをめくった。
文字はさらに続いている。

『が、可能性はごく薄いけど、次のパターンも捨てきれません。
それは、在全無量。在全グループのトップ。彼がそこでゲームを観戦しているパターン。
本来ならば大物がそこにいる可能性は低い。理由は先ほど書いた通り。
でも在全ならあり得る。
なぜなら、奴はわがままで完全な満足以外受け付けないエゴイストだから。
たとえ自らの登場でゲームが台無しになろうと、一番のVIP席でショーを見物したい大童子。
現に、前に俺が参加したギャンブルにも、自ら乗り込んできた。
まあ、おかげで俺は命拾いしたんですが……。

今回の殺し合いのVIP席は、一歩外に出ればそこが殺戮の舞台であるこの島の建物のどこか。
殺し合いを肌で感じつつも、自分は安全エリア内……そんな特等席。
もちろんホテルで悠々と眺めるのもいい……
でも、地図に載ってない建物から、一人だけこっそり高みの見物をするが愉快……なんて子供じみた発想をしうるのが在全無量。
だから、奴がそこでこの殺し合いを観戦している可能性もあります』


(在全がいるだと……?あの灯台に……?)
カイジは思わず息をのんだ。横で沢田と涯の表情が険しくなるのを感じた。
どうやら彼らにとっても衝撃的な推理だったようだ。
続きを読もうと心が逸る。


『つまり、首輪の管理と殺し合いの観戦、この二つのパターンが考えられますが、
どちらかといえば前者の可能性が高いと考えています』


(そうだよな……いくらなんでもそんな場所に在全みたいな大物がいるとは考えにくい……)
頭ではそうだとわかっていても、カイジは鼓動が早まるのを感じずにはいられなかった。
一方で零の演説は続いていた。
0042出動4
垢版 |
2013/11/03(日) 21:35:35.03ID:???
「まず間違いなく待ち構えているでしょう……ホテルには……武装した大勢の兵が……!
そこに飛び込んでいくのはあまりに危険……飛んで火にいる夏の虫……。
だから避けました……D‐4を解除するのは……!
その点、地図で見る限りD‐1には大人数が隠れられそうな建物はない……しかも西側半分は海……」

『が、灯台はいずれにしても敵の急所。
うまくいけばこのゲームを転覆させられるはず。
だからこそ策なしに飛び込むのは危険……
その前に準備……敵と渡り合えるだけの「武器」を集めたいと思います』

メモが残り少なくなってきた。ページをめくる指が震える。時計の針は午前6時56分を指す。

『殺し合いが行われている場に主催者側が陣を構える以上、彼らが武装しているのは必然。
それに引き替え、こちらの武器はナイフと警棒とバット。
あまりに心もとない。
せめて銃火器か防具がほしいところ』

「戦闘になったときに、D‐1の方がまだ勝ちの目はあります……武器さえあれば!」

『そして、首輪に関する情報。
敵陣に乗り込んだ時に、あちらが俺たちの首輪を問答無用で爆破してくること……これが一番怖い。
首輪を解除することは難しいかもしれない。でも無力化する方法はあるはず。
それを探したいと思っています』

零は一旦言葉を区切り、目を閉じて標、坂崎、板倉、そして赤松の顔を思い浮かべた。
標がいち早く灯台の謎に気付き、赤松が届けてくれた。しかしその赤松も帰らぬ人となった。
灯台を調べることは、この島で散っていった仲間たちの遺志を継ぐことだという予感があった。
そっと目蓋を開ける。零の力強いまなざしが、カイジと沢田と涯に向けられた。

「……だから解除するのはD‐1……!D‐1です!」

時刻は午前6時58分。零の声が、朝の澄んだ空気を静かに震わせた。
0043出動5
垢版 |
2013/11/03(日) 21:36:55.76ID:???


「クゥクゥクゥ……愉快愉快!儂の思った通りじゃ……!」

盗聴器から聞こえてくる会話に耳をそばだてていた在全無量は、零の宣言を聞き快哉の声を上げた。
しかしその顔に浮かぶのは、喜びの笑みではなく、残忍で歪んだ愉悦だった。
「宇海零……小憎らしい餓鬼……!
踊れ、儂の掌の上で……踊り狂って死ね……!」
在全は零の破滅を夢想し、獣のように舌なめずりをした。



「それで……これからどうすんだ、零」
沢田が零に静かに問いかけた。
「そうですね……まずは強力な武器を探しましょう。でもこれが案外難しい」
そう言う零の横顔を、涯はなぜと言わんばかりの表情で伺う。
「強い武器ほど、すでにこのゲームに乗ってる人間の手に渡ってるはずです。
誰かを殺したら、その人から使えそうなものを奪うのは当然……それが武器でもチップでも……。
つまり、誰かを殺せば殺すほど、強化されていく仕組み……それがこのゲームの定め。
だから難しい……武器を集めるのは……案外!」
確かにそうだ、と涯は頷いた。
現に涯自身、自ら手にかけた安岡からバットを奪っているのだから。
その暗い事実が、零の言葉の説得力を増した。
武器を手に入れるためには、誰かを殺さなければならない。
殺人を止めるために打倒主催者を掲げるこのチームにとって、この理論に従うことは本末転倒だった。
「零の言うとおりだ……このゲームは武器の奪い合いでもある……。
武器は手に入らない……誰かから奪わないかぎり……!」
カイジが苦しげにつぶやく。
「でも……作れないか?……自分たちで……!」
え?と零が顔を上げる。
「ガソリンと肥料を混ぜれば、爆弾になるって聞いたことがある……!
それくらいの材料なら、この島を探せばどこかに……!」
0044出動6
垢版 |
2013/11/03(日) 21:37:34.20ID:???
興奮気味に話すカイジに対し、零の顔は暗い。
「いえ……それはできません。
現在市販されてる肥料は安全性が高められてるんです……そういう使い方を避けるために……。」
「……そうなのか。やっぱり物知りだな、お前……」
零は、風船が萎むように肩を落としたカイジに、申し訳なさそうに告げる。
武器を作るという発想は、この閉塞状況を抜け出す突破口となる道に思えた。しかしその可能性が薄いとわかり、失意が広がっていく。
四人は出口の見えない迷路の中へ陥った。

しかしカイジの脳裏に、ある考えが閃いた。
「有賀はどうだ……?」
「有賀?」
唐突に飛び出した殺人鬼の名前に、零、涯、沢田の三人は首を傾げた。
「あいつは、ゲーム開始直後から人を殺していた……。
俺達があいつと出会ったときには、すでに6人は殺していた計算……チップを6800万円分持っていたから……。
でも、あいつの武器はナイフとマシンガンのみ……それとヘルメット……。
割と身軽だった……!6人も殺していたにしては……!
つまり、死体から奪った荷物をどこかに隠していた可能性大……!
もしかしたら、使えそうな武器があるかも……!」
「確かに……!あっ……森田さんのメモ……!」
そう叫ぶと零は森田から受け取ったメモを掴み、勢いよくめくり始めた。
「あった……D‐5別荘!
有賀はここに一度立ち寄っている……!
あります!ここにいらない荷物を隠していた可能性は十分に……!」
零は地図とメモを交互に見比べ、興奮気味に叫んだ。
「それじゃあ……もしかしたら、そこには……!」
涯が息をのむ。零がうなずく。
「ああ……その中に武器があるかはわからないけど……物資を手に入れることさえ困難な状況……!
そこに行く価値はある……!」
風穴……!カイジの閃きが、この閉鎖空間に風穴を開けた。
反撃の手がかりが見つかるかもしれない……一同は、そこから吹き抜けた一陣の風が、この停滞した空気を吹き飛ばしていくのを感じた。
0045出動7
垢版 |
2013/11/03(日) 21:39:05.42ID:???
「……決まりだな。行くんだろ、そこに……」
沢田のこの言葉がきっかけとなり、四人はそれぞれ荷物をまとめ始めた。
「しかし零よ。あと一つの武器はどうすんだ……」
荷物をまとめながら、沢田が零に尋ねる。
零は一瞬気まずそうな表情を浮かべた。
聞かれたくないことを聞かれてしまったという顔だ。

あと一つの武器……それは、首輪を無力化する方法である。
首輪を無力化するために必要な情報はいくつかあるだろうが、その中でも特に重要な情報は、電池と電波に関する情報だと零は考えていた。
この首輪を動かしている電池の情報がわかれば、どうにかして電池切れにさせ、首輪を使い物にならなくしてしまうことができるかもしれない。
また、電波の周波数や電波の届く範囲が判明すれば、首輪が爆発される恐怖から逃れることも夢ではなくなる。
つまり、首輪の電池や電波の情報は、参加者にとってのどから手が出るほどの垂涎の情報なのだ。
これらの情報を手に入れ首輪を無力化したいと思う一方で、零は、それは無理に等しいと感じていた。
首輪はこのゲームを成立させる最重要の道具であるため、参加者の手で無力化されることがあってはならないからだ。
そのため主催者は、この島に首輪を無力化させるための手がかりを何一つ残してはいないだろう。
だから、現在島にある情報や物資だけでは、首輪を無力化することは出来ないのだ。
首輪を無力化するためには、主催者しか知りえない首輪の情報を、主催者から直接聞きだすしかない。
もちろん、首輪の情報などという重大な情報について主催者が口を割るとは考えられない。
ところが零にはある考えがあった。

零はしばし考えた後、メモに何か走り書きをすると、沢田に読むよう促した。
『情報が少なすぎるので、現段階での首輪の無力化はおそらく不可能です。
首輪を無力化する方法を探すには、まず情報……それも主催者しか知らないような情報が必要です。
なので、首輪の情報をかけて主催者側にギャンブルを仕掛けようと思っています。
きっとそのギャンブルでかけるものは命……でも、勝ちさえすれば手に入るものは大きい』
0046出動8
垢版 |
2013/11/03(日) 21:40:27.60ID:???
零のメモを呼んだ沢田は、思わず息をのんだ。
首輪の情報をかけて主催者にギャンブルをしかける、なんてことは思いもしなかったのだ。
確かに、森田という前例がある以上、主催者とのギャンブルが出来る可能性はある。
しかし森田の場合、ギャンブルを持ちかけたのは主催者側だった。
(参加者から持ちかけるとは、あまりに大胆…… )
主催者が交渉に乗るだろうか?沢田の心に懸念がよぎる。
だが、それだけではない。
(仮にギャンブルで勝ったとして……首輪の情報……そんな第一級の情報を明け渡すだろうか?主催者連中が……)
沢田は零の顔を見た。
額に汗を浮かべつつ、険しい顔をしているものの、わずかに紅潮している。
冷静を装ってはいるが、やっと見つけた反撃の糸口に、この少年が内心興奮していることが伝わってきた。
(零は信用しているんだろうな……「ギャンブルルームでの契約は絶対」「ギャンブルルームでの暴力の禁止」……あの文言を……)
沢田の予想は的中していた。
ギャンブルルームの中で交わされた約束は、主催者であっても守らなければならないはず。
そこが隙だと、零は考えていた。
あのルールがある以上、もしギャンブルで零が勝ったとしても、暴力で勝負をなかったことにするなどできない。
こちらが勝ったら、契約通り情報を明け渡さなければならないはずだ。
たとえギャンブルでやり取りするのが命であろうと、ギャンブルで負けさえしなければ、命を脅かされることはないだろう。
これが零の思惑だった。

しかし沢田の考えは違う。
ギャンブルルームのルールは絶対であるという考えには、沢田も概ね賛成である。
主催者がルールを無視した身勝手な行動をすることは、ゲームの興を削ぐことになってしまうからだ。ルールの遵守は徹底しているはずだ。
森田との契約のように、直接主催者には影響の無い取り決めならば、主催者もルールに従うだろう。
(しかし、こと首輪に関する情報となると、話は別だ……)
0047出動9
垢版 |
2013/11/03(日) 21:41:49.32ID:???
首輪の情報が参加者に漏れれば、主催者にとって命取りになる可能性がある。
なぜなら、主催者の絶対的優位が揺らぐ可能性を生むからである。
というのも、首輪を好きなときに爆破できるということが生む優位――参加者の生殺与奪を握っているという事実――は、主催者が絶対に手放したくない地位である。
たとえわずかな情報であっても、もしかしたらそれをヒントに首輪を無力化されるかもしれないという恐れを主催者側が抱いたら、髪の毛一本ほどの情報も参加者に漏らすはずがない。
だから、首輪に関する情報、いわば猛獣の手綱を、主催者が素直に手放すだろうかという疑念があった。
手綱から解き放たれたが最後、猛獣が飼い主に牙を剥くのは目に見えているからだ。
それゆえ、たとえ絶対のルールの下であっても、無理矢理ねじ曲げて反古にしてしまう可能性は十分ある。そもそもギャンブルに乗らない可能性も高い。
仮にギャンブルが成立して勝ったところで、有耶無耶にされるか殺されるのがオチだ。
ルールなんてまるで無視するだろう。
沢田は零ほど素直にはこのルールを受け止めていなかった。

だが、万が一、主催者側と首輪の情報をかけたギャンブルが成立し、首尾よく情報を手に入れることができたら、それはまさに命と等しい貴重な手がかりとなる。
何に代えてでも守り抜くべき情報である。それだけの価値があるのだ。
「本気か……?零……死ぬかもしれないんだぞ……」
沢田はそっと零に問いかけた。
「はい……覚悟の上です」
静かに、しかし力強く、噛み締めるように零が言った。
だが沢田は、彼の眼に死への恐怖が浮かんでいるのを見逃さなかった。
零は理解しているのだ。これから彼が進もうとしている道が、どれほど危険な道なのか。そして、その先で死神が手招きしていることも。
いくら彼が死と隣り合わせのギャンブルを潜り抜けたことがあるとはいえ、やはり死とは怖いものだ。
そして、主催者に文字通り命がけのギャンブルをしかけるということは、死の瞬間に自ら踏み出していくようなものなのだ。
0048出動10
垢版 |
2013/11/03(日) 21:42:22.86ID:???
零は、沢田が尋ねるまで、首輪の無力化について話そうとしなかったのは、
あわよくば、自分ひとりだけで主催者とのギャンブルに臨もうと考えていたからだろう。
人並み以上に切れるだけでなく、強い責任感と深い優しさを持っているこの少年は、仲間を命がけの大勝負に巻き込みたくないのだと察した。

(だが零よ……それじゃ俺の立つ瀬がねえぜ……)
零の決意も固いが、沢田の決意も固かった。
「零、俺も行く」
「沢田さん……でも……」
案の定、零は沢田の申し出にうろたえた。しかしそれを無視して沢田は続ける。
「お前をみすみす死なせちまったら、あの世で赤松に会わせる顔がねえんだよ……」
独り言のようにささやかれた沢田の言葉には、有無を言わせない迫力があった。
零は何か言いたそうに唇を噛んだが、静かにうなずいた。
それを見て沢田は零にメモを返すと、荷物をまとめ終えたカイジ、涯、零の三人の顔を見て言った。

「それじゃあ行くか。二手に別れよう……」
沢田はまず、カイジと涯に顔を向けた。

「カイジ、涯。二人はD‐5の別荘を目指せ。
有賀が隠した荷物がまだ残ってるかもしれねえ……もし途中の道で『何か』見つけたらそれも調べるんだ」
「ああ」
沢田は含みを持たせて「何か」と告げた。カイジと涯は、それが地下への入り口だということを察し、頷いた。
そして沢田は零をちらりと見て言った。
「俺と零は『別ルート』で武器を探す。
集合は12時間後にD‐1だ。
D‐1が解除されたかどうかくらいなら、黒服に聞けば教えてもらえるだろう……」
カイジと涯が、零が命がけのギャンブルを仕掛けようとしていることを知れば、きっと止めるか参加したいと言うだろう。
それを避けたいという零の気持ちは痛いほどわかっている。
だから沢田は、沢田と零の目的を「別ルート」としかカイジと涯には伝えなかった。
電波の無力化を探すことだと捉えることを見こしての表現だ。
0049出動11
垢版 |
2013/11/03(日) 21:43:02.29ID:???
続いて、荷物を分けることにした。
3000万円ある所持金は、一チーム1500万円ずつになるよう、沢田とカイジが800万円、零と涯が700万円ずつ持つことにした。
誰がどの武器を持つかには少し悩んだが、足を怪我しているカイジが杖代わりにもなるバットを、沢田が使い慣れた日本刀と同じ要領で扱える警棒を、
零がダガーナイフを、涯が果物ナイフを持つことになった(涯は、拳で戦うと言って武器を受け取りたがらなかったが、無理矢理押しつけた)。
手榴弾は全員2発ずつ持つことにした。

「それと緊急集合の合図も決めておこう……そうだな、これを使え」
「ペットボトル?」
そういって沢田が見せたものは、支給品の水が入ったペットボトルだった。
「虫眼鏡を使って火を起こしたことはないか?」
「ああ……あったな、そんなの。昔理科の実験で……。
こう、光を集めて……」
カイジが虫眼鏡をかざすような仕草をしてみせる。
「そうだ。それと同じ要領で、こいつでも火が起こせる……少々時間がかかるがな」
どうやら、水の入ったペットボトルでも、虫眼鏡で火を起こすのと同じように火を起こすことができるらしい。
「もし何か大変なことが起きた場合、これを使って二つたき火を作れ。
そしてすぐにその場から離れろ……それを狙って殺しに来る輩がいるかもしれねえからな。
そしてD‐1に向かうんだ。二つ煙が上がったら、緊急集合の合図ってわけだ」
カイジ、零、涯はうなずいた。

「これから分かれて探索することになるが、何も見つからなくたって構いやしねえ。
いいか……無茶はするなよ」
沢田が低い声で告げる。カイジと涯が真剣な表情でその言葉を聞いている横で、零はこの言葉は自分にも向けられていることに気づき、胸が痛んだ。

「生きるんだぞ……お前ら……」

沢田はそう告げると、民家の扉に手をかけた。
そして、血生臭い地獄に転がる一片の希望のために、扉を開いた。
0050出動12
垢版 |
2013/11/03(日) 21:43:47.60ID:???
【E-3/民家/朝】


【沢田】
[状態]:健康
[道具]:高圧電流機能付き警棒 手榴弾×2 不明支給品0〜3(確認済み) 支給品一式×2
[所持金]:800万円
[思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 主催者に対して激しい怒り 赤松の意志を受け継ぐ 零を守る
※主催者が首輪の情報をかけたギャンブルに乗る可能性は低いと考えています。もし乗ったとしても、約束が反故にされるか殺されると考えています。
※12時間後にD‐1でカイジ、涯と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。
0051出動13
垢版 |
2013/11/03(日) 21:45:30.59ID:???
【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません 
手榴弾×2 麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 参加者名簿 森田の手帳
不明支給品 0〜1 支給品一式
島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内) 
カイジと作った参加者リスト(『田中沙織にとって敵か否か』)
[所持金]:700万円
[思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 主催者と首輪の情報をかけたギャンブルをする
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D‐1灯台のこと、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
※カイジから参加者名簿、パンフレットを預かっています。目を通すまで借りていられます。
※森田から手帳をもらいました。手帳には森田がフロッピーを壊すまで、一時間ごとの全ての参加者の行動が数行で記されています。
※田中沙織に関する情報を交換し、カイジと『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※D‐1の灯台には、在全がゲームを観戦している可能性がわずかながらあるものの、おそらく黒服が首輪の電波の管理をしているだろうと考えています。
※首輪の情報をかけたギャンブルで主催者に勝った場合、ギャンブルルームのルールがある以上、
暴力を振るわれたり約束を反故にされたりすることはないだろうと考えています。
※12時間後にD‐1でカイジ、涯と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。
0052出動14
垢版 |
2013/11/03(日) 21:48:39.33ID:???
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所、応急処置済) 鳩尾にごく軽い打撲
[道具]:鉄バット 手榴弾×2 地図 小型ラジカセ 支給品一式
[所持金]:800万円
[思考]:田中沙織を気にかける 仲間を集め、このギャンブルを潰す
 一条、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
平井銀二の仲間になるかどうか考える 下水道(地下道)を探す D‐5別荘で武器を手に入れる
※アカギのメモから、主催者はD‐4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※今日の夕方にE-4にて待つ、と平井銀二に言われましたが、合流するかどうか悩んでいます。
※田中沙織に関する情報を交換し、零と『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※参加者名簿、パンフレットは一時的に零に預けてあります。
※零と沢田が主催者にギャンブルを持ちかけようと考えていることを知りません。電波無力化の手段を探すと考えています。
※12時間後にD‐1で零、沢田と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。


【工藤涯】
[状態]:健康 右腕と腹部に刺し傷 左頬、手、他に掠り傷 両腕に打撲、右手の平にやや深い擦り傷 (傷は全て応急処置済み)
[道具]:果物ナイフ 手榴弾×2 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 支給品一式×3
[所持金]:700万円
[思考]:田中沙織を気にかける 零と共に対主催として戦う 下水道(地下道)を探す D‐5別荘で武器を手に入れる
※零と沢田が主催者にギャンブルを持ちかけようと考えていることを知りません。電波無力化の手段を探すと考えています。
※12時間後にD‐1で零、沢田と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。


―――
以上です。
リレーSS初参加のため、読みにくい点などあったかと思います。
ご指摘いただければ今後の参考にいたします。
完結できるといいですね。
0053 ◆h.axs11sfY
垢版 |
2013/11/03(日) 22:21:24.50ID:???
まとめwikiへの移動方法がわからないので、
申し訳ありませんが、どなたか編集してくださると助かります…。
0054マロン名無しさん
垢版 |
2013/11/04(月) 00:35:53.95ID:???
投下乙です!
リレー形式のSS初投稿とは思えない完成度の高さでした。
キャラクターの言動も自然で読みやすかったですし、特に矛盾もないと思います。

>そして、血生臭い地獄に転がる一片の希望のために、扉を開いた。

この最後の一文が格好いい。痺れました。

まとめwikiの件ですが、今まで数日後〜一週間後にまとめられる事が多かったので
(スレで指摘があった場合、まとめられる前に書き手氏が訂正レスをつけることもあったため)
もう少し間を置いてからにしますね。
あまりwikiに詳しいわけではないのですが編集した事はありますので…

初投稿お疲れ様でした。完結出来れば良いですね。
0055 ◆uBMOCQkEHY
垢版 |
2013/11/04(月) 14:44:32.32ID:rj7Ztxeq
投下乙です。
丁寧な文章とそれぞれの考えとその描写、とても始めてとは
思えませんでした。
財全の思惑通りになってしまいましたが、
零たちも対策を打ち…
先が気になります。
まとめは今週中に私の方で行います。
私も次の作品頑張ります。
0056 ◆h.axs11sfY
垢版 |
2013/11/04(月) 21:28:04.96ID:???
>>54
まとめwikiの件について、丁寧な返信ありがとうございます。
編集もしていただけるようで、助かります。
温かい感想もありがとうございます。
ロワの続きですが、また何か思いついたら書きたいと思っています。
その際には、またどうぞよろしくお願いします。
0057 ◆h.axs11sfY
垢版 |
2013/11/04(月) 21:30:58.80ID:???
>>55
名物書き手の方に感想を頂けて恐縮です。
まとめもしていただけるということで、ありがたいです。
次回作楽しみにしています!
0058 ◆h.axs11sfY
垢版 |
2013/11/06(水) 22:16:07.47ID:???
まとめwikiへの編集ありがとうございます。
申し訳ないのですが、本文と状態表に修正箇所がありましたので、修正させていただきます。

>>49
修正前
続いて、荷物を分けることにした。
3000万円ある所持金は、一チーム1500万円ずつになるよう、沢田とカイジが800万円、零と涯が700万円ずつ持つことにした。
誰がどの武器を持つかには少し悩んだが、足を怪我しているカイジが杖代わりにもなるバットを、沢田が使い慣れた日本刀と同じ要領で扱える警棒を、
零がダガーナイフを、涯が果物ナイフを持つことになった(涯は、拳で戦うと言って武器を受け取りたがらなかったが、無理矢理押しつけた)。
手榴弾は全員2発ずつ持つことにした。

修正後
続いて、荷物を分けることにした。
3000万円ある所持金は、一チーム1500万円ずつになるよう、沢田とカイジが800万円、零と涯が700万円ずつ持つことにした。
誰がどの武器を持つかには少し悩んだが、足を怪我しているカイジが杖代わりにもなるバットを、沢田が使い慣れた日本刀と同じ要領で扱える警棒を、
零がダガーナイフを、涯が果物ナイフを持つことになった(涯は、拳で戦うと言って武器を受け取りたがらなかったが、無理矢理押しつけた)。
手榴弾は全員2発ずつ持つことにした。
零は、借りていた参加者名簿とパンフレットをカイジに返した。

※最後の一文を追加しています。
それに伴い状態表も修正いたします。
0059 ◆h.axs11sfY
垢版 |
2013/11/06(水) 22:18:11.21ID:???
修正2

>>51
【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません 
手榴弾×2 麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 参加者名簿 森田の手帳
不明支給品 0〜1 支給品一式
島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内) 
カイジと作った参加者リスト(『田中沙織にとって敵か否か』)
[所持金]:700万円
[思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 主催者と首輪の情報をかけたギャンブルをする
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D‐1灯台のこと、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
※カイジの持っていた参加者名簿、パンフレットに目を通しました。
※森田から手帳をもらいました。手帳には森田がフロッピーを壊すまで、一時間ごとの全ての参加者の行動が数行で記されています。
※田中沙織に関する情報を交換し、カイジと『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※D‐1の灯台には、在全がゲームを観戦している可能性がわずかながらあるものの、おそらく黒服が首輪の電波の管理をしているだろうと考えています。
※首輪の情報をかけたギャンブルで主催者に勝った場合、ギャンブルルームのルールがある以上、
暴力を振るわれたり約束を反故にされたりすることはないだろうと考えています。
※12時間後にD‐1でカイジ、涯と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。


2つ目の※の内容を書き換えました。
0060 ◆h.axs11sfY
垢版 |
2013/11/06(水) 22:20:06.64ID:???
修正3

>>52
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所、応急処置済) 鳩尾にごく軽い打撲
[道具]:鉄バット 手榴弾×2 地図 小型ラジカセ 支給品一式 参加者名簿 パンフレット
[所持金]:800万円
[思考]:田中沙織を気にかける 仲間を集め、このギャンブルを潰す
 一条、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
平井銀二の仲間になるかどうか考える 下水道(地下道)を探す D‐5別荘で武器を手に入れる
※アカギのメモから、主催者はD‐4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※今日の夕方にE-4にて待つ、と平井銀二に言われましたが、合流するかどうか悩んでいます。
※田中沙織に関する情報を交換し、零と『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※零と沢田が主催者にギャンブルを持ちかけようと考えていることを知りません。電波無力化の手段を探すと考えています。
※12時間後にD‐1で零、沢田と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。


[道具]に参加者名簿とパンフレットを追加し、5つ目の※を削除しました。
0061 ◆h.axs11sfY
垢版 |
2013/11/06(水) 22:22:56.04ID:???
たびたびすみません。>>59の修正内容が不十分でしたので、再び修正します。
こちらが完全版です。

修正4
【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません 
手榴弾×2 麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳  森田の手帳
不明支給品 0〜1 支給品一式
カイジと作った参加者リスト(『田中沙織にとって敵か否か』)
[所持金]:700万円
[思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 主催者と首輪の情報をかけたギャンブルをする
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D‐1灯台のこと、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
※カイジの持っていた参加者名簿、パンフレットに目を通しました。
※森田から手帳をもらいました。手帳には森田がフロッピーを壊すまで、一時間ごとの全ての参加者の行動が数行で記されています。
※田中沙織に関する情報を交換し、カイジと『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※D‐1の灯台には、在全がゲームを観戦している可能性がわずかながらあるものの、おそらく黒服が首輪の電波の管理をしているだろうと考えています。
※首輪の情報をかけたギャンブルで主催者に勝った場合、ギャンブルルームのルールがある以上、
暴力を振るわれたり約束を反故にされたりすることはないだろうと考えています。
※12時間後にD‐1でカイジ、涯と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。


[道具]から参加者名簿とパンフレットを削除しました。
何度も修正をして申し訳ありません。
お手数ですが、まとめwikiの修正もしていただけると助かります…。
0062マロン名無しさん
垢版 |
2013/11/07(木) 15:47:39.85ID:???
まとめた者ではないですが、文章だけの修正でしたら
1.「出勤」のページを開く
2.左上のタブ「編集」から「ページ編集」をクリック
3.該当箇所の文章を修正(文章部分以外はさわらないように気をつける)
4.左上の空欄に、画像で出ている文字列(半角英数)を入力し「ページ保存」をクリック

これで編集できますよ。
後から修正したい箇所を見つけたときに自分で編集できるので、覚えてもらった方がきっと捗ると思います
0063 ◆h.axs11sfY
垢版 |
2013/11/07(木) 22:55:42.63ID:???
>>62
わかりやすい説明ありがとうございます。
そんなに手軽に編集できるとは、勉強不足でした。
おかげさまで修正をすることができました。
これを機にまとめwikiの方も勉強していきたいと思います
0064 ◆uBMOCQkEHY
垢版 |
2013/11/16(土) 07:07:56.72ID:0sq0XsGB
おはようございます。
作品が完成しましたので、これから投下します。
0065空回り 1
垢版 |
2013/11/16(土) 07:10:46.19ID:???
「ああ……どうしよう……」
しづかは輝く海を眺めながら、心の内を発露する。
順当な判断ならば、どこかでノートパソコンの充電器を探し出し、最新の情報を得るべきである。
しかし、しづかはそれよりも優先すべきことを知っていた。
「眠い……」
しづかは手の甲で目を擦る。
このゲームが始まってから一睡もしていなかった。
どこかに留まろうとするたびに戦闘に巻き込まれ、逃げて隠れてを繰り返し――気付いたら夜明けを迎えていた。
しづかの体力は当の昔にピークを越えていた。
足に関してはもはや感覚がない。
それでも、ここまで動いていられたのは誰かに殺されるかもしれないという恐怖感があったが故であった。
しかし、この場所ではその恐怖を感じる必要はない。
バッテリーが切れる前のパソコンの情報が正しければ、現在、このB−7エリアには参加者は一人もいなかった。
沙織の墓があるということは少し前に黒沢がいたようであるが、丁寧に埋葬した墓に再び戻ってくることは考えにくい。
「100%じゃないけど……安全だな……」
しづかはここで仮眠を取ることに決めた。
欲を言えば、墓の近くなんかではなく、ベッドのある場所で眠りたいが、その場所を探して歩けば、誰かに出くわす可能性がある。
それに、仮に誰かが近づいたとしても、墓の存在を薄気味悪がって、しづかを見つける前に退散するに違いない。
「こんな何もない辺鄙な場所に来たところで……メリットなんて何もありゃしないさ……」
しづかは辺りをきょろきょろ見渡す。
少し先に林と茂みがある。
しづかは茂みの中に身を隠すと横になった。
横になった途端、身体と思考が溶けていくような虚脱感が広がっていく。
茂みの葉がしづかの肌をちくちくとつつくが、疲労がたまっていたしづかからすれば、そのむず痒さも羽毛布団の肌触りように感じられる。
「誰も…来ないでくれ……よ……」
しづかはそう願いながら、眠りの底に沈んでいった。
その願いは聞き届けられないとも知らずに――。
0066空回り 2
垢版 |
2013/11/16(土) 07:26:18.68ID:???
話は少し前に戻る。
しづかがこの場所へ来る前、黒沢と仲根は二つの墓の前で手を合わせていた。
神妙な面持ちの黒沢に対して、仲根は目を半開きにして黒沢の横顔をチラチラと覗き見る。
墓の主は坂崎美心と田中沙織。
黒沢の説明によると、坂崎美心は最初に黒沢と同行していた女性らしい。
黒沢が美心の墓の隣に沙織も埋葬したいと話した時は、仲根はその場所の遠さから難色を示した。
しかし、沙織を殺害したのは自分自身である手前、主張を押し通すこともできなかった。
黒沢の意志を受け入れた一番の理由はそれであるが、二人を弔うことで、黒沢も気持ちを切り替えることができるという狙いも少なからずあった。
黒沢は沙織が死んでから憔悴した表情となり、言葉も減ってしまった。
しかし、埋葬という儀式で沙織の死は終わったことなのだと割り切ってくれれば、ゲームの棄権の手続きを行うことができるである。
そう考えた仲根は率先して埋葬を手伝った。
美心と沙織の墓に墓標となる枝を立てることを提案したのも仲根だった。
この崖に向かう途中のトイレで思い付いた仲根は枝を探し、黒沢に渡したのだ。
枝は左右に均等の長さで伸びており、十字架を連想させた。
それを見た黒沢は“これで少しはお墓らしくなるかな……”と微笑した。
この瞬間、仲根は黒沢の感情の変化に手応えを感じた。
沙織の死の悲しみから抜け出し始めている、と。
その後も、仲根は殊勝な態度と表情で、沙織の埋葬を手伝った。
しかし、当然ながら弔うつもりは毛頭なく、この儀式が早く終わることだけを願っていた。
黒沢はゆっくり顔をあげ、手を降ろした。
仲根はさっそく黒沢に声をかけた。
「なぁ……兄さん……棄権の件なんだけどさ……」
「二人を救えなかった……」
「えっ……」
黒沢から出てきた言葉に仲根は戸惑う。
黒沢の表情は埋葬前以上に疲労に満ちていた。
黒沢は糸が切れてしまったかのようにその場に座り込んでしまった。
「あの……兄さん……」
仲根は黒沢に声をかけようとする。
しかし、黒沢は遠くに視線を置いたまま微動だにしない。
0067空回り 3
垢版 |
2013/11/16(土) 07:34:14.08ID:???
「え……その……」
自分の存在が黒沢の中から消されているのではないかという恐怖が仲根の精神を浸食していく。
どうすれば自分の言葉に耳を傾けてくれるのか。
自分の存在を認知してくれるのか。
仲根が頭を抱えていた時だった。
「仲根……オレはな……」
黒沢は死に際の老人のような半開きの口を動かし始めた。
「初めは何が何だか分からないまま、美心さんとこの島を彷徨っていた……。
次第に彼女を守りたいって気持ちが芽生え始めた……。
その直後に、美心さんは殺された……」
黒沢は沙織の墓に掛けられている首輪に触れた。
「その後出会ったのが、沙織さんだ……。
オレは彼女とすごして、こんなゲームを考えた主催者達が全部悪いって気付いた……。
彼女をこんな目に合わせた奴らを倒したい、そして、美心さんの代わりに彼女を守りたいと思った……けど……」
黒沢の手は力なく地面についた。
「兄さん……」
仲根は申し訳なさそうに俯いた。
今、黒沢の心の中では沙織を失ってしまった悲しみが重くのしかかり、黒沢の心を潰そうとしている。
(オレ……兄さんの大切なものを奪ってしまった……)
黒沢から沙織を奪ってしまった行為は、仲根から黒沢を奪ってしまったことと同等の意味を持つ。
今更ながら、それを思い知った。
(オレが兄さんの立場なら……)
やるべきことは一つである。
仲根は黒沢の手を取り、自分のナイフを握らせた。
「兄さん……オレを殺してくれっ!!」
仲根は涙で咽び泣きながら、黒沢に訴えた。
もし、黒沢が誰かに殺されれば、仲根は相手にどんな理由があろうとも、地の果てまで追いかけ復讐を遂げるであろう。
ならば、黒沢にも復讐を遂げさせるべきだ。
仲根は棄権会場への道筋を佐原の言葉で知るまでは、黒沢を優勝させるために他者を殺害し、最後は自決すると決意していた。
今更、自分の命は惜しくない。
これが、仲根の導いた結論であった。
0068空回り 4
垢版 |
2013/11/16(土) 07:40:03.42ID:???
「な……何を言っているんだっ!」
抜け殻のようになってしまった黒沢も、さすがにこの申し出は無視できるはずもない。
思わず仲根の手を払いのけ、その身体を突き飛ばした。
「オレは誰にも死んでほしくないんだっ!!!」
熱い涙がつき走るように黒沢の目から流れ出た。
呆然とする仲根の肩を掴み、身を震わせて嗚咽する。
「オレはお前を恨んでいないっ……!死んでほしくないっ……!
ただ、考え方を改めてほしいっ……!
これ以上、命を奪うのはやめてくれっ……!自分のものも含めてだっ……!!」
「兄さん……でも、オレっ……」
黒沢の心からの懇願に居た堪れなくなった仲根は黒沢から顔を背き、幼子のようにしゃくり泣く。
「殺さなくちゃ……助からないんだっ……!
それ以外に助かる方法なんてないんだっ……!」
「いや、助かる方法はあるっ!主催者をた……」
――倒せば、皆、助かるんだ。
しかし、黒沢は全てを言い終わる前に口籠ってしまった。
主催者はバトルロワイアルという殺し合いをいとも容易く開催できる組織である。
しかも、その殺し合いに見合う武器を参加者に支給している。
参加者に支給できるのであれば、主催者自身も何らかの武器を所持していてもおかしくはない。
もし、反撃の狼煙をあげれば、向こうからそれ相応の制裁――銃器を用いた反撃、もしくは首輪爆破が待っているのは目に見えている。
妻子のいない自分は、最悪どうなったとしても構わないが、未来がある仲根を死地に赴かせるわけにはいかない。
何より、仲根の手をこれ以上汚させたくなかった。
黒沢は仲根の手にチップが入った袋を握らせた。
「これは沙織さんが持っていた1億円分のチップだ……お前は棄権しろ…!」
「兄さん……そんな……」
仲根はわなわなと唇を震わせながら、視線を手の中にある袋に落とす。
0070空回り 5
垢版 |
2013/11/16(土) 07:46:15.97ID:???
自分は助かるつもりはない。
黒沢の明確すぎる意志表示。
この世には自分の可愛さ故に、慣れ合いながら保身をはかろうとする大人達が大勢いる。
それに対して、黒沢は常に捨て身で現実と戦い、弱者がいれば、身を呈して守る。
自分の命を失うことになったとしても――。
まさに現在に蘇った侍。
仲根が惚れ込んだ男の生き様なのだ。
仲根はそれを噛みしめながら、袋を握り締める。
「兄さん……けどさ……」
黒沢はこのゲームで愛する女性を失い、金は全て他人に差し出した。
今や残されているのは命のみである。
仲根は黒沢と合流する前、参加者同士の乱戦の音を確認していた。
黒沢は残念ながら殺傷能力が高い武器を持ち合わせてはいない。
命を狙われれば、一方的に仕留められてしまうのは目に見えていた。
黒沢の意志を尊重すれば、その先に待ちかまえているのは“死”。
仲根は改めて決意を固める。
どこの誰よりも貴い意志を持つ男を、この世界から消してはいけないと。
たとえ、それが黒沢の意志を捻じ曲げる行為だとしても――。
「やっぱり…兄さんが棄権するべきだ……」
仲根はチップの袋を黒沢の手に返した。
「仲根……」
黒沢は意気消沈し、小さなため息をつく。
仲根はこれまで黒沢の棄権費用を稼ぐため、参加者達を襲ってきた。
方法は褒められたものではないが、それでも黒沢の身を案じての行為に変わりはない。
黒沢の生命を最優先に考えていた仲根が、いくら黒沢からの依願だといったところで、簡単に棄権手続に応じるはずがなかった。
ある程度予期していたこととはいえ、やはり失望は拭えなかった。
0071空回り 6
垢版 |
2013/11/16(土) 07:50:26.11ID:???
(あー……どうやって仲根を説得されりゃあいいんだ……)
黒沢は頭を掻きながら、逡巡する。
仲根から嫌われてしまうことを承知で、反論を力で押し込むという方法もある。
しかし、黒沢の先の不用意な発言によって、仲根の精神のバランスは大変不安定なものとなっている。
どこが仲根のデリケートな部分なのか。
それを選択した時、今の仲根がどう出るのか、まったく予想がつかなかった。
(オレ……苦手なんだよなぁ……こういうの……)
他人の機微に疎い黒沢にとって、仲根の心の禁忌を避けながら説得するというのは、目印のない地雷原で地雷を踏まずに進むことと同義であった。
(やっぱり、諭すように……だよな……。でも、どんな出だしをすりゃあいいっ……?)
黒沢は疲れた頭を全力で動かし、言葉を選ぶ。
しかし、その言葉が口より出るより先に次の一手を打ったのは仲根であった。
「兄さん……分かったよ……」
仲根は沙織のディバックを漁り始めると、ボーガンと矢、ヘルメットを取り出した。
ボーガンと矢を自分のディバックへ突っ込み、ヘルメットは頭に被る。
仲根は地面に置いていた改造木刀を担ぎ、黒沢の方を振り返った。
「兄さん……ちょっと“出かけてくる”っ……!」
そう言い残すと、仲根は突然、駆け出してしまった。
黒沢は仲根の背中と沙織のディバックを見比べる。
「えっ……えっ……ちょっと………………あ〜〜っ!!!」
黒沢はようやく勘付いた。
「仲根っ……あいつ、他の参加者を殺して、自分の棄権費用を稼ぐ気かっ!!」
一人分の棄権費用を譲り合うくらいなら、もう一人分の棄権費用を手に入れて二人で脱出すればいい。
標的を仕留めるため、沙織のディバックからボーガンと矢を持ち出した。
「オレは……オレは……そんなの望んじゃいねぇっ!!!」
仲根に自分の信念を理解してもらえないもどかしさを抱えたまま、黒沢は走り出した。
0073空回り 7
垢版 |
2013/11/16(土) 07:58:44.33ID:???
黒沢が自分の後を追い始めたことを確認すると、仲根は満足げに唇の端を吊り上げた。
「兄さん……オレの後を追いかけてくれよ……“ホテル”まで…!」
仲根は走りながら、視線を南西の方角へ――D−4のホテルの方向へ向けた。黒沢は何があろうと棄権しない。
ならば、黒沢を棄権会場までおびき出して、無理やり棄権させればいい。
あえて、沙織のディバックをまるごとではなく、武器のみを出して駆けだしたのは体力の消耗を減らす目的もあるが、仲根がほかの参加者を襲おうしていると黒沢に明確に示すためであった。
その思惑通り、黒沢は仲根を止めようと必死に追いかけ始めた。
このまま二人で棄権会場までたどり着けば、1億円を持っている黒沢が棄権対象と見なされ、棄権させることができる。
(うまくいけば、兄さんを外へ逃がすことができる……けど……)
棄権会場は本当にD−4ホテルの地下で間違いないのだろうか。
ソースは佐原という参加者が白状した証言のみ。確実なものとは言い難い。
しかし、黒沢を助かる可能性がある以上、この情報に縋らざるを得なかった。
「けど……もうここまで来たら、後には引けねぇっ……!」
仲根の視線は、道沿いに佇む公衆トイレを捉えた。
「あそこにあるマンホールからならっ……!」
マンホールを見つけた時のやり取りが、仲根の脳裏に蘇る。
崖へ向かう途中、仲根と黒沢はトイレに立ち寄っていた。
仲根は黒沢より早々にトイレを済ませると、外に出た。
トイレは当然ながら、下水道へと繋がっている。
その近辺ならマンホールがあるに違いないと踏んだ仲根は、黒沢に気付かれないようにマンホールを探し始めた。
仲根の読み通り、マンホールはトイレの裏から発見された。
喜び勇んだ仲根がマンホールの取っ手を掴み、マンホールの蓋を持ちあげた瞬間だった。
“仲根、どこにいるんだー!”と、黒沢の声がトイレの表からこだました。
仲根は顔を強張らせ、動きを止めた。
0074空回り 8
垢版 |
2013/11/16(土) 08:11:59.18ID:???
埋葬が済んでいないにもかかわらず、棄権会場へのルートを確保しようとしていた。
黒沢の思惑に反する行動をしていることに、ばつの悪さを感じた仲根は、マンホールの蓋を少しずらして穴の上に置くと、黒沢の前に飛びだした。
黒沢と合流した仲根は咄嗟に、美心と沙織の墓標を探していたと説明。
墓標らしい体裁を繕えそうな枝を適当に見つけると、すぐにその場から離れた。
「そうだ……あと、もう少しだっ……!!」
仲根は再び、公衆トイレを見据えると、足に力を籠めた。
仲根の身体が更に加速する。
背筋は矢をつがえた弓のように反り、両腕と両足は垂直を維持したまま、力強く振り続ける。
それはかつて黒沢を追いかけた時に見せた、正しい走り方っ……!
今の仲根は人の形をした駿馬そのものであった。
仲根はマンホールまでたどり着くと、地下へ降りる際に邪魔になるであろう改造木刀の柄をディバックに差し込み、代わりにコンパスとライターを出した。
蓋と穴の隙間から吐瀉物を彷彿とさせる下水道独特の饐えた空気が漂ってくる。
何が待ち構えているのか分からないという恐怖が、仲根の心を飲みこみかける。
しかし、仲根はぐっと唇を噛みしめ、自分に言い聞かせた。
(大丈夫だっ……!この先にあるんだっ……!希望がっ……!)
仲根はマンホールの蓋を払いのけると、自身の関心を恐怖ではなく、耳に集中させた。
“仲根、どこだっ!”という呼び声と、けたたましいほどに大地を蹴る足音が、すぐに仲根の耳に飛び込んできた。
「………来たっ!」
仲根は音を確認すると、梯子を伝い、マンホールの中へ降りていった。
0075空回り 9
垢版 |
2013/11/16(土) 08:14:47.27ID:???
「仲根、どこへ行ったっ…!!」
仲根が穴の中へ消えてすぐ黒沢もマンホールの穴が開いていることに気付き、梯子を下っていく。
下に降りていくにつれ、穴の底から広がる闇が、待ちかまえていたかのように黒沢の身体を黒く染め上げていく。
眼界から陽光が失われる直前で黒沢は気付いた。
「あ……ライト持っていないっ!!」
勢いだけでここまで来たが、地下へ辿りついた所で、ライトがなければ仲根を探すどころか、どこをどう進めばいいのかさえ分からない。
「一旦、墓へ戻った方が……」
黒沢は墓の前に置いてある沙織のディバックを思い出した。
「あのディバックの中にライトが入っていたかもっ……!」
そう考え、記憶を辿るも、思い付くのは複数の食料や筆記用具、女性には不釣り合いないかめしい武器しか思い出せない。
沙織のディバックを開けたのは沙織を埋葬する前、仲根に指摘され、1億円のチップを回収した時のみであった。
沙織を弔った後で中身を確認すればいいという楽天的な考えが仇となった。
「沙織さんのディバック、持ってくればよかった……」
今更ながら、黒沢は置いていってしまったことを後悔する。
「あ……そういえば……」
初めて沙織と出会った時、暗闇の中であったが、彼女はそういった類の道具を利用していなかった。
持っていない可能性が高い。
「暗いところを歩くなら、ライトを使うよな……あっ!!」
暗闇の中で動けないのは仲根も同じはずである。
それでもあえて逃亡ルートに地下道を選んだのは、周囲を照らすことができる支給品を持ち合わせているからではないのか。
もし、地下に降りて、その光明を見つけることができれば仲根の後を追うことができる。
マッチの炎のように小さな可能性ではあるが、賭けてみるべきである。
0076空回り 10
垢版 |
2013/11/16(土) 08:23:51.14ID:???
「行くしかないかっ!」
自分に言い聞かせるように意を決すると、黒沢は再び梯子を降りはじめた。
降りていく内に、梯子の不安定な足場とは違った硬質の床が黒沢の足底にぶつかった。
黒沢は慎重に降りて辺りを見渡した。
案の定、地下は目を塞がれてしまったかのような深い闇一色であった。
「明かりが……ないっ……!」
仲根の明かりを頼りに追いかけるという黒沢の戦術が根底から崩れていく。
仲根は黒沢から姿を晦まそうとして、この地下道へ逃げ込んだのだ。
あえて、明かりを点けるなどという居場所を知らせるような間抜けなことをするはずがない。
そもそも黒沢は仲根がマンホールの中に入っていった所を目撃すらしていない。
マンホールの蓋が開いていたのは、地下へ移動したと黒沢に思い込ませるためのミスリードだったのかもしれないのだ。
「オレって……圧倒的バカ……」
勝算のない無計画な賭けをした所で、勝てるわけがない。
「くっ〜〜〜!!!!」
考えが行き届かない己の頭の悪さ、仲根に完全に撒かれてしまったという口惜しさから、黒沢は固く唇を噛みしめ、悔しがる。
「兄さん……」
霞むような声を黒沢は聞き逃さなかった。
黒沢は声がした方へ反射的に振り返る。
30メートルほど先から、淡い炎の光が怪しげに浮かび上がった。
「ひ……人魂っ……?」
黒沢は背筋を一瞬凍らせるも、目を凝らしその正体を見破った。
「な……仲根……」
炎に照らされていたのはライターを掲げる仲根の姿であった。
「お前…どうして……」
あえて居場所が割れるようなことをしたのか。
黒沢はそれを尋ねようと一歩踏み出す。
しかし、仲根は黒沢が追跡体制にいち早く気づき、黒沢から逃れるように、再び走りだした。
「あっ…!待てっ!!」
仲根を見失っては元も子も無い。
黒沢は一旦、問いの投げかけを諦め、追走を始めた。
0078空回り 11
垢版 |
2013/11/16(土) 08:28:57.33ID:???
暗く、湿った下水道の中、二人の駆ける足音が壁に反射し、こだまする。
二人は壁を伝いながら、走っていた。
仲根は走るたびにすぐに消える炎に悪戦苦闘しながらも、度々振り返り、黒沢の姿を確認。
追いつけそうで追いつけない――黒沢と一定の距離を保ち続けながら、先を急ぐ。
黒沢はそんな仲根の様子を見ながら、首を傾げた。
「やっぱり、おかしいよな……」
足を前に進ませるごとに、黒沢の疑念は膨らみを増していく。
初めに違和感を覚えたのはもちろん地下へ潜入した直後である。
その後も、仲根の腑に落ちない行動はどんどん増えていった。
例えば、ライターの明かりを絶やさないようにしている点だ。
ライターの炎は実際のところ、それほど遠くを照らすことができない。
見えるとしたら、手を伸ばして届く範囲ぐらいだろう。
下水道の中央には人一人分が寝そべるほどの幅の汚水を流すための水路があり、その両脇には水路より高めに設計された通路が伸びている。
黒沢と仲根は壁に沿うように、その通路を走っている。
仮に炎を消しても、壁に触れながら走れば、下水道の水路に落ちることはなく、姿を隠すことができる。
仲根が火を消さないのはそこまで考えが及んでいないだけなのか。
分かってはいても、暗闇に不安を覚えているからなのか。
それとも、あえて自分の位置を知らせようとしているからなのか。
そう言えば、仲根の目的は――。
突如、黒沢は“く……苦しいっ……!”と仲根の耳に届かんばかりのうめき声をあげて倒れた。
0079空回り 12
垢版 |
2013/11/16(土) 08:33:02.26ID:???
「に…兄さんっ!?」
悶え苦しむ黒沢の声に反応した仲根は、青ざめた表情で振り返る。
目に飛び込んだのは、胸を押さえながら横たわる黒沢の姿だった。
「そうだっ…!に…兄さんはっ……!」
黒沢はこのゲームに参加させられる直前まで昏睡状態の患者であった。
いくら多額の医療費を用いて回復していたとしても、本調子であるはずがない。
ましてや、ここは殺し合いのゲームの中。
命が狙われているというプレッシャー、親しい者が殺されたという傷心。
その全てが、弱っていた身体に追い打ちをかけていたとすれば――。
「兄さんっ!兄さんっ!!」
仲根は黒沢の所に駆け寄り、上体を持ちあげた。
親の死を目の当たりにした幼子のように取り乱しながら、その名前を呼び続ける。
熱にうなされているかのように乱れた呼吸、仲根の言葉への無反応、その全てが黒沢の容体の深刻さを物語っていた。
「兄さん……」
黒沢の身体を、衛生状態の悪い下水道から綺麗な空気に溢れた地上へ、すぐにでも移動させるべきである。
仲根は黒沢を抱き上げようとした。
しかし、腹周りに贅肉がついた中年の身体は、いくら通常の中学生より腕力がある仲根であったとしても、易々と持ちあがるものではなかった。
「くそっ……ならっ……!」
持ちあげるのがダメであれば、引っ張ればいい。
仲根は黒沢の肩に腕を回し、引きずろうとする。
しかし、“うぐぐっ……”と、黒沢から苦痛を訴える声が漏れた。
「に……兄さんっ!」
重度の病人である黒沢にとって、不自然な態勢にされた上、身体の一部に力が加わるのは苦痛以外の何物でもない。
却って、病状の悪化を招いてしまう可能性すらある。
「どうすりゃあいいんだっ……」
黒沢には多少我慢してもらってでも、梯子がある所まで引きずって戻るべきなのか。
しかし、仮に梯子の前まで戻ったところで、その先どうやって意識がない黒沢を背負ったまま、梯子を登ればいいのか。
0080空回り 13
垢版 |
2013/11/16(土) 08:35:25.85ID:???
自問自答を繰り返した末、仲根は悟った。
黒沢を地上まで移動させるのは不可能であると。
仲根は黒沢からディバックを外すと、黒沢の身体をゆっくり床に横たえた。
黒沢のディバックを枕の代わりに黒沢の頭の下に敷く。
仲根も自分のディバックを降ろし、黒沢の隣に座りこんだ。
今、仲根ができることは、黒沢を見守り、身体の回復を祈ることのみであった。
仲根はライターの炎で黒沢の顔を照らしながら、ぽつりぽつりと詫びる。
「兄さん、オレが悪かったっ……。オレ、兄さんを棄権させたくて……武器を持って逃げれば、棄権会場まで追いかけてくれるかと思って……」
なぜ、自分は黒沢の身体のことを何一つ考えず、黒沢の体力を削るような作戦を立てて実行してしまったのか。
自分の目的は黒沢を助けること。
黒沢の身体を尊重しなくて、それを成すことができるはずがないというのに。
「兄さん…すまないっ…」
悔恨、自責、憤り。
万感の思いが、仲根の心を蹂躙する。
それは涙として、ほとほとと仲根の目から零れ落ちた。
そんな心からの詫びも涙も、今の黒沢には届かない。
黒沢はこのまま息絶えてしまうのではないのか。
仲根にとって、その結末は黒沢から疎まれる以上の絶望であり、最悪のシナリオであった。
仲根は神に縋るように心願を口にする。
「兄さん……元気になってくれよ……」
「そこまで言うならな……」
前触れもなく、黒沢は俊敏に身体を起こすと、仲根のライターを握る腕を強く引っ張った。
「えっ……」
呆然自失の面持ちのまま、仲根は態勢を崩し、床へと吸い寄せられる。
黒沢はバネに弾かれたパチンコの玉の如き俊敏さで仲根の背後へ回り、その手足を押さえ込んだ。
仲根は黒沢の体重で床に叩きつけられる。
あっという間に、仲根の身体は床に押し付けられてしまった。
仲根は辛うじて動く頭を持ち上げ、黒沢の方を振り返る。
0082空回り 14
垢版 |
2013/11/16(土) 08:40:02.39ID:???
「び……病気で倒れたんじゃ……」
「ん……?何の事だか分からないな……」
ここでようやく仲根は気付いた。
「兄さん、騙したなっ!!!!」
「あのなあ……先に騙したのはそっちの方だろうが……」
黒沢は半ば呆れながら、指摘する。
「うっ……」
懺悔という名の暴露をしてしまった手前、仲根はそれに反論できるはずもなかった。
これ以上、黒沢に合わせる顔がない。
仲根は顔を床に押し付け、黙り込んでしまった。
痛みに耐えるような沈黙。
しかし、その沈黙の重みも、すぐに限界に達してしまったのか、仲根は胸にわだかまる疑問を口にする。
「あ…あの…兄さんはいつ頃から気付いていたんだ……」
「あ…ああ……いつ頃から……か……」
会話の糸口を見つけたことに黒沢は僅かな安堵を覚えつつも、流れの主導権を奪われないための条件を提示する。
「オレから逃げないって約束するなら説明するが……どうする……?」
「逃げない……」
「分かった……」
仲根の意志を改めて確認した黒沢は仲根から降りた。
仲根からディバックを奪われないようにするための配慮から、黒沢はあえてディバックを背負い、居住まいを正すように床に正座した。
黒沢から解放された仲根は自身のディバックを遠ざけ、黒沢に叛逆の意志を持っていないことを示しつつ、黒沢の礼に従い対座する。
「じゃあ、話すぞ……」
黒沢は仲根を傷付けないよう、言葉を選びながら精一杯さりげない口調で種明かしを始めた。
0084 ◆uBMOCQkEHY
垢版 |
2013/11/16(土) 21:12:06.42ID:???
今朝は申し訳ありませんでした。
これから投下再開します。
0085空回り 15
垢版 |
2013/11/16(土) 21:14:10.74ID:???
「そうか……兄さんは地下へ降りた時辺りから怪しく思っていたのか……」
仲根の呟きに対して、黒沢は無言で頷く。
「もし、お前がオレを棄権させるために地下道を走っているのであれば、オレの身に万が一のことが起こった時、お前は駆けつけてくれるはず……。
だから、心臓が悪くなった振りをして倒れたんだ……」
仲根は力ない苦笑を浮かべ、俯いた。
「初めはさ、上手くいくと思っていたんだ……兄さんがオレのことを何も疑いもせず、追いかけてくれて……。
棄権会場まで着いたら、1億円を所持している兄さんが自動的に棄権になるって……」
「あのさ、仲根…オレ、思うんだけどさ…」
そこで言葉を一旦区切り、黒沢は天井を睨んだ。
「お前の考えていた方法じゃ、さっきみたいに何らかの原因があって、オレが走るのをやめちまえば、お前をすぐに見失っちまうだろ……?
もし、お前の作戦を本当に成功させたかったら、あの時のオレの提案を受け入れて、自分が棄権すると一旦、宣言してさ……。
ただ、棄権会場まで行く自信がないからついてきてほしいって頼み込むっ……。
そうすりゃあ、お前とはぐれる心配もなかったし、何より、オレはお前のことを疑わなかった……」
「あ……う〜ん……」
仲根は返事に困り、唸った。
どうもこの考えには一度も至ったことがなかったらしい。
仲根は自分の行動を顧みるように考え込んだ末、伺い知れない悲しみを含んだ眼差しで、寂しげに言葉を発する。
0086空回り 16
垢版 |
2013/11/16(土) 21:17:52.64ID:???
「もう遅いかもしれないけど……オレ、会場へ行ける自信がないんだ……。
だから、兄さん、会場前まで一緒に来てくれないかな……なんてな……」
「うん……もう遅いぞ……」
黒沢は仲根の冗談を軽くあしらいながら、思索する。
黒沢が出した作戦は落ち着いて考えれば誰でも思い付くことができたはずである。
しかし、仲根は終始、それを思い付くことはなかった。
以前、女の娘たちとのプールでのデートで、黒沢が周囲の女性に欲情し、エロスイムをしてしまった時も、仲根は機転を利かせた説明をし、場を収めたこともあった。
本来、仲根は頭の回転が速い少年なのだ。
その仲根が、偏狭な考えで行動するようになってしまった。
1秒でも早く棄権会場に到着し、黒沢を助けなければならないという焦りが、一時的にそうさせたに違いない。
ゲームから解放されれば、黒沢が良く知る仲根に戻るはず。
そう断定しようとする反面、黒沢には一つの考えが警告音のように脳裏に響き渡っていた。
仲根の精神はすでに歪んでしまい、もう元には戻らないと。
0087空回り 17
垢版 |
2013/11/16(土) 21:26:43.88ID:???
仲根はゲームが始まって早々、人を一人殺めている。
その後も、数多の人間を襲ってきた。
殺人というのは、物事を解決する上で最も安易な解決方法である。
殺害すれば、相手は二度と反撃や反論をすることはないのだから。
一度、この方法を覚えてしまった今、仲根は物事を解決するために、最善ではなく、その場で簡単に思いつく方法、しかも道徳を度外視する方法を選ぶようになってしまっているのかもしれない。
(そんなの人間の行動じゃないっ……!動物の行動だっ……!)
ほんの些細な不安が、胸のしこりを吸い込んで大きくなる。
(いや、あいつは人間だっ……!
今の仲根は少し精神が不安定になる時があるだけなんだっ……!
それ以外は正常っ……!
現に、オレとちゃんと会話をしているし、まともな受け答えをしているっ……。
そうだ、オレがちょっとした問題点を過度に気にし過ぎているだけなんだっ……!)
黒沢はどうにか建設的な方向へ思考を持っていこうとする。
しかし、黒沢が沙織への思いを語った時、仲根が自分を殺してくれと極端なことを口走っていたことが脳裏に過る。
黒沢が捗々しい事項をあげればあげるほど、それ以上に“仲根は狂っている”という不愉快な疑惑が、黒沢の願意を否定するかのように頭をもたげる。
0088空回り 18
垢版 |
2013/11/16(土) 21:30:36.22ID:???
(ただ……)
仲根の思考の変化が一時的にしろ、長期的にしろ、その原因は黒沢自身であった。
仲根は黒沢を救うため、人を殺した。
黒沢は仲根の行動と思考を叱責し、その罪の重さを焙り出した。
仲根の心は黒沢の言葉で大きな傷を負ってしまった。
(オレのせいだ……オレのせいで仲根は……)
黒沢は自分の軽率さを恨めしく思う。
これ以上、仲根の精神を傷付けるわけにはいかない。
仲根の罪を増やしてはならない。
(すでに取り返しがつかない後だとしても、仲根を棄権させてみせるっ……!
必ずだっ……!!)
黒沢は胸のポケットにしまってあるチップにそっと触れ、それを改めて誓った。
0089空回り 19
垢版 |
2013/11/16(土) 21:39:28.14ID:???
「なぁ、仲根、話があるんだ……」
黒沢は大地を踏みしめるように立ちあがった。
その力強さは仲根を説得しようという意志の強さであった。
しかし、思わず取ってしまった行動が間違いであったと気付いたのはその直後であった。
「うっ!」
電気に当てられたような、むず痒い痛みが爪先から脳天まで突き抜ける。
長時間正座をしていたせいで、足が痺れてしまったのだ。
(こ……これはマズイっ……!)
真面目な話をしたい手前、何が何でも足が痺れているということは仲根に知られたくない。
黒沢は足を大きく開き、感覚のない足で何とか身体のバランスを保とうとする。
残念ながら、関取が四股を踏もうとしているようにしか見えないのだが。
「えっと……兄さん……?」
仲根は黒沢の不可解な行動に戸惑いを隠せない。
「あ……あのな……仲根っ……」
黒沢は説明しようとするも、痛みに耐えるのに精一杯で声がまともに出ない。
「お……オレはっ……お……お前と……す……」
オレはお前とすぐにでも棄権会場へ行く。そして、お前を棄権させたいんだ。
この一言を言う前に、黒沢の身体の方が限界に達した。
バランスを取ることができず、前のめりに倒れてしまったのだ。
しかし、派手に転倒したのでは示しがつかない。
0092空回り 20
垢版 |
2013/11/16(土) 22:07:39.56ID:???
「ふんっ!!」
年長者の意地から、床に手をついて、どうにか身体を支える。
その姿は腰が上がりすぎた、下手くそな腕立て伏せの構えとしか表現の仕様がない。
(“お……オレはっ……お前と……す……”……?
もしかして、オレと相撲がとりたいのか……?
兄さんがそれを望むなら……)
四股を踏むイメージが先行してしまったためか、仲根は相撲の立会いの構えと受け取ってしまった。
仲根は黒沢と向かい合い腰を落とし、火傷しないようにライターの火を消した。
「ち……ちがっ……!」
なぜ、自分と同じように仲根も屈んでしまったのか。
仲根の心境は分からないが、明らかに変な方向へ進み始めている事だけは理解できた。
姿勢は格好悪いが、今話さなければ、話す機会はなくなってしまうかもしれない。
そう直感した黒沢は半ば自棄になって叫んだ。
「仲根っ!やっぱり棄権してくれっ!」
「嫌だっ!兄さんっ!」
それが勝負開始の合図であった。
仲根は黒沢に体当たりすると、まわしの要領で黒沢のズボンを掴み、引っ張る。
0093空回り 21
垢版 |
2013/11/16(土) 22:12:12.77ID:???
「え……え〜っ!!」
黒沢は動揺のあまり、素っ頓狂な声をあげた。
黒沢には相撲という考えがない。
足が痺れている上、今の状況を把握できていない黒沢は手を床につけたまま、態勢を大きく崩してしまった。
「今だっ!!」
仲根は腕に力を込めて、後方へ押し出すように投げ飛ばした。
強豪力士の多くが得意とする、相撲の王道技――上手投げ。
相手の掴み方といい、投げ方といい、強烈且つ完璧な決まり手であった。
もし、大相撲本場所であれば、拍手と歓声、そして、座布団の舞で場内が湧いたことであろう。
「これが……若さか……」
何をどうすれば、ここまで突っ走れるのか。
黒沢は涙の雫をこぼしながら、汚水が流れる水路の中へ落ちていった。
0094空回り 22
垢版 |
2013/11/16(土) 22:23:40.95ID:???
「あっ……」
黒沢が水路に落ちた音で我に返った仲根はすぐにライターで水路を照らす。
ヘドロまみれの黒沢の姿がそこにあった。
汚水の底に溜まっていたヘドロを全身に浴びてしまっていた。
「に…兄さんっ!大丈夫っ!?」
「だ…大丈夫なわけあるかっ!!」
打ち据えた腰の痛みを押さえながら、黒沢は立ち上がった。
足の痺れはいつの間にか吹っ飛んでいた。
幸い、水路と通路の高さの差は1メートル程度であり、黒沢は自力で通路に這い上がると、仲根に食ってかかった。
「なんで、投げ飛ばしたっ!!」
仲根は己の勘違いに気付き、気まずそうに尋ねる。
「兄さんこそ、相撲を取りたくて屈んだんじゃないのか……?」
「足が痺れたからだっ!」
黒沢は何度吐き出したか分からない、深いため息をつく。
なぜ、こうも意志疎通がうまくいかないのか。
体や顔からは魚や肉が腐ったような、猥雑な臭いが漂う。
0096空回り 23
垢版 |
2013/11/16(土) 22:45:56.76ID:???
(あぁ……この姿、どこかで見たことあるな……。
あれは全身う○こまみれになったう○こ男だっけ……?
いや……オレはヘドロまみれだから、ヘドロ男か……)
自分の身に起きたことが情けないあまり、黒沢は現実から逃げるように益体ないことを考えるが、それでも惨めな気持ちに変わりはない。
どこか悟ったような表情の黒沢を見つめながら、仲根はぽつりと漏らす。
「兄さん、一緒に地上に戻ろう……」
「ん……?それも悪くないが…どうしてそう思った……?」
黒沢は仲根の意図が分からず、首を傾げる。
仲根はそれに応えるかのように、言葉を続けた。
「ここはほかの人間に見つかりにくいって利点があるかもしれないけど、こんな汚い場所、長くいるべきじゃない……。
それに兄さんの悪臭は逆に敵に居場所を教えているようなもんだ……。
地上に戻って洗い流した方がいい……」
「あ……悪臭……」
黒沢は悪臭という単語に傷ついたが、自分の衣類の汚れを確認して、仲根の筋が通っていることを確認する。
「それにさ、オレも兄さんも走って体力が消耗している……。
さっき兄さんが倒れたのは演技だったけど、それが演技じゃなくなっちまうかもしれない……。
あと、オレも休んで頭冷やした方がいいと思うんだ……。
今のオレ、頭おかしいから……」
0098空回り 24
垢版 |
2013/11/16(土) 22:49:38.79ID:???
「仲根……“頭がおかしい”って……」
黒沢は仲根の言葉に緊張感が走る。
黒沢の表情が強張っていくのを感じた仲根は力のない苦笑を浮かべる。
「オレ……兄さんのためだと思って行動すればするほど、それは兄さんや他人にとっては不利益な行為でしかなくて……救いようのない状況になって……。
こんなこと、本当は嫌なのにさ……。
オレのせいで苦しむのは……いつも兄さんだ……。
休めば……少しはマシになるかもしれない……」
仲根の声は声というよりも息に近く、どこか途方に暮れていた。
「仲根……」
黒沢はここに来て漸く理解した。
仲根は狂ってなどいなかった。
殺人がいかに卑下される行為なのか、黒沢にとって疎ましい行為なのかを理解していた。
しかし、このゲームのルールが、そして、状況がそれを許さなかった。
殺人を犯してしまった以上、後には引き返せない。
頭の中では理屈として受け入れようとしていたが、その後の仲根に訪れるであろう未来――黒沢から拒絶される現実は、仲根にとって苦痛極まりないものであった。
黒沢から嫌われると分かっていても、嫌われたくない。
自分を否定するだろうが、否定してほしくない。
結果、時に強引に、時に遠回りに、目的の成功より、自分の精神が傷つかないことを優先した戦術を無意識に立てるようになっていった。
それが空回りへと繋がってしまった。
仲根が本当に救いたかったのは黒沢ではなく、罪の重みや自己否定に苦しむ自分自身だったのかもしれない。
0099空回り 25
垢版 |
2013/11/16(土) 22:51:22.92ID:???
「そうだな……休もうか……」
休息が仲根の抱える問題の解決に繋がるかどうかは分からない。
それでも、自分を変えようとする仲根の気持ちには応えてやるべきである。
「実はさ……美心さんの食料を持っている……
地上に出たら、二人で朝食をとらないか……!」
しかし、黒沢の前向きな提案に対して、仲根はそのディバックから気まずそうに目を逸らす。
「兄さん……そのディバック、ヘドロが滴っている……」
「なっ……」
黒沢は慌ててディバックの中を確認する。
ディバックの中の支給品はヘドロに汚染されていた。
パンに至ってはチョコレートパンのような茶色に変色している。
黒沢は小型ラジカセをアカギに預けておいて良かったと安堵しつつ、そっとディバックを閉じた。
(何やっているんだ……オレ……)
仲根の叱責の件といい、足のしびれの件といい、“空回り”しているのは黒沢も同じであった。
年長者の威厳を見せつけたい。仲根から更に頼もしく思われたい。
無意識に信望を求めてしまう人間の欲深さ、そこから発生してしまう視野狭窄の恐ろしさを、黒沢は痛感せずにはいられなかった。
0100空回り 26
垢版 |
2013/11/16(土) 22:55:55.15ID:???
「そういえば、沙織さんのディバックの中に食料が入っていたと思う……。
トイレで身体を洗ってから、沙織さん達のお墓に戻ろう……」
“まぁ、それが妥当だよな……”と、仲根も顔を引きつらせながら、相槌を打つ。
「そう言えば、チップは無事か……?」
仲根は最重要事項のアイテムの安否に気付いた。
「無事なんだが……」
黒沢は懐からチップの袋を出す。
チップ自体は紛失していなかったが、黒沢と同じように黒々と濡れている。
仲根は怪訝な顔で、チップの袋を睨みつけた。
「それ、触れたくない……。兄さんが持っていてよ……」
黒沢は苦々しそうに膨れっ面をする。
「お前、チップの受け取りを拒否して、オレを棄権させようとしていないか……」
「ん……?何の事だか分からねぇな……」
仲根は小生意気な笑みを滲ませ、どこかで聞いたような返答をする。
「お前って奴は……」
黒沢は呆れつつも、自分が知る仲根が戻ってきてくれたような気がして、口元を綻ばせた。
黒沢と仲根は小言を言い合いながら、地上へ通じる梯子を目指して歩き始めた。
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