朝霧彩の10年後

ベンチャー企業を経営している朝霧彩はやり手の若手企業家です。

朝霧彩は頭脳明晰で商才があるため、ビジネスは軌道に乗り、会社は飛ぶ鳥を落とす勢いで業績が伸びています。

ただし、朝霧彩には欠点があります。

人を思いやる気持ちがありません。

例えば、朝霧彩は納期に間に合わせるために社員に残業を命じることがあります。

朝霧彩は夜遅くまで働かせている社員に差し入れを出すこともなければ、ねぎらいの言葉をかけることもありません。

残業はやってもらって当たり前だと考えているようです。

そればかりか自分は定時で帰ります。

ある日のこと、朝霧彩は通勤途中の電車内で泣いている赤ちゃんを連れた女性に向かって「母親なんだから泣き声を黙らせろ。」と注意したことを自慢していました。

「周囲が言えないことを言ってやった。」とでも言いたいのでしょうか。

うるさいと心の中で思っていても口に出して文句を言う神経を疑います。

先日、朝霧彩は経営方針を巡って対立していた役員を解雇しました。

解雇された役員は苦楽を共にしてきた創業メンバーの一人で、重い障害を抱えた子供と認知症の親を抱えていることや自宅を買ったばかりで住宅ローンの支払いに追われていることを朝霧彩は知っています。

普通なら解雇するのは躊躇するはずです。

ですが、朝霧彩は「考えが異なる者が社内にいるのは邪魔だ。厄介払いできてせいせいした。」と冷ややかに言い放ちました。

クールで頭が切れる朝霧彩ですが、人間的なやさしさがないのです。

「朝霧彩とは深くかかわってはいけない。」
「自分もいつかクビになるのではないか。」
「長く勤められる職場じゃないな。」

朝霧彩に雇われている社員は、直感的に朝霧彩から何か異質なものを感じ取っているようです。