福本漫画バトルロワイアル part.10
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「我々が『回収』した首輪をいつ、どのタイミングで『処分』するかなど、こちらの自由だ…生き残るには他の参加者を始末し、優勝する以外ありえない……どうだね、『現状を見直すことをお勧めする』よ…森田くん…?」
森田は黒崎の脅迫めいた勧告を鼻でせせら笑う。
「オレが殺し合いに乗ると思うのかっ…!オレは誰が何と言おうと、人は殺さないっ…!
ましてや、お前たちに騙されて、戦いを強いられている参加者達なら尚更だっ!!」
森田は憤怒を滾らせた眼光で、画面の先にいる黒崎を射抜いた。
拒否権を与えない状況に追い込んでまで、殺し合いを促進させようとする主催者たちのあざとさに、怒りを通り越して、殺意が湧きおこる。
もし、黒崎が目の前にいたなら、胸元に隠しているナイフでその喉を裂いていただろう。
これ以上、こんな屑どもに人生を弄ばれるのはご免だ。
森田は吐き捨てるように言い放つ。
「オレはお前の提案を拒否したっ…!さあ、オレを殺せっ…!」
解除権を零に譲った今、森田がこの島ですべきことはない。
あとは零たちに、未来を託せばよい。
冷静な判断力、行動力を持つ彼らであれば解除権を有益に使ってくれるであろう。
それにこの島には平井銀二がいる。
銀二の真意は分かりかねる点もある。
それでもこの主催者を倒そうとしていることには間違いない。
銀二と零達の目標が同じ方向を向いているのであれば、このゲームを転覆させることができるかもしれない。
確証はないが、確固たる予感が、森田には存在していた。
「やるなら、さっさとやれっ…!」
森田は目を瞑り、首輪爆破の瞬間を待った。 ――後は頼みます……銀さん……
森田が心の中で覚悟を決めた瞬間だった。
「まぁ、そんなことを言うだろうと思ったよ…森田くん……」
森田という人間を鑑みれば、殺人という手段を選択するはずがないと、簡単に分かる。
森田に嫌々マーダーの役を押し付ければ、会場に戻るどころか、この場で自殺することは目に見えていた。
黒崎はお前の思考などお見通しだと言わんばかりに椅子にもたれ、カメラを見下ろす。
「殺し合いが嫌いな君でも、こう言えば、気持ちが変わるはずだ……」
この瞬間、黒崎の柔和そうに垂れた目に鋭い光が宿る。
「君への要求を変更しよう……。
殺すのはただ一人。帝愛グループ総帥……兵藤和尊っ…!」
「なっ…!」
黒崎の想定外の展開に言葉を詰まらせる。
兵藤和尊はこのバトルロワイアル主催者――最大の要の人間である。
その人間を、部下である黒崎が殺せと命令したのだ。
「な……何を言っているんだっ……!」
森田や他の参加者の知らない所で、大きく事が動き始めようとしている。
寒気に近い不安が大きく膨らんでいく。 森田の反応は期待どおりだったと見えて、黒崎は嘲笑を漏らす。
「兵藤和尊は、今、D−1の発電所にいる…。最もゲームに近い安全圏にな…」
「なぜ、そんなことを教えるっ…!」
「ふふっ……なぜかって…?」
黒崎は身体を少し前のめりに崩す。
「我々に首輪を回収された君は、今や私の駒(ポーン)だ……
ポーンは余計なことなど考えず、黙って“プレイヤー”の指示に従えばよい……」
“これで以上だ……”と、黒崎が腕を伸ばし、画面を切ろうとした瞬間だった。
「待てっ!黒崎っ!!」
森田は画面に掴みかかる。
「どうやって、D−1の禁止エリアに入ればいいんだっ!!
そもそも、本当にそこに兵藤はいるのかっ!!」
腕を止めた黒崎は、焦る森田とは対照的に、“ああ……そういえば言い忘れていたよ……”と余裕に満ちた表情で返答する。
「D−1エリアはこちらで解除しておく……
これで侵入できるだろう……。
もう一つの質問に関してだが、それは行ってからのお楽しみだ……」
「“行ってからのお楽しみ”か……どうして、言葉を濁す……」
森田は胡乱げに眉を寄せる。 「お前からの初めの指示は、“他の参加者を減らせ”だった……。
もし、仮に、オレがお前達の言葉を鵜呑みにしてその場へ行けば、そこにあるのは別の誰かっ……。
例えば、首輪の解除に成功して、禁止エリアの潜入した参加者とかだっ……。
一度、禁止エリアに入ってしまえば、あとはゲームが終わるまでそこに居続ければいいっ……!
けれど、それではお前達には都合が悪いっ……!
そこでオレを送り込んで殺害させるっ……!
違うかっ……?」
「ほほう……」
黒崎は感心したかのように、目を細める。
「ふふっ……君にそこまで言われたら、もう語ることなどない……
そこにいる人間を殺せっ……!
その意志が見受けられない場合は、首輪を爆破させるっ……!」
黒崎は森田の返答を聞かず、通信を切ってしまった。
「くっ……もう一度、黒崎と話はできないのかっ!!」
森田は近くで待機していた黒服に噛みつく。
しかし、黒服からは、“お前が来る直前に、パソコンを用意しておけ”と命令されただけだ。
それ以前に、自分はこのパソコンの使い方がよく分からないと、頼りない答えしか返ってこなかった。
「そうか……」
情報機器に熟知している者であればクラッキングし、黒崎のサーバーに不正アクセスすることもできたかもしれない。
しかし、森田はフロッピーの起動の仕方すら覚束ない、情報機器に対してはド素人である。
そのような高等技術などできるはずもない。
「クソ……!」
森田は黙ってギャンブルルームから出るほかなかった。
「なんとかなったか……」
黒崎は椅子に持たれ、深いため息をつく。
大きな仕事を終えた今、本音を言えばゆっくり休みたい。
しかし、黒崎には定時放送以上に重要な仕事が残されている。
黒崎は椅子から立ちあがり、部屋を出た。 「お待たせいたしました……」
黒崎が赴いたのは袋井の部屋。
そこで待っていたのは袋井と後藤利根雄、そして、誠京グループ会長、蔵前仁である。
蔵前専属の執事という身分だけあって、在全側が袋井に用意した部屋は要人待遇と言ってもよい。
普通のホテルの一室はワンルームであるが、袋井に用意された部屋は居間と寝室が隔離され、ホテルというよりは高級マンションの一室を思わせる。
蔵前たちの面子を立てるためか、室内の調度品は高価なものばかりであり、その力の入り様はさすがに黒崎も苦笑してしまう。
しかし、真の贅沢に慣れた蔵前からしてみれば、所詮、富裕層を演出するためだけの寄せ集めの品。
シルクのカーペットにワインがこぼれようとも、慌てることなく、次のワインへ手を伸ばす。
蔵前にとって、袋井の部屋は通常より少々気を使った作業部屋でしかないのだ。
高齢にもかかわらず、朝からよく飲むものだ。
黒崎はそう心の中で失笑しながらも、顔にはおくびにも出さず、本革のソファーに腰を下ろす。
「これでよろしかったでしょうか……蔵前様……」
「ククク……中々面白い趣向ではないか……」
蔵前はくぐもった笑声を立てた。
「森田鉄雄、平井銀二のおかげで、わしは…いや、誠京はかなりの痛手を被った……」
「確か……民政党代議士58人の借用書と500億でしたか……」
黒崎の言葉に、蔵前は頷く。
誠京という企業にとって、500億円の損失はかなりの痛手であるものの、致命傷とまではいかない。
しかし、問題は民政党代議士58人の借用書の方である。 それを知るには、誠京というグループ企業とその背景を説明しなければならない。
誠京はいくつものグループ会社を抱えていたが、法律上、独立した会社が多く、その会社が出資して子会社・孫会社を作っていった。
本社とグループ会社が切り離された仕組みはグループ拡大と税金対策を狙ったものである。
自治体による土地開発の情報をいち早くキャッチすると、誠京は周辺の土地を安く買い、新たな子会社――誠京傘下の百貨店やホテルなどを立ちあげる。
誠京主導による生活圏形成。
それが軌道に乗れば、おのずと地価も上がる。
地価が最高値まで上がったところで、その土地と、そこの地域を作るために作られた子会社を担保に銀行から資金を借り、新たな地域へ投資する。
企業と土地などの不動産を担保にし、銀行から引き出した融資をそのまま自分たちの資産に変化させる。
この手口は『企業担保法』と呼ばれている。
銀行からの融資だけではなく、子会社が得た利益も、一旦本社へ吸収された後、儲けが少ないグループ会社に分配され、孫会社設立の投資へとまわされた。
資産は増えていくものの、決算上、利益は生み出していないため、会社の利益に対して課せられる法人税や事業税を納める必要がない。
また、名義上、別会社であるため、場所代として課せられる市町村民税やその他地方税は本社がある地域ではなく、その地元へ落とされる。
こうして商店街などの反対勢力を抑え、自治体を味方につけてきた。
誠京の恩恵を授かりたい、新たな自治体が土地開発の情報を提供。
その地域に地価高騰の可能性があると分かれば、誠京グループ総出で進出していく。
無限の連鎖の中での巨大化。
これが“錬金術”と言われる所以である。 しかし、この錬金術もバブル崩壊と共に陰りを見せることとなる。
バブル崩壊後、土地や住宅、株式など、定価が定まっていない時価資産が日本全土、軒並み下落した。
誠京の不動産も例外ではなく、担保としていた不動産は融資額を下回り、差額は不良債権として、銀行の損失となった。
当然、銀行はその不良債権を補うため、追加担保・保証を誠京に求めた。
しかし、利益や融資を投資にまわし続けていた誠京に不良債権の埋め合わせを準備する余裕などない。
そこで、不良債権を審査する基準を甘くし、不良債権を正常債権であると銀行に無理やり認めさせたり、銀行による一時的な救済処置
――補填融資、いわゆる“追い貸し”を繰り返し、不良債権ではなく正常債権とみなす操作を行うなど、不良債権総額を低く見せて経営状態を取り繕ってきた。
このような横暴とも言える方針ができたのも、民政党代議士に対して、ギャンブルの借用書という名の貸しがあったからである。
借用書という鎖がある限り、誠京の拡大路線は約束されていたようなものであった。
それをこともあろうに、平井銀二と森田鉄雄が麻雀勝負で奪ってしまったのだ。
その日を境に、与党・民政党は誠京グループへ手のひらを返したように不動産の再審査を行うように促してきた。
再審査を行い、正当な不良債権額が露呈すれば、グループとしての信用は失われ、不良債権補填の催促がより一層厳しくなる。
のらりくらりと追跡をかわしているが、それもいつかは限界に来るだろう。
誠京グループは瀬戸際に立たされて始めている。
「やつらさえ……わしの前に現れなければ……わしがこんな苦しい思いをするはずがなかった……」
「ええ、おっしゃる通りです……蔵前様……」
蔵前に同調しつつも、黒崎は悟られない程度の小さなため息をついた。
確かに、銀二達に負けた日から誠京の転落が顕著になったのは間違いない。
しかし、土地は値上がりするが値下がりはしないという“土地神話”を盲目的に信じていたこと――誠京グループの見通しの甘さが全ての原因であった。
銀二と森田に対しては逆恨みとしかいいようがない。 そもそも苦境に立たされているのであれば、バトルロワイアルを悠々と開催しているよりも資金作りに奔走した方がよい。
おそらく、蔵前は苦しい苦しいと喘ぎながらも、心のどこかでは思っているのだろう。
再び経済は回復し、不良債権が正常債権に戻る日が来るだろうと。
だからこそ、このゲームに多額の投資を平気でしているのだ。
不況が長引いているのは不良債権の増加によって銀行の体力が奪われ、他の企業に対して貸し渋りを行っているためである。
もちろん、不況の要因はこれだけではない。
しかし、銀行の不良債権が解決すれば、景気が大きく回復するのもまた事実である。
誠京のような大企業でさえ不良債権を返せずにいるというのに、他の中小企業が不良債権をどうにかできるはずがない。
不況はさらに続くであろう。
数多の判断材料が存在しているというのに、それを受け入れようとしない――未だにバブルから抜け出せない哀れな老人。
それが黒崎の蔵前への評価であった。
黒崎が実は見下しているとも知らず、蔵前は語り続ける。
「わしはやつらに復讐する機会を伺っていた……
その機会はついに訪れた……バトルロワイアル開催の誘いじゃ……」
蔵前は森田と銀二の殺害を何度も考えた。
しかし、彼らの足取りを追うのは難しく、何より、彼らの背後にいる伊沢が与党幹部になってしまい、ますます手出しがしにくくなってしまった。
蔵前自身が誠京グループの不良債権問題に奔走していたのも、それに拍車をかけていた。
そんな時に帝愛から、バトルロワイアルを共同で開催しないかという提案が来たのだ。
殺し合いというフレーズに初めこそは眉をひそめた蔵前であるが、次の一言が気持ちを一転させた。
『平井銀二と森田鉄雄を参加させます……』
蔵前は大いに喜んだ。
帝愛からの話によると、銀二と森田は神威事件をきっかけにパートナー関係を解消、その後、銀二は伊沢が力を失い始めたこともあり、前ほど派手に活動をしなくなったらしい。 「奴らがこの島で無様に殺されると思うと……これほどうれしいことはないっ……!」
殺される瞬間、彼らはどんなことを思うのであろうか。
人生の幕が呆気なく閉じてしまうことへの悲憤か、それとも、蔵前という絶対的な権力者に楯突いてしまったことへの後悔か――。
想像しただけで、酸っぱいだけの安いワインも極上の美酒に変化する。
そんな展開を蔵前は待ち焦がれていた。
しかし、現実は――
「奴らは殺されなかったっ……!!」
彼らに恨みを持つ者や、無差別に殺人を犯しそうな人間は序盤で勝手に自滅。
残ったのは彼らの考えに賛同するであろう無能者ばかりであった。
「それゆえに……森田鉄雄に首輪回収の依頼をしたっ……!強制的に殺人を犯すようにっ……!」
殺人を積極的に犯せば、おのずと命を狙われる率も上がっていく。
それで他の参加者に狙われるもよし、殺人を犯したことによる罪の意識から精神が錯乱していくのもよし。
あの首輪回収は停滞していた殺し合いを加速させると同時に、森田の精神と人生を転落させる意味があったのだ。
“我ながら何という名案だ……!”と言いながら、蔵前は奇怪な笑声を出して膝を叩く。
それに対して、黒崎は薄く笑っただけで口に出して反応を示さなかった。
黒崎にとって、これ程厄介な要求はなかった。
このバトルロワイアルは蔵前からすれば復讐の場にすぎないが、帝愛としては立派なギャンブルの種目なのだ。
公平さが求められるにもかかわらず、蔵前の要求はそれを覆すものであった。
蔵前からこの提案があった時、黒崎は異議を唱えた。
しかし、蔵前は要求が通らなければ、自らゲームの中止を宣言すると言い始めたのだ。
黒崎は蔵前の説得を諦め、その意志を尊重することにした。
しかし、蔵前主導で森田に首輪回収を依頼すれば、何を仕出かすか分からない。
そこで黒崎が間に入り、公平さを失わない方向で話を進めていった。
これが森田の首輪回収という特殊イベントの経緯である。 「奴は結局、誰も殺さず、首輪を集めてしまったがの……」
蔵前はつまらなさそうにため息をつく。
黒崎はそんな蔵前を憮然とした眼で見つめる。
蔵前はかつての麻雀勝負から森田のことを金に貪欲な強運の持ち主と思っているようであるが、その実は逆である。
森田は冷徹になりきれない、お人よしの人間であり、損得抜きで行動することが多々ある。
それが打算に溢れたギャンブルにおいて、予測できない方向へ転がっていくのだ。
行動原理が金や命に囚われている人間――例えば、蔵前のような人間であれば、首輪回収の依頼を殺人という方法でこなしていただろう。
しかし、人がいい森田がそんな行動をするはずがない。
首輪回収依頼は森田の人格を理解できない蔵前らしい提案だったと言える。
(蔵前とは同盟関係だ……しかし……)
蔵前のわがままのせいで公平なギャンブルどころか、今や黒崎の立場も危うくなってきた。
森田の首輪回収に不満を持ったギャラリーから非難が相次ぎ、その声を押さえることに労力と神経を使わざるを得なくなってしまった。
また、前例ができてしまったことをいいことに、もう一人の主催者である在全が和也たちに金庫解除という特殊ギャンブルをしかけてきた。
そして、今、ギャンブルルームで村岡の謎の死が――。
(これものちのちのためっ……!)
黒崎はそう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替える。
今は酒に自白剤でも入っているかのように饒舌に語る蔵前の機嫌を取ることが最優先である。
「ところでな……」
蔵前の両眼に毒を持った光がちらついた。
「兵藤がD−1にいるのは……本当かの……?」
蔵前の疑問に対して、それまで口を閉ざしていた後藤が答える。
「それは間違いございませんっ…!」
自信に満ちた顔で後藤は用意していたパソコンを蔵前に見せる。 そこに映っていたのはバトルロワイアルの会場の地図であった。
D−1の発電所に赤いポイントが点滅している。
「D−1の発電所はこの島の電力を安定に供給されるために最初から禁止エリアにしておりました……。
万が一、ゲームの転覆を目論む参加者がここを破壊するという可能性をなくすために……。
ゲーム開始から無人のエリアにもかかわらず、そこから通信形跡があり、しかも、それは村岡の空白の時間と符合する……。
そして……」
後藤は画面を操作した。
パソコンから流れ出したのは――
『違う…この声は…会長だ…』
『なんだ…?ワシでは不満かの…?忙しい黒崎の代わりに…お主の要求を呑んでやろうと思ったのだが…』
『いやいや…まさか!この村岡隆…感謝の気持ちこそあれ、不満なんて思いは…これっぽっちも無いざんす…!!』
『ククク…そうか…。ならば…お主には死んでもらうぞ…村岡隆…!』
それは村岡と黒服、そして、兵藤のやりとりと思われる会話の音声であった。
村岡がギャンブルルームに入ってから出るまでの間、突然、音声、画像共に遮断。
回復した時、そこに映っていたのは村岡と黒服の死体と、卓に並べられた麻雀牌だった。
その時間、E−2に立ち寄った参加者は誰もいない。
ギャンブルを行ったのは第三者――主催サイドの犯行である。
蔵前とも在全とも意志疎通が行われている今、バトルロワイアルを荒立てて得をする人間はただ一人――兵藤和尊のみである。
しかし、黒だと分かっていても、決定打となる証拠はなかった。
「全てのギャンブルルームと盗聴器、隠しカメラは帝愛の方々が準備してくださりましたが、
そこまで帝愛の方々に甘えてしまうのは申し訳なく思い、
こちらも僅かではありますが、ご用意させていただきました……」
後藤は帝愛も把握していなかった盗聴器の存在を恩着せがましく暴露した。 (やはり、在全は帝愛と誠京を信用していなかったか……)
黒崎は皮膚の表面に不快感をにじませた。
しかし、この証拠のおかげでギャラリーに説明することができる――村岡の死は兵藤の身勝手な振る舞いによるものであり、黒崎に非がないということを。
在全サイドの行動は主導権を握る側としては非常に不愉快であるが、結果的にそれが黒崎の首を繋ぎ、森田に兵藤殺害の命令を下すことができた。
黒崎は今回のことは不問に付すことに決めた。
後藤はその音声をコピーしたCD−Rを黒崎に渡した。
黒崎は安堵にも似た苦笑を浮かべながらそれを受け取る。
「後藤さん、余計な手間を増やしてしまい、申し訳ございません……」
「兵藤の行為は明らかに我々を陥れようと目論んだもの……
これ以上、野放しにしてはゲームが破綻する恐れがあります……
それに兵藤を潰す……我々が結束した理由はそこですからな……」
「そうですな……」
黒崎は後藤に当てて、一通の書類を送っていた。
『今回のギャンブルが成功しました折には兵藤和尊を会長の座から引きずり落とし、
帝愛と在全、そして、誠京…その三者で手を結び、更なる発展を築きましょう』
在全はそれを了解し、三者同盟が成立していた。
在全も兵藤も共に日本を代表する資産家である。
在全はアミューズメントパークなどのレジャー産業、兵藤は消費者金融業界でそれぞれ勢力を伸ばしていた。
本来であれば業種が違うため、同じ富豪であっても張りあうことはなかった。
しかし、近年、兵藤が在全の得意分野であった、エンターテイメント性を重視した裏ギャンブルを催すようになったのだ。
良い例が、鉄骨渡りである。
金と裏ギャンブルを足掛かりに、帝愛はあっという間に政界と太いパイプを築いてしまった。
噂によると、特に元総理大臣の橋爪竜蔵とは懇意の間柄であり、彼が在任中、通した法案は帝愛が優位に立つものばかりだったという。
自分と同じ手口を使い、社会で伸し上がる。
要は兵藤という存在自体が、在全にとって面白くないのだ。 黒崎と後藤のやりとりを横目で見ながら、蔵前もクスクス笑う。
「在全のところもそうであろうが、わしにとっても兵藤は邪魔な存在っ……!
奴を消すことも黒崎との密約の一つじゃ……」
帝愛と誠京との間で、兵藤を亡き者にすることは確定済みであった。
第一回定時放送前の黒崎と袋井の密会はその相談であった。
いくらこのホテルが在全グループ主導で用意されたものとは言え、どこで兵藤の目が光っているかは分からない。
そもそも、兵藤は行方を晦ましている。
だからこそ、筆談でやりとりをしていたのだ。
「我々の目的は初めから同じであった……
ならば、初めから我が在全グループも話に加えてくださればよかったものを……」
後藤は拗ねたような表情で腕を組む。
第一回定時放送終了直後、帝愛に疑心を抱いた後藤は主導権を握ろうと、森田と銀二を餌にした取引を蔵前達に持ちかけた。
その密約はすでに黒崎との間で交わされていたため、後藤は突っぱねられてしまうのだが。
図らずも道化を演じてしまった後藤が、不機嫌になるのも無理はない。
そんな後藤を見ながら、袋井は肩をすくめる。
「だからおっしゃったではありませんか……“いずれ分かる”と……」
黒崎と袋井の密会では兵藤殺害のプランの他に、在全グループと手を組むか否かという議論も含まれていたのは言うまでもない。
黒崎は表情をやわらげると、両手を組んだ。
「兵藤は何かしらの護衛策を用意しているはず……
強運の持ち主と言われた森田鉄雄とて兵藤に敵うかどうか……」
普通に考えれば、碌な武器を持っていない森田が兵藤と戦えば、あっけなくやられてしまうのは目に見えている。
しかし、冷静な判断力と強運を武器に、裏社会のフィクサーの相棒として生きてきた男である。
もしかしたら、相打ちという形で兵藤の息の根を止めることができるかもしれない。
「しかし……」
後藤は顎に手を当て、考え込む。
「森田は本当にD−1へ向かってくれるのか……」
森田が一筋縄ではいかない性格であることは後藤も認識している。
黒崎の命令にきな臭さを覚え、あえて向かわない可能性もある。 「森田は我々の希望通りにD−1へ向かいますよ……」
黒崎は朗らかな表情で後藤の疑問に答える。
「森田はD−1に首輪解除に成功した参加者がいると睨んでいる……。
森田が自分の予測を信じ続けるのであれば、その参加者を助けるため、首輪解除の方法を知るため、向かうでしょう……。
また、もし、我々の発言を信じるのであれば、主催者を倒すチャンスと考え、やはり向かうという考えに行きつくはず……。
もちろん、森田もそこまで愚かでないでしょうから、そこに命を脅かす罠が存在するであろうことは承知しているはず……。
ただ、自分を殺せとまで言える男が、その罠程度で怯むことはないと思いますよ……」
黒崎は“まぁ、それでも向かわない時は首輪を爆発させれば済む話です……”という言葉で話を締めくくる。
「なるほど……」
後藤は合点が行ったかのように、満足げに頷く。
「森田は割と慎重な性格だ……。
もしかしたら、多少の準備はするかもしれませんな……
例えば、他の参加者を連れだって乗り込むとか……そうなれば……」
後藤はニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべる。
「こちらとしても有難い……
ギャラリーにより刺激的な映像や音声を提供することができますから……」
「実は私もそうなることを願っているのですよ……」
後藤の意見に、黒崎もどす黒い笑いで返した。
「ほう……森田が兵藤を殺害できる可能性があるというのか……」
蔵前の森田への要望はあくまでも参加者の大量虐殺であった。
しかし、強制的に指示をしても森田は動かないであろうと予測していた黒崎は、土壇場になって参加者殺害から兵藤殺害へと指示を切り替えたのだ。
蔵前としては森田が殺人という“醜い”行為を経て、“醜い”人間になり果て、無様に死ぬことを望んでいる。
対象が誰であれ、その過程を目撃することができればいいのだ。
兵藤殺害の手間も省けるということもあり、結果的に黒崎の独断を受け入れた。
「結果が読めぬ戦いか……実に面白いっ……!」
気分を良くした蔵前はワインを一気に飲み干すと、深く息を吐きだした。 「では、さっそく作業に入りましょう……」
黒崎はD−1禁止エリアを解除しようと、自らのパソコンに手を伸ばした、次の瞬間だった。
『そんなことする必要はないぞっ……!!』
黒崎と後藤のパソコンの画面に、新たなアクセスが入った。
「あ……あなたはっ……!」
黒崎と後藤は同時に息を飲む。
映っていたのは在全グループ総統・在全無量であった。
二人の驚きを他所に、在全は晴れ晴れとした微笑で尋ねる。
『ククク……森田が禁止エリアの解除権を託したのは宇海零っ……!
零ならどこを選ぶと思うっ……?』
「彼ならば……」
後藤の口元が不敵に吊り上がった。
「おそらくはD−1っ……!
標の意志を継ごうとしているのであればっ……!」
標はゲームの序盤、赤松と共にD−1エリアの近くまで赴き、その様子をメモに詳細に記録していた。
そのメモは赤松を経由し、零の手の中にある。
欲しい答えを得た在全の表情は笑顔で歪む。
『その通りじゃっ……!!さすが、我が右腕じゃっ…!』
後藤を褒めたたえる在全の全身から陰惨な冷気が帯び始める。
『ゲームはあくまで“公平に”じゃっ……!』
皆、一瞬呆然とするも、在全の意図が分かるや否や、噛み殺したかのような笑いを次々に漏らしだした。
「そうですね……あくまで公平に……」
ギャンブルはルール――限られた環境の中で知恵や気概で乗り切ることに醍醐味がある。
禁止エリア解除権というルールを設けた以上、そのルールは尊守しなければならない。
このルールを適用したために兵藤が死ぬことになったとしても、それは命が狙われるような場所に居合わせた兵藤自身が悪い。 「ふふっ……ルールは不備がないように設定したつもりだったのですが……」
「それでも起きてしまった事故はやむを得ぬ……。
まぁ、その事故で最も危険な“対主催”が消えてくれれば、わしらも安心してバトルロワイアルと“事業”を続けられる……」
「そうですね……我々の今後のために……」
このゲームに集まった主催者達は猛悪なだけでなく、際限がないまでに自分の利益に貪欲であった。
人間の格好をした獣。
金と権力で膨れ上がった巨獣。
巨獣たちは獲物が弱るのを今か今かと待ちわびている。
【G-6/ギャンブルルーム/朝】
【森田鉄雄】
[状態]:左腕に切り傷 わき腹に打撲
[道具]:フロッピーディスク(壊れた為読み取り不可) 折り畳み式の小型ナイフ(素材は絶縁体) 不明支給品0〜2(武器ではない) 支給品一式 船井の首輪・村岡の首輪(いずれも爆発済み)
[所持金]:1000万円
[思考]:遠藤を信用しない 人を殺さない 首輪を集める 銀さんに頼らない E-3銃声の場所を調べる(利根川の死体) 宇海零か伊藤開司と接触をはかりたい
※フロッピーで得られる情報の信憑性を疑っています。今までの情報にはおそらく嘘はないと思っています。
※遠藤がフロッピーのバックアップを取っていたことを知りません。
※以下の依頼を受けました。契約書を1部所持しています。
※黒崎から支給された、折り畳み式の小型ナイフを懐に隠し持っています。
※黒幕が帝愛、在全、蔵前であること、銀二がバトルロワイアルの首脳会議に参加し、今回の企画立案をし、病院がらみのスキャンダルで主催者を潰すこと、D-4ホテルで脱出の申請を行うことができる可能性について聞きました。
※黒崎からD−1にいる兵藤を殺せという命令を受けました。
*****************
代理投下は以上です。投下時に警告が出たため、一部こちらで改行しました。 投下乙です。
主催者側の思惑、背景と、話の厚みがすげぇ。
話してるだけなのに、圧迫感がひしひし伝わってくる。
黒崎も気になるけど、D-1への引きに零と森田が気になってしかたない。
相変わらずのクオリティ乙です。
後藤の拗ねたような顔w 投下乙です!
黒崎の思惑、蔵前がゲームに投資した動機、在全の動き…読んでいてとても引き込まれました。
三者三様の思惑が絡んでいた、状況説明がとても秀逸。
今までの主催サイドからの参加者達への干渉も、こういうことだったのかと納得できる。とても面白かったです。
D−1は解除されるのか?今後の展開にも期待! 初投稿です。
至らない点など多々あるかと思いますので、ご指摘いただけると助かります。
それではよろしくお願いします。 畳の上に、朝の光が降り注いでいる。
ここが殺し合いの舞台であっても、いつもと同じようにやってくる朝に、伊藤カイジは少しだけ緊張の糸が解れる思いがした。
沢田と涯が見張りに立っており、部屋に残っているのはカイジと零の二人のみ。
カイジは窓から差し込む朝日に目を細めると、先ほどから標のメモや地図を見てはメモに何かを書きつけている零をちらりと見て、腕時計に目を落とした。
時刻は午前6時53分。
そして、ここ数時間の出来事を思い返していた。
まだ夜が明けきらない頃に現れた、森田鉄雄という男。
そして彼が告げた主催者とのギャンブル……。
彼に課された試練は厳しいものだったが、それによって手に入れられる報酬――禁止エリアの解除権――は魅力あってあまりあるものだ。
さらに、三回目の放送後の突然の来訪者、もたらされた情報の集約。
井川ひろゆきと平山幸雄のおかげで、この島で起きていることについて、かなり多くのことが分かった。
禁止エリアの解除権を譲渡された零にとって、これほど多くの情報は、またとない僥倖だったことだろうとカイジは思う。
(ただ問題は……制限時間だ……)
森田が交わした契約によると、進入禁止エリア一箇所の永久解除権は、権利が発生してから60分以内に使わないと無効なのだそうだ。
零は6時丁度に、エリア解除権が譲渡されたと宣言した。
つまり、権利を行使できるのは7時まで。
その後ひろゆき達との情報交換もあり、残された時間は10分を切った。
(間に合うのか……?)
カイジは内心焦っていた。
そんなカイジの心配を感じ取ったのか、零はふと顔を上げた。
「カイジさん……」
零の口が何かを告げようとする前に、カイジは玄関へ飛び出していた。
「沢田さんと涯を呼んでくるっ……!」
「ありがとうございます……助かります」
はじかれたように見張りに立っている涯と沢田を呼びに行ったカイジの背中に、零がつぶやく。
零は、カイジが自分の意図を言葉もなしに汲み取ってくれたことに嬉しさを感じ、切迫した状況とのアンバランスさに苦笑した。 はたして涯と沢田はすぐに戻ってきた。
カイジと涯と沢田。緊張の色が浮かぶ六つの瞳が零を見つめる。
「解除エリアはD‐1にしようと思います」
零は落ち着いた声で告げた。
「D‐4とD‐1、どちらを開bッるべきか悩みbワした……でもD‐1にします」
零は、カイジ、沢田、涯の三人に、零に近づくよう手招きした。
近づいてみると、デイバックで作られた死角の中に、何枚かのメモを用意されており、それを読むよう促された。
促されるままに、カイジ、沢田、涯は、息をのんでメモを覗き込む。
そこには、走り書きではあるが整った読みやすい字が連なっていた。
『D‐1を解除エリアにするのは、謎の灯台があるから。
怪しいのは次の二点』
「……じゃあ、理由を説明しますね……」
三人がメモを読んでいるのを眺めながら、零は話し続けた。盗聴する者へ向けたカムフラージュの説明だ。零の真意はメモに記されている。
『まず真新しいアンテナ。これが送受信しているものとして考えられるのが次の二つ。
首輪を爆破する電波または盗聴器の音声や監視カメラの映像。
この二つのうちいずれかと考えて間違いはないと思います。
そして動いている室外機。このことから、灯台は人が管理していると思われます。
が、灯台という建物の性質上、それほど多くの人間はいないはず。
そこにいられる人数が少ないとなると、島中に仕掛けられた監視カメラの映像や、参加者につけられた盗聴器の音声を少人数ですべてチェックするのは至難の業。
よって映像と音声をチェックしているというパターンは却下。
消去法で考えて、少数精鋭で首輪の管理にあたっている公算大。
そして、そこにいる人物ですが、ギャンブルルームにいるような黒服だと踏んでいます。
黒崎のような大物はいないはず。なぜなら、多くの兵を配置できない危険な場所を、主催者が拠点にするとは考えにくいから』
「D‐4は言うまでもなく敵の本丸……奴らの拠点……!
D‐4こそ真っ先に解除されそうなエリアだというのは彼らもわかっているはず……。
ならばなぜ、禁止エリア一箇所解禁という契約を、なぜあの主催者たちがのんだのか……?それは、奴らの戦う準備が寸分の狂いなく整っているから……!」 零が続けるカムフラージュの説明を聞きながら、カイジ、沢田、涯の三人は、そっとメモをめくった。
文字はさらに続いている。
『が、可能性はごく薄いけど、次のパターンも捨てきれません。
それは、在全無量。在全グループのトップ。彼がそこでゲームを観戦しているパターン。
本来ならば大物がそこにいる可能性は低い。理由は先ほど書いた通り。
でも在全ならあり得る。
なぜなら、奴はわがままで完全な満足以外受け付けないエゴイストだから。
たとえ自らの登場でゲームが台無しになろうと、一番のVIP席でショーを見物したい大童子。
現に、前に俺が参加したギャンブルにも、自ら乗り込んできた。
まあ、おかげで俺は命拾いしたんですが……。
今回の殺し合いのVIP席は、一歩外に出ればそこが殺戮の舞台であるこの島の建物のどこか。
殺し合いを肌で感じつつも、自分は安全エリア内……そんな特等席。
もちろんホテルで悠々と眺めるのもいい……
でも、地図に載ってない建物から、一人だけこっそり高みの見物をするが愉快……なんて子供じみた発想をしうるのが在全無量。
だから、奴がそこでこの殺し合いを観戦している可能性もあります』
(在全がいるだと……?あの灯台に……?)
カイジは思わず息をのんだ。横で沢田と涯の表情が険しくなるのを感じた。
どうやら彼らにとっても衝撃的な推理だったようだ。
続きを読もうと心が逸る。
『つまり、首輪の管理と殺し合いの観戦、この二つのパターンが考えられますが、
どちらかといえば前者の可能性が高いと考えています』
(そうだよな……いくらなんでもそんな場所に在全みたいな大物がいるとは考えにくい……)
頭ではそうだとわかっていても、カイジは鼓動が早まるのを感じずにはいられなかった。
一方で零の演説は続いていた。 「まず間違いなく待ち構えているでしょう……ホテルには……武装した大勢の兵が……!
そこに飛び込んでいくのはあまりに危険……飛んで火にいる夏の虫……。
だから避けました……D‐4を解除するのは……!
その点、地図で見る限りD‐1には大人数が隠れられそうな建物はない……しかも西側半分は海……」
『が、灯台はいずれにしても敵の急所。
うまくいけばこのゲームを転覆させられるはず。
だからこそ策なしに飛び込むのは危険……
その前に準備……敵と渡り合えるだけの「武器」を集めたいと思います』
メモが残り少なくなってきた。ページをめくる指が震える。時計の針は午前6時56分を指す。
『殺し合いが行われている場に主催者側が陣を構える以上、彼らが武装しているのは必然。
それに引き替え、こちらの武器はナイフと警棒とバット。
あまりに心もとない。
せめて銃火器か防具がほしいところ』
「戦闘になったときに、D‐1の方がまだ勝ちの目はあります……武器さえあれば!」
『そして、首輪に関する情報。
敵陣に乗り込んだ時に、あちらが俺たちの首輪を問答無用で爆破してくること……これが一番怖い。
首輪を解除することは難しいかもしれない。でも無力化する方法はあるはず。
それを探したいと思っています』
零は一旦言葉を区切り、目を閉じて標、坂崎、板倉、そして赤松の顔を思い浮かべた。
標がいち早く灯台の謎に気付き、赤松が届けてくれた。しかしその赤松も帰らぬ人となった。
灯台を調べることは、この島で散っていった仲間たちの遺志を継ぐことだという予感があった。
そっと目蓋を開ける。零の力強いまなざしが、カイジと沢田と涯に向けられた。
「……だから解除するのはD‐1……!D‐1です!」
時刻は午前6時58分。零の声が、朝の澄んだ空気を静かに震わせた。 ◆
「クゥクゥクゥ……愉快愉快!儂の思った通りじゃ……!」
盗聴器から聞こえてくる会話に耳をそばだてていた在全無量は、零の宣言を聞き快哉の声を上げた。
しかしその顔に浮かぶのは、喜びの笑みではなく、残忍で歪んだ愉悦だった。
「宇海零……小憎らしい餓鬼……!
踊れ、儂の掌の上で……踊り狂って死ね……!」
在全は零の破滅を夢想し、獣のように舌なめずりをした。
◆
「それで……これからどうすんだ、零」
沢田が零に静かに問いかけた。
「そうですね……まずは強力な武器を探しましょう。でもこれが案外難しい」
そう言う零の横顔を、涯はなぜと言わんばかりの表情で伺う。
「強い武器ほど、すでにこのゲームに乗ってる人間の手に渡ってるはずです。
誰かを殺したら、その人から使えそうなものを奪うのは当然……それが武器でもチップでも……。
つまり、誰かを殺せば殺すほど、強化されていく仕組み……それがこのゲームの定め。
だから難しい……武器を集めるのは……案外!」
確かにそうだ、と涯は頷いた。
現に涯自身、自ら手にかけた安岡からバットを奪っているのだから。
その暗い事実が、零の言葉の説得力を増した。
武器を手に入れるためには、誰かを殺さなければならない。
殺人を止めるために打倒主催者を掲げるこのチームにとって、この理論に従うことは本末転倒だった。
「零の言うとおりだ……このゲームは武器の奪い合いでもある……。
武器は手に入らない……誰かから奪わないかぎり……!」
カイジが苦しげにつぶやく。
「でも……作れないか?……自分たちで……!」
え?と零が顔を上げる。
「ガソリンと肥料を混ぜれば、爆弾になるって聞いたことがある……!
それくらいの材料なら、この島を探せばどこかに……!」 興奮気味に話すカイジに対し、零の顔は暗い。
「いえ……それはできません。
現在市販されてる肥料は安全性が高められてるんです……そういう使い方を避けるために……。」
「……そうなのか。やっぱり物知りだな、お前……」
零は、風船が萎むように肩を落としたカイジに、申し訳なさそうに告げる。
武器を作るという発想は、この閉塞状況を抜け出す突破口となる道に思えた。しかしその可能性が薄いとわかり、失意が広がっていく。
四人は出口の見えない迷路の中へ陥った。
しかしカイジの脳裏に、ある考えが閃いた。
「有賀はどうだ……?」
「有賀?」
唐突に飛び出した殺人鬼の名前に、零、涯、沢田の三人は首を傾げた。
「あいつは、ゲーム開始直後から人を殺していた……。
俺達があいつと出会ったときには、すでに6人は殺していた計算……チップを6800万円分持っていたから……。
でも、あいつの武器はナイフとマシンガンのみ……それとヘルメット……。
割と身軽だった……!6人も殺していたにしては……!
つまり、死体から奪った荷物をどこかに隠していた可能性大……!
もしかしたら、使えそうな武器があるかも……!」
「確かに……!あっ……森田さんのメモ……!」
そう叫ぶと零は森田から受け取ったメモを掴み、勢いよくめくり始めた。
「あった……D‐5別荘!
有賀はここに一度立ち寄っている……!
あります!ここにいらない荷物を隠していた可能性は十分に……!」
零は地図とメモを交互に見比べ、興奮気味に叫んだ。
「それじゃあ……もしかしたら、そこには……!」
涯が息をのむ。零がうなずく。
「ああ……その中に武器があるかはわからないけど……物資を手に入れることさえ困難な状況……!
そこに行く価値はある……!」
風穴……!カイジの閃きが、この閉鎖空間に風穴を開けた。
反撃の手がかりが見つかるかもしれない……一同は、そこから吹き抜けた一陣の風が、この停滞した空気を吹き飛ばしていくのを感じた。 「……決まりだな。行くんだろ、そこに……」
沢田のこの言葉がきっかけとなり、四人はそれぞれ荷物をまとめ始めた。
「しかし零よ。あと一つの武器はどうすんだ……」
荷物をまとめながら、沢田が零に尋ねる。
零は一瞬気まずそうな表情を浮かべた。
聞かれたくないことを聞かれてしまったという顔だ。
あと一つの武器……それは、首輪を無力化する方法である。
首輪を無力化するために必要な情報はいくつかあるだろうが、その中でも特に重要な情報は、電池と電波に関する情報だと零は考えていた。
この首輪を動かしている電池の情報がわかれば、どうにかして電池切れにさせ、首輪を使い物にならなくしてしまうことができるかもしれない。
また、電波の周波数や電波の届く範囲が判明すれば、首輪が爆発される恐怖から逃れることも夢ではなくなる。
つまり、首輪の電池や電波の情報は、参加者にとってのどから手が出るほどの垂涎の情報なのだ。
これらの情報を手に入れ首輪を無力化したいと思う一方で、零は、それは無理に等しいと感じていた。
首輪はこのゲームを成立させる最重要の道具であるため、参加者の手で無力化されることがあってはならないからだ。
そのため主催者は、この島に首輪を無力化させるための手がかりを何一つ残してはいないだろう。
だから、現在島にある情報や物資だけでは、首輪を無力化することは出来ないのだ。
首輪を無力化するためには、主催者しか知りえない首輪の情報を、主催者から直接聞きだすしかない。
もちろん、首輪の情報などという重大な情報について主催者が口を割るとは考えられない。
ところが零にはある考えがあった。
零はしばし考えた後、メモに何か走り書きをすると、沢田に読むよう促した。
『情報が少なすぎるので、現段階での首輪の無力化はおそらく不可能です。
首輪を無力化する方法を探すには、まず情報……それも主催者しか知らないような情報が必要です。
なので、首輪の情報をかけて主催者側にギャンブルを仕掛けようと思っています。
きっとそのギャンブルでかけるものは命……でも、勝ちさえすれば手に入るものは大きい』 零のメモを呼んだ沢田は、思わず息をのんだ。
首輪の情報をかけて主催者にギャンブルをしかける、なんてことは思いもしなかったのだ。
確かに、森田という前例がある以上、主催者とのギャンブルが出来る可能性はある。
しかし森田の場合、ギャンブルを持ちかけたのは主催者側だった。
(参加者から持ちかけるとは、あまりに大胆…… )
主催者が交渉に乗るだろうか?沢田の心に懸念がよぎる。
だが、それだけではない。
(仮にギャンブルで勝ったとして……首輪の情報……そんな第一級の情報を明け渡すだろうか?主催者連中が……)
沢田は零の顔を見た。
額に汗を浮かべつつ、険しい顔をしているものの、わずかに紅潮している。
冷静を装ってはいるが、やっと見つけた反撃の糸口に、この少年が内心興奮していることが伝わってきた。
(零は信用しているんだろうな……「ギャンブルルームでの契約は絶対」「ギャンブルルームでの暴力の禁止」……あの文言を……)
沢田の予想は的中していた。
ギャンブルルームの中で交わされた約束は、主催者であっても守らなければならないはず。
そこが隙だと、零は考えていた。
あのルールがある以上、もしギャンブルで零が勝ったとしても、暴力で勝負をなかったことにするなどできない。
こちらが勝ったら、契約通り情報を明け渡さなければならないはずだ。
たとえギャンブルでやり取りするのが命であろうと、ギャンブルで負けさえしなければ、命を脅かされることはないだろう。
これが零の思惑だった。
しかし沢田の考えは違う。
ギャンブルルームのルールは絶対であるという考えには、沢田も概ね賛成である。
主催者がルールを無視した身勝手な行動をすることは、ゲームの興を削ぐことになってしまうからだ。ルールの遵守は徹底しているはずだ。
森田との契約のように、直接主催者には影響の無い取り決めならば、主催者もルールに従うだろう。
(しかし、こと首輪に関する情報となると、話は別だ……) 首輪の情報が参加者に漏れれば、主催者にとって命取りになる可能性がある。
なぜなら、主催者の絶対的優位が揺らぐ可能性を生むからである。
というのも、首輪を好きなときに爆破できるということが生む優位――参加者の生殺与奪を握っているという事実――は、主催者が絶対に手放したくない地位である。
たとえわずかな情報であっても、もしかしたらそれをヒントに首輪を無力化されるかもしれないという恐れを主催者側が抱いたら、髪の毛一本ほどの情報も参加者に漏らすはずがない。
だから、首輪に関する情報、いわば猛獣の手綱を、主催者が素直に手放すだろうかという疑念があった。
手綱から解き放たれたが最後、猛獣が飼い主に牙を剥くのは目に見えているからだ。
それゆえ、たとえ絶対のルールの下であっても、無理矢理ねじ曲げて反古にしてしまう可能性は十分ある。そもそもギャンブルに乗らない可能性も高い。
仮にギャンブルが成立して勝ったところで、有耶無耶にされるか殺されるのがオチだ。
ルールなんてまるで無視するだろう。
沢田は零ほど素直にはこのルールを受け止めていなかった。
だが、万が一、主催者側と首輪の情報をかけたギャンブルが成立し、首尾よく情報を手に入れることができたら、それはまさに命と等しい貴重な手がかりとなる。
何に代えてでも守り抜くべき情報である。それだけの価値があるのだ。
「本気か……?零……死ぬかもしれないんだぞ……」
沢田はそっと零に問いかけた。
「はい……覚悟の上です」
静かに、しかし力強く、噛み締めるように零が言った。
だが沢田は、彼の眼に死への恐怖が浮かんでいるのを見逃さなかった。
零は理解しているのだ。これから彼が進もうとしている道が、どれほど危険な道なのか。そして、その先で死神が手招きしていることも。
いくら彼が死と隣り合わせのギャンブルを潜り抜けたことがあるとはいえ、やはり死とは怖いものだ。
そして、主催者に文字通り命がけのギャンブルをしかけるということは、死の瞬間に自ら踏み出していくようなものなのだ。 零は、沢田が尋ねるまで、首輪の無力化について話そうとしなかったのは、
あわよくば、自分ひとりだけで主催者とのギャンブルに臨もうと考えていたからだろう。
人並み以上に切れるだけでなく、強い責任感と深い優しさを持っているこの少年は、仲間を命がけの大勝負に巻き込みたくないのだと察した。
(だが零よ……それじゃ俺の立つ瀬がねえぜ……)
零の決意も固いが、沢田の決意も固かった。
「零、俺も行く」
「沢田さん……でも……」
案の定、零は沢田の申し出にうろたえた。しかしそれを無視して沢田は続ける。
「お前をみすみす死なせちまったら、あの世で赤松に会わせる顔がねえんだよ……」
独り言のようにささやかれた沢田の言葉には、有無を言わせない迫力があった。
零は何か言いたそうに唇を噛んだが、静かにうなずいた。
それを見て沢田は零にメモを返すと、荷物をまとめ終えたカイジ、涯、零の三人の顔を見て言った。
「それじゃあ行くか。二手に別れよう……」
沢田はまず、カイジと涯に顔を向けた。
「カイジ、涯。二人はD‐5の別荘を目指せ。
有賀が隠した荷物がまだ残ってるかもしれねえ……もし途中の道で『何か』見つけたらそれも調べるんだ」
「ああ」
沢田は含みを持たせて「何か」と告げた。カイジと涯は、それが地下への入り口だということを察し、頷いた。
そして沢田は零をちらりと見て言った。
「俺と零は『別ルート』で武器を探す。
集合は12時間後にD‐1だ。
D‐1が解除されたかどうかくらいなら、黒服に聞けば教えてもらえるだろう……」
カイジと涯が、零が命がけのギャンブルを仕掛けようとしていることを知れば、きっと止めるか参加したいと言うだろう。
それを避けたいという零の気持ちは痛いほどわかっている。
だから沢田は、沢田と零の目的を「別ルート」としかカイジと涯には伝えなかった。
電波の無力化を探すことだと捉えることを見こしての表現だ。 続いて、荷物を分けることにした。
3000万円ある所持金は、一チーム1500万円ずつになるよう、沢田とカイジが800万円、零と涯が700万円ずつ持つことにした。
誰がどの武器を持つかには少し悩んだが、足を怪我しているカイジが杖代わりにもなるバットを、沢田が使い慣れた日本刀と同じ要領で扱える警棒を、
零がダガーナイフを、涯が果物ナイフを持つことになった(涯は、拳で戦うと言って武器を受け取りたがらなかったが、無理矢理押しつけた)。
手榴弾は全員2発ずつ持つことにした。
「それと緊急集合の合図も決めておこう……そうだな、これを使え」
「ペットボトル?」
そういって沢田が見せたものは、支給品の水が入ったペットボトルだった。
「虫眼鏡を使って火を起こしたことはないか?」
「ああ……あったな、そんなの。昔理科の実験で……。
こう、光を集めて……」
カイジが虫眼鏡をかざすような仕草をしてみせる。
「そうだ。それと同じ要領で、こいつでも火が起こせる……少々時間がかかるがな」
どうやら、水の入ったペットボトルでも、虫眼鏡で火を起こすのと同じように火を起こすことができるらしい。
「もし何か大変なことが起きた場合、これを使って二つたき火を作れ。
そしてすぐにその場から離れろ……それを狙って殺しに来る輩がいるかもしれねえからな。
そしてD‐1に向かうんだ。二つ煙が上がったら、緊急集合の合図ってわけだ」
カイジ、零、涯はうなずいた。
「これから分かれて探索することになるが、何も見つからなくたって構いやしねえ。
いいか……無茶はするなよ」
沢田が低い声で告げる。カイジと涯が真剣な表情でその言葉を聞いている横で、零はこの言葉は自分にも向けられていることに気づき、胸が痛んだ。
「生きるんだぞ……お前ら……」
沢田はそう告げると、民家の扉に手をかけた。
そして、血生臭い地獄に転がる一片の希望のために、扉を開いた。 【E-3/民家/朝】
【沢田】
[状態]:健康
[道具]:高圧電流機能付き警棒 手榴弾×2 不明支給品0〜3(確認済み) 支給品一式×2
[所持金]:800万円
[思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 主催者に対して激しい怒り 赤松の意志を受け継ぐ 零を守る
※主催者が首輪の情報をかけたギャンブルに乗る可能性は低いと考えています。もし乗ったとしても、約束が反故にされるか殺されると考えています。
※12時間後にD‐1でカイジ、涯と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。 【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません
手榴弾×2 麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 参加者名簿 森田の手帳
不明支給品 0〜1 支給品一式
島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
カイジと作った参加者リスト(『田中沙織にとって敵か否か』)
[所持金]:700万円
[思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 主催者と首輪の情報をかけたギャンブルをする
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D‐1灯台のこと、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
※カイジから参加者名簿、パンフレットを預かっています。目を通すまで借りていられます。
※森田から手帳をもらいました。手帳には森田がフロッピーを壊すまで、一時間ごとの全ての参加者の行動が数行で記されています。
※田中沙織に関する情報を交換し、カイジと『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※D‐1の灯台には、在全がゲームを観戦している可能性がわずかながらあるものの、おそらく黒服が首輪の電波の管理をしているだろうと考えています。
※首輪の情報をかけたギャンブルで主催者に勝った場合、ギャンブルルームのルールがある以上、
暴力を振るわれたり約束を反故にされたりすることはないだろうと考えています。
※12時間後にD‐1でカイジ、涯と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。 【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所、応急処置済) 鳩尾にごく軽い打撲
[道具]:鉄バット 手榴弾×2 地図 小型ラジカセ 支給品一式
[所持金]:800万円
[思考]:田中沙織を気にかける 仲間を集め、このギャンブルを潰す
一条、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
平井銀二の仲間になるかどうか考える 下水道(地下道)を探す D‐5別荘で武器を手に入れる
※アカギのメモから、主催者はD‐4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※今日の夕方にE-4にて待つ、と平井銀二に言われましたが、合流するかどうか悩んでいます。
※田中沙織に関する情報を交換し、零と『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※参加者名簿、パンフレットは一時的に零に預けてあります。
※零と沢田が主催者にギャンブルを持ちかけようと考えていることを知りません。電波無力化の手段を探すと考えています。
※12時間後にD‐1で零、沢田と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。
【工藤涯】
[状態]:健康 右腕と腹部に刺し傷 左頬、手、他に掠り傷 両腕に打撲、右手の平にやや深い擦り傷 (傷は全て応急処置済み)
[道具]:果物ナイフ 手榴弾×2 野球グローブ(ナイフによる穴あり) 野球ボール 支給品一式×3
[所持金]:700万円
[思考]:田中沙織を気にかける 零と共に対主催として戦う 下水道(地下道)を探す D‐5別荘で武器を手に入れる
※零と沢田が主催者にギャンブルを持ちかけようと考えていることを知りません。電波無力化の手段を探すと考えています。
※12時間後にD‐1で零、沢田と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。
―――
以上です。
リレーSS初参加のため、読みにくい点などあったかと思います。
ご指摘いただければ今後の参考にいたします。
完結できるといいですね。 まとめwikiへの移動方法がわからないので、
申し訳ありませんが、どなたか編集してくださると助かります…。 投下乙です!
リレー形式のSS初投稿とは思えない完成度の高さでした。
キャラクターの言動も自然で読みやすかったですし、特に矛盾もないと思います。
>そして、血生臭い地獄に転がる一片の希望のために、扉を開いた。
この最後の一文が格好いい。痺れました。
まとめwikiの件ですが、今まで数日後〜一週間後にまとめられる事が多かったので
(スレで指摘があった場合、まとめられる前に書き手氏が訂正レスをつけることもあったため)
もう少し間を置いてからにしますね。
あまりwikiに詳しいわけではないのですが編集した事はありますので…
初投稿お疲れ様でした。完結出来れば良いですね。 投下乙です。
丁寧な文章とそれぞれの考えとその描写、とても始めてとは
思えませんでした。
財全の思惑通りになってしまいましたが、
零たちも対策を打ち…
先が気になります。
まとめは今週中に私の方で行います。
私も次の作品頑張ります。 >>54
まとめwikiの件について、丁寧な返信ありがとうございます。
編集もしていただけるようで、助かります。
温かい感想もありがとうございます。
ロワの続きですが、また何か思いついたら書きたいと思っています。
その際には、またどうぞよろしくお願いします。 >>55
名物書き手の方に感想を頂けて恐縮です。
まとめもしていただけるということで、ありがたいです。
次回作楽しみにしています! まとめwikiへの編集ありがとうございます。
申し訳ないのですが、本文と状態表に修正箇所がありましたので、修正させていただきます。
>>49
修正前
続いて、荷物を分けることにした。
3000万円ある所持金は、一チーム1500万円ずつになるよう、沢田とカイジが800万円、零と涯が700万円ずつ持つことにした。
誰がどの武器を持つかには少し悩んだが、足を怪我しているカイジが杖代わりにもなるバットを、沢田が使い慣れた日本刀と同じ要領で扱える警棒を、
零がダガーナイフを、涯が果物ナイフを持つことになった(涯は、拳で戦うと言って武器を受け取りたがらなかったが、無理矢理押しつけた)。
手榴弾は全員2発ずつ持つことにした。
修正後
続いて、荷物を分けることにした。
3000万円ある所持金は、一チーム1500万円ずつになるよう、沢田とカイジが800万円、零と涯が700万円ずつ持つことにした。
誰がどの武器を持つかには少し悩んだが、足を怪我しているカイジが杖代わりにもなるバットを、沢田が使い慣れた日本刀と同じ要領で扱える警棒を、
零がダガーナイフを、涯が果物ナイフを持つことになった(涯は、拳で戦うと言って武器を受け取りたがらなかったが、無理矢理押しつけた)。
手榴弾は全員2発ずつ持つことにした。
零は、借りていた参加者名簿とパンフレットをカイジに返した。
※最後の一文を追加しています。
それに伴い状態表も修正いたします。 修正2
>>51
【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません
手榴弾×2 麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 参加者名簿 森田の手帳
不明支給品 0〜1 支給品一式
島内施設の詳細パンフレット(ショッピングモールフロアガイド、旅館の館内図、ホテルフロアガイド、バッティングセンター施設案内)
カイジと作った参加者リスト(『田中沙織にとって敵か否か』)
[所持金]:700万円
[思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 主催者と首輪の情報をかけたギャンブルをする
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D‐1灯台のこと、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
※カイジの持っていた参加者名簿、パンフレットに目を通しました。
※森田から手帳をもらいました。手帳には森田がフロッピーを壊すまで、一時間ごとの全ての参加者の行動が数行で記されています。
※田中沙織に関する情報を交換し、カイジと『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※D‐1の灯台には、在全がゲームを観戦している可能性がわずかながらあるものの、おそらく黒服が首輪の電波の管理をしているだろうと考えています。
※首輪の情報をかけたギャンブルで主催者に勝った場合、ギャンブルルームのルールがある以上、
暴力を振るわれたり約束を反故にされたりすることはないだろうと考えています。
※12時間後にD‐1でカイジ、涯と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。
2つ目の※の内容を書き換えました。 修正3
>>52
【伊藤開司】
[状態]:足を負傷 (左足に二箇所、応急処置済) 鳩尾にごく軽い打撲
[道具]:鉄バット 手榴弾×2 地図 小型ラジカセ 支給品一式 参加者名簿 パンフレット
[所持金]:800万円
[思考]:田中沙織を気にかける 仲間を集め、このギャンブルを潰す
一条、兵藤和也、鷲巣巌に警戒
赤木しげる(19)から聞いた情報を元に、アカギの知り合いを捜し出し、仲間にする
平井銀二の仲間になるかどうか考える 下水道(地下道)を探す D‐5別荘で武器を手に入れる
※アカギのメモから、主催者はD‐4のホテルにいるらしいと察しています。
※アカギを、別行動をとる条件で仲間にしました。
※今日の夕方にE-4にて待つ、と平井銀二に言われましたが、合流するかどうか悩んでいます。
※田中沙織に関する情報を交換し、零と『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※零と沢田が主催者にギャンブルを持ちかけようと考えていることを知りません。電波無力化の手段を探すと考えています。
※12時間後にD‐1で零、沢田と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。
[道具]に参加者名簿とパンフレットを追加し、5つ目の※を削除しました。 たびたびすみません。>>59の修正内容が不十分でしたので、再び修正します。
こちらが完全版です。
修正4
【宇海零】
[状態]:健康 顔面、後頭部に打撲の軽症 両手に擦り傷
[道具]:毒を仕込んだダガーナイフ ※毒はあと一回程度しかもちません
手榴弾×2 麻雀牌1セット 針金5本 標のメモ帳 森田の手帳
不明支給品 0〜1 支給品一式
カイジと作った参加者リスト(『田中沙織にとって敵か否か』)
[所持金]:700万円
[思考]:田中沙織を気にかける 対主催者の立場をとる人物を探す 涯と共に対主催として戦う 主催者と首輪の情報をかけたギャンブルをする
※標のメモ帳にはゲーム開始時、ホールで標の名前が呼ばれるまでの間に外へ出て行った者の容姿から、
どこに何があるのかという場所の特徴、ゲーム中、出会った人間の思考、D‐1灯台のこと、標が市川と合流する直前までの情報が詳細に記載されております。
※カイジの持っていた参加者名簿、パンフレットに目を通しました。
※森田から手帳をもらいました。手帳には森田がフロッピーを壊すまで、一時間ごとの全ての参加者の行動が数行で記されています。
※田中沙織に関する情報を交換し、カイジと『田中沙織にとって敵か否か』の表を作りました。生存している参加者の外見的特徴が記載されています。
※D‐1の灯台には、在全がゲームを観戦している可能性がわずかながらあるものの、おそらく黒服が首輪の電波の管理をしているだろうと考えています。
※首輪の情報をかけたギャンブルで主催者に勝った場合、ギャンブルルームのルールがある以上、
暴力を振るわれたり約束を反故にされたりすることはないだろうと考えています。
※12時間後にD‐1でカイジ、涯と合流する予定です。緊急集合の合図も決めました。
[道具]から参加者名簿とパンフレットを削除しました。
何度も修正をして申し訳ありません。
お手数ですが、まとめwikiの修正もしていただけると助かります…。 まとめた者ではないですが、文章だけの修正でしたら
1.「出勤」のページを開く
2.左上のタブ「編集」から「ページ編集」をクリック
3.該当箇所の文章を修正(文章部分以外はさわらないように気をつける)
4.左上の空欄に、画像で出ている文字列(半角英数)を入力し「ページ保存」をクリック
これで編集できますよ。
後から修正したい箇所を見つけたときに自分で編集できるので、覚えてもらった方がきっと捗ると思います >>62
わかりやすい説明ありがとうございます。
そんなに手軽に編集できるとは、勉強不足でした。
おかげさまで修正をすることができました。
これを機にまとめwikiの方も勉強していきたいと思います おはようございます。
作品が完成しましたので、これから投下します。 「ああ……どうしよう……」
しづかは輝く海を眺めながら、心の内を発露する。
順当な判断ならば、どこかでノートパソコンの充電器を探し出し、最新の情報を得るべきである。
しかし、しづかはそれよりも優先すべきことを知っていた。
「眠い……」
しづかは手の甲で目を擦る。
このゲームが始まってから一睡もしていなかった。
どこかに留まろうとするたびに戦闘に巻き込まれ、逃げて隠れてを繰り返し――気付いたら夜明けを迎えていた。
しづかの体力は当の昔にピークを越えていた。
足に関してはもはや感覚がない。
それでも、ここまで動いていられたのは誰かに殺されるかもしれないという恐怖感があったが故であった。
しかし、この場所ではその恐怖を感じる必要はない。
バッテリーが切れる前のパソコンの情報が正しければ、現在、このB−7エリアには参加者は一人もいなかった。
沙織の墓があるということは少し前に黒沢がいたようであるが、丁寧に埋葬した墓に再び戻ってくることは考えにくい。
「100%じゃないけど……安全だな……」
しづかはここで仮眠を取ることに決めた。
欲を言えば、墓の近くなんかではなく、ベッドのある場所で眠りたいが、その場所を探して歩けば、誰かに出くわす可能性がある。
それに、仮に誰かが近づいたとしても、墓の存在を薄気味悪がって、しづかを見つける前に退散するに違いない。
「こんな何もない辺鄙な場所に来たところで……メリットなんて何もありゃしないさ……」
しづかは辺りをきょろきょろ見渡す。
少し先に林と茂みがある。
しづかは茂みの中に身を隠すと横になった。
横になった途端、身体と思考が溶けていくような虚脱感が広がっていく。
茂みの葉がしづかの肌をちくちくとつつくが、疲労がたまっていたしづかからすれば、そのむず痒さも羽毛布団の肌触りように感じられる。
「誰も…来ないでくれ……よ……」
しづかはそう願いながら、眠りの底に沈んでいった。
その願いは聞き届けられないとも知らずに――。 話は少し前に戻る。
しづかがこの場所へ来る前、黒沢と仲根は二つの墓の前で手を合わせていた。
神妙な面持ちの黒沢に対して、仲根は目を半開きにして黒沢の横顔をチラチラと覗き見る。
墓の主は坂崎美心と田中沙織。
黒沢の説明によると、坂崎美心は最初に黒沢と同行していた女性らしい。
黒沢が美心の墓の隣に沙織も埋葬したいと話した時は、仲根はその場所の遠さから難色を示した。
しかし、沙織を殺害したのは自分自身である手前、主張を押し通すこともできなかった。
黒沢の意志を受け入れた一番の理由はそれであるが、二人を弔うことで、黒沢も気持ちを切り替えることができるという狙いも少なからずあった。
黒沢は沙織が死んでから憔悴した表情となり、言葉も減ってしまった。
しかし、埋葬という儀式で沙織の死は終わったことなのだと割り切ってくれれば、ゲームの棄権の手続きを行うことができるである。
そう考えた仲根は率先して埋葬を手伝った。
美心と沙織の墓に墓標となる枝を立てることを提案したのも仲根だった。
この崖に向かう途中のトイレで思い付いた仲根は枝を探し、黒沢に渡したのだ。
枝は左右に均等の長さで伸びており、十字架を連想させた。
それを見た黒沢は“これで少しはお墓らしくなるかな……”と微笑した。
この瞬間、仲根は黒沢の感情の変化に手応えを感じた。
沙織の死の悲しみから抜け出し始めている、と。
その後も、仲根は殊勝な態度と表情で、沙織の埋葬を手伝った。
しかし、当然ながら弔うつもりは毛頭なく、この儀式が早く終わることだけを願っていた。
黒沢はゆっくり顔をあげ、手を降ろした。
仲根はさっそく黒沢に声をかけた。
「なぁ……兄さん……棄権の件なんだけどさ……」
「二人を救えなかった……」
「えっ……」
黒沢から出てきた言葉に仲根は戸惑う。
黒沢の表情は埋葬前以上に疲労に満ちていた。
黒沢は糸が切れてしまったかのようにその場に座り込んでしまった。
「あの……兄さん……」
仲根は黒沢に声をかけようとする。
しかし、黒沢は遠くに視線を置いたまま微動だにしない。 「え……その……」
自分の存在が黒沢の中から消されているのではないかという恐怖が仲根の精神を浸食していく。
どうすれば自分の言葉に耳を傾けてくれるのか。
自分の存在を認知してくれるのか。
仲根が頭を抱えていた時だった。
「仲根……オレはな……」
黒沢は死に際の老人のような半開きの口を動かし始めた。
「初めは何が何だか分からないまま、美心さんとこの島を彷徨っていた……。
次第に彼女を守りたいって気持ちが芽生え始めた……。
その直後に、美心さんは殺された……」
黒沢は沙織の墓に掛けられている首輪に触れた。
「その後出会ったのが、沙織さんだ……。
オレは彼女とすごして、こんなゲームを考えた主催者達が全部悪いって気付いた……。
彼女をこんな目に合わせた奴らを倒したい、そして、美心さんの代わりに彼女を守りたいと思った……けど……」
黒沢の手は力なく地面についた。
「兄さん……」
仲根は申し訳なさそうに俯いた。
今、黒沢の心の中では沙織を失ってしまった悲しみが重くのしかかり、黒沢の心を潰そうとしている。
(オレ……兄さんの大切なものを奪ってしまった……)
黒沢から沙織を奪ってしまった行為は、仲根から黒沢を奪ってしまったことと同等の意味を持つ。
今更ながら、それを思い知った。
(オレが兄さんの立場なら……)
やるべきことは一つである。
仲根は黒沢の手を取り、自分のナイフを握らせた。
「兄さん……オレを殺してくれっ!!」
仲根は涙で咽び泣きながら、黒沢に訴えた。
もし、黒沢が誰かに殺されれば、仲根は相手にどんな理由があろうとも、地の果てまで追いかけ復讐を遂げるであろう。
ならば、黒沢にも復讐を遂げさせるべきだ。
仲根は棄権会場への道筋を佐原の言葉で知るまでは、黒沢を優勝させるために他者を殺害し、最後は自決すると決意していた。
今更、自分の命は惜しくない。
これが、仲根の導いた結論であった。 「な……何を言っているんだっ!」
抜け殻のようになってしまった黒沢も、さすがにこの申し出は無視できるはずもない。
思わず仲根の手を払いのけ、その身体を突き飛ばした。
「オレは誰にも死んでほしくないんだっ!!!」
熱い涙がつき走るように黒沢の目から流れ出た。
呆然とする仲根の肩を掴み、身を震わせて嗚咽する。
「オレはお前を恨んでいないっ……!死んでほしくないっ……!
ただ、考え方を改めてほしいっ……!
これ以上、命を奪うのはやめてくれっ……!自分のものも含めてだっ……!!」
「兄さん……でも、オレっ……」
黒沢の心からの懇願に居た堪れなくなった仲根は黒沢から顔を背き、幼子のようにしゃくり泣く。
「殺さなくちゃ……助からないんだっ……!
それ以外に助かる方法なんてないんだっ……!」
「いや、助かる方法はあるっ!主催者をた……」
――倒せば、皆、助かるんだ。
しかし、黒沢は全てを言い終わる前に口籠ってしまった。
主催者はバトルロワイアルという殺し合いをいとも容易く開催できる組織である。
しかも、その殺し合いに見合う武器を参加者に支給している。
参加者に支給できるのであれば、主催者自身も何らかの武器を所持していてもおかしくはない。
もし、反撃の狼煙をあげれば、向こうからそれ相応の制裁――銃器を用いた反撃、もしくは首輪爆破が待っているのは目に見えている。
妻子のいない自分は、最悪どうなったとしても構わないが、未来がある仲根を死地に赴かせるわけにはいかない。
何より、仲根の手をこれ以上汚させたくなかった。
黒沢は仲根の手にチップが入った袋を握らせた。
「これは沙織さんが持っていた1億円分のチップだ……お前は棄権しろ…!」
「兄さん……そんな……」
仲根はわなわなと唇を震わせながら、視線を手の中にある袋に落とす。 自分は助かるつもりはない。
黒沢の明確すぎる意志表示。
この世には自分の可愛さ故に、慣れ合いながら保身をはかろうとする大人達が大勢いる。
それに対して、黒沢は常に捨て身で現実と戦い、弱者がいれば、身を呈して守る。
自分の命を失うことになったとしても――。
まさに現在に蘇った侍。
仲根が惚れ込んだ男の生き様なのだ。
仲根はそれを噛みしめながら、袋を握り締める。
「兄さん……けどさ……」
黒沢はこのゲームで愛する女性を失い、金は全て他人に差し出した。
今や残されているのは命のみである。
仲根は黒沢と合流する前、参加者同士の乱戦の音を確認していた。
黒沢は残念ながら殺傷能力が高い武器を持ち合わせてはいない。
命を狙われれば、一方的に仕留められてしまうのは目に見えていた。
黒沢の意志を尊重すれば、その先に待ちかまえているのは“死”。
仲根は改めて決意を固める。
どこの誰よりも貴い意志を持つ男を、この世界から消してはいけないと。
たとえ、それが黒沢の意志を捻じ曲げる行為だとしても――。
「やっぱり…兄さんが棄権するべきだ……」
仲根はチップの袋を黒沢の手に返した。
「仲根……」
黒沢は意気消沈し、小さなため息をつく。
仲根はこれまで黒沢の棄権費用を稼ぐため、参加者達を襲ってきた。
方法は褒められたものではないが、それでも黒沢の身を案じての行為に変わりはない。
黒沢の生命を最優先に考えていた仲根が、いくら黒沢からの依願だといったところで、簡単に棄権手続に応じるはずがなかった。
ある程度予期していたこととはいえ、やはり失望は拭えなかった。 (あー……どうやって仲根を説得されりゃあいいんだ……)
黒沢は頭を掻きながら、逡巡する。
仲根から嫌われてしまうことを承知で、反論を力で押し込むという方法もある。
しかし、黒沢の先の不用意な発言によって、仲根の精神のバランスは大変不安定なものとなっている。
どこが仲根のデリケートな部分なのか。
それを選択した時、今の仲根がどう出るのか、まったく予想がつかなかった。
(オレ……苦手なんだよなぁ……こういうの……)
他人の機微に疎い黒沢にとって、仲根の心の禁忌を避けながら説得するというのは、目印のない地雷原で地雷を踏まずに進むことと同義であった。
(やっぱり、諭すように……だよな……。でも、どんな出だしをすりゃあいいっ……?)
黒沢は疲れた頭を全力で動かし、言葉を選ぶ。
しかし、その言葉が口より出るより先に次の一手を打ったのは仲根であった。
「兄さん……分かったよ……」
仲根は沙織のディバックを漁り始めると、ボーガンと矢、ヘルメットを取り出した。
ボーガンと矢を自分のディバックへ突っ込み、ヘルメットは頭に被る。
仲根は地面に置いていた改造木刀を担ぎ、黒沢の方を振り返った。
「兄さん……ちょっと“出かけてくる”っ……!」
そう言い残すと、仲根は突然、駆け出してしまった。
黒沢は仲根の背中と沙織のディバックを見比べる。
「えっ……えっ……ちょっと………………あ〜〜っ!!!」
黒沢はようやく勘付いた。
「仲根っ……あいつ、他の参加者を殺して、自分の棄権費用を稼ぐ気かっ!!」
一人分の棄権費用を譲り合うくらいなら、もう一人分の棄権費用を手に入れて二人で脱出すればいい。
標的を仕留めるため、沙織のディバックからボーガンと矢を持ち出した。
「オレは……オレは……そんなの望んじゃいねぇっ!!!」
仲根に自分の信念を理解してもらえないもどかしさを抱えたまま、黒沢は走り出した。 黒沢が自分の後を追い始めたことを確認すると、仲根は満足げに唇の端を吊り上げた。
「兄さん……オレの後を追いかけてくれよ……“ホテル”まで…!」
仲根は走りながら、視線を南西の方角へ――D−4のホテルの方向へ向けた。黒沢は何があろうと棄権しない。
ならば、黒沢を棄権会場までおびき出して、無理やり棄権させればいい。
あえて、沙織のディバックをまるごとではなく、武器のみを出して駆けだしたのは体力の消耗を減らす目的もあるが、仲根がほかの参加者を襲おうしていると黒沢に明確に示すためであった。
その思惑通り、黒沢は仲根を止めようと必死に追いかけ始めた。
このまま二人で棄権会場までたどり着けば、1億円を持っている黒沢が棄権対象と見なされ、棄権させることができる。
(うまくいけば、兄さんを外へ逃がすことができる……けど……)
棄権会場は本当にD−4ホテルの地下で間違いないのだろうか。
ソースは佐原という参加者が白状した証言のみ。確実なものとは言い難い。
しかし、黒沢を助かる可能性がある以上、この情報に縋らざるを得なかった。
「けど……もうここまで来たら、後には引けねぇっ……!」
仲根の視線は、道沿いに佇む公衆トイレを捉えた。
「あそこにあるマンホールからならっ……!」
マンホールを見つけた時のやり取りが、仲根の脳裏に蘇る。
崖へ向かう途中、仲根と黒沢はトイレに立ち寄っていた。
仲根は黒沢より早々にトイレを済ませると、外に出た。
トイレは当然ながら、下水道へと繋がっている。
その近辺ならマンホールがあるに違いないと踏んだ仲根は、黒沢に気付かれないようにマンホールを探し始めた。
仲根の読み通り、マンホールはトイレの裏から発見された。
喜び勇んだ仲根がマンホールの取っ手を掴み、マンホールの蓋を持ちあげた瞬間だった。
“仲根、どこにいるんだー!”と、黒沢の声がトイレの表からこだました。
仲根は顔を強張らせ、動きを止めた。 埋葬が済んでいないにもかかわらず、棄権会場へのルートを確保しようとしていた。
黒沢の思惑に反する行動をしていることに、ばつの悪さを感じた仲根は、マンホールの蓋を少しずらして穴の上に置くと、黒沢の前に飛びだした。
黒沢と合流した仲根は咄嗟に、美心と沙織の墓標を探していたと説明。
墓標らしい体裁を繕えそうな枝を適当に見つけると、すぐにその場から離れた。
「そうだ……あと、もう少しだっ……!!」
仲根は再び、公衆トイレを見据えると、足に力を籠めた。
仲根の身体が更に加速する。
背筋は矢をつがえた弓のように反り、両腕と両足は垂直を維持したまま、力強く振り続ける。
それはかつて黒沢を追いかけた時に見せた、正しい走り方っ……!
今の仲根は人の形をした駿馬そのものであった。
仲根はマンホールまでたどり着くと、地下へ降りる際に邪魔になるであろう改造木刀の柄をディバックに差し込み、代わりにコンパスとライターを出した。
蓋と穴の隙間から吐瀉物を彷彿とさせる下水道独特の饐えた空気が漂ってくる。
何が待ち構えているのか分からないという恐怖が、仲根の心を飲みこみかける。
しかし、仲根はぐっと唇を噛みしめ、自分に言い聞かせた。
(大丈夫だっ……!この先にあるんだっ……!希望がっ……!)
仲根はマンホールの蓋を払いのけると、自身の関心を恐怖ではなく、耳に集中させた。
“仲根、どこだっ!”という呼び声と、けたたましいほどに大地を蹴る足音が、すぐに仲根の耳に飛び込んできた。
「………来たっ!」
仲根は音を確認すると、梯子を伝い、マンホールの中へ降りていった。 「仲根、どこへ行ったっ…!!」
仲根が穴の中へ消えてすぐ黒沢もマンホールの穴が開いていることに気付き、梯子を下っていく。
下に降りていくにつれ、穴の底から広がる闇が、待ちかまえていたかのように黒沢の身体を黒く染め上げていく。
眼界から陽光が失われる直前で黒沢は気付いた。
「あ……ライト持っていないっ!!」
勢いだけでここまで来たが、地下へ辿りついた所で、ライトがなければ仲根を探すどころか、どこをどう進めばいいのかさえ分からない。
「一旦、墓へ戻った方が……」
黒沢は墓の前に置いてある沙織のディバックを思い出した。
「あのディバックの中にライトが入っていたかもっ……!」
そう考え、記憶を辿るも、思い付くのは複数の食料や筆記用具、女性には不釣り合いないかめしい武器しか思い出せない。
沙織のディバックを開けたのは沙織を埋葬する前、仲根に指摘され、1億円のチップを回収した時のみであった。
沙織を弔った後で中身を確認すればいいという楽天的な考えが仇となった。
「沙織さんのディバック、持ってくればよかった……」
今更ながら、黒沢は置いていってしまったことを後悔する。
「あ……そういえば……」
初めて沙織と出会った時、暗闇の中であったが、彼女はそういった類の道具を利用していなかった。
持っていない可能性が高い。
「暗いところを歩くなら、ライトを使うよな……あっ!!」
暗闇の中で動けないのは仲根も同じはずである。
それでもあえて逃亡ルートに地下道を選んだのは、周囲を照らすことができる支給品を持ち合わせているからではないのか。
もし、地下に降りて、その光明を見つけることができれば仲根の後を追うことができる。
マッチの炎のように小さな可能性ではあるが、賭けてみるべきである。 「行くしかないかっ!」
自分に言い聞かせるように意を決すると、黒沢は再び梯子を降りはじめた。
降りていく内に、梯子の不安定な足場とは違った硬質の床が黒沢の足底にぶつかった。
黒沢は慎重に降りて辺りを見渡した。
案の定、地下は目を塞がれてしまったかのような深い闇一色であった。
「明かりが……ないっ……!」
仲根の明かりを頼りに追いかけるという黒沢の戦術が根底から崩れていく。
仲根は黒沢から姿を晦まそうとして、この地下道へ逃げ込んだのだ。
あえて、明かりを点けるなどという居場所を知らせるような間抜けなことをするはずがない。
そもそも黒沢は仲根がマンホールの中に入っていった所を目撃すらしていない。
マンホールの蓋が開いていたのは、地下へ移動したと黒沢に思い込ませるためのミスリードだったのかもしれないのだ。
「オレって……圧倒的バカ……」
勝算のない無計画な賭けをした所で、勝てるわけがない。
「くっ〜〜〜!!!!」
考えが行き届かない己の頭の悪さ、仲根に完全に撒かれてしまったという口惜しさから、黒沢は固く唇を噛みしめ、悔しがる。
「兄さん……」
霞むような声を黒沢は聞き逃さなかった。
黒沢は声がした方へ反射的に振り返る。
30メートルほど先から、淡い炎の光が怪しげに浮かび上がった。
「ひ……人魂っ……?」
黒沢は背筋を一瞬凍らせるも、目を凝らしその正体を見破った。
「な……仲根……」
炎に照らされていたのはライターを掲げる仲根の姿であった。
「お前…どうして……」
あえて居場所が割れるようなことをしたのか。
黒沢はそれを尋ねようと一歩踏み出す。
しかし、仲根は黒沢が追跡体制にいち早く気づき、黒沢から逃れるように、再び走りだした。
「あっ…!待てっ!!」
仲根を見失っては元も子も無い。
黒沢は一旦、問いの投げかけを諦め、追走を始めた。 暗く、湿った下水道の中、二人の駆ける足音が壁に反射し、こだまする。
二人は壁を伝いながら、走っていた。
仲根は走るたびにすぐに消える炎に悪戦苦闘しながらも、度々振り返り、黒沢の姿を確認。
追いつけそうで追いつけない――黒沢と一定の距離を保ち続けながら、先を急ぐ。
黒沢はそんな仲根の様子を見ながら、首を傾げた。
「やっぱり、おかしいよな……」
足を前に進ませるごとに、黒沢の疑念は膨らみを増していく。
初めに違和感を覚えたのはもちろん地下へ潜入した直後である。
その後も、仲根の腑に落ちない行動はどんどん増えていった。
例えば、ライターの明かりを絶やさないようにしている点だ。
ライターの炎は実際のところ、それほど遠くを照らすことができない。
見えるとしたら、手を伸ばして届く範囲ぐらいだろう。
下水道の中央には人一人分が寝そべるほどの幅の汚水を流すための水路があり、その両脇には水路より高めに設計された通路が伸びている。
黒沢と仲根は壁に沿うように、その通路を走っている。
仮に炎を消しても、壁に触れながら走れば、下水道の水路に落ちることはなく、姿を隠すことができる。
仲根が火を消さないのはそこまで考えが及んでいないだけなのか。
分かってはいても、暗闇に不安を覚えているからなのか。
それとも、あえて自分の位置を知らせようとしているからなのか。
そう言えば、仲根の目的は――。
突如、黒沢は“く……苦しいっ……!”と仲根の耳に届かんばかりのうめき声をあげて倒れた。 「に…兄さんっ!?」
悶え苦しむ黒沢の声に反応した仲根は、青ざめた表情で振り返る。
目に飛び込んだのは、胸を押さえながら横たわる黒沢の姿だった。
「そうだっ…!に…兄さんはっ……!」
黒沢はこのゲームに参加させられる直前まで昏睡状態の患者であった。
いくら多額の医療費を用いて回復していたとしても、本調子であるはずがない。
ましてや、ここは殺し合いのゲームの中。
命が狙われているというプレッシャー、親しい者が殺されたという傷心。
その全てが、弱っていた身体に追い打ちをかけていたとすれば――。
「兄さんっ!兄さんっ!!」
仲根は黒沢の所に駆け寄り、上体を持ちあげた。
親の死を目の当たりにした幼子のように取り乱しながら、その名前を呼び続ける。
熱にうなされているかのように乱れた呼吸、仲根の言葉への無反応、その全てが黒沢の容体の深刻さを物語っていた。
「兄さん……」
黒沢の身体を、衛生状態の悪い下水道から綺麗な空気に溢れた地上へ、すぐにでも移動させるべきである。
仲根は黒沢を抱き上げようとした。
しかし、腹周りに贅肉がついた中年の身体は、いくら通常の中学生より腕力がある仲根であったとしても、易々と持ちあがるものではなかった。
「くそっ……ならっ……!」
持ちあげるのがダメであれば、引っ張ればいい。
仲根は黒沢の肩に腕を回し、引きずろうとする。
しかし、“うぐぐっ……”と、黒沢から苦痛を訴える声が漏れた。
「に……兄さんっ!」
重度の病人である黒沢にとって、不自然な態勢にされた上、身体の一部に力が加わるのは苦痛以外の何物でもない。
却って、病状の悪化を招いてしまう可能性すらある。
「どうすりゃあいいんだっ……」
黒沢には多少我慢してもらってでも、梯子がある所まで引きずって戻るべきなのか。
しかし、仮に梯子の前まで戻ったところで、その先どうやって意識がない黒沢を背負ったまま、梯子を登ればいいのか。 自問自答を繰り返した末、仲根は悟った。
黒沢を地上まで移動させるのは不可能であると。
仲根は黒沢からディバックを外すと、黒沢の身体をゆっくり床に横たえた。
黒沢のディバックを枕の代わりに黒沢の頭の下に敷く。
仲根も自分のディバックを降ろし、黒沢の隣に座りこんだ。
今、仲根ができることは、黒沢を見守り、身体の回復を祈ることのみであった。
仲根はライターの炎で黒沢の顔を照らしながら、ぽつりぽつりと詫びる。
「兄さん、オレが悪かったっ……。オレ、兄さんを棄権させたくて……武器を持って逃げれば、棄権会場まで追いかけてくれるかと思って……」
なぜ、自分は黒沢の身体のことを何一つ考えず、黒沢の体力を削るような作戦を立てて実行してしまったのか。
自分の目的は黒沢を助けること。
黒沢の身体を尊重しなくて、それを成すことができるはずがないというのに。
「兄さん…すまないっ…」
悔恨、自責、憤り。
万感の思いが、仲根の心を蹂躙する。
それは涙として、ほとほとと仲根の目から零れ落ちた。
そんな心からの詫びも涙も、今の黒沢には届かない。
黒沢はこのまま息絶えてしまうのではないのか。
仲根にとって、その結末は黒沢から疎まれる以上の絶望であり、最悪のシナリオであった。
仲根は神に縋るように心願を口にする。
「兄さん……元気になってくれよ……」
「そこまで言うならな……」
前触れもなく、黒沢は俊敏に身体を起こすと、仲根のライターを握る腕を強く引っ張った。
「えっ……」
呆然自失の面持ちのまま、仲根は態勢を崩し、床へと吸い寄せられる。
黒沢はバネに弾かれたパチンコの玉の如き俊敏さで仲根の背後へ回り、その手足を押さえ込んだ。
仲根は黒沢の体重で床に叩きつけられる。
あっという間に、仲根の身体は床に押し付けられてしまった。
仲根は辛うじて動く頭を持ち上げ、黒沢の方を振り返る。 「び……病気で倒れたんじゃ……」
「ん……?何の事だか分からないな……」
ここでようやく仲根は気付いた。
「兄さん、騙したなっ!!!!」
「あのなあ……先に騙したのはそっちの方だろうが……」
黒沢は半ば呆れながら、指摘する。
「うっ……」
懺悔という名の暴露をしてしまった手前、仲根はそれに反論できるはずもなかった。
これ以上、黒沢に合わせる顔がない。
仲根は顔を床に押し付け、黙り込んでしまった。
痛みに耐えるような沈黙。
しかし、その沈黙の重みも、すぐに限界に達してしまったのか、仲根は胸にわだかまる疑問を口にする。
「あ…あの…兄さんはいつ頃から気付いていたんだ……」
「あ…ああ……いつ頃から……か……」
会話の糸口を見つけたことに黒沢は僅かな安堵を覚えつつも、流れの主導権を奪われないための条件を提示する。
「オレから逃げないって約束するなら説明するが……どうする……?」
「逃げない……」
「分かった……」
仲根の意志を改めて確認した黒沢は仲根から降りた。
仲根からディバックを奪われないようにするための配慮から、黒沢はあえてディバックを背負い、居住まいを正すように床に正座した。
黒沢から解放された仲根は自身のディバックを遠ざけ、黒沢に叛逆の意志を持っていないことを示しつつ、黒沢の礼に従い対座する。
「じゃあ、話すぞ……」
黒沢は仲根を傷付けないよう、言葉を選びながら精一杯さりげない口調で種明かしを始めた。 今朝は申し訳ありませんでした。
これから投下再開します。 「そうか……兄さんは地下へ降りた時辺りから怪しく思っていたのか……」
仲根の呟きに対して、黒沢は無言で頷く。
「もし、お前がオレを棄権させるために地下道を走っているのであれば、オレの身に万が一のことが起こった時、お前は駆けつけてくれるはず……。
だから、心臓が悪くなった振りをして倒れたんだ……」
仲根は力ない苦笑を浮かべ、俯いた。
「初めはさ、上手くいくと思っていたんだ……兄さんがオレのことを何も疑いもせず、追いかけてくれて……。
棄権会場まで着いたら、1億円を所持している兄さんが自動的に棄権になるって……」
「あのさ、仲根…オレ、思うんだけどさ…」
そこで言葉を一旦区切り、黒沢は天井を睨んだ。
「お前の考えていた方法じゃ、さっきみたいに何らかの原因があって、オレが走るのをやめちまえば、お前をすぐに見失っちまうだろ……?
もし、お前の作戦を本当に成功させたかったら、あの時のオレの提案を受け入れて、自分が棄権すると一旦、宣言してさ……。
ただ、棄権会場まで行く自信がないからついてきてほしいって頼み込むっ……。
そうすりゃあ、お前とはぐれる心配もなかったし、何より、オレはお前のことを疑わなかった……」
「あ……う〜ん……」
仲根は返事に困り、唸った。
どうもこの考えには一度も至ったことがなかったらしい。
仲根は自分の行動を顧みるように考え込んだ末、伺い知れない悲しみを含んだ眼差しで、寂しげに言葉を発する。 「もう遅いかもしれないけど……オレ、会場へ行ける自信がないんだ……。
だから、兄さん、会場前まで一緒に来てくれないかな……なんてな……」
「うん……もう遅いぞ……」
黒沢は仲根の冗談を軽くあしらいながら、思索する。
黒沢が出した作戦は落ち着いて考えれば誰でも思い付くことができたはずである。
しかし、仲根は終始、それを思い付くことはなかった。
以前、女の娘たちとのプールでのデートで、黒沢が周囲の女性に欲情し、エロスイムをしてしまった時も、仲根は機転を利かせた説明をし、場を収めたこともあった。
本来、仲根は頭の回転が速い少年なのだ。
その仲根が、偏狭な考えで行動するようになってしまった。
1秒でも早く棄権会場に到着し、黒沢を助けなければならないという焦りが、一時的にそうさせたに違いない。
ゲームから解放されれば、黒沢が良く知る仲根に戻るはず。
そう断定しようとする反面、黒沢には一つの考えが警告音のように脳裏に響き渡っていた。
仲根の精神はすでに歪んでしまい、もう元には戻らないと。 仲根はゲームが始まって早々、人を一人殺めている。
その後も、数多の人間を襲ってきた。
殺人というのは、物事を解決する上で最も安易な解決方法である。
殺害すれば、相手は二度と反撃や反論をすることはないのだから。
一度、この方法を覚えてしまった今、仲根は物事を解決するために、最善ではなく、その場で簡単に思いつく方法、しかも道徳を度外視する方法を選ぶようになってしまっているのかもしれない。
(そんなの人間の行動じゃないっ……!動物の行動だっ……!)
ほんの些細な不安が、胸のしこりを吸い込んで大きくなる。
(いや、あいつは人間だっ……!
今の仲根は少し精神が不安定になる時があるだけなんだっ……!
それ以外は正常っ……!
現に、オレとちゃんと会話をしているし、まともな受け答えをしているっ……。
そうだ、オレがちょっとした問題点を過度に気にし過ぎているだけなんだっ……!)
黒沢はどうにか建設的な方向へ思考を持っていこうとする。
しかし、黒沢が沙織への思いを語った時、仲根が自分を殺してくれと極端なことを口走っていたことが脳裏に過る。
黒沢が捗々しい事項をあげればあげるほど、それ以上に“仲根は狂っている”という不愉快な疑惑が、黒沢の願意を否定するかのように頭をもたげる。 (ただ……)
仲根の思考の変化が一時的にしろ、長期的にしろ、その原因は黒沢自身であった。
仲根は黒沢を救うため、人を殺した。
黒沢は仲根の行動と思考を叱責し、その罪の重さを焙り出した。
仲根の心は黒沢の言葉で大きな傷を負ってしまった。
(オレのせいだ……オレのせいで仲根は……)
黒沢は自分の軽率さを恨めしく思う。
これ以上、仲根の精神を傷付けるわけにはいかない。
仲根の罪を増やしてはならない。
(すでに取り返しがつかない後だとしても、仲根を棄権させてみせるっ……!
必ずだっ……!!)
黒沢は胸のポケットにしまってあるチップにそっと触れ、それを改めて誓った。 「なぁ、仲根、話があるんだ……」
黒沢は大地を踏みしめるように立ちあがった。
その力強さは仲根を説得しようという意志の強さであった。
しかし、思わず取ってしまった行動が間違いであったと気付いたのはその直後であった。
「うっ!」
電気に当てられたような、むず痒い痛みが爪先から脳天まで突き抜ける。
長時間正座をしていたせいで、足が痺れてしまったのだ。
(こ……これはマズイっ……!)
真面目な話をしたい手前、何が何でも足が痺れているということは仲根に知られたくない。
黒沢は足を大きく開き、感覚のない足で何とか身体のバランスを保とうとする。
残念ながら、関取が四股を踏もうとしているようにしか見えないのだが。
「えっと……兄さん……?」
仲根は黒沢の不可解な行動に戸惑いを隠せない。
「あ……あのな……仲根っ……」
黒沢は説明しようとするも、痛みに耐えるのに精一杯で声がまともに出ない。
「お……オレはっ……お……お前と……す……」
オレはお前とすぐにでも棄権会場へ行く。そして、お前を棄権させたいんだ。
この一言を言う前に、黒沢の身体の方が限界に達した。
バランスを取ることができず、前のめりに倒れてしまったのだ。
しかし、派手に転倒したのでは示しがつかない。 「ふんっ!!」
年長者の意地から、床に手をついて、どうにか身体を支える。
その姿は腰が上がりすぎた、下手くそな腕立て伏せの構えとしか表現の仕様がない。
(“お……オレはっ……お前と……す……”……?
もしかして、オレと相撲がとりたいのか……?
兄さんがそれを望むなら……)
四股を踏むイメージが先行してしまったためか、仲根は相撲の立会いの構えと受け取ってしまった。
仲根は黒沢と向かい合い腰を落とし、火傷しないようにライターの火を消した。
「ち……ちがっ……!」
なぜ、自分と同じように仲根も屈んでしまったのか。
仲根の心境は分からないが、明らかに変な方向へ進み始めている事だけは理解できた。
姿勢は格好悪いが、今話さなければ、話す機会はなくなってしまうかもしれない。
そう直感した黒沢は半ば自棄になって叫んだ。
「仲根っ!やっぱり棄権してくれっ!」
「嫌だっ!兄さんっ!」
それが勝負開始の合図であった。
仲根は黒沢に体当たりすると、まわしの要領で黒沢のズボンを掴み、引っ張る。 「え……え〜っ!!」
黒沢は動揺のあまり、素っ頓狂な声をあげた。
黒沢には相撲という考えがない。
足が痺れている上、今の状況を把握できていない黒沢は手を床につけたまま、態勢を大きく崩してしまった。
「今だっ!!」
仲根は腕に力を込めて、後方へ押し出すように投げ飛ばした。
強豪力士の多くが得意とする、相撲の王道技――上手投げ。
相手の掴み方といい、投げ方といい、強烈且つ完璧な決まり手であった。
もし、大相撲本場所であれば、拍手と歓声、そして、座布団の舞で場内が湧いたことであろう。
「これが……若さか……」
何をどうすれば、ここまで突っ走れるのか。
黒沢は涙の雫をこぼしながら、汚水が流れる水路の中へ落ちていった。 「あっ……」
黒沢が水路に落ちた音で我に返った仲根はすぐにライターで水路を照らす。
ヘドロまみれの黒沢の姿がそこにあった。
汚水の底に溜まっていたヘドロを全身に浴びてしまっていた。
「に…兄さんっ!大丈夫っ!?」
「だ…大丈夫なわけあるかっ!!」
打ち据えた腰の痛みを押さえながら、黒沢は立ち上がった。
足の痺れはいつの間にか吹っ飛んでいた。
幸い、水路と通路の高さの差は1メートル程度であり、黒沢は自力で通路に這い上がると、仲根に食ってかかった。
「なんで、投げ飛ばしたっ!!」
仲根は己の勘違いに気付き、気まずそうに尋ねる。
「兄さんこそ、相撲を取りたくて屈んだんじゃないのか……?」
「足が痺れたからだっ!」
黒沢は何度吐き出したか分からない、深いため息をつく。
なぜ、こうも意志疎通がうまくいかないのか。
体や顔からは魚や肉が腐ったような、猥雑な臭いが漂う。 (あぁ……この姿、どこかで見たことあるな……。
あれは全身う○こまみれになったう○こ男だっけ……?
いや……オレはヘドロまみれだから、ヘドロ男か……)
自分の身に起きたことが情けないあまり、黒沢は現実から逃げるように益体ないことを考えるが、それでも惨めな気持ちに変わりはない。
どこか悟ったような表情の黒沢を見つめながら、仲根はぽつりと漏らす。
「兄さん、一緒に地上に戻ろう……」
「ん……?それも悪くないが…どうしてそう思った……?」
黒沢は仲根の意図が分からず、首を傾げる。
仲根はそれに応えるかのように、言葉を続けた。
「ここはほかの人間に見つかりにくいって利点があるかもしれないけど、こんな汚い場所、長くいるべきじゃない……。
それに兄さんの悪臭は逆に敵に居場所を教えているようなもんだ……。
地上に戻って洗い流した方がいい……」
「あ……悪臭……」
黒沢は悪臭という単語に傷ついたが、自分の衣類の汚れを確認して、仲根の筋が通っていることを確認する。
「それにさ、オレも兄さんも走って体力が消耗している……。
さっき兄さんが倒れたのは演技だったけど、それが演技じゃなくなっちまうかもしれない……。
あと、オレも休んで頭冷やした方がいいと思うんだ……。
今のオレ、頭おかしいから……」 「仲根……“頭がおかしい”って……」
黒沢は仲根の言葉に緊張感が走る。
黒沢の表情が強張っていくのを感じた仲根は力のない苦笑を浮かべる。
「オレ……兄さんのためだと思って行動すればするほど、それは兄さんや他人にとっては不利益な行為でしかなくて……救いようのない状況になって……。
こんなこと、本当は嫌なのにさ……。
オレのせいで苦しむのは……いつも兄さんだ……。
休めば……少しはマシになるかもしれない……」
仲根の声は声というよりも息に近く、どこか途方に暮れていた。
「仲根……」
黒沢はここに来て漸く理解した。
仲根は狂ってなどいなかった。
殺人がいかに卑下される行為なのか、黒沢にとって疎ましい行為なのかを理解していた。
しかし、このゲームのルールが、そして、状況がそれを許さなかった。
殺人を犯してしまった以上、後には引き返せない。
頭の中では理屈として受け入れようとしていたが、その後の仲根に訪れるであろう未来――黒沢から拒絶される現実は、仲根にとって苦痛極まりないものであった。
黒沢から嫌われると分かっていても、嫌われたくない。
自分を否定するだろうが、否定してほしくない。
結果、時に強引に、時に遠回りに、目的の成功より、自分の精神が傷つかないことを優先した戦術を無意識に立てるようになっていった。
それが空回りへと繋がってしまった。
仲根が本当に救いたかったのは黒沢ではなく、罪の重みや自己否定に苦しむ自分自身だったのかもしれない。 「そうだな……休もうか……」
休息が仲根の抱える問題の解決に繋がるかどうかは分からない。
それでも、自分を変えようとする仲根の気持ちには応えてやるべきである。
「実はさ……美心さんの食料を持っている……
地上に出たら、二人で朝食をとらないか……!」
しかし、黒沢の前向きな提案に対して、仲根はそのディバックから気まずそうに目を逸らす。
「兄さん……そのディバック、ヘドロが滴っている……」
「なっ……」
黒沢は慌ててディバックの中を確認する。
ディバックの中の支給品はヘドロに汚染されていた。
パンに至ってはチョコレートパンのような茶色に変色している。
黒沢は小型ラジカセをアカギに預けておいて良かったと安堵しつつ、そっとディバックを閉じた。
(何やっているんだ……オレ……)
仲根の叱責の件といい、足のしびれの件といい、“空回り”しているのは黒沢も同じであった。
年長者の威厳を見せつけたい。仲根から更に頼もしく思われたい。
無意識に信望を求めてしまう人間の欲深さ、そこから発生してしまう視野狭窄の恐ろしさを、黒沢は痛感せずにはいられなかった。 「そういえば、沙織さんのディバックの中に食料が入っていたと思う……。
トイレで身体を洗ってから、沙織さん達のお墓に戻ろう……」
“まぁ、それが妥当だよな……”と、仲根も顔を引きつらせながら、相槌を打つ。
「そう言えば、チップは無事か……?」
仲根は最重要事項のアイテムの安否に気付いた。
「無事なんだが……」
黒沢は懐からチップの袋を出す。
チップ自体は紛失していなかったが、黒沢と同じように黒々と濡れている。
仲根は怪訝な顔で、チップの袋を睨みつけた。
「それ、触れたくない……。兄さんが持っていてよ……」
黒沢は苦々しそうに膨れっ面をする。
「お前、チップの受け取りを拒否して、オレを棄権させようとしていないか……」
「ん……?何の事だか分からねぇな……」
仲根は小生意気な笑みを滲ませ、どこかで聞いたような返答をする。
「お前って奴は……」
黒沢は呆れつつも、自分が知る仲根が戻ってきてくれたような気がして、口元を綻ばせた。
黒沢と仲根は小言を言い合いながら、地上へ通じる梯子を目指して歩き始めた。 「う…う〜ん……」
しづかは重い瞼をゆっくり開ける。
日光がしづかの視界をあっという間に白く染め上げていく。
「うっ…眩……しい……」
しづかは身体をよじり、直射日光を避ける。
自分はどれくらい寝ていたのだろうか。
「お…起きなくちゃ……」
頭では分かっているものの、身体は未だに蕩けてしまったかのように動かない。
感覚は未だに夢の中を漂っているようである。
周囲の雑草は青々とした光に満ち、潮の香りを含んだ風はしづかを慈しむようにその顔をやさしく撫でていく。
大草原の中で昼寝をするような心地よさ。
もう少しまどろみに身を委ねよう。
しづかがもう一度眠りにつこうとした瞬間だった。
「……だ……さあ……」
遠くからかすかに聞こえてくる人の声。
しづかの思考を一気に現実に引きずり戻す。
(私は殺されるかもしれないんだぞっ……!!)
しづかはコルトパイソンを握りしめると、急いで死角になるような奥の茂みのへ身を隠した。 (どこのどいつなんだ……こんな島の端に来るなんて……)
いくら銃器を持っているといっても、それを正確に扱えないであろうことはしづかも重々承知している。
だからこそ、戦闘は避けたかった。
(早くどこかにいっちまえっ!!)
しづかは気配を殺し、不審者が立ち去るのを今か今かと待ちわびる。
その声に聞き覚えがあると勘付くまでは。
「えっ……」
出してはならないと分かっていながらも、声を漏らさずにはいられない。
しづかはとっさに両手で口を塞ぎながら、ゆっくり顔をあげた。
崖の方へ向かってきていたのは黒沢と仲根であった。
しかも、楽しげに談笑をしながらである。
(おいおい……どういうことなんだよ……)
黒沢と仲根は仲違いしたのではないのか。
しづかが驚愕したのは、その睦まじさだけではなかった。
彼らの話の内容であった。
「兄さんの気持ちは分かるけどさ……。1億円が手に入ったんだから、食事が終わったら棄権してくれよ……」
「誰がするかっ……!それよりもお前がしろっ!」
「オレはしないっ……。それよりも兄さんが……」
「だから、オレは棄権しないっ……!」 (こいつら、1億円を譲り合っているのかよっ!!)
しづかは黒沢と仲根の頭の中を疑いたくなった。
1億円はこの島を脱出することができる唯一の手段。
この島にはしづかも含めて、その1億円を喉から手が出るほど欲した者達が大勢いた。
中にはそれを得るために命を賭け、絶命した者もいる。
人々が追い求め、恋焦がれてきた金を、じゃれあいのような会話をしながら譲り合う。
しづかにとって、黒沢と仲根の会話は、これまで血反吐を吐きながら努力してきた人達への冒涜に思えてならなかった。
(勝広のおっさんだって……板倉だって……皆、それを得るために戦ってきたんだぞっ……!)
命を落とした者達へのやるせなさ。
黒沢と仲根への嫉妬に近い苛立ち。
その全てが憤怒となって胸の奥から噴き出し、しづかの全身を駆け巡る。
(そんなにいらないんだったら……私がお前らから奪ってやるよっ……!!)
1億円があれば、棄権できる。
こんなクソッたれなゲームから解放される。
一条は棄権できないと言っていたが、あれは更なる不幸のどん底へ叩き落すための方便に違いない。
棄権場所はD−4のみではなく、実はギャンブルルームでも可能で、どこかのギャンブルルームで申告すれば、受理されるに決まっている。
しづかはそう自分に言い聞かせ意気込むも、その熱意を鈍らせる、ある事実に思い当たった。 (あいつら……どこで金を調達してきたんだ……)
しづかは心当たりが一つあった。
おそるおそる崖の方へ目を向ける。
瞳が捉えたのは沙織の墓であった。
(あいつら……1億円を得るために沙織を殺したんじゃ……)
それならば、沙織が死に、彼らが生きている理由も察することができる。
黒沢を助けたい仲根が、沙織を殺せば1億円が手に入ると黒沢に働きかけた。
二人で共謀し、沙織を殺害。
仲根、黒沢、沙織のチップを全部かき集めた結果、思惑通りに1億円に手が届いた。
仲根は黒沢に棄権するように促すが、それに対して黒沢は、今まで自分のために手を汚てくれた仲根に感謝し、仲根こそ棄権するに相応しいと考え、その権利を辞退。
二人の会話は、おそらくそんな流れの結果なのであろう。
なぜ、彼らがここに戻ってきたのかは分からない。
しかし、これだけは確実に言える。
二人は殺人への罪悪感を克服してしまった悪鬼の類に成り果ててしまったのだと。
1億円で足りなければ、生贄を探し出し、2億円に増やせばいい。
そんな選択肢が容易に選べるからこそ、場違いなほどに能天気な会話ができるに違いない。
(私の武器はこれだけ……)
しづかは手の中にある、コルトパイソンを見つめる。
これで二人を仕留めることは難しいであろう。
しかし、運よく二人を倒せば、1億円――棄権費用が手に入る。
“運よく倒せれば”ならの話だが。 (何やっているんだ……私……)
多少のリスクを背負ってでも、ノートパソコンの充電器を探せば、こんな追いつめられた事態にならずに済んだ。
眠気という欲を満たすため、その欲を正当化できる都合のよい言い訳を繕い、偽りの安心に逃げ込んでいた。
しづかとしては深く考えていたつもりであったが、実のところ、最悪の可能性から目を背き、無意識の内に面倒事を避けようとしていただけに過ぎなかった。
物事が進んでいるように見えて、少しも進展していない、まさに“空回り”な状況。
そんな自分に憤りを覚えつつ、しづかはいつか呟いた言葉を再び、口にする。
「ああ……どうしよう……」 【B-7/崖沿い/朝】
【黒沢】
[状態]:健康 疲労
[道具]:不明支給品0〜3 支給品一式×2 金属のシャベル 特殊カラースプレー(赤) レミントンM24の弾薬×15
[所持金]:1億200万円
[思考]:沙織を埋葬する 情報を集める 赤松や仲根に対する自責の念
※ヘドロまみれの支給品等がどうなったかは次の書き手さんにおまかせします。
【仲根秀平】
[状態]:前頭部と顔面に殴打によるダメージ 鼻から少量の出血
[道具]:カッターナイフ バタフライナイフ ライフジャケット グレネードランチャー ゴム弾×8 改造木刀 ダイナマイト3本 ヘルメット ボウガン ボウガンの矢(残り6本) ライター 支給品一式
[所持金]:5000万円
[思考]:黒沢を生還させる、その為なら何でもする
※バタフライナイフは沙織の胸に刺さったままになっています。 【しづか】
[状態]:首元に切り傷(止血済み) 頭部、腹部に打撲 人間不信 神経衰弱 ホテルの従業員服着用(男性用)
[道具]:支給品一式 参加者名簿 鎖鎌 ハサミ1本 カラーボール アカギからのメモ コルトパイソン357マグナム(残り3発) ノートパソコン(データインストール済/現在使用不可) CD−R(森田のフロッピーのデータ) 石田の首輪 手榴弾×1
[所持金]:0円
[思考]:誰も信用しない ゲームの主催者に対して激怒 一条を殺す
※このゲームに集められたのは、犯罪者ばかりだと認識しています。それ故、誰も信用しないと決意しています。
※和也に対して恐怖心を抱いています。
※利根川から渡されたカラーボールは、まだディバックの脇の小ポケットに入っています。
※ひろゆきが剣術の使い手と勘違いしております。
※森田の持っていたフロッピーのバックアップを取ってあったので、情報を受信することができます。 データ受信に3〜5分ほどかかります。 代理投下ここまでです。
>>108の状態表、朝→午前に変更するのを忘れていました…すみません
まとめの時に修正してください。
あと誤字を二箇所見つけました
>>71
>(あー……どうやって仲根を説得されりゃあいいんだ……)
「説得すりゃあいいんだ」ですかね?
>>106
>“運よく倒せれば”ならの話だが。
「“運よく倒せれば”の話だが。」ですかね? 投下乙です!
仲根と黒沢の必死の鬼ごっこ、互いに相手を思いやる気持ちがよく描かれていて良かったです
下水道で相撲とり始めて、汚水に黒沢が突っ込むところは原作の黒沢の世界っぽくて吹きましたwww
殺伐としたバトロワの中でも、黒沢が出てくるとつい和んでしまいますね…
しづかが見つけたとき、黒沢はまだヘドロ状態なんですよね?近づいたらすごい臭いそう
その辺りのネタも次の話に繋がりそうですね 投下乙です!
黒沢が出るとなごみますね。
続きが気になる展開です。 お久しぶりです。
修正した作品が完成したので投下します。
前回、アク禁を喰らってしまったので
1日かけてのんびり投下したいと思います。 「お……おいっ……!これはどういうことなんやっ……!」
原田は銀二の亡骸を前にただ呆然と立ち尽くす。
一度、銀二の意を汲んで病院の外へ出たものの、嫌な予感を払拭することができず、地下室へ戻ってしまったのだ。
「誰かに殺されたのか……」
原田は首から上が消し飛んでしまった銀二を見つめながら、そう推理する。
しかし、地下室から病院の正面出入り口までの経路で人の気配がなかったこと、血糊がついたナイフを銀二が握っていたことが、その可能性を否定していた。
「どうして、ここで死ななあかんのやっ……!」
銀二はこのゲームの中で自らが落命することを示唆していた。
しかし、それは自分が今まで積み重ねてきた罪をこの地で償わなければならないという決意の表れなのだと原田は解釈していた。
まさか、自分から命を絶つとは思っても見なかったのだ。
帝愛の後ろ盾によって、現在の原田組は成り立っている。
銀二が目指すもの――帝愛グループのスキャンダル暴露は原田組の組長である原田にとって迷惑な話でしかない。
本来なら、銀二が絶命したことを喜ぶべきなのだが――。
「死んじまったら…暴露も何もできへんで……」
原田はスーツの内ポケットにしまっていた銀二からのメモを見つめる。
銀二は帝愛、在全、誠京を潰せるのであれば、刺し違えても構わないと覚悟していた。
巨悪の権力者に一人で立ち向かおうとする生き様、その切り札を大量に抱えた強かさは、帝愛の権力に呑み込まれ、組織の歯車になり果ててしまった原田からすれば、溜飲が下がる思いさえした。
だからこそ、迷惑だと思いつつも、この男の力になりたいと願っていたのに――
「ここで収穫があったら……一番先に俺に話すんやなかったのか…なぁ…銀二……」
約束したのに、なぜ、何も言葉を残さず、逝ってしまったのか。
自分はこの男に信用されていなかったのか。
原田は真意を掴むことができない歯痒さを訴えるように、銀二の亡骸に語りかけると、メモをズボンのポケットの中に悔し紛れに押し込んだ。 原田は覚束なさが残る足取りで病院の外へ出た。
朝方の脆い日差しから、ギラギラと力強い日光へと変化しつつあった。
サングラスをかけてはいるものの、やはり陽光は目に染みる。
原田は手を翳し、日光を避けるように視線を遠くに向けた。
「あれはっ……!」
原田はぐっと息を飲んだ。
病院の正面入り口から10メートルほど先に下半身が吹き飛ばされた死体が横たわっていたからである。
「お…おいっ……!」
原田は急いで死体に駆け寄った。
死体はまるで自分が死んでいることに気づかず、これから何かを語ろうとしているかのように、口が半開きの状態で原田を見つめている。
よくよく見ると、頭部は首から切り離され、首輪が外されていた。
かなり時間が経過しているようであり、身体や首にこびりついている血はすでに乾いている。
「この死体……今まであったか……?」
銀二に促されるまま、外へ出た時、死体の存在には一度も気づかなかった。
「そんな見落とし……するはずが……」
ふと、原田は林の色とは一線を画する白い壁の建物に目を止めた。
「あれは…ギャンブルルームっ…」
朝焼けに溶け込んでいたため、今までその存在を見逃していた。
「病院の目と鼻の先にあるのか……」
ギャンブルルームに気付かなかったのだから、死体に気付かなかったのは当然のことか。
原田はそう結論付け、この場から立ち去ろうとした。
ギャンブル―ムの扉が音を立てて開いた。
「誰やっ……!」
原田は胸に隠し持っていた銃を抜いて構える。
「おいおい……ギャンブルルームを出た人間を狙うっていうのはいただけねぇな……」
ギャンブルルームから顔を出してきた青年は銃口を向けられているにもかかわらず、気さくに話しかけてくる。
(こいつは……兵藤和也っ……!) 原田に戦慄が走る。
原田の脳裏に、ビリビリに破かれ放置された和也とアカギの契約書が過った。
銀二が推理するには、和也の精神は現在穏やかでないらしい。
しかし、目の前の和也はそのような様子をおくびにも出さないどころか、剽げた薄笑いを浮かべている。
原田は和也との距離を詰めようと、銃を構えたまま慎重ににじり寄る。
和也もそれに気付き、手を伸ばして原田を制止させる。
「頼むから、そこから動かねぇでくれよっ……!
オレの武器って、こんなナイフぐらいしかねぇっ……!
これ以上近づかれたら、オレが不利ってもんだっ……!」
和也は折り畳み式の小型ナイフをパチンと開いてみせる。
「言っておくが、何があってもオレはアンタに手を出さないっ……!」
「手を出さないだとっ……!?」
原田はいぶかしげに和也に尋ねる。
和也は自分の足元を指差した。
「オレはまだ、ギャンブルルームを出ていないっ……!
今、アンタを攻撃すれば、ギャンブルルームでの暴力行為と見なされ、オレの首輪は爆破っ……!
アンタも……“嫌”だろ……?」
「くっ……卑怯者がっ!」
原田は和也の裏を読んでいた。
確かに、今、和也が原田に攻撃を仕掛ければ、ギャンブルルーム内にいる人間が暴力行為を働いたとして和也の首輪が爆発するだろう。
しかし、裏返せば、原田がギャンブルルームの中にいる和也を攻撃すれば、ギャンブルルーム内で暴力行為があったと見なされ、原田の首輪が爆破してしまう。
和也の話は命乞いのようにも受け取れるが、その実は“今、オレを攻撃すれば、お前の首輪は爆破するぞっ!”という原田への警告にほかならなかった。
(それに……アイツはいつでも“攻撃”できるっ……!)
和也は自分が所有する武器をナイフ“のみ”ではなく、ナイフ“ぐらい”と言った。
原田のように何らかの飛道具を持っている可能性が非常に高い。
和也は原田を攻撃しないと明言しているが、それはあくまでギャンブルルーム内にいればの話である。
一歩踏み出せば、そこはギャンブルルームの外。
外に出て、飛道具で攻撃することはいつでも可能なのだ。
(俺に隙が生まれた瞬間、奴は外に出るっ……!)
飛道具は距離が近ければ近いほど、命中率が上がる。
和也の出方が分からない以上、迂闊に近づくのは危険というほかなかった。 (こんなタイミングで会いとうなかったな……)
死体に集中していたため、完全に隠れるタイミングを逸してしまった。
もし、姿を隠すことができていれば、和也の動向を追うことができたはずである。
場合によっては後ろから射殺することもできた。
あらゆるチャンスを不意にしてしまったことを、原田は激しく後悔する。
原田は和也の一挙一動、特に足の動きに集中しながら、引き金に揺れる指に力を込めた。
原田は獲物に狙いを定めた猟犬の如き殺意を全身から放ち、和也を威嚇する。
どんな者も一瞬で恐怖に屈ししてしまうであろう鋭利な殺意こそが、原田の防壁であった。
(一歩でも前に出てみろっ……!その時はっ……!)
「あ…オレ、まだ死にたくないから、ギャンブルルームに引きこもるわ……。
その間にどっか行ってよ……」
和也は野良犬でも追い払うように手を振りながら、扉を閉めようとする。
「ちょ……待ちやっ!!」
攻撃を仕掛けるのではないのか。
まさかの展開に拍子抜けした原田は思わず、呼びとめてしまった。
扉が閉まる直前で止まった。
「なんだよ…要件あるなら、とっとと話せよ…」
和也は気だるそうに再び、扉を開ける。
しかし、要件を話せと言われても、勢いで呼びとめてしまったため、話すことなどない。
原田はただただ無言で和也を睨みつける。
そんな煮え切らない態度に苛立ちを覚えてしまったのか、和也は呆れたようなため息をついた。
「こっちもギャンブルルーム出るのか、戻るのかはっきりしたいんだけどさっ……!
黒服が結果を早く聞きたがっているみてえだしっ……!」
気づくと、和也の後ろには黒服が控えている。
和也はだるさを訴えるかのように、股を開いてしゃがみ込んだ。
「オレは扉を閉めてしばらく引き籠るっ……!
アンタはその間に遠くへ行っちまうっ……!
オレもアンタも死なずに済むんだからそれでいいじゃんっ……!何が不満なワケ……?」
和也は理解できないと言わんばかりに小首を傾げて原田を見上げる。
「死なずに済むか……」 原田は和也に向けた銃口をゆっくり下ろし始めた。
確かに和也の提案は両者にとって、それぞれメリットがある。
原田は銀二から生きて帝愛のスキャンダルを暴露するという役割を任されている。
今、自分に求められているのは、生き残り、脱出すること。
ここで入らぬ揉め事を起こすべきではないと分かってはいるのに――
「お前の言っていることはおかしいことだらけやっ!」
原田は和也に再び、銃口の標準を合わせ、吐き捨てるかのように言い放った。
「ギャンブルルームに引きこもる戦法はいつか金が尽きたら終わってまう……!
仮にここで俺を見逃してみろっ……!
ここから離れた振りをして隠れて待っているかもしれへんでっ……!
お前の提案は一見、双方とも得をしているように見えて、その実はお前が損しかしていないっ……!
お前はそんなことをする奴やないっ!!」
牙を立てた野犬のような剣幕の原田を前にして、和也の態度はなおも泰然たるものだった。
「アンタは命のタイムリミットが見えちまった人間の気持ちなんて分からないよな……」
和也は“お前はあそこの地下へ行ったか……?”と、病院の方を指差した。
「あそこにはさ、死体が大量にあるんだ……。
細菌兵器の実験に利用された被験者どもさ……。
オレはあそこの空気を吸っちまった……。
保菌者となった今、あそこの死体のようになっちまうのが、オレの末路さっ……」 「なっ!」
原田は衝撃のあまり、言葉を失った。
銀二のことが気になり、地下へ戻ってしまった自分も保菌者となってしまったのか。
銀二の死体の下に敷き詰められた死体には異常さを感じていたが、和也が口にした事実は原田の想像以上だった。
原田の動揺を読みとったのか、“アンタも行っちまったのか、あそこ……”と、和也は力なく笑う。
「アンタは何も知らなかったようだけど、オレもお前も、もう時間がない……。
やっぱりもうすぐ死ぬかも思うと、物の考え方……変わってくるんだよな……」
和也は感慨深く呟きながら、握っていたチップを一枚見えた。
「オレはまだ金は持っているっ……!
お互い、命の限界があるんだ……余生は穏やかに過ごそうぜ……」
黒服は後ろからチップを受け取ると扉を閉めた。
黒服の動きは淀みなく静かで、あまりにも作為がなかった。
原田は今後の戦略の立て直し、和也の言葉の整理に集中力が傾き、和也の意図に気付けなかった。
一発の銃声と細やかな銃弾の嵐を容赦なく浴びせられるまでは。
「あ……」
散り散りに千切れていく意識の中で、銀二の言葉が鮮明に蘇る。
――アカギはともかく、兵藤和也にはこの先近づかないほうがいいでしょう、原田さん……。
あの時、そう忠告されたはずなのに。
原田は体中に針が突き刺さったような激痛と後悔にうめきながら、地面に放り出された。 「おっ!まだまだ、元気じゃん……!」
和也は虫の息の原田を見下ろすようにしゃがみ込むと、その傷をけらけらと笑う。
原田の全身にはいくつもの穴が開き、そこから血が湧き水のように垂れ流されていた。
原田は一矢報いようと、青筋を立て和也に何度も眼を飛ばす。
しかし、筋肉の委縮によって顔面の銃創から血が噴き出し、原田の口から嗚咽が漏れる。
「なんか小便小僧みてぇっ……!」
原田の“水芸”が上手くいく度に、和也は手を叩いて嬉笑した。
原田の流血は、和也にしてみれば音に反応して動くおもちゃと同類らしい。
「か…ぅ……やぁ……」
痛みすらなく即死した方が原田にとって幸いだったかもしれない。
無残なことに、原田はまだ、呼吸を続けていた。
たとえ秒読みとなった余命でも、その全てを死の苦しみに悶えて過ごすなら、それは残酷なほどに長すぎる時間である。
「うわぁ……右目は完全に潰れているな、こりゃあ……。
ほっといても死ぬなっ!」
和也の笑顔は見違える余地なく、地獄の沙汰に喜びを見出している悪鬼そのものだった。
「和也様っ……ご無事ですかっ……!」
一条が和也の元に駆け寄る。
「おっ、一条っ!お疲れさんっ!」
和也は軽く手を振って一条を労った。
一条は和也の労いに礼を言いつつ、原田の傷の具合を見る。
「思っていた以上に威力があるのですね……」
「それ…なんて言うんだっけ……?えっと……」
「あぁ……これですか……」
一条はまだ原田が生きていることを考慮してか、原田からかなり距離を置いた所で和也に差し出した。
「モスバーグM590ですっ……!どうぞっ……!」
和也は一条からモスバーグM590を受け取るとまじまじと見つめる。
モスバーグM590はアメリカのモスバーグ社が開発したポンプアクション式のショットガンである。
ショットガンとは近距離使用型の大型携行銃であり、その最大の特徴は一度に複数の散弾を打ち出すことである。 使用する弾薬はピストル用弾薬とは違う装弾(ショットシェル)と呼ばれるもので、一つの装弾の中に小さな球弾が何発も仕込まれている。
最も一般的な球弾は鉛の合金製で散弾といい、鳥撃ち用なら数百発、対人用なら直径9mmほどの球弾が10発前後入っている。
引き金を引いて発砲すると、装弾が破裂し、中に入っている散弾がいっぺんに出て飛び散る仕組みとなっている。
その射程範囲の広さから、素人でも標的に当てやすく、相手が大勢であったとしても引けを取らない。
強いて問題点を言えば、銃身にライフリングがなく、発射する球弾も一部を除いて球形なので、その射程距離は短く、ライフルのような命中精度がないことから遠距離射撃には使いづらい。
しかし、それを補うだけの火力があり、至近距離からの一撃であれば、人間の頭を軽く吹っ飛ばすことができる。
近接戦闘、特に逃げ場がない閉所では強力な武器となるため、狩猟や有害動物の駆除、警察の暴徒鎮圧、自衛用、軍事兵器など、幅広い用途で使われている。
そんなショットガンの中でも、優秀な耐久性能と評されているのが、モスバーグM590を含めたモスバーグM500シリーズである。
その耐久性はアメリカ軍のMILスペックをパスしたことが全てを物語っている。
MILスペックとはアメリカ軍が調達もしくは使用するに値する物資であるかどうかを定めた規格の総称である。
MILスペックは宇宙空間、海底、砂漠地帯や熱帯、雨林または北極や南極のような極地でも性能を100%発揮できることが求められており、試験内容は多岐に渡りかつ、その合格基準はどれも異常なほどに高い。
物資によって試験方法は異なるが、ショットガンの耐久性を測るMIL−S−3443を例にあげると、00バックショット3000発をパーツの破損なしで耐えられるのか、
様々な角度からの落下に耐えられるのか、極寒の−30℃から灼熱の50℃の温度差の中での動作は可能なのかなど、並みの銃では必ず不具合が生じてしまうであろう条件ばかりである。
その全てをクリアしたのが、モスバーグM590を含めたモスバーグM500シリーズであり、派手さこそはないが、頑丈で、いざという時でも壊れることはない、まさにサバイバルで勝ち抜くための銃器なのである。 「ふ〜ん……」
和也は一条の覚えたばかりの知識に生返事しながら、興味を別の方向に向けていた。
「すごいことは分かったからさ……この銃、オレに譲ってくれよっ……!」
「えっ……」
一条は顔を思わず引きつらせ、隠しもっていたもう一つのショットガンを急いで差し出した。
「和也様にはこのレミントンM870がございますので……」
「そっちは嫌だっ!!!」
和也はレミントンM870の受け取りを全力で拒否する。
レミントンM870とは先込銃の時代から銃を造っている老舗メーカーのレミントン社が1960年代に開発したショットガンである。
スチール製のレシーバー(機関部)を使用し、構造が単純で、距離や使い方によって銃身などの部品を簡単に交換できるのが特徴。
また、モスバーグM590よりも銃身が2cm短いにもかかわらず、重量は約500g重たい設計になっている。
一見すると短所のように聞こえるが、火力が大きい銃はある程度の重量が必要となる。
銃は火力と反動の大きさが比例してしまうため、軽い銃ではいざ発砲するとあらぬ方向にとんでしまうことが多々ある。
しかし、重量があれば、それが反動のストッパーとなり、命中率の向上に繋がっていくのだ。
モスバーグM590が比較的軽いのはレシーバーにアルミ合金を採用しているからであり、戦地で長時間携帯していても兵士の負担にならないようにするための配慮である。
モスバーグM590が戦場向きの銃であるとすれば、レミントンM870は銃器の初心者にもそつが無く扱うための銃と言える。 なお、耐久性に関しては、レミントンM870はモスバーグM590に匹敵するレベルであり、本来、モスバーグM500シリーズと共に、MILスペックをパスするはずの銃であった。
しかし、レミントン社はMILスペックのトライアルにレミントンM870を提出することはなかった。
理由は諸説あるが、レミントン社がコスト・パフォーマンスの面で、最終選考に引っ掛かってしまうことを憂慮したという説が最有力とされている。
性能以外の諸事情から、アメリカ軍のお墨付きを得たのはモスバーグM500シリーズのみとなってしまったが、作動不良を起こしにくいという信頼性の高さ、整備のしやすさ等から、レミントンM870は民間の狩猟用だけではなく、各国の警察や軍隊でも採用されている。
余談だが、日本の海上保安庁の艦艇、中型クラスの巡視艇には、モスバーグM590の基礎型であるモスバーグM500と、錆に強いクロームステンレス鋼で造られたレミントンM870マリーン・マグナムのどちらかが、非常時用のショットガンとして搭載されている。
レミントンM870は和也が不服を言うには贅沢過ぎるショットガンなのだが――
「お前の銃にはナイフが付いているじゃねぇかっ!!」
モスバーグM590の最大の特徴は、バヨネットを装着することができる点である。
バヨネットとは銃剣のことであり、大きさは折り畳み式ナイフと同じぐらい。
銃身と平行に伸びているチューブマガジンの先端下部にバヨネット・ラグ(着剣装置)が設けられており、そこにバヨネットを取り付けることができる。
例え戦闘中に残弾が零になったとしても、このバヨネットを着剣すれば、最後の最後まで戦うことができるのだ。
さらに和也の文句は続く。 「それにお前は8発、オレは6発っ!不公平じゃねぇかっ!!」
これは銃の特性上、やむを得ないことであるが、モスバーグM590の装弾数が最大8発に対して、レミントンM870は6発。
そのため、用意された予備装弾も、モスバーグM590が8発、レミントンM870は6発と、2発少ない。
予備装弾数が多いため、モスバーグM590は弾丸ケースとバヨネットケースが付いたベルトも銃と一緒に支給されている。
ちなみに、予備装弾数が少ないレミントンM870はバックストック(銃床)に巻かれたショットシェルポーチに装弾を保管することができる。
「お前の残りは15発、オレは12発っ!ここはオレに弾数が多い方を渡すべきじゃねぇのかよっ!!」
「まぁ……気持ちは分からなくもないですが……
レミントンM870の方が使いやすいですし……
ほら……和也様には絶縁体の折り畳み式ナイフがあるじゃないですか……。
参加者の首輪を集めようとしていた和也様にはお似合い……」
「デザインがダサいっ!!」
和也はむくれ、そっぽを向いてしまった。
一条はため息をつきながら、思い返す。
(ここまでもめるくらいであれば、いっそのこと、金庫の中のショットガンがどちらか一種類だったらよかったのだが……)
モスバーグM590とバヨネット、レミントンM870、そして、絶縁体使用の折り畳み式ナイフは和也が在全とのギャンブルに勝って得た特別支給品であった。
(これらの武器を手に入れたのは和也様……。ここは和也様の意志を尊重するべきか……)
一条はこのゲームの中でトカレフを通して、銃の特性を身体に馴染ませていたが、和也が用いてきた重火器は地雷のみ。
それ故に、和也には比較的初心者向けのレミントンM870の方が好ましいと考えていたのだ。
また、利根川がなくなった今、一条は自分が切り込み隊長の役割を果たさなければならないとも自覚していた。
ショットガン、鈍器、銃剣と、戦いの幅が広げやすいモスバーグM590は、そんな一条にとって打ってつけの得物であった。
更に言及すると、全ての装弾を失った時に初めて真価が発揮されるというバヨネットの存在意義に、硬派なロマンを見出してしまっているのも、手放したくない理由の一つだったりする。
一条は結論を見出すことができず、ただただ苦い顔で悩む他なかった 和也と一条が、ショットガンの所有権を巡って不毛なやりとりをしている間、行動を起こそうとしている者がいた。
原田である。
原田は隠れていた一条に撃たれ、その真意にようやく気付いた。
扉の閉まる音は仲間への合図。
足元にあった死体は獲物の位置。
ショットガンは射程範囲が広いため、スナイパーライフルのように狙いを定める必要はない。
実行犯は主犯の和也からこう言われたのであろう。
『死体の方角に発砲しろ』と。
原田は遭遇してすぐに発した和也の言葉を思い出した。
――頼むから、そこから動かねぇでくれよっ……!
「くっ……そぉ……!」
原田の呼吸や姿勢、意識をすべて読みとった上で、一番反応しづらいタイミングを察し、まるで欠伸をするかのような滑らかさで扉を閉めた。
参加者から金を出されたら、すぐにギャンブルルームに向かい入れなければならないという黒服の行動を利用して。
和也は全てにおいて原田の虚を突いたのだ。
「ひ…ょ…ぅ……どぅっ……!」
和也の強かさは、かつての兵藤和尊を思い起こさせた。
東西戦終結後、裏の麻雀界では東ルールが西ルールを覆い尽くすようになっていった。
原田は東西戦に勝つことで東日本に西ルールを浸透させ、西ルールに強い代打ちを各地の雀荘に派遣、その雀荘を支配下に収め、上納金をせしめようとしていた。
その計画がもろくも崩れ去ってしまい、原田の計画に乗っかろうとしていた雀ゴロや、雀荘をシノギにしていた他の西日本の組から失望され、今まで積み上げてきた名声にヒビを入れてしまった。
そのヒビを広げるかのように、東西戦から1年後、『暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律』、通称『暴対法』が制定されてしまった。
法律対象となるのは、前科のある組員が一定割合以上を占め、組織化されていると公安委員会が認定した指定暴力団とその構成員であり、原田組もその指定を受けてしまった。
この法律によって、ヤクザ社会は大きく変化した。 警察はこの法律を振りかざし、事あるごとに原田組を始めとするヤクザのシノギを取り締まった。
組員の数はあっという間に減少し、各所に点在していた事務所を撤去せざるを得なくなった。
ヤクザが衰退したことをいいことに、香港の三合会やロシアン・マフィアが日本の市場に台頭、関西圏での原田組の肩身はますます狭きものとなっていった。
貸金業界の最大勢力になりつつあった帝愛グループが原田組に盃事を願い出たのは、そんな時である。
帝愛グループは関東圏で勢力を伸ばしていたが、関西圏では古くからある同業者の存在などにより、伸び悩みを見せていた。
そこで原田組と手を組み、原田組に仲介してもらうことで勢力を伸ばそうとしたのだ。
この頃になると、原田組をはじめとするヤクザの収入は直接経営の非合法ビジネスから、偽装破門した関係者や盃を交わした堅気の人間が経営するフロント企業の上納金にシフトするようになっていた。
貸金業のノウハウを得たかった原田は、帝愛の申し出を受け入れ、盃を酌み交わした。
盃事によって、原田組は帝愛グループから多額の上納金を手に入れた。
しかし、それと時を同じくして、偽装破門した舎弟が経営するフロント企業が次々に取り締まりの対象となり、警察によって潰されていった。
初めは警察が原田組の取締を強化したのかと思ったが、堅気と遜色ないほどに巧妙に偽装したフロント企業までも警察に暴かれてしまう。
不信に思った原田は、調べていくうちに警察に情報を横流しにしている組織が帝愛であることを知った。
しかし、証言のみで証拠はない。
原田は証拠を掴もうと更なる調査を試みた。
しかし、核心に迫ろうとすればするほど、まるで警告のように原田組のフロント企業が相次いで潰されていく。
こうして証拠を掴むよりに先に、帝愛からの上納金が原田組の収入の大部分を占めるようになっていき、原田自身、いつしか帝愛に逆らうことができなくなっていた。
今でも帝愛は申し訳程度の舎弟の態度を見せているが、傍から見れば、どちらの権力が上かは一目瞭然。
原田は関西最大の暴力団組織というメッキのような栄光を守るため、組長であるにもかかわらず、舎弟である帝愛に頭を下げ、帝愛からの指示を黙々と実行し続ける。
それが、今の原田組の実態である。 下手に出て、相手が油断した所で完膚なきまでに潰すという和也の手法は、まさに兵藤和尊――帝愛が原田組を吸収した過程と重なった。
「ぁ……ぃつ…ら……ぁ…ゆ……るさ……なぃっ……!」
例え、不自由さと実感のなさ、窮屈さしか感じない人生になろうが、原田組を存続、勢力を拡大させることが、原田にとって生きる証であった。
その証を骨抜きにし、帝愛の奴隷にまで貶めた兵藤和尊。
原田組の象徴である原田の命を奪おうとする兵藤和也。
この親子は原田にとって、粉うことなき宿敵であった。
(俺の命は……長くな…いっ……!せめて……息子の…首だけでもっ……!)
感覚がなくなりつつある右手を動かし、銃を握る。
和也と一条がショットガンに興味を注いでいる間、手を動かし発見したのだ。
いくら和也が兵藤和尊の血と強かさを継いでいるとはいえ、原田に反撃する力はないと決めつけ、銃を回収し忘れたことは、若さ故の爪の甘さに他ならなかった。
(こいつで……兵藤和也を……!)
原田の右目は潰れ、左目も霞み、和也達の姿は黒い影のようにしか見えない。
しかし、あの影さえ撃ち抜けば、命を奪うことができる。
原田は激痛をこらえながら銃を構え、そして――
「く…たばぁ…れ……っ!ひょ……ぅ…どぅっ!」 「あぶないっ!和也様っ!!」
危険を察知した一条は和也を押しのけると、振り返りざま、持っていたレミントンM870のフォアエンドを膝でスライドさせ、構えと同時に引き金を引いた。
それと同時であった、原田の上半身が爆発と共に、跡形もなく消し飛んでしまったのは。
「これは……」
一条は呆然としたまま、下半身のみとなった原田を見る。
一発目とは比べ物にならないほどの破壊力。
原田の骨や肉が至る所に飛び散り、血が湧きでる泉のように地面に広がっていく。
「いいねぇっ!!いいねぇっ!!」
一条の反応とは対照的に、和也は下半身の原田に拍手を送りながら嬉しそうに振り向いた。
「ほらっ!やっぱり爆発しただろっ!あの拳銃っ!」
和也は原田の前でしゃがんだ時に、こっそり銃をすり替えていたのだ。
鷲巣が持っていた、銃口が曲がっていた銃と。
鷲巣が持っていた銃はハーリントン&リチャードソンM732。
パーツの一つ一つが無駄に大きく、駄菓子屋のおもちゃの鉄砲玉の方がまだ見栄えがいいと言わざるを得ない安っぽいフレーム。
そのくせ、内部が薄くてかつ、ライフリングも浅く、どこへ飛んでいくのか分からないという致命的な設計の細い銃身。
褒めるところが100ドル以下で購入できるという点しかない、サタデー・ナイト・スペシャルと呼ばれる安価銃である。
サタデー・ナイト・スペシャルとは粗悪な安価銃全般の俗称である。
1960年代にアメリカでできた言葉で、チンピラやマフィアが安価銃を用いて喧嘩し、負傷者を続出させた時期があった。
それが週末の土曜夜に集中していたことから夜勤の医者たちが『土曜の夜は(忙しさが)格別だ』と揶揄し、浸透していった言葉である。
特徴としては、仕上げが粗い、ライフリングが浅い、命中率が悪い、前後の照準器があまり役に立たない、引き金が重い、安全装置がお粗末などの欠点が挙げられる。 悲しいことに、ハーリントン&リチャードソンM732はそれらの特徴を全て網羅している銃であり、メンテナンスが行き届いていない時は引き金を引いた瞬間にハンマーがもげて失明、場合によっては暴発で手が吹っ飛んでしまうケースすらあった。
耐久性、信頼性においてはモスバーグM590やレミントンM870とは対極の位置に属し、勝広が和也の地雷に踏んだ際に爆発に巻き込まれ、その銃口を曲げてしまったが、この銃の特徴からすれば仕方がないことであった。
「あの銃、いつ暴発するか分からないしよっ…!使うんなら有益にってなっ!」
「気持ちは分かるのですが、貴方には時間が……」
和也はアカギとともに病院の地下へ行き、保菌者となった。
これまでは他の参加者同士が殺し合うのを悠長に待っていればよかったのだが、いつ病状が悪化するのか分からなくなってしまった今、一人でも多くの参加者を殺害し、早く優勝を目指さなくてはいけなくなった。
それにもかかわらず――
「一人殺害するのに手間をかけ過ぎですよ……あなたは……」
一条はやや呆れを含んだ目で和也に忠告する。
「でもさ、初めてショットガンを使うんだぜっ……!
時間はかかってもしょうがないさっ……!
それに“楽しかった”だろ……?」
「楽しかったかどうかと聞かれましても……」
まったく悪びれない和也に、一条は返す言葉もない。
和也は一度、“おもちゃ”を見つけると、残虐な演出作りに躍起になりすぎる面があった。
これまではそれで数多の人間を葬ってきたが、いつ、それが仇となるかは分からない。
(まぁ……そこはオレがフォローすべきところか……)
このバトルロワイアルから生還すれば、自分が和也の右腕となるのは間違いない。
今回のことは、主人の欠点を見抜き、それをどう補えばいいのかと考えるための材料として受け止めよう。
一条はそう自分に言い聞かせた。 「ところでさ、一条……そのショットガン、どっちが使いやすかったか……?」
和也に尋ねられ、一条は我に帰ると、モスバーグM590とレミントンM870を見比べる。
「えっと……レミントンM870の方でしょうか……
グリップがとても細身で握りやすいんです……」
レミントンM870のグリップは握っただけで手に馴染む形状をしている。
誰にでも扱えることをコンセプトにしているだけに、フォアエンドの位置も的確であり、腕が短い人間でも楽にスライドアクションができるように設計されている。
尤も、一条の感想は極寒の地でも手袋をはめたまま使用できるように太めに造られた黒星拳銃のグリップに慣れてしまっていたからというのもあるのだが。
和也はレミントンM870とモスバーグM590のグリップを握り比べ、レミントンM870の方を受け取った。
「一条の言う通り、やっぱりこっちの方を持つわ……。
さっきのやつ、格好良かったしよっ……!一条が膝でガチャンってしてた、あれっ!
ショットガンって、下のレバーみたいのを動かすと撃てるんだろ……?」
モスバーグM590もレミントンM870も、ポンプアクション式と呼ばれるショットガンである。
ポンプアクション式は上下二連式のように見える下の方の筒、チューブマガジン(弾倉)に、装弾を詰める。
チューブマガジンの装填口から装弾を装填したら、チューブマガジンに被さっているフォアエンドを手前に引いて戻す。
すると、バネの力で装弾が上の銃身に繋がる薬室に送り込まれる。
同時に撃針のバネが縮んで発砲準備が整うので、引き金を引けば、すぐに発砲することができ、
再び、フォアエンドを引いて戻すと、排莢口から、使用済みの装弾が排出されると同時に次弾が薬室に給弾される。
ようするに、フォアエンドをスライドさせることで、給弾、コック(いつでも発砲できる状態にすること)、排莢が同時に完了することができるのだ。
手動でフォアエンドをいちいちスライドさせるのは面倒そうに見えるが、実際に撃ってみると発射の反動の勢いがスライド操作を助けてくれるため、慣れるとマシンガンの如く連射することも可能となる。 フォアエンド操作時に発せられる音は相手への警告として利用される時が多々あり、和也が格好いいといったのはフォアエンドのスライド操作と、その操作音なのだが、一条は大きな勘違いをしていた。
「私の撃ち方、そんなに格好よかったですかっ!」
一条の表情が喜びで華やぐ。
膝でフォアエンドをスライドさせ、その流れからの発砲。
とっさの対応であり、無意識のことであったが、振り返ってみると、一流の暗殺者のような洗練された動きであったと思えてくる。
和也がモスバーグM590ではなく、レミントンM870を選んでくれたことも、一条の機嫌向上に一役買っていた。
一条は弾丸ポーチから3発の装弾を出し、和也に渡した。
「これで銃弾が少ない問題も解決しますよねっ!和也様っ!」
なお、モスバーグM590も、レミントンM870も、装弾の番径(内径を表わす独自の単位)は12ゲージである。
仮に予備装弾を交換しても、何ら問題はない。
「お…おぅ……ありがとうな…一条……」
思いっきり勘違いしているが、本人が幸せならば、それでいいか。
和也はぎこちない礼を言いながら装弾をポケットにしまうと、代わりに一丁の拳銃を出した。
「まぁ…オレにはこれもあるしな……」
和也が取り出した銃は原田が所持していた銃――ベレッタM92FS。
ベレッタM92FSはイタリアのピエトロ・ベレッタ社が生産しているオートマチック・ピストル(自動拳銃)。
装弾数は15発で、遊底(スライド)の上面を大きく切り取っているのが特徴。
ハンドガンの特性上、威力が高い銃ほど安全面を考慮してどうしても厳つくなりがちだが、ベレッタM92FSはそういった厳つさをあえて排除したことにより、細く引き締まった肉体の男性、時に女性的な印象を抱かせるデザインとなっている。 この無駄のない、美しいデザインはイタリア銃器のひとつの到達点とも言われて、映画やドラマ、アニメなど主人公が使用する銃として、たびたび登場する。
しかし、細めのデザインだからといって、安全性に問題があるわけではない。
スライドの上部を切り取ったことにより軽量化に成功、スライド後退時の衝撃を和らげ、排莢口を拡大し、ジャム(弾詰まり)を防いでいる。
また、製作段階で適切な熱処理を施すことで十分な強度を持たせるという配慮もしている。
まさに機能美を体現した銃と言える。
和也がモスバーグM590にこだわらなくなったのは、レミントンM870の無骨な格好よさ、使いやすさを目の当りにしたことが一番であるが、レミントンM870が使えなくなったとしても、代わりの銃があると割り切れるようになったことも大きい。
「ふふっ、いい銃ですね……」
一条も朗らかに頬笑み返した。
「あ……あのう……」
ギャンブルルームの扉の隙間から弱々しい声がした。
「あっ!」
和也と一条はずっと待たせていた仲間の存在に気付き、扉を開けた。
扉の先にいたのは、原田殺害の功労者の一人である、村上であった。
村上は目の前に横たわる原田を見て、呆然としながら訴える。
「こんなことになるなんて、聞いていなかったですよっ……」
原田を陥れるまでの、村上が知る顛末はこうだ。
和也が病院から戻ってきた後、自分が保菌者になってしまったことを一条と村上に告げた。
和也と一条は今後の戦略を話し合うと、重複する一般支給品をギャンブルルームに残し、出ていった。
しかし、数分後、和也のみが再び戻ってきた。
和也はそそくさと使用料を払い、村上に告げる。
「ちょっと試したいことがあるっ…!」
和也が話すにはこうである。
ギャンブルルームから出た直後、一人の男が病院から出てきたが、男は慌てた様子で病院へ戻っていった。
もしかしたら、その男はウィルスについて何か知っているかもしれない。
そこで、アカギの時のようにギャンブルルームの中に引き入れて話を聞くことにしたというのだ。
和也はギャンブルルームの前にあった死体を、病院寄りに移動。
男が死体に気付き駆けつけたところで、扉を開け、ウィルスについて尋ねるというのが、和也の戦略らしい。 なお、死体の位置はギャンブルルームの窓の死角になってしまうため、男が死体に近づいたかどうかは、外で待機する一条が盗聴器で連絡してくれる。
「村上……ちょっと確認があるんだけどよ……」
粗方の戦術の説明をした所で、和也は一枚のチップを取り出した。
「もし、参加者がチップを出したら、お前はどうする……?」
「それを受け取って、ギャンブルルームに通します……」
「オレが男と話している最中、チップをかざすかもしれない……。
2枚なら男と一緒に、1枚ならオレのみがギャンブルルームに入るという意志表示だ……。
それを黙って受け取って扉を閉めてほしい……」
「お安いご用ですが……どうして、そんな回りくどいことを……」
和也は含みを持った笑みを見せる。
「相手の“中身”を見る……ってところかな……?」
「はぁ……」
(中身って、本性のことかな……?)
村上は和也の意図が理解できない。
しかし、今までも和也のプランで上手くいっていたのだから、今回も何とかなるのだろう。
それに、今回の和也からの頼まれごとは黒服の行動範疇として間違いなくセイフティである。
「かしこまりました……和也様……」
こうして、村上はその瞬間を待っていたのである。
「そんなこと、おっしゃっていたから、扉を閉めたのに……。
あれが発砲の合図だったなんて……なんで嘘をついたんですか……」
「嘘というより言葉が足りなかったという方が正しいんだが……お前を利用してすまないな……」
和也は苦笑いを浮かべながら、とりあえず詫びておく。
和也は初めから原田を生かすつもりなどなかった。
しかし、それを村上に伝えるつもりもなかった。 その理由は二つ。
一つは扉の音が、原田殺害の合図であると知っていたら、村上は緊張のあまり、ぎこちない動作で扉をしめていた可能性があったからだ。
勘がいい者であれば、村上の表情から何かを感じ取り、その場から逃げていたかもしれない。
ショットガンは、射程範囲は広いが、射程距離は短い。
確実な殺傷能力を求めるならば、一条と原田の足もとにあった死体との距離――10mほどまでがベストであり、標準もその方向に合わせている。
原田が死体の側から離れてしまうような要因は極力なくしたかった。
もう一つは、村上の黒服としての立場である。
村上はある程度自由な行動が認められているとは言え、あくまで主催者サイドの人間であり、主催者が参加者の命を奪うのは言語道断である。
そこで村上にあえて合図の件を伝えないことで、万が一、本部から殺害について追求されたとしても、村上には殺人の意志はなかった、黒服として正しい行動をとったら、たまたま参加者の殺害に繋がってしまったと言い訳することができる。
その余地を残すための配慮であった。
そんな気遣いがあったとは露知らず、村上は深いため息をつく。
「下半身しか残っていない……こんなえぐい殺され方……」
和也と一条はバトルロワイアルに参加する前から、人間の死は見慣れていたが、帝愛の末端である村上の感性はまだまだ一般人に近い。
間接的だが初めて殺人に関与してしまい、しかもその死体が目の前で木端微塵になるのは、やはり気分が悪くなるというものだ。
と、和也は思っていたが――。
「……をした死体があったら、ますますギャンブルルームに誰も寄りつかなくなるじゃないですかっ!
しかも、その隣には上半身しかない死体もありますしっ!」
「ため息の理由はそこかよっ!?」 和也は村上の意外な不満に面食らう。
どうやら、殺人への罪悪感は微塵も持ってはおらず、それよりも今後、暇を持て余してしまうことの方が重大らしい。
(こいつも、一条と一緒で骨の髄まで帝愛だなっ……!)
その事実を、和也はあらためて思い知らされた。
「ふふっ、いいじゃないですか……!」
一条は諭すように和也の会話に入ると、そのまま、村上に声をかけた。
「ここには我々さえ戻ってくればいいっ……!!
汚い死体が二体もあれば、いい目印になるっ……!
そう思わないか……村上っ!」
一条の言葉に、村上は 一瞬、キョトンとするも、尤もだと思ったらしく、“一条様のおっしゃる通りですっ!”と、朝日のような眩い笑顔で返した。
そんな一条と村上のやり取りを“帝愛らしい会話だなっ……!”と苦笑していた和也は、さっきとは打って変わって、一際冷淡な一瞥を死体に投げ、嘲笑うように囁く。
「だから言った通りだろ、原田克美……“オレはアンタに手を出さない”ってな……!」
和也は原田をバトルロワイアルの参加者の中でも猛者に位置する人物であると認識していた。
関西で1、2を争う暴力団組織の組長の地位を維持し続けるだけの能力――肝の太さ、戦闘能力の高さ、頭の回転の速さなどは、他の猛者達の中でもトップクラスの逸材。
原田の殺害はいくら用心してもしすぎることはない。
おそらく原田自身も和也に対し、それに近い考えを抱いていただろう。
現に和也と相見えた時、原田は和也の動向に神経の全てを注いでいた。
原田と遭遇すれば、一挙一動が心理戦となり、まともな行動がとれなくなる。
そう予想したからこそ、和也はあえて何もしなかった。
合図を送る役も、殺害実行役も、原田の注意が及びにくい第三者に頼んだ――自分の存在を囮にさせ、暗殺しやすい環境を作ったのだ。
とはいうものの、場合よっては、原田を生かす道も考えてはいた。
村上に説明した通り、原田がウィルスについて何か知っていた時だ。
しかし、原田はウィルスのことは何一つ知り得ていなかった。
それどころか、“お前はそんなことをする奴やないっ!”と、何かを見透かしていた。
(邪魔なヤツは早々に消えてもらうに限るっ……!) 「それにしても……この死体、ミンチより酷いですよね……。
1発目は身体に穴が開いただけなのに……」
和也の冷血な思考に気付いていない村上は、呑気な疑問を口にしながら死体を眺める。
和也は場の空気に合わせるように、“ハンドガンの暴発も原因の一つなんだけどさ……”と、死体の前にしゃがみ込み、ある欠片を拾って見せた。
「木端微塵の本当の原因はこれ……首輪さっ……!」
ハンドガンの暴発と同時に首輪も爆発を起こしていた。
その原因が、ハンドガンが暴発した際の誘爆なのか、一条の散弾が首輪に命中したが故の爆発なのかは定かではない。
しかし、ショットガンの命中による首輪の爆発。
条件が揃えば、人間の体積を半分に減らすことができる。
和也にとって、実に感動的な発見であった。
和也は立ち上がり、命令を下す。
「今後からは首輪を狙えっ!一条っ!当てて相手を即死させろっ!!」
「はいっ!仰せのままにっ!」
まるで歴戦の司令官のような和也の下知に、一条の顔が凛々しく引き締まる。
和也は村上に今までの礼を言うと、レミントンM870を担ぎ、歩み出した。
「オレ達を邪魔する参加者は粉砕しろっ…!!見敵必殺っ…!!それが今後の方針だっ!!」
「絶対に戻ってきてくださいっ!!」
「ああっ!戻ってくるさっ!」
和也と一条は村上の声援に手を振りながら、新しいターゲットを探すため、ギャンブルルームを後にした。 【E-5/ギャンブルルーム前/午前】
【兵藤和也】
[状態]:健康
[道具]:チェーンソー クラッカー九個(一つ使用済) 通常支給品 双眼鏡 首輪2個(標、勝広) レミントンM870(装弾数:5発 予備装弾:9発) 折り畳み式の小型ナイフ(素材は絶縁体)ベレッタM92FS(装弾数は15発だが、原田が何発か使用済み)
[所持金]:600万円
[思考]:優勝して帝愛次期後継者の座を確実にする
参加者を見つけ次第、殺害する
※伊藤開司、赤木しげる、鷲巣巌、平井銀二、天貴史、原田克美を猛者と認識しています。
※利根川、一条を部下にしました。部下とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、その派閥全員を脱出させるという特例はハッタリです。
※アカギ、ひろゆき、平山、市川、しづかに対して、殺害宣言をしました。
※病院の探索により、この島の秘密、主催者の意図の一部を知ってしまったと考えています。保菌者になった可能性があります。和也はその事実を重く見ています。
※アカギが和也の『特別ルール』の嘘を暴いたことを重く見ています。
(補足>首輪探知機がある、としづかが漏らした件ですが、それは和也しか盗聴していません。利根川と一条はその頃、病院に爆弾を仕掛けに行っていました。) 【一条】
[状態]:身体全体に切り傷(軽傷)
[道具]:黒星拳銃(中国製五四式トカレフ) 改造エアガン 毒付きタバコ(残り18本、毒はトリカブト) マッチ スタンガン 包帯 南京錠
通常支給品 不明支給品0〜3(確認済み、武器ではない) モスバーグM590(装弾数:7発 予備装弾:5発) 、バヨネット(モスバーグM590に装着可能)
[所持金]:3600万円
[思考]:カイジ、涯、平田(殺し合いに参加していると思っている)を殺し、復讐を果たす
参加者を見つけ次第殺害する
佐原を見つけ出し、カイジの情報を得る
和也を護り切り、『特別ルール』によって村上と共に生還する
※和也の部下になりました。和也とは『和也同盟』と書かれた誓約書を交わしています。
※『特別ルール』――和也の派閥のみがゲームで残った場合、和也の権力を以って、 その派閥全員を脱出させるという特別ルールが存在すると信じています。(『特別ルール』は和也の嘘です)
※通常支給品×5(食料のみ4)は、重いのでE-5ギャンブルルーム内に置いてあります。
【原田克美 死亡】
【残り 15人】 こちらで以上です。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
あと、支援もありがとうございました。 投下乙です!
原田の背景、帝愛に対する憎悪など、死に様がとても克明に描写されていてさすがだと思いました。
この2人の所持品、新しく手に入った散弾銃2つに普通サイズの拳銃、
他チェーンソーとか改造エアガンとか…殺人道具の見本市ですね…
有賀に代わるマーダー誕生、殺人鬼二人組って感じですね。今後の展開が恐ろしいです。 黒沢復活してたんだな
本屋でコミック見てワロテ買ったわw 集めてる人いる?3個買ったけど、シールはキラキラで良いんだが全部オッサンが出たw
写真よりもビックリマン風の絵柄にした方がもっと売れる気が・・・ このスレ自体は何年か前から知ってたものの最近やっと一部人物を追って読んだ
いいなこれ ここがこうやって死ぬのかーってのが楽しい
wikiも便利だしこれから他の読んでない話読んでくるわ カイジのビルを傾けるイカサマは鳥人戦隊ジェットマン第39話「廻せ命のルーレット」のパクリ ひさびさに見たら銀さん死んでるっ…!
物語も佳境?に入ってるし凄い長編になってんな ここ一年くらい自分がかなりの数保守してんだけど
まだ見に来る人がいるってことにホッとする
誰か続きかいてくれ…無理ならせめてネタとか意見とか落してくれ 約1年書かれてないのか…その間保守乙です
今まで書き手の皆様全員がすばらしくて書く勇気がないwww
零(沢田)vs主催者、見れるなら見たいなあ
銀二にボコボコにされた零がギャンブルで挑むとか熱い ほしゅ!
自分もかなり初期からスレで読んでる。次の作品を待ってます。 昔何話か書いたけど、なかなか時間が取れない…
なんとか完結してほしいけど難しそうだな… 久しぶりにこのスレ見たわ
もうみんなおっさんになって時間とれないんだろうな 久しぶりにこのスレ見たわ
もうみんなおっさんになって時間とれないんだろうな 久しぶりにこのスレ見たわ
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