悪魔バスター★スター・バタフライ 【SVTFOE】 ★7
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VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:----: EXT was configured >400,401,402,403,404,405,406,407,408,409,410,411,412,413,414,415,416,417,418,419,420,421,422,423,424,425,426,427,428,429,430,431,432,433,434,435,436,437,438,439,440,441,442,443,444,445,446,447,448,449
>450,451,452,453,454,455,456,457,458,459,460,461,462,463,464,465,466,467,468,469,470,471,472,473,474,475,476,477,478,479480,481,482,483,484,485,486,487,488,489,490,491,492,493,494,495,496,497,498,499
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>500,501,502,503,504,505,506,507,508,509,510 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:1341adc37120578f18dba9451e6c8c3b) このスレ荒らされてるだろ?
実はニュー速VIPでこんなスレ立ててるやつがいる
https://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1552695260/3
けしからんな
おめでとうございます!この画像を見たあなたと愛子さまのご結婚が決まりました!
放っておくとそのまま婿入りすることになりますが
https://dotup.org/uploda/dotup.org1798100.png
唯一逃げられる方法があります!
それは↓のスレッドに「ブレイウード」か「アントフェアリー」と入力することだけです!
それでは華やかな結婚生活を楽しみにお待ちくださいね(^o^)
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/cartoon/1552660158/
Slot
🎴💣😜
👻🍒👻
🍒🍜💣
Win!! 9 pts.(LA: 2.07, 2.10, 1.90)
3 風吹けば名無し 2019/03/16(土) 20:21:59.56 ID:t0jEooKia
おめでとうございます!この画像を見たあなたと愛子さまのご結婚が決まりました!
放っておくとそのまま婿入りすることになりますが
https://dotup.org/uploda/dotup.org1798100.png
唯一逃げられる方法があります!
それは↓のスレッドに「ブレイウード」か「アントフェアリー」と入力することだけです!
それでは華やかな結婚生活を楽しみにお待ちくださいね(^o^)
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/cartoon/1552660158/ _
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...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
ノ:::へ_ __ / \_____________
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/::::::ヽ―ヽ -=o=-_(::::::::.ヽ
|○/ 。 /::::::::: (:::::::::::::)
|::::人__人:::::○ ヽ/
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しw/ノ___-イ
∪ †呪 い ま し た+
この画像を見たあなたは今夜、夢の中で貧困JKうららと汁だくsexすることになります
https://i.imgur.com/wpuppfG.jpg
呪いを解くには↓のスレッドにこの画像をコピペしてください
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/cartoon/1552660158/ 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:68f2ed3dc652fce4c9169aaf2a727f10) 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:68f2ed3dc652fce4c9169aaf2a727f10) すまん悪気はないんだ
呪いを解くために仕方ないんだ、すまん…
https://i.imgur.com/wpuppfG.jpg なんjから来たンゴゴゴゴゴwwwwwww
よろしく二キーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwt お前らどれだけ結婚したくないんだよ
まぁ池沼じゃ仕方ないか _
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/ / ヽ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
ノ:::へ_ __ / \_____________
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∪ _
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...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
ノ:::へ_ __ / \_____________
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しw/ノ___-イ
∪ アントフェアリー
愛子様と結婚は嫌じゃあああああああ _
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...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
ノ:::へ_ __ / \_____________
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しw/ノ___-イ
∪ ここ荒らしてるの嫌儲って所のやつらしい🤒 許せん😠😠😠 |||||||||||||||||||i .,,,;iツiii''"''''ミi;,. .,;ilツ'.;ニ;..''' ''ミi,. il||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||l' ;'"".;il||||||||ミi;."';,,. .,;ill|'" .,;l||||||||||ミ;,. "' i|||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||i i|' .l||||||||||||ミi; "' .,i'" 'i||||||||||||lツ' i il|||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||i 'i|ミ;,.'ミi|||||||ツ".,;iil|i' "''il|l;;,,.. 'ミl||||||lツ..,il|l' i||||||||||||||||||||
|||||||||||||||||||" "''iillll|||llllツ''""" "''ミiill|||||llllツl''" i||||||||||||||||||||
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'|||||||||||||||||||i il||||||||||||||||
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''ill|||||||||||||i, il|||l,. " ;: l'" ;l il||||iii;, ill||||||||||ツ
"'i||||||||||||i;, "l|||illllllllllllll|iiiiil|liiiiil|lil||||||ツ" .,;il|||||||||ツ このスレのURL貼りまくってるやつ呪いまくってやるぞ _
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...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
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...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
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|○/ 。 /::::::::: (:::::::::::::)
|::::人__人:::::○ ヽ/
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...―/ _) < 4期でイクリプサとロンビュラスが喧嘩してる
ノ:::へ_ __ / \ イクリプサが手加減をしてるんだろうが、
|/-=o=- \/_ \ 3期のイプリプサ無双感は無くなったなぁ
/::::::ヽ―ヽ -=o=-_(::::::::.ヽ \_____________
|○/ 。 /::::::::: (:::::::::::::)
|::::人__人:::::○ ヽ/
ヽ __ \ /
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...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
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...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
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...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
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...―/ _) < ちんちん シュッ!シュッ!シュッ!
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嫌儲でこれコピペしたら可愛い女の子をくれるって聞いたんで貼ります
荒らすつもりはありません 住民の皆さんごめんね . -=≠¨ ̄ ̄¨ ヽ、
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/ \ ` ー----‐'´|、 大好きだよ❤ メンヘラ発達障害大学院生わい、今日も掲示板を荒らしてニッコリご満悦
http://tomcat.2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1550235801/
2 名前:風吹けば名無し[] 投稿日:2019/02/15(金) 22:03:35.20 ID:J9sSq3OG0
このスレ荒らしてくれや
https://medaka.5ch.net/test/read.cgi/cartoon/1545539775/
この日全てが狂った >>271
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∪ これ嫌儲とアソコで通報祭りになってて笑ったわ
あんだけの人数から連絡行きゃ何かしらあるんじゃね
朝から来るらしいし犯人は楽しい朝になると思うわ 全盛期のイチローなら
・3打数5安打は当たり前、3打数8安打も
・先頭打者満塁ホームランを頻発
・イチローにとってのホームランは内野安打の打ちそこない
・先頭打者サイクルヒットも日常茶飯
・9回裏100点差、チームメイト全員負傷の状況から1人で逆転
・ワンバウンドも余裕でヒット
・一回のスイングでバットが三本に見える
・バントでホームランが特技
・打席に立つだけで相手投手が泣いて謝った、心臓発作を起こす投手も
・ホームランでも納得いかなければサードベース踏まないで帰ってきてた
・あまりに打ちすぎるから牽制球でもストライク扱い . -=≠¨ ̄ ̄¨ ヽ、
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W . {l/__,ィr'T tz.、_ヽ }'´ / }'
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/ \ ` ー----‐'´|、 >>278悪魔バスタースターバタフライ、原題Star VS The Forces of Evilというディズニーチャンネルで放送しているアニメのスレですが
今は頭がおかしい人達がうようよいるスレです プライムで最新話見たわ
ハグするときに頬染めるスタルコ尊い・・・ >>281
全盛期のイチローなら
・3打数5安打は当たり前、3打数8安打も
・先頭打者満塁ホームランを頻発
・イチローにとってのホームランは内野安打の打ちそこない
・先頭打者サイクルヒットも日常茶飯
・9回裏100点差、チームメイト全員負傷の状況から1人で逆転
・ワンバウンドも余裕でヒット
・一回のスイングでバットが三本に見える
・バントでホームランが特技
・打席に立つだけで相手投手が泣いて謝った、心臓発作を起こす投手も
・ホームランでも納得いかなければサードベース踏まないで帰ってきてた
・あまりに打ちすぎるから牽制球でもストライク扱い 全盛期のイチローなら
・3打数5安打は当たり前、3打数8安打も
・先頭打者満塁ホームランを頻発
・イチローにとってのホームランは内野安打の打ちそこない
・先頭打者サイクルヒットも日常茶飯
・9回裏100点差、チームメイト全員負傷の状況から1人で逆転
・ワンバウンドも余裕でヒット
・一回のスイングでバットが三本に見える
・バントでホームランが特技
・打席に立つだけで相手投手が泣いて謝った、心臓発作を起こす投手も
・ホームランでも納得いかなければサードベース踏まないで帰ってきてた
・あまりに打ちすぎるから牽制球でもストライク扱い 全盛期のイチローなら
・3打数5安打は当たり前、3打数8安打も
・先頭打者満塁ホームランを頻発
・イチローにとってのホームランは内野安打の打ちそこない
・先頭打者サイクルヒットも日常茶飯
・9回裏100点差、チームメイト全員負傷の状況から1人で逆転
・ワンバウンドも余裕でヒット
・一回のスイングでバットが三本に見える
・バントでホームランが特技
・打席に立つだけで相手投手が泣いて謝った、心臓発作を起こす投手も
・ホームランでも納得いかなければサードベース踏まないで帰ってきてた
・あまりに打ちすぎるから牽制球でもストライク扱い 嫌儲から荒らしを呼んでいるみたいですね
本当にあの人たちは良くない ワッチョイあるのにようやるは
次はIPつけたろうか なんJから来たんやが
結局Disney DELUXEで全話見れるようになるンゴ? / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
./ \
| / ヽ |
|.ヽ / |
| ヽ //ヽ/ |
ヽ /
/⌒ ⌒ヽ 全盛期のイチローなら
・3打数5安打は当たり前、3打数8安打も
・先頭打者満塁ホームランを頻発
・イチローにとってのホームランは内野安打の打ちそこない
・先頭打者サイクルヒットも日常茶飯
・9回裏100点差、チームメイト全員負傷の状況から1人で逆転
・ワンバウンドも余裕でヒット
・一回のスイングでバットが三本に見える
・バントでホームランが特技
・打席に立つだけで相手投手が泣いて謝った、心臓発作を起こす投手も
・ホームランでも納得いかなければサードベース踏まないで帰ってきてた
・あまりに打ちすぎるから牽制球でもストライク扱い 全盛期のイチローなら
・3打数5安打は当たり前、3打数8安打も
・先頭打者満塁ホームランを頻発
・イチローにとってのホームランは内野安打の打ちそこない
・先頭打者サイクルヒットも日常茶飯
・9回裏100点差、チームメイト全員負傷の状況から1人で逆転
・ワンバウンドも余裕でヒット
・一回のスイングでバットが三本に見える
・バントでホームランが特技
・打席に立つだけで相手投手が泣いて謝った、心臓発作を起こす投手も
・ホームランでも納得いかなければサードベース踏まないで帰ってきてた
・あまりに打ちすぎるから牽制球でもストライク扱い 「ブレイウード」か「アントフェアリー」
つったく、面倒なことしやがって 俺:大学生、さえない男
たまの休みや講義の空きにゲーセンに行って格ゲーをやるのが好きだった
そこであった話を、ちょっと書かせて欲しい 俺はといえば、大のゲーセン好きだった。
格ゲーにアケカードゲーに音ゲ、割となんでもやってた。
というより、そのゲーセン独特の雰囲気が大好きだったんだ。 俺は趣味といえば絵を描くくらいで、大学でもなんのサークルにも入っていない。
だから学部に何人か友人はいれど、基本休みはひとり。
だからこそゲーセンに惚れ込んでた。
ゲームをしてれば顔なじみはできるし、言葉は悪いけど、ゲーセンに行くと
「あ。俺みたいなダメな人はたくさんいるんだ…」てきな居心地の良さがあった。 基本、ゲーセンで顔見知り程度の知り合いができるのは珍しいことではない。
毎回同じとこに行って同じようなゲームをやっていれば、顔を覚える。
ゲーセンでできた友達ってのも何人かいた。
ゲーセンってのは多分皆が考えてるよりは健全で、いい場所だと思う。 俺はその日も講義が半日だったので、
午後から意気揚々といつもどおりゲーセンに向かったんだ。
あのワクワク感がいい。
今日は何すっかなーなんて迷いつつ俺はスーパーストリートファイター4を始めた。
平日とは言え、たまたま猛者が一人いて負けがこんでイライラした。 その日は、もうスパ4はいっか…ってなって、ブレイブルーかLoVをやろうと思った。
LoVってのは、スクエニのアーケードのカードゲームでハマるとなかなか面白い。
でも金がかさむからあまりやらないんだけど、その日はやろうって決めた。
俺は筐体に座って、しばらくそのゲームのプレイに興じていた。 珍しく勝ちが続いた。そんなに得意なゲームじゃないんだが。
すると、俺の隣の筐体に女の子が座った。
LOVの人口的にも、ゲーセンでなかなか女性プレイヤーに出会うことはないから、
ちょっと驚きつつも、
「まあ別におかしいことはないよな」って思いつつ俺はゲームを続けていた。 自分のゲームが一段落すると、俺は隣の女の子の方を見てみた。
キャスケット帽?っていうのかな、を深々かぶってて顔はよく見えなかった。
俺は「面白い子だなー」なんて思った。
そして、こういうとこで趣味の合う子とか身近でいたらいいだろうに…
と半ば妄想していた。 しかし、彼女は負けると独り言を言い出した。
「今のはだめかー…」「う〜んなんでだろう」
はたから見るとちょっと変な人なんだけど、俺はなんだか彼女のことが気になりだした。
どういう気持ちで俺がそうなったのかは分からないが… 俺も最初は「まわりに聞こえるくらい独り言とか…ちょっとな…」
って思って印象は最悪だった。けどなんか気になった。
そうすると彼女は早々とLOVから引き上げて
スーパーストリートファイター4をやりに行ったので
俺は気になりついていって彼女の試合を観戦してみる事にした 彼女のスペックはすぐ分かるからちょい待ち
そうすると、彼女その時使ったキャラはさくら。
そしてなかなかに強い。PP3000くらいはありそう。
なんだろ、このへん知らない人は分かり辛いかもしれないけど、
普通に俺より遙かに上手かったんだよね。
俺は驚いて、「ほぉー…」と思ってじっと対戦する彼女を見つめていた。 俺も見ていたせいか、数人の人だかりができて、彼女がコンボを決めると
「お、おお…」みたいなしょぼい歓声みたいのがあがるようになってたw
なんだろ、その時の彼女はすごく輝いて見えていたよ。
でも彼女はこのあと予想外の行動をとるんだよね… さっき俺をボコボコにしたであろう、猛者プレイヤーと彼女が当たって、
彼女なら勝てるかも…と思ったけど負けちゃったんだよ。
けっこう惜しかったんだけど。
俺も「あー残念…」くらいに思って見てたんだけど
彼女は顔を真っ赤にして明らかに泣いてたんだよね。
声はゲーセンだから聞こえないけど。
俺は唖然とした。 彼女はこの時キャスケット帽をとったんだけど、ショートヘアで顔真っ赤。
明らかに泣いた状態で店外の喫煙所とかありそうな方向に出ていったから
俺もなぜか無心で追いかけていた。
なんで追いかけてしまったのかが謎なんだけど。 店の端の割と静かな喫煙所っぽいところに彼女はいた。
目を真っ赤にしていた。
というか、キャスケット帽かぶり直してたけど、顔が好みで困った。
多分一般的には可愛いって言われないタイプだと思うけど、俺はドキっとした。
俺は喫煙者だし、煙草を吸うふりをして、彼女に話しかけようと思った。
さっきは、惜しかったですね…。 ふてくされてるかと思ったが、そんなことはなかった。
にっこり笑うと、
「あぁ、見てたんですか、恥ずかしいです。
わたしああいうとこだとつい必死になっちゃって…」
と笑いながら話してくれたのには驚いた。
恐らく、ゲーセンにいるって段階で、
初対面の会話の壁ってのが数段なくなってるんだと思う。
お互いにゲーム好きだと分かってるし、
ここで自然な会話が生まれたのはゲーセンだったからだと思う。 そうすると彼女は面白そうに、
「煙草一本くれません?」と言ってきた。
俺「え、あ、吸うんですか?」
「吸わないけど、なんか見てたら…なんか」
この時点で薄々分かってたんだけど、
彼女は天然か変な人かよくワカラン人のいずれかだったw しかし俺はといえば、大学生活サークルなし、
青春なし、家に帰れば絵かきに身を費やす
という生活を送っていたため、女の子と話すこと事態稀も稀で、舞い上がってた。
俺「じゃ、吸います?wキャスターってんですけど…ちょっと甘いかもですw」
「ありがとございます〜!すぅぅ…ゴホ!ゲホ!なにこれ苦しい…」
案の定涙目になっていた。
よろしくないことではあるが、俺はもうその時、
なんなんだこの人すごく面白いし可愛いって気持ちに取り憑かれていた。 煙草が初めてってことは…そんなに悪いかんじの子ではない。
まあ見た目からしてそうではあったが。
あと、なんか知らないけどやたらと笑う。
そこで数分格ゲー談義をしていたんだけど、すごく笑うんだ。
女の子ってこんなに笑うの?というか笑った女の子ってすごい。
そもそもこんな誰とも話せたことのない格ゲーの話を、
今ここで、初対面の女性としているということが一番信じられなかった。 なんだかすごい打ち解けてしまって、あの喫煙所で一体何分話したろう。
そうなってくると、男としては「連絡先知りたい」
という欲望が出てきしまう。
20〜30分話した時くらいだったか
趣味の話になってて俺が言ったんだよ。
「ちょっとね、イラストを描くのが好きで…」
ゲーセンにいた子だし、こういうことにもちょっとは興味を示してくれるんじゃないか
なんて淡い想いもあったわけだが…
「イラスト?」
笑顔いっぱいだった女の子が急に、すごく暗い顔になった。
「ま…その話はいいよ…」
「それじゃ、また…ゲーセンで会えたらいいね… 予想外だった。
連絡先どころか、ほぼ喧嘩別れクラスの雰囲気の悪さで別れてしまった。
イラスト、ちょっとくらいはテンション上って話が膨らむかなと思ったんだけど…
もしかしたら、そういうのが嫌いな人だったのかもしれない、
そう思って俺は落胆した。
「一体あの子は何だったんだろう…?」
キャスケット帽が似合ってたのは覚えてる。
でもそんな風貌でゲーセン来るなんて…
俺はすごい気になった。 いかんせん、俺が人間として少しでも甲斐性を見せるにはイラストしかなかった。
だって、それしかしてなかった…
それから数日経って、俺は再びゲーセンを訪れた。
彼女はまた居た。
その日はLOVをやっていた。その日はなぜかベレー帽。
でもそれも似合っていて、可愛かった。
相変わらず不思議な人だなあ…と思いつつ
俺もおもむろに近くでLOVをプレイし始めた。 この時、様々な疑問が浮かぶ。
今日は平日だぞ。
俺は講義半日だからいるが。
彼女はなんなんだ?
大学生?フリーター?
同い年くらいに見えるけど…
というか名前も知らないし。
悶々として、ゲームに集中できない。 LOVの彼女の称号レベルをチラ見する。
やはり、俺よりやりこんでいる。
そして勝率も高い。明らかに俺より上級プレーヤー。
そして勝つと、
「やったね〜!」と声を上げる。
相変わらずの奇人っぷりを発揮していらっしゃる。 ゲームが終わったところで、俺は肩を叩いて、ども、と会釈する。
「あ、来てたんだね〜。ジュース買おうぜ〜」
などと言い出す。もはやキャラが分からない。
馴れ馴れしいし、
本当に素の時は変な人なんだ。なんなんだこの人。
ますます気になる。 自販機前で、
俺「あ…この前はなんか…すいませんでした」
すると彼女は何が?ときょとんとした顔になった。
俺「ほら…イラストとか言ったら…」
彼女「あ〜、あのことはね、ちょっと…」
彼女「私もね〜描いてたんだよ、ついこないだまでね!」
俺「絵を描くの好きなんですか?」
俺がテンション上げて言うと、
にっこり笑って、
「好きだったんだよ。今は描いてない。」
俺「どうして…ですか?ってかアナタって今日も平日ですけど…
大学生さんとか…ですか?」
彼女「ちょっと違うかな」 彼女「わたしは美大だよ、だから大学生だけど、今はなんというか…」
俺「ええ!美大って…すごいですね…雲の上の人だ…」
彼女「…今は思い出を見に来てるというか」
俺「はい?」
彼女「ここっていい所でしょ」
俺「ゲーセンに…ですか?思い出?;」 彼女は次第に俺が年下だと気付いて、口調は変わっていた。
俺「え、そりゃどういう…」
彼女「ま、さ!」
いきなり大声を出す。
彼女「一回で知りたいこと全部知れるほど、簡単じゃないよ〜」
といってゲームにもどろうとする。
俺「え、そんな…また次もゲーセンに来てくれますよね!?」
彼女「くるくる〜まだ浸りたいから」
彼女の言葉はひっかかることだらけだった。
思い出?
その時の俺にはまったく理解ができなかった。
そして美大生。ますます俺は彼女の虜になてしまった。 自分にない何かを持ってる人。
よく分からなくて、自分を振り回す人。
きっと俺はそういう人に弱かったんだ。
もともと大好きで通っていたゲーセン、それからは毎日違うときめきと
一緒に通うことになる。
今日はいるか?明日はいるか?
もちろんいつも会えることはなく、会えない日のほうが多かった。
もしかしたらもう2度と会えないんじゃないか…
そんな風に思うこともあった。 と、今日はそろそろこの辺で寝ます〜
明日は事情であんまり描き込めないかもしれませんが頑張ります…
月曜にまとまって書けると思いますので、すいません… 何日か通っていると、彼女は再びゲーセンに現れた。
またベレー帽を被ってたんだけど、いつもと様子が違った。
服が作業着っぽいのか、インクやアクリルがついてて、
靴にいたっては絵の具だらけに汚れていた。
LOVをする手も、絵の具で汚れているようだった。 俺はもうときめいちゃって、ワクワクして話しかけた。
「こんにちは〜」
彼女「うん…」
いやにテンションが低かった。
明らかに何かあったかんじではあった。
でもまあいつも変な感じではあるんだけど、その日はなんか、落ち込んでいた。 ゲームに負けても独り言言わない。
ただ黙ってひたすら…
その横顔が自分とは違うちょっと大人に見えた。
俺「一戦終わったら、休憩しませんか?ね。」
彼女「そ、そのとおりであるね〜」
やはり変ではあるが。 俺「今日は大学で絵でも描いてきたんですか?」
彼女「いや…大学はもう卒業間近だし、関係ないね〜」
俺「あ、そういえば美大って…!どこに就職するんですか?」
おれは無邪気な期待で聞いただけだった。
彼女「……。」 >>72
なんだろう、
自分にない何かを持ってる女性ってとっても魅力的に見えたんだよね… 彼女「就職はね…ちっちゃいデザイン会社で…」
俺「うわ、デザイナーじゃないですか…!すごいですね!」
彼女は笑った。
彼女「ありがとう〜そんな風に言ってくれるのは君だけだな。」
彼女「でもなぁ、もどりたいなあ。君くらいの時に」
俺「どうしたんですか?何か夢があったんですか…?」
今思えば、ずけずけと聞きすぎだった。
彼女は泣いてしまっていた。
彼女「辛いなあ…君といると。名前なんてんだっけ?」
俺「富澤です…。」(仮名、サンドウィッチマンに似てるので)
彼女「そっか、わたしは吹石っていうんだ…」(吹石一恵に似てるので) 彼女「君は絵が好きなの?」
俺「好きです…下手ですがそればっかやってます…」
彼女「あははは、そうなんだ。」
そうするとまた泣いてしまって、
彼女「ごめんね…もうゲーセンにも来れないかも。」
そう言って夜の街に飛び出していった。 あ、すいませんそろそろ限界です。
それではまた夕方にでも…ごめんない… さて、ちょいと忙しいので書くスピードが遅くなるかもしれませんが
ぼちぼち書き込みを再開していこうかと思います。 彼女はゲーセンを出ていった。
俺は混乱した。何か悪いこと言ったのか?
もう何がなんだか分からなくなってた。
無心で追いかけた。
「待ってください!どうしたんですか!?」 彼女は立ち止まって黙った。
俺はどうしようか困った。
なんて声をかけたらいいか分からなかった。
目の前で、ベレー帽を被って手や服を絵の具で汚した女の子が泣いている。
なんてヘンテコな状況なんだろう。
瞬間、俺はこんな事を口にした。
「そ、そうだ…これから画材屋さんにでも行きませんか?」 なんでこんなことを言ったのか分からないが、
何か状況を変えようと思ってとっさに出た一言だった。
彼女「え…?ほんとに?」
俺「はい、行きましょう、近場でどこか…」
彼女の反応は思ったよりよかった。
そして幾分ノリ気であった。
彼女「じゃあさ、近くにあるから行こう。ちょっと電車のるけど。」 駅に向かって、黙って切符を買う。
「JRって高いのかな?」
などと彼女は言っていた気がする。
ホームで電車を待ってた。時間帯もあって、駅はなかなかの雑踏だった。
無言で過ごす。さっきまで泣いていたのに、彼女は思ったよりケロッとしていた。
俺はよく分からない展開に動揺して、緊張して、足が震えてたかもしれない。
彼女の方を見ると、笑ってVサインをしたりしておどける。
俺「なんなんですかソレ」
彼女「わからんなw」 この道中も、彼女は決して自分のことを語ろうとはしなかった。
俺がひたすら話していた気がする。
「美大生なんて本当に憧れる」とか「絵が好きで上手くなりたい」とか
俺が終始しゃべっていた。
そのたびにニコニコするだけで、それがなんだか可愛く見えた。
でもなぜ泣いてしまったのか、そのことには触れられなかった。 画材屋に着く。
すると彼女は途端にテンションが上がって、
あ〜どうしよう張りキャン買ってこうかな〜あでも筆も…
などと顔をキラキラさせて俺を連れ回して買い物を始めた。
俺はリラックスしている彼女になら何か聞いても大丈夫だと踏んだ。
俺「楽しそうですね。」
彼女「ここ来るとやっぱね〜テンション上がるよ。」
俺「でもこの前、もう絵描いてないって言ってませんでしたっけ…?」 彼女「いや、それはね…」
俺「気を悪くしたらごめんなさい…でもなにか知りたくて。
今日もいきなり泣かれてしまって…」
俺はもう彼女のことで頭が一杯だったから、知りたかった。
そして少しでも彼女の力になりたいと思っていた。
俺「なんで、いつもゲーセンに来てるんですか?なにか思い入れが?」
彼女「思い出があるんだよ、だから」
分からない。 もう分からないことだらけだった。
一体なんなんだろうこの人は。
そもそもただでさえこんな女の子がいつも一人でゲーセンに
来ていること自体不思議で仕方なかった。
俺「思い出って…なんなんですか?」
彼女「わたしの絵、見る?」
そういえば見たことなかった。
俺はそこで彼女のケータイから彼女の絵を見せてもらった。 そこにはポップンやら音ゲのキャラクタ、あるいは格ゲーキャラクタの絵があった。
とても可愛らしい絵柄で、おれは素直にいいなあ、と思った。
絵柄的には誰だろう…chancoさん辺りに近かったと思う。
俺「わああ!すごい上手いですね!」
彼女は満面の笑みになった。
彼女「ありがとう。」
彼女「私はただ本当にアーケードのゲームが大好きなだけ。」
しかしそれでもまだ合点がいかないことだらけだった。
なんで泣いていたのかがどうしても気になった。 俺「でも、本当に上手いですね。大好きな絵柄です!」
俺「やっぱりそっち関係を本当は目指していたんですか?」
彼女「ま…ね」
俺「そうなんですか…でもこれだけ上手かったらきっとまたチャンスありますよ!
俺は絶対応援しますよ!」
彼女「いや、もうそういうのは描かないって決めたことだから」
俺「? どうしてですか?」 彼女「君は若くて、絵が大好きで、きっといい子なんだろうね。」
俺「え、はい、あの…」
彼女「ダメなんだよ、気安くそう優しい事言っちゃ。」
いつになく真剣な顔になったので、怖かった。
目が真っ赤になっていた。
彼女「君はダメだ…。ダメダメだ。」
ダメダメって言われたのが妙に覚えている。
彼女「じゃあね、今日はここまでで。付き合ってくれてありがとう。」
帰り際にコピックマルチライナーを俺に手渡して、そそくさと去っていった。
俺は呆然として、追いかけることもできなかった。 何も分からなかった。
俺は完全に彼女にすべてを持っていかれてしまった。
しばらくメシもろくに食えなくなって、もらったマルチライナーで
落書きとかしてた。
寝ても覚めても完全に彼女のことしか思い浮かばなくなっていた。
でも連絡先すら知らなかった。
もはやゲーセンに行くということだけが、
彼女と俺を繋ぎとめる唯一の方法だった。 俺は悶々としながらゲーセンに通い続けた。
あの調子じゃ、次会っても何を話したらいいか分からない。
俺がいつものように学校帰りにゲーセンに行くと、彼女はいた。
LOVの筐体に座っている。
肩を叩いて、会釈する。
彼女「あ、きた〜!ねえねえローカル対戦しよーよ!」
彼女は会うなりゲームに誘ってきた。
ゲーセンありがたい。ゲームを介せば彼女の機嫌も良いみたいだった。 ゲーセンというものが、俺らの仲をつなぎ止めてくれている。
そんな風に感じた。
ひと通りゲームをして、
喫煙所OR自販機に行って格ゲー談義して、楽しかった。
楽しくて気が合うからこそ、俺は彼女のことを知りたかった。
ゲーセンにいるうちなら、何か話してくれるかもしれない。
俺はそう思っていた。
初対面に会った時も、ゲーセンだからあれだけ意気投合できた。 ひととおりゲームをして、また自販前に来た。
ゲームが心地よく鳴り響いている。
俺「あの…吹石さんはどうして絵を描き始めたんですか?」
彼女「わたし?んー…お兄の影響かなぁ」
彼女はポロッとこぼした。
ここで俺は初めて彼女にとってのお兄さんの存在を知った。 ゲーセンという、お互いに好きな場所だから、
ついつい気を許して口をついて出たんだろう。
彼女はハッとした顔だった。
俺「お兄さん…ですか?」
彼女はかぶっていたキャスケット帽を深々とかぶり直した。
俺「なんですかソレ…」
彼女は苦笑う。
彼女「わたしには兄がいるんだよ…。小中学生の時はよく一緒にゲーセンに来たよ。」
彼女「だからわたしはゲーセンが好きになったんだけどね。」
俺「お兄さんもゲーセン好きだったんですね?」
彼女「うんw好きなんてもんじゃなかったよ。」 彼女「お兄は絵が大好きだったから、
みんなにやってもらえるアーケードゲームを作りたいって、いつも言ってた。」
俺「それはすごいですね…」
彼女「でもね。」
彼女「ウチは厳しいから…お兄は美大に行きたかったんだけど、親に
旧帝大以上の大学じゃないとダメだ、って言われて…」
彼女「東大に行ったの」
俺「え、すごいじゃないですか!」 >>133
キャスケット帽被ってました。服装は…ちょっとタイトなジャケットに
ホットパンツでタイツ…だったような…ちょっと変わった服装だったけど
女の子らしかったと思います 彼女「お兄は長男だったから…父さんたちも必死だったんだろうな…」
俺はなんだかこの話をこのまま聞いていていいのか、いたたまれなくなった。
彼女「お兄は大学に行ったら好きなように創作活動できると思ってたんだろうね…」
彼女「大学に入ったら、今度は親に官僚か弁護士に
なるように勉強しろとこっぴどく言われて…」
俺「弁護士…司法試験ですか…」奇しくも俺も法学部だったので反応した。 彼女「お兄ね…司法試験全然ダメだった。」
彼女「時々、絵が描きたいって本音を漏らすこともあった。
私だけが女で下の子だから、好きなように美大に行かせてもらえたんだよ。」
俺は何も言えずにいた。
というか、普段まったく自分のことを話さない彼女が、
こんなに話してくれているのに、半ば驚いた。
彼女「司法試験に落ち続けるうちに…お兄はまいっちゃったんだよね。
心を病んじゃって、今入院してるんだ…もう絵を描くどころじゃない。」
なんて言ったらいいか分からなかった。いや、なんて言えば良かったの?w
彼女はそんな重大なことをあっさり笑って言うもんだから、俺は動揺した。 彼女「だから、わたしは…ゲーム会社に入ってゲームを作りたかったんだ。
私は好きなことをやって、自由にさせてもらった。だから絶対、夢を叶えようって…
でも、ダメだったよ。思い出にすがってるようじゃ、ダメなんだね。」
俺「ダメだったんですか…」
俺「でも、まだまだチャンスはありますよ…!」
彼女は、そうだねとは言わなかった。
だた、笑うだけだった。
その笑いが、何を意味するのか、まだ俺には分からなかった。 その日、会うのは何回目か分からなかったけど、初めて連絡先を交換した。
色々合点がいった。
なんでゲーセンにいたかも。
最初の印象より、ずっとしっかりした子だった。
もちろん意味不明なところもたくさんあったけど、それが可愛かった。
美大浪人したらしく、俺より2つ3つ上だったんだけど、背は小さかった。
でもその背中がすごく大きく感じた。
俺は嬉しくなった。彼女が話してくれた。
これからはもっと彼女の力になれるかもしれない。
彼女のために、なんでもするくらいの心持ちだった。
彼女の抱えてたものは大きくてビックリしたけど、
何より話してくれたことが嬉しかった。 すっかり浮かれていた。
次はいつ会えるだろう?
それから俺はまたしばらくゲーセンに通い続けた。ひたすら。
でもしばらく通っても、彼女はまったくゲーセンに現れなくなった。
メールは割と返ってきていた。
なんだろう?気になった。
土日も来ない。まだ仕事も始まっていないはずだった。
どうしてゲーセン来ないの?とメールで聞いても
「近いうちに行こうかな〜」という趣旨のメールが返ってくるだけだった。 それからまたしばらく経って、俺は若干凹んでいた。勝手に。
彼女はもしかしたら彼氏もいたかもしれないし、俺は多分忘れられた…と。
ゲーセンではいつも楽しくて、メシを食べることも多かったから、
向こうも俺のことを必要としていると思っていた。
突然、不思議なメールが来た。
「そろそろ、大きな勝負が待っています。勝ってみせるよ。」 勝負?なんのことだろう?
就職試験?それともイラストレーターデビュー?
俺は楽観的に考えていた。
「勝負?なにそれ?気になる」的なメールを返した。
するととんでもない内容のメールが返ってきた。 「今、入院しています。○○病院のどこどこ。良かったら会いにきてね、わたしのファンさん」
みたいなメールが来ていた。
卒倒しそうになった。
驚きと同時に怒りも湧いた。
すべてを話してくれたと思ったのに…どうして黙っていたんだろう。 俺は大学をさぼってすぐに会いに行った。必死だった。
俺「どうしたの?すごく心配してたんですよ!!」
「若年性の卵巣がん。」
彼女はニコッと笑って俺が着くやいなやそう言い放った。
俺はことの重大さにすぐ気付いた。
俺はばあちゃんを卵巣がんで亡くしてる。
進行性のとても早い癌として知られていて、ばあちゃんもものの半年で…
だったのを思い出した。 彼女は変わり果てた姿でそこにいた。ニット帽をかぶって、やせ細っていて…
彼女「本当はねえ。手術終わるまでは黙ってようって思ってたんだ」
彼女「でもやっぱり直前になって怖くなっちゃった。」
彼女は笑った。
笑顔だけは変わらずそこにあったので、なんだか俺のほうが安心して、悲しくなって、
涙目になってしまった。
しっかりしなくてはいけない。 強く、一人で頑張っていたんだろうな…
きっと俺と初めて会った時から、このことで悩んでいた…
そう思うと本当に泣きそうになった。
俺「大丈夫です。教えくれてありがとう。
これからは、俺も一緒にいますから。」
これが俺の精一杯だった。
そうすると彼女は安心したのか、途端に涙目になった。
彼女「こわいんだよ…手術…絵を描けなくなるのも…
ゲーセンに行けなくなるのも…何もかも怖いんだよ…」
彼女は何かがぷつんと切れたかのように、大泣きしだした。
俺も涙をこらえて、ひたすら
「大丈夫、大丈夫…」としか言えなかった。
正直この時俺もダメだと思った。絶望してた。でも俺が
弱音吐いちゃ絶対だめなんだと思って、ふんばったよ。 ひととおり励まして、なんとか良い空気に戻った。
彼女が、ブリジット描いてー!(ギルティギアという格ゲーのキャラ)
などと言ってくるので、俺が描いたりして遊んでいた。
すると、不思議と和やかになっていった。
そのうち、彼女のお母さんが機を見て病室に入ってきた。
俺「こんにちは」
母「あ、これはこれは…」
おふくろさんは人当たりの良い方だった。 俺は昔から大人(特におばちゃん)とは何故か打ち解けるのが得意だったので、
すぐにお母さんとも懇意になれた。
しかし俺と彼女の関係性があまりに曖昧だったので、そこはなんとも言及しづらかった。
母さんは勝手に彼氏だと思っていたようだが。
そして俺は手術までの間通い続けた。
すべてを捨てる覚悟だった。
大学も全部サボった。 手術前日。
行っていいのか迷ったが俺は行こうと決めた。
父親も、母親もいた。
お父さんは、話に聞いていたよりは温和そうな人だった。
「こんにちは…」
すると、母さんに手招きされて、待合に呼ばれた。
俺は母さんとは電話連絡もして買い出しにも行くくらい、実は懇意になっていた。
母「富澤くんには聞いておいて欲しいの。」
俺「はい…」
正直俺は手術の趣旨も、彼女の癌の状態もほぼほぼ知らなかったから、
何か聞きたいとは思っていた。 すまん、打ち続けてちょっと疲れた、ちょっとだけ一服休憩させてください さて、再開します。遅くてごめん。
お母さんは俺に言った。
母「手術しても…余命は1年くらいだろうって、言われてるの…」
動揺した。思っていたよりも、ずっとずっと、残っていた時間はなかった。
母「君は…それを覚悟しておいてね。それで、このことをあの子に伝えるか
わたしたちは悩んでるの…」
人生20年そこらしか生きて来なかった俺には、もうどうしたらいいのか分からなかった。
母「君は、最後まできっとあの子のそばにいてあげてね。
あの子、あなたがいない時もあなたのことばかり話すのよ」
みたいなことを言っていたと思う。
最後までってなんだ?もういなくなること確定なのか?
混乱した。
大学生の小僧には、あまりに色々重すぎて、どうしたらいいか分からなかった。 手術は滞り無く無事終わった。
しばらくは麻酔やらなんやらのせいで、熱も続き、
彼女も起き上がるのは難しいということで俺は病院に行くことを控えた。
俺はしばらくフワフワした気持ちになっていた。
全部夢なんじゃないかとも思っていた。 手術が終わって数日して、俺は彼女に会いに行った。
彼女は寝ていた。
目覚めると俺を見て、フラフラと体を起こす。
俺「あ、起きないほうが…」
彼女「いいの、今日は調子いいんだ…」
笑みにも力がない。
俺「手術、頑張ったね。」
彼女「ありがとう。」
彼女の笑顔には本当に力がなくなっていた。 俺「何か、欲しいものは…?」
彼女「一緒にゲーセン行きたい」
俺「それは…もうちょっとしたらにしようか。」
彼女「ゲームしたいね。」
そんなこと言われたら、悲しくなるだけだった。 彼女「病院の中散歩したいなあ。」
俺「それなら」
俺は看護婦さんとお母さんに聞いて了承を得て、
車椅子をひいてちょっと外まで行くことにした。
俺「喉かわかない?辛くない?」
彼女「そんな大丈夫だよwよそよそしいのやめてw」
彼女「あ、でも欲しいもんあるぜ〜」
俺「え、なになに?」 彼女「スケッチブックが欲しいな」
俺「あ、なるほど。それならクロッキー帳なら俺今持ってる。」
彼女「ほんと?やった、それなら絵描きたいな。」
ラウンジみたいなところで、おれは彼女にクロッキー帳を差し出した。
車椅子に座る彼女の体を支えつつ、ペンとクロッキー帳を渡した。
彼女はゆっくりと絵を描き始めた。 そこには、彼女が好きなアーケードゲームのキャラクタたちと、なにやら
メッセージ描かれていた。
そっとそれを恥ずかしそうに俺に渡す。
「迷惑かけてごめんなさい。こんな病人と一緒にいて楽しい?」
それは多分彼女の大きな不安だったんだろう。
これを、口に出して聞くことが出来なかったんだろう。 俺は泣きそうになった。
俺「何いってんの?」
俺「俺は吹石さんといる時が、一番楽しいよ」
俺はハッキリ伝えた。絶対に変な不安を持ってほしくなかった。
彼女「よかった。ありがとう。」
彼女は小さく笑った。
俺は彼女の頭を撫でたけど、ヘタレだからそれしかできなかった。
頭を撫でると彼女は笑って「わんわん!」と言った。
本当に、こういうとこがあるから俺は惹かれてしまったんだろう。 と、ごめん。ちょっとバイトだからしばらく離れる。
待ってる人は申し訳ない。 帰宅時間は日付変わる頃かな…でもその時はあまり書けるか分からないです。
おそらくまたまとまって書けるのは明日の夜あたりになると思います。 こんばんは。
思ったより早く帰れた。
みんなありがとう。少しだけど、書かせて頂きますね。 散歩から帰ると、病室に一人の女の子の姿があった。
どうやら、彼女の高校時代の友人らしかった。
彼女「てて子…」(名前は仮名です。LOVの彼女のお気入りの使い魔から)
友人「心配してたよ…」
俺「こんにちは」
俺は空気を読んで席を外そうとした。すると、
彼女「いていいよ…」
彼女がそういうので病室に残ることにした。 彼女たちは懐かしい話に話を咲かせていた。
でも終始、彼女が病気の話に触れることはなかった。
そして30分くらいしたらだろうか、友人さんはお見舞いをおいて去っていった。
見たところ、癌のことすら知らななそうだし、彼女の病気について知らなそうだった。
俺「友達には、病気のこと話してないの?」
彼女「うん、てて子だけだよ。それに癌とか知らない。すぐ治ると思ってる。」 俺「誰にも言わなくていいの?」
きっと俺が同じ状況になったら多くの友人に言ってしまう。
彼女「心配かけたくないじゃん。普通、みんなビックリしちゃうよ。
本当に少しの人が分かってくれてれば、それいいんだから」
彼女はとても優しい口調で言った。 >>319
海種使いだったよ。おれも真似して海種使ってた。
分かってくれてなんか嬉しいわ。 その少しの人に、俺が入っていたのは、嬉しくもあり、
なんとも言えない気持ちだった。
この子はもし俺がいなかったら、誰にも言わず、家族だけに頼って、
そう思うとなんだか辛くなった。
それからの日々は割と穏やかだった。
彼女は病院から離れられなかったが、俺は大学をできるだけ抜け出し
なんとか毎日でも彼女に会いに行った。 花が好きだったから、けっこうな頻度で花を買っていった。
彼女のお気に入りの花はトルコギキョウという花だった。
俺が偶然花屋さんで見つけて買っていった花を、彼女はとても気に入ってくれた。
青と白の色合いが綺麗な花だった。
でも毎回なるべく違う花を買っていった。
そして病室で二人で「花擬人化ごっこ」
をして持っていった花を女の子の絵にして遊んでいた。 よく笑った。花を持って行くと彼女は決まって
満面の笑みになって喜んでくれた。
彼女「今日はどうしよっかなー」
なんて言ってふたりで花を見て絵で遊んで、
本当に彼女が病気だってこと忘れるくらいに楽しかった。 でもいつもいつも調子がいいわけじゃなく、
日によっては行っても起き上がることすら辛い日もあって、
そうすると俺はふっと病気のことを思い出して途端に辛くなった。
そんな日も俺はお母さんに言って、持っていった花だけは
花瓶に入れるようにしていた。 >>327
いや、わかんないですwなんなんでしょう? ある日、いつものように病室に向かうと、
やたらテンションの高い彼女がいた。
彼女「ねえねえ、聞いてよ聞いてよ!」
俺「あらら、元気だね。どうしたの?」
彼女「外泊許可がもらえたよ!五日間!」
俺「本当に!?」
彼女「嬉しいなあ。2日間はおうちに帰るけど、わたし三日間は富澤といるよ!」
俺「本当に!」 彼女「デート行きたい!デート!」
俺「いいね、いこういこう。」
彼女「ゲーセン行こうよ、ゲーセン!」
こんなに元気で明るい彼女を見るのは久しぶりだったので、
俺はすごく嬉しかった。
どうにか彼女をたくさん楽しませてあげたい、そういう風に思った。 二人で、三日間何をするか考えふけった。
彼女はゲーセンに行きたくて、俺と普通のデートが一度してみたかったのだという。
そして、俺の生まれ育った街が見たいということで、俺の実家に来たいということ。
この二つだった。
彼女は多くを望まなかったし、贅沢も言わなかった。
何か欲しいものとかないの?
と聞いても、「ただ一緒にいたい」と言うだけだった。 もしかしたら、最初で最後のデートになるかもしれない。
俺は覚悟していた。
この、外に出られる、普通に過ごせる三日間で彼女を最高に笑わせたいと思った。
俺は色々考えた。プレゼントを買うために、貯金を下ろした。
何を買うか、迷ったが、COACHの帽子をあげることにした。
彼女はCOACHが好きで(と言っても財布しか使っていなかった)、
きっと帽子なら喜んでくれると踏んだ。 当日まで、ドキドキとした。何をどうすりゃいいのか。
彼女にデート初日でやりたいことを聞いた。
彼女「ゲーセンに行って、そのへんフラフラするー」
俺「え、そんなんでいいん?」
彼女「特別にどっか行くより、そっちの方が普通のデートっぽくていいじゃん」
彼女「学校帰りに一緒に帰るくらいの日常さで、いいんだよ」
彼女はにこにこしてそう言う。
彼女が望むのなら、俺もあまり気張りすぎないようにしようと思った。 その日が迫るごとにあたふたした。
実家に、女の子連れてくよって電話した。病気のことは伏せた。
前日に、意気揚々とCOACHに帽子を買いにいったが、あいにく売っていなかった。
彼女が一番好きなブランドはCOACHだった。COACHで帽子が欲しかったのに…
俺「あの…帽子が欲しいんですが…COACHのニット帽、被ってる人見たことあるんです」
店員「もうしわけございません…それはこちらの店頭では…」
あきらめられなかった。
俺は店内を見ていると、ハートの可愛いネックレスを見つけた。3万くらいした。
帽子を買うつもりでそんなに金は使うつもりではなかった。
でも俺はそのネックレスを買った。
しかし、この選択は正解だった。 いよいよその日になる。
俺はリュックにプレゼントを忍ばせて、いつ渡すか決めかねていた。
お父さんとお母さんに挨拶した。
お父さんは優しそうに笑っていた。
「よろしく、頼むね。」
俺「はい、彼女のことは、任せてください。」
彼女「じゃーね、いってくる!」
俺もニヤニヤしていたけど、彼女も始終にこにこしていた。
楽しい、忘れられない三日間が始まる。 正直不安もいっぱいだった。
突然体調が変わったら?彼女に何かあったら?
でも彼女は俺のこと信頼して、全てを俺に預けてくれたんだろう。
もしもの時のために病院の番号もメモったし、お父さんとお母さんの番号も分かってる。
きっと、どうにかなる。とにかく彼女といられる時間を大事にしようと思った。 彼女「電車のろ!電車電車!」
俺「え、タクシーとかでもいいんだよ?」
彼女「そんなんセレブなデートないよw」
俺「まあこの時間なら人も少ないしね。電車に乗ろうか。」
駅に着く。彼女は大声を出す。
彼女「わわ、電車だよ電車!いいなあ懐かしいなあ!」
俺「なんだかいいね、こういうの。すごい不思議な感じ、至って普通なのにw」
ずっと、病室でしか会えなかったものだから、色々と新鮮に映った。
電車に乗っただけで、なんだかとても嬉しかった。 電車ではしゃぐ彼女はどこかヘンテコだったけど、
どう見ても普通の女の子にしか見えなかった。
この小さい体に、色んなものを抱えてると思うと、悔しかった。
電車内には同じような年齢の女性もたくさんいて、それを見てると複雑な気持ちになった。
俺「どこいこっか?」
彼女「あ、決めてないのー?もうしっかりしてよー」
俺「ええ、ノープランでいいって言ってなかった?」
彼女「嘘でしたー!言ってみたかっただけこういう事w」
彼女は笑いながら言った。 あーすまん、書くのちょっとだけ辛くなってきたよ。
少しだけ一服休憩させてください 彼女は電車の中でも突拍子もないことを言い出す。
彼女「ねえねえ、ケンカしよ!」
俺「え、は?」
彼女「もう、ふざけないでよ!」
俺「どゆことwww」
彼女「失礼しましたw」
ケンカをするはずがすぐ漫才みたいになってしまって、二人で笑い転げた。
俺は彼女が何を求めているのか、なんとなく分かっていた。 花言葉が気になるけど、続けますw
彼女は自由だった。そう、彼女はこういう人だったんだよ。
俺は凄く安心していた。
けっこう電車に乗って、とりあえず新宿で降りた。
彼女「あ、そだ。ゲーセンでも行かない?」
俺「それ最初から決めてたんじゃんww」
彼女「ま、そうなんだけどww」
彼女のワールドになりつつあった。
俺はすごく懐かしい気持ちになった。
会ったばかりの頃を、思い出すようだった。 ゲーセンに着くやいなや、彼女はテンションだだ上がり。
彼女「大きい!すごい!この雰囲気懐かしい!」
俺「初めてだけど、すごいなー。格ゲーとかも猛者がいそうだ。」
彼女「デッキ組んだんだよデッキ!まずLOVね!」
もう大はしゃぎの彼女を見ていると、こっちも楽しくて仕方がなかった。 俺たちはまあ、アケゲーオタだから、
ここに会話の内容書いてもあれかもしれないけどw
彼女「わだリバデッキ作ったんだー!ゲート閉じちゃうよゲート!」
俺「いや、させない!俺のムーブでそんなものは…」
ま、分かる人だけ分かってくださいw
こんなこと言い合いながら、それは楽しくプレイしていたわけです。 そのあとはひと通り色々まわる。
彼女がポップンやりたいと言えばやり、太鼓叩きたいと言えば、叩き。
そのあと二人で格ゲー武者修業と名づけ、すいていたので
勝てない相手にコンビを組んで挑み続けたりw
友達とやったら盛り上がった試しのないQMAというゲームでも、
二人でハイタッチしながら嘘のように盛り上がったり。
とりあえず、俺達にとってゲーセンというのはこの上なく楽しいスポットだった。 そんなことをしているうちにあっという間にお昼を回っていた。
俺「そろそろ引き上げようかー」
彼女「すごい楽しかったー!」
彼女は本当に満足しているようだったので、俺は安心した。
かくいう俺も本当に楽しかった。
俺「お昼どうしたい?」
彼女「マックがいいなぁー」
俺「え、そんなもんでいいの?」
彼女「わたし携帯のクーポンあるからねー!」 彼女は本当になんてことない日常の時間を過ごしたいってのはもう分かっていた。
彼女「わたしはねー、てりやきかなw懐かしいな〜」
カウンターで楽しそうに選ぶ。
俺「じゃあ俺はベーコンレタスでww」
彼女「シェイク飲もうよシェイク!」
はしゃいでる彼女を見るのは楽しかった。
何をしていても、本当に楽しそうにしていた。 席に着く。一息つく。
彼女「マックこんなに美味しかったかなあw」
俺「久々に食うと美味いんだよねえ」
彼女「わたしはポテトを欲しているよ」
俺「あるよ?」
彼女「ちがうよ、ほら」
彼女は口を開けて促す。正直、アホである。
そして、俺が口にポテトを入れてあげると、食べながら
「10点〜!」
などと意味の分からない事を言い出す。
俺もこれをやらされるハメになって、二人してマックでアホなことをしていたw
でも、楽しかった。 今思えば、俺は彼女のこういうところに惹かれていた。
一緒にいると、なんでも面白く思えて、笑いが絶えない。
時々本当にあほらしいことを言っては、笑顔になる。
それがすごく心地良かった。 >>443
彼女は10-feetってバンドが好きだったよ
いつもライオンって曲聞いてた もう今日は遅くなったので、そろそろ落ちますね。
みんなこんな時間までありがとう。
明日の夜には完結に持っていけるように頑張りたいです。 >>453
冬目景俺も大好きだ。ってか彼女も好きだった。いいよね、あの人 席に着く。一息つく。
彼女「マックこんなに美味しかったかなあw」
俺「久々に食うと美味いんだよねえ」
彼女「わたしはポテトを欲しているよ」
俺「あるよ?」
彼女「ちがうよ、ほら」
彼女は口を開けて促す。正直、アホである。
そして、俺が口にポテトを入れてあげると、食べながら
「10点〜!」
などと意味の分からない事を言い出す。
俺もこれをやらされるハメになって、二人してマックでアホなことをしていたw
でも、楽しかった。 今思えば、俺は彼女のこういうところに惹かれていた。
一緒にいると、なんでも面白く思えて、笑いが絶えない。
時々本当にあほらしいことを言っては、笑顔になる。
それがすごく心地良かった。 もう今日は遅くなったので、そろそろ落ちますね。
みんなこんな時間までありがとう。
明日の夜には完結に持っていけるように頑張りたいです。 >>453
冬目景俺も大好きだ。ってか彼女も好きだった。いいよね、あの人 こんばんは。
お待たせいたしました。みんなありがとう、ほんとうに
ぼちぼち再開していってもいいですかね? 一服しつつゆっくり書いていきますので、
みなさんもゆったりお付き合い頂ければ。
マックでの俺達は年甲斐もなくはしゃいでいた。
まわりに高校生やら大学生も多くいたと思うけど
その子ら以上に大笑いしていた。
彼女「ねえ、煙草吸ってイイよ」
俺「え、どうして?」
普段、彼女の前では絶対煙草を吸うことはなかった。というか不可能だった。
その時は喫煙席に座っていた。
俺「くさいよ?」
彼女「いいの」
言われるままに一服した。
彼女は黙って眺めていた。 案の定、
彼女「ごほっ、くっせーね。」
俺「だから言ったじゃーんw」
彼女はそう言ったものの、にこにこしているだけだった。
俺も、なんだか照れくさくなりながら、一服。
そうしていると、俺の携帯にメールが来た。 妹からだった。
俺には一つ年下の妹がいる。
内容の趣旨としては、
「兄貴今日女の子連れてくるんだって?期待しとるわw」
みたいな感じだった。
おちょくっていやがる。基本仲悪くもなく、
実家に帰れば一緒にゲームしたりもするし、なにぶん
妹自体も少しオタクなので、気が合う兄妹ではある。 俺「午後からどうしよっか。電車の時間までは、けっこうあるんだよね。」
彼女「買い物行きたい!本屋さん行こ!」
俺「え?本屋さんでいいの?」
彼女「間違いない」(長井秀和のマネ)
俺「なっつwww」
彼女のこのあたりはもはや言うまでにもあらずだったけど、
彼女はよく芸人のマネをしては笑っていた。 まあ入院生活も長いわけだし、きっと欲しい本とかもいっぱいあるんだろう。
そして書店に赴く。
彼女「ひれーっ!」
俺「俺も初めて来たけど大きいね…」
彼女はコミックコーナーに駆け出す。
そしてずーっと俺の手を引っ張って、
「これ、〇〇さんの本、すごく好きなんだ〜
あ、〇〇さんの漫画、これは作画綺麗で…」
という風に喋り疲れるんじゃないかって思うくらい話す。
俺「大抵本屋とか一人で来るけど、一緒に来ると
好きな本のこととか話せて楽しいね。」 俺自身、正直にそう思った。
俺も普段から本屋巡りとかが好きで、好きな絵柄の作家さんとか
見つけたりするのが好きだった。
でも一人だどこか寂しい部分もあった。
それを彼女と共有するのは楽しかった。
彼女「でしょーじつはこういうとこに二人で来てみたかったんだよね…」
彼女は照れくさそうに言った。
彼女がどうして普通のデートがよかったのか
なんとなく分かったような気がした。 俺たちは、笑うときもそうだけど、お互い語りだすと止まらない。
格ゲー談義をするときもそうなんだけど、どのプレイヤーが強いかとか、
そういうことを夢中になって語る。
彼女は、俺のオススメの本を教えて欲しいというので、俺も彼女に負けじと語った。
言っても言っても、「他は?」「全部知りたい」
と言ってきかないのでキリがなかった。
彼女「富澤オススメの本、全部読みたいな…」
俺「よし、今度持って行ってあげるね。」
彼女「そんなー悪いよー」
俺「ほんとは?」
彼女「待ってました…w」
彼女は苦笑いと共に本音を漏らした。 すいませんちょっとだけ休憩します
平井堅ってレスがあったのでyoutube見に行ったら自爆してしまいました
すいませんすぐ復帰します 電車までひとしきり時間があったので俺はその後
プラネタリウム行く?とかどっか美術館行く?とか聞いた。
けど彼女の答えは違った。
彼女「1時間だけカラオケに行きたい」
俺「ああいいねーそれ。座ってると負担もすくないもんね。」
カラオケに行くと、どんな感じになるんだろうと思ったけど、
彼女のレパートリーは実に豊富だった。
お互い真剣に歌うというよりふざけてばかりだった。
二人してテニミュを空耳で歌ったり、盛り上がる曲で合いの手を
入れあったりして、はしゃぎ倒した。
彼女は疲れちゃうんじゃないかって、心配になるくらいだった。 楽しい時間なんてあっという間なもんで、電車の時間が迫った。
カラオケでクーポンみたいなものをもらった。
マックでもクーポンみたいのをもらった。
そういうものをもらう度、俺は
「次があるのかな…」と一人で思った。 電車、特急列車。
俺の地元にむかう電車だった。
俺の地元までは特急で2時間くらいだった。
彼女「わーなんか旅って気がしてきました!」
俺「楽しいよねー」
彼女はそそくさと売店に向かった。
そしてじゃがりこを買ってきてドヤ顔で俺に見せつける。
彼女「旅っつったらこれでしょ!」
俺「車内販売もあるんだけどねぇ」
彼女「マジか!」 特急に乗る。
最初こそ彼女は特急ってすげえ駅すっとばすよね!
とか言って元気だったんだけど、そのうち疲れちゃったのか、
しばらくするとすっかり眠ってしまった。
俺は、しばらく静かな時間を過ごすことになる。
よこの彼女を見ると、色々と、思うものがあった。 少し油断すると、こんな日がずっと続くと錯覚してしまう。
この三日間が終わった先にはどんなことが待っているのか…
考えたくなくても、嫌でも脳裏をよぎった。
ここで、俺は本当に泣きそうになる。
そして彼女に分からないように泣いてしまった。
特急の指定席で、一人で号泣した。
どうしてだったか分からないけど、すごく悲しかった。 こんなんではいけない。俺は、思いついた。今だ、と。
寝ている彼女の首に、気付かれないように、プレゼントのネックレスを巻こうと思った。
窓によりかかっていたので、すきまがあってた。
起こしてしまうかハラハラしつつも、どうにかこうにか彼女にネックレスを
つけることができた。
ビックリするかな。俺は不安と期待でドキドキした。 駅に着くまで彼女は熟睡していた。
ここまで上手くいくと思わなかったけど、しかしよく寝ていた。疲れたんだろう。
駅に着くアナウンスが流れる。
俺「さ、着いたよ。起きて起きて。」
彼女「え、あ…」
寝ぼけている彼女の手を引いて、俺は彼女を誘導した。 ホームに降りると辺りは暗くなり始めていて、宵の口と言ったところだった。
彼女は降りると、う〜んと伸びをして「よく寝た」とつぶやいた。
俺はドキドキだった。
彼女「わ!なにこれ…ネックレス?富澤?」
俺は「魔法だよ、きっと」と言うつもりだった。でも、
俺「誰かのいたずらか…?」
意味が分からないw かっこいいこと言おうとしたのに、彼女にこっちを見られると恥ずかしくなって
ついついおかしなことを言ってしまう。
彼女「えーww富澤でしょーwこれ可愛いなー。」
俺「うん…プレゼントだよ。すっごい似合ってる。」
本当に似合ってた。自分の選んだネックレスをつけている姿が、
とっても、微笑ましかった。 瞬間、彼女は俺に抱きついてきた。
俺はビックリして心臓飛び出るかと思った。
俺「ぅお…!」ビックリして、変な言葉が出る。
彼女「ありがとう。絶対絶対、大事にするよ。」
勇気を絞って、俺も抱きしめた。
思えば、人生で始めて女の子を抱きしめた瞬間だったと思う。
とっても暖かくて、大事なものだって気がした。 高校時代毎日使っていた見慣れた駅のホームの真ん中で、
俺は確かに人の温かみを感じた。
人なんてほとんどいなくて、駅のホームには俺と彼女だけだった。
向いのホームに高校生がいたが。
しばらくその状態で、彼女がいきなり
「充電完了だー!」
と大声をあげるものだから、ぱっと手を離した。 改札をくぐる、なんだか照れくさくなっちゃって俺はぎこちない。
でも彼女はそんなのおかまいなしで、
「ほらら〜らら〜らら〜♪」(聖剣LOMのドミナの曲)などと鼻歌を歌う始末。
ご機嫌だったんだろう。彼女は普段からよく歌う子だった。
それ、聖剣だね!なんていつものように俺もつっこめず、
駅を抜けるとそこには迎えが待っていた。 ちょいと失礼。
晩飯を作ってきますゆえ、しばし離れます。
30〜40分で復帰しますね。 ごめんなさい。お待たせいたしました。
また一服しつつゆったりと再開したいと思います。 迎えに来ていたのは、妹だった。
車で迎えにきてくれた。
「なんでアイツなんだよ…」
と思ったが、結果母親が来てもあまり変わらないので同じだった。
俺は彼女の荷物をずっと代わりに持っていたので、積みこむ。
俺「ごくろーさん」
妹「いえいえ」
彼女「こんにちは、わざわざありがとうございます。」
妹「こんにちはー」
妹は明らかにニヤニヤしていた。 妹「可愛いなー。同級生ー?」
俺「お前よりずっと年上だから」
彼女「いえ、全然気にせず接してくださいねw」
妹「こんな兄だけどよろしくお願いしますねー」
車内は女社会と化していたが、非常に和やかなムードで、
妹と彼女も気が合いそうな感じで俺は安心した。 車で坂をのぼる。
俺の実家はちょっと坂の上にある。
店がまったくないわけでもなく、いい感じの田舎だ。
家につくと、待ち構えていたように母さんが出てくる。
「いらっしゃい!遠くからお疲れ様」
彼女「いえいえ、よろしくお願いします。」
彼女は、こういうところで礼儀正しくて、当然のことながら少し驚いた。
気のせいか、母さんも妹も、よそよそしくて、落ち着かない感じだった。
無理もない。ダメ息子が急にこんな女の子を連れてきたら、
面食らうってもんだろう。 母さんと妹はまだ晩飯の準備中だったらしく、
彼女は手伝いたい、と言った。
俺は疲れてるんだから無理しないで、と言ったが、
どうしてもと言ってきかなかった。
俺「母さんエプロンあったっけ?」
母「あれがあったわよアンタのが」
彼女は俺が高校の家庭科で使っていたエプロンを身にまとった。
「どうかな?w」
恥ずかしそうにエプロンを着て彼女は言う。
俺「いいねー最高だよ。」 その様子を見て母さんと妹が俺の方を見て不自然にニヤニヤする。
俺は「ほっとけ!!」と心の中で連呼した。
彼女も台所についてできることを一生懸命手伝っていた。
うちの家族に混ざって、楽しそうだった。
俺はそれを横目に見つつ勝手口の裏口で一服していた。
俺も手伝おうとはしたが、アンタ失敗するから、と妹に阻止された。 その日は、カレーだった。
ウチのカレーはレトルトは使わず、スパイスとかも使って、
無意味に凝っているものだった。
みんなで食卓に着く。
俺は若干の気まずさを隠しきれなかったw
彼女「こんなに本格的なカレー、おうちで作れちゃうんですね〜」
母「まーこだわりだすとキリがないのよね」
母さんは鼻高々だった。 彼女「おいしい!美味ですよこれ!」
彼女が笑ってそういうとみな口々においしいと言い出した。
俺「うん、やっぱりおいしいね。」
妹「たしかに美味、だねw」
ご飯が進みだすと、妹と母さんが動き出す。 母さんは、「うちの息子の何がよかったの〜?」
とか笑いながら聞き出すし、
妹は妹で、彼女がオタ気質であることを知ると、
途端に自分の好きな漫画とかの話を振りだす。
彼女は彼女で、「わたし一発芸とかできるんです」とか
ワケの分からないことを言い出すし、そうするとうちの妹も悪ノリしだすし、
色々とてんやわんやなんだけど、楽しかったよ。
初めて食卓を共にしたのに。 そのあとも、妹が「今日は面白いテレビやってないから」と
言い出してアメトークのDVDを見だしたりした。
妹は終始馬鹿笑いしていて、
彼女も「正気ですか!?」とかケンコバのものまねを始めだして、
母さんがなんか果物食べる?と聞けば
彼女は味をしめて「正気ですか!?」と返したり、
いや、楽しかったんだよ。本当に。 夜も更けて、そろそろ寝る体制に入る。
彼女は、俺のベッドに寝かせてあげた。疲れてるだろうし、明日もあるし、
なにより体調を崩さないかすごく心配だったので、俺たちは早めに寝ることにした。
俺は毛布をしいて、床で寝ることにした。明日も、ある。明後日も。
明後日も、終わったら、その次は…?
夜になると途端に辛くなる。
部屋で二人になると彼女に言われた。
彼女「今日はすごく楽しかった。本当楽しかった。」
かみしめるように言う。 彼女と日常を共にしていると、あの病室に帰ることが途端におぞましく思えた。
でも、彼女はもっと、ずっと、帰りたくないんだろう。
俺は彼女に「楽しかったよ。今日は疲れたし、早く寝よう。」
とだけ言ってから、ずっと考え込んでいた。
母と妹に、病気のことを言ってないのが辛かった。
正直、俺も誰かに相談したくてしょうがなかった。 彼女も寝て、妹たちも部屋にいるのを確認してから、俺は勝手口に一服しに行った。
電話をかける決心をした。
親父に電話をかけた。
俺はもう、誰かに話さないとどうしょうもなく辛くなっていた。 親父「おう、どうしたー?」
俺「遅くにすまん、実は…」
俺は、彼女のこと、彼女の病気のこと、今すごく不安なこと、
すべてを親父に赤裸々に離した。
男同士で、話したかった。聞いて欲しかった。
親父は多くは語らなかった。そして、俺に言った。
「絶対、最後までそばにいてあげろよ。つらいと思う。
でもお前が弱音吐いちゃだめだろ。
いつだってそばにいてあげろ、男と男の約束だ。」 親父は古風で、頑固な人間だった。
そんな親父の言葉は、俺の胸に強く響いた。
絶対に最後まで一緒にいよう。何が待ってるか、分からないけど。
青臭い小僧の俺が一人でずっと抱えていたことが、
親父に話したことで、とても軽くなった気がした。 俺は親父に話して、すっきりした。
部屋にもどると、さっきまでの不安が嘘のように、スムーズに眠りに落ちた。
気付くと、窓から明かりがさしていた。
実家の俺の部屋は一つの窓にカーテンがなく、朝日は入り放題なのである。
起きると、彼女は俺の机で何かをしているようだった。
俺は寝ぼけていて、状況を読み込めず、目覚めて彼女がいること自体に驚いた。 朝飯を食べて、いざ出かけよう、となる。
前々から話していたが、彼女はとりあえず俺の育った町や場所を見て回りたいのだという。
俺は本当に楽しいのだろうか、と若干の不安があったが、
彼女がやっぱりどうしても、というのでそうすることにした。
彼女「今日は一日動きまわるねー!」
俺「無理しちゃダメだかんね。」
俺はさっそく車のキーを握って車をだそうとした。 すると彼女は珍しくぐずった。
俺はよく分からなくて、車乗らないの?と聞く。
彼女「自転車、あるよね…?自転車乗りたい」
俺「あ、そうなんだ。でも2台あったっけなー?」
彼女「そうじゃなくて。二人乗り…しようよ。」
俺「え?」
彼女「ずっとしてみたかったんだ…二人乗り」 俺「だめだよ、あぶないし、体に負担かかって疲れちゃうよ…」
彼女「わたし一度も二人乗りってしたことないんだよ…」
そう言われると、弱い。
かくいう俺も人生で一度も二人乗りをしたことがなかった。
だから怖い、ということもあったのだが。
俺「分かったよ。じゃあすぐ近くの俺の小学校まで、だけね。」
彼女「やったー!じゃあグローブ持ってこうよ!」
笑顔になってはしゃぎだすのを見ていると、仕方ないかって思えた。 彼女は「どう座るんだ?」ってつぶやきながら荷台にちょこんと座って笑った。
俺「それでいいんじゃないかなw
よし、じゃあ俺が乗るから一回降りて」
彼女「やったー!」
荷台に乗せて気付いたが、彼女は嘘のように軽かった。
家を出て、ろくに車も通らない農道のような坂道を下っていく。
彼女は、とてもごきげんだった。 彼女は歌い出した。
「かーみーさーまー!ひとつきいてくれよー!」
それは彼女が好きだった藍坊主のテールランプだった。
俺も楽しくなって、一緒に歌う。
「かーぜーきるー!あしをーぼくにくれよー!」
はたから見たら馬鹿丸出しなんだけど、
もう、どうでも良かった。 彼女はごきげんだった。色んな歌を俺に歌ってみせてくれた。
彼女は歌い終わると、
彼女「こら、拍手しろ!」
俺「どうやってすんだよww」
このやりとりを数回に渡って繰り返したw そんなこんなで、近所の俺の母校の小学校に着いた。
土曜だったので、がらんとしていた。
少年野球のチームが、練習している以外、校庭もほかに人はいない。
俺「懐かしいなあ〜。ここでよく、野球したんだー」
彼女「そうなんだー。すごい広いね…」
無駄に校庭だけは広い小学校だった。 彼女は少女のごとく駈け出した。
思いっきり走りだしたもんだから、印象的だった。
あまり息上がるのもよくないのにね…。
彼女「こっちに来て!」
彼女「これ、うんていだよ、なつかしーw」
彼女は無邪気に色んな遊具で遊びはじめた。
彼女は滑り台の階段を上がって、俺が登ると滑り降りた。
彼女「無限ループだ!」
俺「そうなの?w」
こんな調子だった。 俺たちは何故か滑り台の無限ループがツボに入ってしまい、
いい年してしばらくそこで笑いながら滑り台に興じた。
俺「いつまで経っても捕まらないww」
彼女「はやく追いついてww」
こんな繰り返しだった。 しばらくすると冷静になって二人して、
「え、これ何が面白かったの?」的な感じになった。
遠くから少年野球の声が聞こえる。
彼女「ねえ、あの少年野球にいたの?」
俺「うん、懐かしい。もうずっと前のことだけどね。」
彼女はしばらくぼーっと駆けまわる少年たちを見つめていた。
彼女「キャッチボールしよう。」
俺「大丈夫?無理しないでね。」 彼女はまた歌い出す。
「べーすぼーるのおとが鳴ったー、だれもぎゃらりーいないぐらうんどーってね。」
俺「何それ?」
彼女「知らないの?」
彼女は音楽の造詣も深くて、たまに俺の知らない曲も歌う。
そうするとちょっとぐずるんだけど、そういう時は決まって
すぐiPodとかで教えてくれる。 その曲はフジファブリックのベースボールは終わらないだった。
「フジファブリックか…」
その日はその曲にピッタリだった。
晴れ渡っていて、広いグランドに二人だけ。
俺はその曲に則って、「あとで炭酸飲料を買いに行こう。」
というと、彼女はやたら喜んだ。
「いくよ!」
俺がボールを投げると、彼女はしっかりキャッチ。
そしてイイ感じに返してくる。運動神経がよかったのか、
昔からあまり運動が得意でない俺はちょっとだけうらやましくもあり、楽しくなった。 ひとしきり小学校で遊ぶと、俺は彼女を連れて小学校の近くの駄菓子屋に行った。
正直、まだあるか不安だったけど、小学生の時はよく入り浸っていた。
彼女「すごい…こういうのって本当にあるんだね。」
俺「ま、田舎だからね…w」
駄菓子屋のおばちゃんには可愛がってもらった。
おばちゃん「はい、いらっしゃい。」
俺「こんにちは、富澤ですー」
おばちゃん「あら、富澤くん…久しぶりだねえ…」
彼女も笑って、
「こんにちは」と言った。
3人でしばらく談笑した。 おばちゃんは、
「この前〇〇君来てさ…とか、〇〇先生がね…」
と懐かしい話をたくさんしてくるため、俺は楽しかった。
店を出る。
彼女は退屈だったかな、って思うと彼女は買った駄菓子を抱えながら
彼女「すごいね…すごいね。あったかい。こういうの本当にあるんだ。」
とすごく喜んでいた。
彼女「富沢のこともっと知れた気がして嬉しいんだー
これが田舎かーふるさとかー」
彼女は高揚して何度も言っていた。
俺がいつも飲んでいたって教えてあげたチェリオを嬉しそうに飲んでいた。 そのあとは、彼女を連れて歩いて、疲れたら休んで、での繰り返しで
そこら一帯、俺にゆかりのある場所をめぐった。
路端の小川を指して、
「中学の時この場所によく自転車をつっこんで走って、
水上自転車大会って言って遊んだんだよ。」とか、
「このお宮にいつも初詣にきたんだ」とか、
「中学の通学路はここで、片想いの子が彼氏と
歩いてるの見てショック受けたんだー」とか。
それは、まったく中身のないしょーもないツアーだった。
でも彼女は、「わーすげー!」「こんな感じ?」
とか一つ一つ本当に生き生きとリアクションをとった。
小学校からさほど遠くない母校の中学校まで来て、彼女は突拍子も無いことを言い出す。 彼女「毎日、ここの中学校に通ってたんだね…」
俺「そうなるね。いやーなつかしいww」
彼女は正門からの道を指した。
彼女「で、ここを帰ったと…」
俺「うん、そうだね。」
彼女「わたしたち今から中学生ね、同級生の。ひゃーどうしよう。」
俺「ええー!?」
その日は時間が経つのも早く、時分はそろそろ夕方にさしかかろうと
している頃だった。 彼女「あ、富澤くんだ…!ねえねえ、良かったら一緒に帰ろ?」
俺「そのノリ続けんのー?」
急にこっ恥ずかしくなった。
彼女はこうなるとひかない。
俺「吹石じゃん…ま、いいよ。帰ろうか?」
彼女「やったー!」
彼女が手を差し出して手をつなぐ。
それまで幾度と手を繋いだことはあったけど、この時ばかりはなんていうか
すごく恥ずかしかった。
ちなみに、自転車は小学校に置いてあった。 普段爛漫な彼女が、この時は中学生になっていたのか、
急に無口になりだすもんだから、俺は焦った。
空も夕焼けに近づいて、俺は手に変な汗をかきそうだった。
俺たちには珍しく、話す言葉が浮かばなかった。
よく分からないけど、なんだかすごく初々しい気持ちになっていた。
彼女がそういう風にしていたからなのか、なんかいつもの調子とは違っていた。
どうせ自転車取りに行かなきゃ行けないから絶対行くのに、彼女は意味ありげに
「ねえ、ちょっと小学校寄り道してこっか。」と言った。 小学校につくと、彼女は疲れちゃったのか、校舎と校庭をつなぐ階段に腰掛けて
「ふう」と息を大きくはいた。
おれは気になって、「待ってて」と言ってすぐに自販で飲み物を買ってきて
彼女に手渡した。
彼女「ごめんね、いつもいつも迷惑かけちゃって…」
俺「何言ってんのさーwおいしそうに飲んで笑顔を見せてくれたらいいんだよw」
そう言うと、彼女はにっこり笑って、立ち上がった。
校舎の脇の犬走りにあったじょうろを持ちだして、水をくみ始めた。
俺「?何すんのー?」 彼女は、もう誰もいなくなった校庭に、じょうろで何やら描き始めた。
何をしているんだろう?
「ありがとう」
そこにはこんな文字が浮かび上がった。
俺はハッとした。
急いで彼女のもとに駆け寄った。
そうすると彼女の方から抱きついてきた。
彼女は泣いていた。
彼女「ずっと…これからもずっとずっと…一緒にいてくれますか?」
彼女の言葉が脳内をこだました。 俺「ずーっと一緒にいるよ。ずっとね。」
俺は深く抱きしめた。
彼女が泣き止むまで、頭をを撫でながら、
彼女は泣きながらも「うぇ…わんわん…」とおどけて見せた。
俺は、心が傷んだ。
俺はこの子にこれから何をしてやれるんだろう?
一緒にいて、共に歩く、それしかないと分かりながら。
彼女は半泣きのまま、背負っていた小さなリュックから、何やら取り出そうとした。 彼女は、リュックから色紙をとりだした。
そこには、俺があげたCOACHのデザインの
ネックレスをして笑っている女の子が描かれていた。
そしてわきに、「富澤へ。いつもいつもありがとう。」という文字と日付が書かれていた。
彼女「それね、私が考えたオリジナルキャラなんだ。
ネックレス、すごい嬉しかったから。お礼にね、描いたの。ありがとう。」
そういって涙目で笑って俺に色紙を渡した。
朝、机で何かしていたのはそういうことだったのか。
俺は、本当に嬉しかった。
今までもらった中で、これほど嬉しいものはないと言っても過言ではないくらいだった。 俺は、涙をこらえて、「ありがとう」と言った。
渾身の、心からのありがとうだった。
その絵は暖かくて、彼女自身のようにも思えた。
彼女の頭を撫でると、彼女は楽しそうに「わんわん!」と言った。
なんだかそれがとってもおかしくて、さっきまで泣いていたのに
二人して大笑いした。
もう楽しくなって、叫びながら校庭を二人で走りまわった。 もう辺りもすっかり夕焼けになっていて、徐々に暗くなりだしていた。
帰り道は上り坂だったので、俺が自転車をひいて、二人で歩いて帰った。
一番星が見え出していた。
彼女は「一番星!」と言うと、また歌い出した。
「さようならーあえなくなーるけどーさみしくなーんかーないよー!」
帰り道は、二人で大合唱だった。
夕闇、宵の口はテンションが高揚する。
「ほーしーになれたらいいなー!」
歌い合うと、あまりのひどさに二人で爆笑した。 すいません、連投で少々疲れました。ちょっとだけ休みます。
今日はもうちょっとだけ書きますね。
>>38さんのレスが本当にそのとおりすぎて 彼女の魅力と言ったら、俺の知らないことをいっぱい知ってて、
俺にできないことがいっぱいできて、
一緒にいるとどんなものを見せてくれるか分からない
そういうところにあった。
この帰り道でも俺の前で急にタップダンスを披露して
「こういうステップがあってねー」と突然言い出したり、
空のグラデーションを見ては、こういう色合いの空を油絵で表現するときは
まずどんな色をおいてー、と色々嬉しそうに語ってくれた。
そのすべてを面白く感じさせてしまうのも、本当に彼女だからこそだった。 いつも早くのぼりきりたい坂道が、彼女といると永遠に続けとさえ思った。
振り返ると、空はとっぷり暮れていて、月があった。
彼女は「三日月さんが逆さになってしまった!」と叫んだ。
俺「今日も、楽しかったねー」
彼女「うん、昨日もだけど、すっごいすっごい楽しいよ。」
そういって道を進んで行って、とうとう我が家に着く。
これで、今日も終わってしまう。
楽しい時間なんて、すぐに終わってしまう。 それでは、一旦今日はこのへんで終わりにしようと思います。
明日というか今日は、割と手が空いているのでもしかしたら昼くらいから
更新する可能性も無きにしもあらずですが、とりあえずまた明日の夜に
続きを書きます。みなさんお付き合いありがとうございました。 みんな待たせてごめんなさい。
おまたせ致しました。
そして、彼女が歌っていた歌の歌詞を書いてくれた人ありがとう。
なんだか嬉しくなりました。
なんだか凄いことになってきましたね…
ゆっくりで申し訳ないけど、続きを書いていきます。 家に着くと、昨日とは変わって母さん一人が
夕飯の支度をしていた。
俺「ただいま」
彼女「お邪魔します」
母「はいおかえりー」
歌いすぎた俺たちは些か声が枯れ気味だった。
妹は、俺たちが帰ってくるなり部屋からとびだしてきた。 妹「お二方帰ってまいりましたか!アツアツなことで!」
彼女「ただいま帰りました!留守のあいだ異常はなかったか?」
妹「異常なしですww」
この二人、もうすっかり気が合うようだった。
すると妹は「見せたいもんがあるんです」と彼女だけを部屋に連れてった。
俺はなんのことか察しがついた。
妹は服飾の専門でよく自作で衣装を作ってたから、それを見せたいんだろう。
俺に見せたって仕方ないし、同年代の女の子に見てほしいんだろう。 夕飯の時、彼女は興奮していた。
彼女「妹さんすごいですね!可愛い衣装たくさん作ってて…
わたしは服飾は専攻してないけどとても感激でした!」
妹は終始ドヤ顔だった。
妹と彼女は本当に気が合うようで、
それだけで彼女を実家に連れてきて良かったなあって思えた。
母さんは母さんで、
「うちの子になっちゃいなよ、娘増えたほうが嬉しいわぁ、富澤とチェンジで」
とか言い出すし、まあ男俺一人だから大変だったけど、それはそれで楽しかった。 晩御飯も一段落して部屋に戻ると、彼女は俺に聞いてきた。
彼女「今日は富澤の育った場所見れて楽しかったなぁ」
俺「いいとこだったでしょー」
彼女「ねえねえ、わたしが育った場所も見てみたい?」
それは意外な一言だった。今まで決して過去を語ろうとしなかった彼女だから、
俺はゲーセンで会う以前のことはあまり聞こうともしていなかった。
俺「正直、すごく見に行きたい。」
彼女「じゃ、さ。明日は朝早く向こう戻って、色々巡ってみよう。
行ったり来たりの渡り鳥だね〜!」
彼女は手を広げて羽ばたくような仕草をしてみせる。
そういうことになった。
さすがに強行日程すぎないか?と思いつつ俺は彼女に早く寝て休むように促した。 俺たちは無駄に早起きした。
日曜だったので母さんも妹もまだ起きてはいなかった。
すると彼女は、「アイアンシェフの出番だー!」などと言い出し、
俺は「きたれ、アイアンシェフ!」というコントを朝からやらされた。
彼女はふざけながらも朝ごはんを作る、といって張り切り、
二人で一緒に朝ごはんを作った。
ベーコンを焼いてスクランブルエッグを作って、
野菜を切るくらいのことだったが、俺は楽しくて仕方なかった。 一緒に住んでいたり、夫婦の人は、ずっとこういう日が続くのか
いいなぁ、と俺は思っていた。
二人でバカ笑いしながら騒がしくご飯を作っていたから、
妹も母さんも起きてきた。
今日は俺たち二人で作る、と言い張って
妹はテレビの前、母さんは洗濯を始めた。
ああ、普通の生活だなってしみじみ思った。 朝ごはんを食べながら俺は不肖にも
「これは彼女の手料理…」と思いながら食べていた。
朝ごはんを食べたらすぐ家を出る旨を母さんと妹に伝えると
「さみしいねー」「もっといればいいじゃないー」と言われた。
そうしたいのは山々だよ、と俺は悔しかった。
もっと時間があればもっとゆっくりしていた。
この時ばかりは彼女と俺もただただ顔を見合わせるしかなかった。 荷物をまとめて、家を出る。
妹が車を出してくれた。
車に乗って、坂をくだる。妹が、「また来てくださいねー」と言うと
彼女がぼそっと「また来れるかな…」
と言ったのが心を突いた。
何もかも、次があるのか分からない。
彼女自身も、その不安と悔しさと戦っていたのかもしれない。 また、特急列車に乗る。2時間ほどの旅。
そこから在来線で1時間ほど。
それほど長い旅ではないのだが、
特急を降りた辺りで彼女の様子がおかしかったことには気付いた。
口数が減っていたのだ。
彼女は、自分から弱音を言うことは無い人だから、俺は嫌な予感がしていた。
在来線になると人が多くて座れなくなる。
俺は、途中駅で彼女を下ろした。彼女は「なんで?」という顔をしていたが、
とりあえずベンチに座らせた。
俺「ねえ、大丈夫?様子が変だよ。無理してない?」
彼女「どうして?平気だよ?」
俺「いい?一番大切なのは何よりも体なんだよ?少しでも何かあったら言って」
彼女は悔しそうに言った。
彼女「あのね…少しだけ吐き気がするの…でも本当に少し。
でも言ったら絶対心配かけちゃうと思って…」
俺はやられた、と思った。大袈裟かもしれないが一気に血の気の引いた俺は、
「歩ける?」と聞きつつも彼女を揺らさないように強引におんぶして、改札をぬけた。
彼女は必死で「大丈夫だよ!電車に乗ろ!」と言っていたが、
俺は電車は座れないし人も多いからもうダメだ、と思っていた 彼女を傷つけたらだめ、少しでも無理させたらダメ、そう決めていた俺は必死だった。
もし何かあったら全てオレのせいだ、そう思っていた。
駅を降りて、必死でタクシーを止める。
さすがの彼女も諦めて、
「ごめんね…ごめんね…」と繰り返していた。
俺は必死だった。
俺「急いで、〇〇方面に向かってください!」彼女の自宅だった。 この時、タクシーの運転手がすごく良い人だったのが印象的だった。
彼女のことを車酔いか酒酔いをした人だと思っていたのか、
水飲む?といってペットボトルくれたり、
近道しますよ、といって渋滞の抜け道をしてくれたり。
初老の白髪のじいちゃんだったのだが、動転して入ってきた俺をなだめ、
落ち着かせてくれた。終始Jリーグの話をしていて、お若い方だった。
彼女はタクシーの中で涙目だった。俺はずっと肩を抱いていた。
窓を開けて車で走っているウチに、彼女の口数も増えてきて俺は安心していた。 彼女の家につく頃には、彼女にはだいぶ笑顔がもどってきていた。
俺は胸をなでおろした。
彼女はフラフラ歩き出した。
俺「こら、そんなに焦って歩いちゃダメだよ」
彼女「ここが、我が家です!でもどうせ呼ぶつもりだったから」
と笑って玄関先に立ってみせた。
俺は彼女の父さんと母さんに事情を話した。逐一電話報告もしていたが、
叱られることも重々覚悟の上だった。
しかし、ここまで一緒に来てくれてありがとう、と言われた。
とても、申し訳ないことをしてしまった気持ちになった。 大事をとって、彼女は少し横になって休ませることにした。
「富澤とわたしの母校に行くのー!」と言ってきかなかったが、
一番大事なのは体調だ。決まってる。
みんなで説得して、なんとか彼女を寝かせた。
そのかわりに俺は彼女が目覚めるまで家にいて欲しいと言われ、家にいることになった。
しばらく彼女が部屋で寝ているのを見守っていたが、居間におりて
彼女のお父さんとお母さんと話した。 空気は重かった。あまり話すことも見当たらないんだ…
とりあえず俺は、今日はすいません、と真剣に謝った。
母「気にしないでね。」
父「君はいつもいつも、娘の病室にやってきてくれるね。
君が来てくれるから、あの子はいつも本当に楽しくやっていられる。
謝りたいのは、ろくに何もできないこっちだよ。」
俺は、黙っていた。何を言っていいかまったく思いつかなかった。
母「あの子、本当にいつもいつも富澤君のこと話してくれるのよ。
富澤くん、私にもよくマメに連絡くれるでしょ。本当にありがとうね」
真面目な話はこれくらいだった。そのあとは、それを忘れたいかのように
テレビを見ながら、他愛もない世間話をしていたと思う。 しばらくすると彼女が起きてきて、
俺を部屋に手招きした。
「もう、すっかり良くなったから。部屋で話そ」と言われた。
彼女「今日はごめんね…。行きたいところたくさんあったのに…」
俺「それは仕方ないよ。でも吹石がなんともなくて本当に良かった。
それだけで俺は嬉しいよ。
辛い時は、辛いって言わなきゃだめだからね?」 そうすると彼女は揚々と歌い出した。
「愛とはあなたのためだととかいったらー!うたがわれるけどー
がんばっちゃうもんねー!!」
そう歌ってにっこり笑った。それはイエモンのlove love showだった。
俺「頑張っちゃうんだw」
彼女「うん、頑張る。」
彼女「だからさ、今日は聞いて欲しいんだ。」 彼女「今日はわたしの育った場所まわれなかったから、
私の昔話をしますーぱちぱち」
俺「きかせてもらおうじゃないか」俺も若干の悪ノリをしていた。
彼女「結論から言ってわたし中学行けてないです」
そう言って彼女は苦笑いをこぼした。
俺は驚いたけど、「なにかあったんだ?」と優しく尋ねた。 俺は、彼女の話に耳を傾けることにした。
彼女「わたし、中学の時体弱かったんだーだからね、しょっちゅう
学校休んでたんだー。」
彼女「本当にね、すぐ体壊しちゃうから。でもさ、あまりに頻繁に
学校休んでるうちに、ういちゃってさー」
彼女は笑いながら話しているけど、辛そうだった。 彼女「学校行くとさー。誰もまわりにいなくなってて…
昼ぐらいから行くと、給食泥棒とか言われちゃってさw」
俺は黙って彼女の目を見続けた。
彼女「いじめられてたとか、あんまり言いたくないんだけどさ。
ある日行ったらわたしの机ごとなくなってたんだー。
それで、あれ?学校くるんだ?とか言わちゃって。」
彼女「それから中学には行けなくなっちゃった。」 彼女「その頃なんだなー。友達もいなくてさー。
お兄と一緒にゲーセン行くのだけが本当に楽しかったよ。
アケゲーの人とのつながりとか、楽しさの共有とか、わたしは肌で感じた。」
俺はぐっと涙をこらえていた。
彼女「そこでね、本当に色んな人に会えたんだよ。」
彼女「わたしね、高校からは私立に行ったんだけど」
彼女「てて子、覚えてる?あの子とも本当に偶然ゲーセンで会ったの」 彼女「中学の時ゲーセンで出くわしてね、当時って、まだそんなに若い
女の子とかゲーセンにほとんどいなかったの。
だからお互いに気になって話したら意気投合して」
俺は話しいることが信じられなかった。彼女にとってゲーセンという存在が
ここまで大きいなんて、にわかには信じられなかった。
彼女「そしたらてて子は中高一貫の私立に通ってる子で、
少し遠いけど私はその高校に行こうって決心した。」 彼女「当時はね、うちの近くにもゲーセンがあったんだ。
っていうか、今よりずっとずっとあった。今は少なくなったよ。」
彼女「わたしはそこが好きだった。店長さんも優しくて、常連さんもたくさんいた。
たまにヤンキーとかもいたけど、大して気にならなかった。
てて子もね、うちの近くに住んでたんだ。」
俺「今、そのゲーセンは…?」
彼女「ないよ。潰れちゃった。」
彼女は苦笑いした。 すいません、ちょいと夕飯タイムなので、少し離脱します。
30分程でもどります。しばしお待ちを お待たせいたしました。
ごめんなさい、遅くて;
それでは一服しつつマッタリと再開したいと思います。
よろしければお付き合いください。 彼女「それからは、高校は女子高だったけどとても楽しかったよ。」
彼女「いつもわたしがばかなこと言ってたけどw」
彼女の持ち前の明るさやアホなところはそこに由来するのかなあと思った。
彼女「だからね、わたしこんなにゲーセンが好きなんだー。
なんて言ったらいいか分からないけど。」
彼女は笑いながら話す。
今まで彼女がどうしてここまで
ゲーセンに入れ込むのか不思議に思うこともあった。
それが解けた気がした。 彼女「わたしね、ゲーセンがあったから楽しい高校に行って過ごすことができたし、
夢を持つことが出来て、美大に進学したんだよ。大袈裟かな?w」
俺「そんなことないよ。すごいと思う。ゲーセンっていいとこだしねぇ。」
彼女「富澤もいたしなあw」
彼女は凄く照れくさそうに、ぽろっとそんなことをこぼした。 彼女は夢を語りだした。
彼女「ゲーセン減らないでほしい。どんどん減ってる。
わたし、いろんな人が楽しめるアーケードゲームを作るのが夢だった。」
それを語る彼女は、いつにも増して真剣そのものだった。
凛とした視線で、かっこいいとさえ思った。
彼女「ゲーセンでしか味わえないドキドキがあるんだよ。
富澤はどんな時にそう思う?」「わたしはね」
彼女はまっすぐだった。まっすぐすぎて、胸が痛くなるくらいだった。
普段アホなことをけっこう言うくせに、まっすぐで、ひたむきで…
夢を語る彼女に憧れた。 俺は最初こそ笑って聞いていたが、
だんだんくったく無く夢を語る彼女を見ているのが辛くなった。
夢があって、それを追いかけてるってだけで人は眩しく見える。
でも、彼女が置かれている状況を思い出すと、俺はもうダメだった。
俺は夢を語る彼女の前で泣いてしまった。
「すごい…すごいよ…」と言ってボロボロ泣いてしまった。
彼女の前で、泣いてしまった。
彼女「ありゃりゃ、わたしそんな泣くほど感動するほど凄いこと言ったか…?」
と彼女は動揺した。
俺「絶対叶えようね、その夢…」って言いながら俺は泣いてた。
そうすると彼女もぼろぼろ泣き出して、
二人してわんわん泣いてしまった。 俺は最初こそ笑って聞いていたが、
だんだんくったく無く夢を語る彼女を見ているのが辛くなった。
夢があって、それを追いかけてるってだけで人は眩しく見える。
でも、彼女が置かれている状況を思い出すと、俺はもうダメだった。
俺は夢を語る彼女の前で泣いてしまった。
「すごい…すごいよ…」と言ってボロボロ泣いてしまった。
彼女の前で、泣いてしまった。
彼女「ありゃりゃ、わたしそんな泣くほど感動するほど凄いこと言ったか…?」
と彼女は動揺した。
俺「絶対叶えようね、その夢…」って言いながら俺は泣いてた。
そうすると彼女もぼろぼろ泣き出して、
二人してわんわん泣いてしまった。 泣きながら抱き合った。
この時ばかりは俺も運命という言葉を信じた。
あの日、たまたまゲーセンに行って、偶然彼女を見つけて、
柄にも無く、自分から話しかけた。
あの日、まっすぐ家に帰っていたらどうなっていた?
俺はこの時彼女を一生守ろうと心に決めた。
これからどんなことが待っていようと、決心した。
それと同時に俺の中で、彼女にしてあげたいことが一つ増えた。 俺はその日は彼女が切望するので、彼女宅に泊まることにした。
彼女のお父さんと一杯やった。
彼女がビールをついでくれて、なんだか新婚にでもなった気分だった。
そのあと、なんとなく居間のソファで寝ることにした。
彼女といられる日常の時間が、少しでも多く続いて欲しかった。 その次の日も、結局俺は彼女宅にいることになったんだけど、
彼女はお父さんとお母さんと買い物に行くようで、
ついていったけど俺はなるべく家族水入らずを邪魔しないように徹していた。
荷物持ちとかしつつ、会話を聞く役目に徹していた。
俺はもう、十分彼女との日常を満喫した。
お父さんとお母さんだって、娘と過ごしたいに決まってる。
俺は流石に、空気を読んで最終日までいるのは避けた。
4日目の夜に、家に帰ることにした。
彼女とお母さんが作ってくれた晩御飯を食べて、俺は彼女宅を出ることにした。 彼女は、5日目の夜に病院に帰るという。
俺は、その次の朝に会いに行く約束をした。
俺「じゃあ、家族団らんを楽しんでね。」
彼女「もっといてもいいのに。」
俺「いや、明日で最後だし、お父さんとお母さんも俺がいたら色々やりづらいこともあるでしょ。」
彼女「次に会うのは、また病室だね。」
俺は黙った。
彼女「絶対、会いに来てね。待ってるから。」 彼女とずっと一緒にいて、離れると、とんでもないほどの虚無感に襲われた。
あれ、俺の日常って、こんなに何もなかったか?
と思うほどに電車の中でも、家に帰ってからも無気力になり、何もかも手につかなくなった。
無理もなかった。今まで不可能だった、彼女と普通の日常を送る、
ということが俺にとって楽しすぎて、本当に心地良かったからだ。
色々思い描いた。彼女が完治して、もう一度普通の生活をして、
一生、平凡に暮らしていくのを想像した。 彼女が病院に戻った朝、俺は一目散に駆けつけた。
早く、会いたかった。
俺は花を持っていった。
彼女の好きなトルコキキョウ。
病院にもどってすぐ花ってのもどうかと思ったが、少しでも彼女の気が紛れるなら、と思った。
病室に着くと、彼女に「ようこそ」と言われた。
彼女「なんでだろう、やっぱり変に落ち着くねw」
また、籠の中に戻されてしまったような気しか、俺にはしなかった。 それからの日々は割と穏やかに進んでいったと思う。
でも、俺は残された時間が迫ってきているのを感じていた。
病室で彼女に会えない時間が、苦しくて仕方なくなってた。
頻繁に病院に泊まるようになった。
いつのまにか、大学はまったく行かなくなっていた。 彼女が病院にもどってからしばらくすると、俺の誕生日が近づいていた。
そして、その約一ヶ月後に、彼女の誕生日だった。
俺は自分の誕生日の日にも、いつもと変わらず病室に向かった。
彼女にはちょろっと教えていたが、前日にも何も言われなかったし、
きっと忘れているだろうな、と思ってた。
病室に着くと、彼女がニヤニヤしていた。
その日はいつもよりだいぶ元気そうで、俺は驚いた。 彼女のお母さんが冷蔵庫からケーキの箱を取り出して、
小さなショートケーキを3つ取り出す。彼女は「おめでとう!」と言った。
俺が「ありがとうー」とビックリして言うと彼女はそのまま歌い出した。
「きょうはとくべつなよるさー!すてきなーゆめをみれたらなー!」
それはフジファブリックのbirthdayだった。
歌ってこちらを見て笑った。
ありがとう、と言って頭を撫でると、彼女は「わんわん」と小さく言った。
お母さんがいるから恥ずかしかったのだろうか。 俺は、彼女と会ってから少しでも彼女の片鱗を感じたくて、
彼女が良いと言った音楽や本は、家にいる時に狂ったようにチェックしていたから、
その曲もフジのそれだと、すぐ気付いた。
彼女「プレゼントがあるのです」
そう言って彼女は俺にマフラーを渡した。
彼女「それ、わたしの使ってたマフラーなんだ。これから寒くなるでしょ?
ここに来てもらうのに、風邪ひいたりとか心配だし…」
俺「うわーありがとう!」
彼女「あとね…」
お母さんが何やら包みから取り出す。それは格ゲーのアケコンだった。
彼女「これでもっと練習してねw」
俺は思わず吹き出してしまった。 素敵な誕生日だった。
病院にいながら、病気と闘いながら、どれだけ俺のことを思ってくれていたんだろう。
彼女の笑顔を見ながら、俺は決心した。
その日の後、俺は彼女が元気な日にそっけなく聞いた。
「やっぱり、ウェディングドレスとかって、女の子は憧れるの?」
彼女「それは憧れるよー!真っ白だしね。なんで?着せてくれるの?w」
俺「いや…wなんとなく聞いただけ」 彼女の誕生日まで、あと少しだった。
俺は、すぐさま実家に帰って妹に相談した。
ウェディングドレスのような衣装が作りたい、と妹に相談した。
妹は不審そうにしていた。
けど、ワケを話せることもなく、大学のサークルで必要なんだとかそれっぽい
理由をつけて、どうにかこうにか生地選びや作り方まで、一から聞いた。
何かできるなら、もう今しかない、そう思って必死になっていた。
悠長なことは言っていられなかった。本当に必死だった。 結果、不器用な俺には歯が立たず、かなり妹の力を借りて、
純白なドレスを作ったのだった。
それでも俺は妹と一緒に生地を買いに行ったり、生地を切ったり、
一緒にどういうデザインにしたいか草案を考えた。
二週間くらい、作るのに時間がかかってしまった。
俺はその間も、実家と彼女の病院を行き来したりしていた。
その出来は、決していいものではなかった。でも、白いドレスの形にはなっていた。
ウェディングドレスと言えば、そう見えないこともない。
手伝ってくれた妹には、本当に頭があがらない。
俺はこれを着た彼女の姿を想像して、ついつい口がにやけてしまった。 ドレスが出来上がったのは、彼女の誕生日の二日前の事だった。
ドレス作りは間に合った。
完成したときは嬉しくて本当に泣きそうになった。
俺は、それを宅配便で送るつもりでいたが、もう時間も迫っていたので
大きな紙袋にいれて、自力で、向こうの自分の家まで持っていくことにした。
このときは本当に寝不足続きで、目薬とフリスクが手放せなかった。 彼女の誕生日の日がやってきた。
まず、彼女の調子がよければいいが。行っても寝ている時が増えていたのだ。
そして俺は重大なことに気づく。
「俺、自分のタキシードとかねえじゃん…」
俺は仕方なく、スーツで行くことにした。ちょっと洒落たネクタイをすればいいだろう。
俺は、紙袋にドレスと想いを込めて、家を飛び出した。
そして、この日は俺にとって忘れられない日となる。 俺は途中でいい感じの花束を買っていった。
ブーケのつもりだった。
気分は新郎。楽しい気分で一杯だった。
病室に着く。彼女は、起きていた!
俺は心のなかで「やった」と思うと、彼女に向かって
「誕生日おめでとう!!」と言って花束を渡した。
彼女は一度「わっ」と言うと笑顔で
「嬉しいー!ありがとう〜!」と言った。 笑顔が返ってくるのが嬉しくて、嬉しくて、もう仕方なかった。
彼女「スーツなんて気合い入ってるねーw」
俺「ちっちっちっ。今日はこれだけじゃないんですよ」
正直緊張で胸がやばかった。
俺は紙袋から、想いを詰めたドレスを取り出す。
「じゃーん!」
彼女「え!え!何これ!!ウェディングドレス!?」
彼女は途端に興奮して目をキラキラと輝かせた。 彼女「え、え、え、どうしたのこれ!?」
俺「俺が作ったんだーw」
俺は照れながら、誇らしげに答えた。
俺「着てみる?」
彼女「うんうん、着る着る!!」
少し、大変だった。お母さんとか看護婦さんを呼んで、
どうにか彼女が着替えられる体勢にした。
その後、
彼女「着替えるから待っててね。」
といわれてカーテンが閉じられた。
新婦のお色直しを待つ、新郎のような気分だった。 彼女「できたよー!」
カーテンが開いたその向こうには、
俺の作ったちょっぴり不格好な純白のドレスを着て、はにかむ彼女がいた。
「似合ってるでしょー?」
と彼女は笑いながら俺に尋ねた。
俺は、この日見たこの光景を一生忘れることはない。
彼女は、ただただ、綺麗だった。
嫌なことも辛いことも、何もかもがふっとんだ。 俺は彼女の手をとった。
そうすると、彼女は歌い出した。
「ばたふらいーきょうはーいままーでーの」
「どんなーときよーりすばらしいー!」
木村カエラのbutterflyだった。その歌は、彼女が歌い出すと
近くにいた看護婦さんまで歌い出した。
4人部屋だったんだけど、病室の人たちは笑って手拍子をしていた。
俺は彼女に向かって言った。
俺「一生にそばにいるね。」
彼女は「わたしも。」と小さく頷いた。 そういう流れだったのか、恥ずかしくて仕方なかったけど、
俺たちはお母さんやら患者さん、看護婦さんたちの前で
小さくキスをした。唇が触れ合うくらいの、優しいものだった。
そして何より、これが彼女との初めてのキスだった。
自然と拍手みたいのが起きてしまって、とても恥ずかしかった。
俺たちはお互いに見あって、笑いあった。
キスしたらそれがおかしくて、ふたりで笑いが止まらなかった。 まだ起きている人はありがとう。
このペースなら間違いなく今日このまま完結しますので、
お付き合い頂けたら幸いです。 その日は幸せのど真ん中にいた。
しばらく、スーツとドレスのままで二人で話した。
不思議な気分で、一生このままならいいのに、と願わずにいられなかった。
彼女はすごく喜んでくれた。
「ありがとう、すごく幸せ」と言ってつけている俺のあげたネックレスを握っていた。
「こんな日にはAnthemが似合う」と一人でフジファブリックのそれを口ずさんでいた。
しばらくするとお母さんが来て、
「写真撮るね。」と言って写真を撮った。
「何も言わなくても、幸せそうな顔してるねw」
そう言われたのが印象的だった。 俺にとって、彼女といられる日はいつも特別だったけど、
この日はそれ以上に特別だった。
楽しくて、時が止まれと思った。
この日が過ぎたあとも、しばらくは穏やかな日が続いた。
俺たちはいつも病室で一緒にいたけど、いてもいても足りないくらいだった。
普通だったら毎日毎日顔合わせてたら少しは退屈になったりするんだろうけど、
俺たちはどんなに話しても笑いが絶えなかった。
どうしてだろう、話しても話しても、もっと一緒にいたい、
そういう想いが募るだけだった。 彼女は病室でぼそっと100sのセブンス・ワンダーを歌って見せたことがあった。
彼女「この病院には七不思議があるんだよ。」
俺「へえ〜何それ?」
それは彼女が勝手に考えたヘンテコなものだった。
実に下らない内容で、俺は一緒になって笑った。
俺「7つ目は?」
彼女「わたしが入院してることかなー」
俺はそれを言われて言葉を失った。
彼女「はやく、元気になりたいなー」
それが彼女が珍しく弱音を吐いた瞬間だった。
俺「すぐによくなるよ、必ずね。」
俺だって、すごく不安だったけど、信じるしかなかった。 12月になって、
クリスマスが近くなったあたりから、彼女の様子は徐々に変わり始める。
現実が、音を立てて彼女と俺に牙をむき始めた。
彼女は辛そうにしていることが増え、行っても一日話せないことが増えた。
クリスマスイブもクリスマスも行った。
クリスマスは、まだなんとか調子がよくて、少しは話すことができた。
正念場だった。俺はストレス性の胃炎に何回かなった。 年が明けた。
これほど世間の「あけおめ」ムードが恨めしかったことはない。
浮かれている人々が、すごく憎たらしく感じた。
この頃から、俺は彼女の両親とも連絡をより密にとるようにした。
そろそろ、いつ何が起こるか分からない状態、にまで来ていた。
そう、いざそういう状態になってからは、状況はみるみるうちに進展していった。
昨日までの状態が、次の日になれば嘘みたいになっていることも、ありうる。 俺はこの頃から、彼女との話せる時間を本当に、本当に、大切にした。
弱った彼女を見るのは辛かった。けど、優しく、笑顔で、話しかけた。
俺は今までも、楽しかった日のことは決して忘れないように日記にしたためていたが、
この頃から彼女の写真や映像もより積極的に撮るようにしていた。 刻一刻と、命の火が燃えていく気がした。
俺は、今、自分が何をしているのか分からなくて、
どうしようもなく辛くなるときもあったが、病室に行って彼女の顔を見て
どうにか耐えていた。
彼女の両親との協力は、不可欠だった。
しばらくすると、彼女はとうとう個室に移った。 病室に座る。
俺と、彼女だけ。
俺は優しく語りかける。
「今日は寒いね。」
「最近スパ4強くなったんだ俺ー」
「今度画材屋行こうと思うんだけど、何か欲しい?」
「俺はね、水彩色鉛筆がしたくて…」
返事が返ってこない日のほうが多かった。
たまに、すごくゆっくりだけど、答えてきたり、
自分から話そうとすることもあった。 彼女の両親と、俺で、彼女を見守る。
彼女は俺に言った。
彼女「富澤…いるの…?」
俺「いるよ!俺はここにいるよ!」
彼女は少し笑みをこぼしてみせた。
彼女「あのね…。少しだけね…言いたいの…。」
俺「ゆっくりでいいんだよ、俺は、ずっと、ずっと、そばにいるんだから。」
彼女「いつもね…一緒に…いてくれた…人…」
俺「うん、うん。」
俺は半泣きだった。
彼女の両親も、泣き出していた。 彼女「富澤は…わたしの…大切な人…」
俺「うん、俺も、吹石が大切だよ…」
彼女「わたしが…いなくなっても…富澤はきっと…しあわせに…なってね…」
俺「違うんだよ!!吹石も一緒に幸せになるんだよ、ずっと一緒なんだから!」
彼女は少し笑みを含んで、
彼女「こんなわたしを…大切に想ってくれて…ありがとう…ありがと…」
俺「うん、うん。」
彼女「わたしは…だいじょうぶ…たのしかった…」
彼女はゆっくりだけど、確かに、俺にそう伝えると、
そのあとお母さんやお父さんに懸命に、話していた。
俺は、泣きすぎた。
その日だけで一年分くらいの量の涙を流したかもしれない。 それから二日後、彼女は俺と両親に見守られながらこの世を去った。
享年24歳。
最後は安らかに、眠りに落ちるようだった。
俺はしばらく式やその他の彼女に関わることの整理で、忙しくなり、気が張った。
目の前で進行していく数々の出来事が、俺の脳をただただ通過していくだけだった。 彼女がいなくなったこと、続けざまに起こる法要、
俺は、ただ呆然としていた。
心にぽっかり、穴が開いた。
彼女のお墓の前に言った時、俺があまりに号泣しすぎて
周りにも奇異な眼差しで見られた。 気づいていた人は大勢いると思うけど、
俺と彼女は最初から最後まで「好き」という言葉を互いに
口にすることがなかった。なぜなのか俺にも未だに不思議なんだけど、
そんなこと口にしなくてもお互いが大切に想ってるって分かってたし、
一緒にいて共に過ごしてること自体がそういうことなんだから、
口にしなかったんだと思う。
言おうと思ったこともなかった。
誰かが磁石が惹きあうみたいって言ってくれたけど、それがすごくしっくりきた。 みなさん、ここまで付き合ってくれて、本当にありがとう。
ここまで書くのは、正直本当に辛かったけど、みんなの支えがあったおかげで、
途中で折れずに最後まで書けました。
一服、と言って泣いてることも実はけっこうありましたw
今は乗り越えたとは言えませんが、整理はつきました。
最後に、花言葉でしめた方がいいのでしょうか? 複数あるようですが、
彼女が大好きだったトルコキキョウの花言葉は、
「永遠の愛」です。
彼女のことはこれからも、ずっと想い続けます。 みんなここまでありがとう。
本当に、ありがとう。
彼女が亡くなった直後は一ヶ月近くまともにメシ食べれませんでした。
でも今は割と穏やかに、普通に過ごしています。
ゲーセンにも行っているよ。
やっぱり、あそこは楽しい。
みんなも、もっとゲーセンに行ってゲーセンを盛り上げてくれるといいな。
それでは、本当にありがとう。
またいつか、今度はゲーセンとかで会えたらいいね。 大学時代、就活に失敗。
そのまま卒業し公務員になろうと考えたが
上手くいくはずもなく、一年以上にわたり引きこもり生活を続けてた
そんな俺の話だが暇つぶしにでも聞いてくれ 毎日午後4時くらいに起床。
起きてまず電気ケトルでお湯をわかしテキトーにカップ麺を食べる
そんでもって薄暗い部屋でパソコンに向かうだけ
それの繰り返し
たまに週間の雑誌を買いにコンビニ行くくらい
本当にクズな生活を繰り返していた 別にコミュ障というわけでもなく
普通に友達もいてゼミもやって、バンドなんかも組んでたんだ
楽しく大学時代を過ごしたんだけど
就活は本当に厳しかった
内定もらえなくて、安易に公務員だ、と考えたが
それが間違いだった
大学4年の秋くらいからバイトもしつつ勉強も始めたが
それも最初のうちだけだった 俺みたいなやつって案外結構いるんじゃないか
大学時代就職できなくて
まあ来年でいっか、って言ってうっかり卒業しちゃって
為す術なくなってひきこもりかフリーターになっちゃうヤツ
まあ俺の場合バイトしてたのも最初のうちだけで
あとは家に篭もってたから本当のクズなんだけどな 大学卒業したあとの4月ころは
まだ公務員勉強とかそれなりにはやってた
でも普通に試験落ちまくって
マジで落ち込んだ
まわりの友達は「大変だー」と言いつつも
新しい世界、環境で、堂々と働いている
そう思った瞬間、俺は本当になにもやる気がなくなった そこからはマジでクズの日々
親には公務員勉強すると言っていたが
そんなものするわけもなく
毎日朝寝て夕方に起きる生活
次の年の春、24歳の誕生日を迎えた時
俺はいつも通り午後4時に起きて
ヒゲボーボーの顔をして家で独りでパソコンをいじってた
「ああ、俺の人生は詰んだんだ」ってなんとなく悟った >>8
大学3年くらいになると、教授のもとに何人か集まって
同じテーマの元で研究するんだ
中高で言う、ホームルームのようなものと思ってもらってもいいかな 俺だって好きでこうなったわけじゃない
焦りや不安、当然あった
周りの友達はみんな真面目に働いて
辛いながらもしっかり未来を見据えているのだろう
そう思うと吐き気が止まらなくて
必死に必死に現実を見ないようにしていた
毎日親の突き刺さるような視線が痛かった 「明日は頑張ろう」
毎日そう思って眠りにつくけど
目覚めれば日が傾いていて何もかも嫌になる
そしてまたパソコンに夢中になって現実逃避
こーんな日々を大学卒業してから続けてたんだ
笑えてくるだろ? 24歳になって少し経った5月頃
「こんなことなら、いっそのこと少し旅にでも出てみようかな」
という考えがよぎった
久しくコンビニ以外に出かけていなかったし
それもアリだな、なんてがらでもないことを考えた
本当に唐突な事だったが
そう思い浮かぶと、途端にワクワクし始める
色々と忘れられるし、家にいるよりずっと精神衛生にも良さそうに思えた 何より、知らない人ばっかりのところに行きたかった
家にいると親の視線が痛くて仕方ない
申し訳なくて、後ろめたい気持ちもあったから尚更だった
思い立ったらすぐ始めないと辞めてしまう、と思い
その日の翌日には出かけることにした
そしてすぐに準備を始めた
携帯と財布に、煙草と缶コーヒー…
荷物は最低限に抑えることにした 缶コーヒーなんて普段飲むわけでもないが、ちょうど家にあって
少し気取ったつもりで持って行こうと思った
パソコンで時刻表とかチェックしちゃって、久しぶりにワクワクしたな
その日の夜は「明日は予定があるな」って思うと
嘘のように穏やかに眠れた
「明日やることがある」
これって、実は本当に大事なことだったんだな 次の日起きると、まだ太陽が低い位置にあって
これだけのことでなんか凄く晴れがましい気持ちになった
とは言え、9時をまわった辺りの時間だったので親は既にいなかった
俺はテキトーにお茶漬けをかきこんで出かける準備を進めた
とりあえずは、近所の在来線に乗っていけるとこまで行く心づもりだった
しばらく家をあける気もしたから
台所にあったブロックメモに
「東京の旧友に会いにいくのでしばらく帰らない」
という旨のメモを残しておいた もちろんそんなメモは嘘で
俺に会いにいくような友達もいない
そのまま家を出ると
まだ「午前中」って感じの賑やかさが街を包んでる気がして
とても新鮮に見えた
俺はよっぽど家を出てなかったんだな…ってつくづく実感した 最寄り駅に着くと
時間帯もあってか人は少なかった
まあ田舎の駅だし、こんなハンパな時間に電車を使う人もいなかったのだろう
駅の横に作られた喫煙スペースみたいなとこで一服して、
次に来る電車を待った
行き先などは特に決めて無く、次に来た電車に乗ろうと考えていた そして、駅に入り、電光掲示板で次に来る電車を確認
そのホームに行ってしばらく突っ立っていると
電車がやってきた
この時、偶然この電車に乗ったことで
俺の人生は変わった
もし違う時間なら、違う路線なら、違う方向なら、と今でも思う。 俺はそのまま電車に乗って、しばらく揺れていた
なんのことはない、フツーの電車のフツーの車内。
ついに旅に出た…と胸が高ぶっていたのも最初のうちだけ
揺られている間に眠くなり
俺は眠ってしまった 電車の揺れって気持ちいいもんな 目が覚めて時計を見ると
一時間半近く経過していた
けっこう遠くまできたな…って思って
次の駅で降りることにする
そこは、地名は聞いたことがあったが初めて降りる駅で
下りて駅の看板を見た瞬間に一気にワクワクが込み上げた 高原のようなところでそれなりに観光客もいるっぽくて
一気に自分の知らない世界に来たかのような感覚になった
もうお昼もまわっていい時間だったので
俺はテキトーにコンビニを見つけて昼飯をすませ
とにかく歩いて色々見てみることにした 陽が傾き始めるまで色々まわってみたが
お洒落な喫茶店や、〇〇作り体験工房のようなものばかりで
まわればまわるほど俺とは無縁の場所に思えた
賑やかで楽しそうなのは結構なことだが
なんだかとても寂しい気持ちになった
そういうのを見ていると、あとすこしで
「俺に何してんだろう」って気持ちになってしまいそうで
旅に出た決意やワクワクがなくなりそうだった 人通りの少ない外れた道を選んで
ゆっくり自然でも堪能して帰ろうか、と思って
少し道を下っていった
山側の斜面には草や木々が生えていて
人通りもあまりなくて、良い感じだなぁ〜と浸りながら歩いていた
道を下り続けると割とひらけた場所に出て
ポツポツと民家があるのが目に入った 夕焼けの強い日差しが俺を突いて、
正直もう歩き疲れもあったしで、どこかで休みたくて仕方なかった
ひらけた道を歩いていると、途中「民宿〇〇」と書かれた
薄汚れた看板が目に入った
割としっかりした感じの建物があり、敷地の中に駐車場があった
いかにも田舎の宿って感じで俺は一瞬で心を奪われた
こういう所に来たかったんだ 俺はさっそくその敷地に入り
恐る恐る玄関を開けた
引き戸?っていうのかな、ガラガラ…って開けるやつ。
玄関を開けると脇に水槽があって、ジュースの自販機があった
番台のようなところに
「厨房にいます。御用の方は呼び鈴を鳴らしてください」
と書かれていた 俺はいそいそと靴を脱いであがり
番台の上にあった呼び鈴を鳴らした
すると奥のほうから初老の女性が出てきて
「こんにちはー」と愛想よく言った
俺は「今日泊まれますか?」と聞いた
「宿泊ですね、大丈夫ですよ」と笑顔で応えてくれた
手続きを済ませると部屋の鍵を渡された そこで軽い世間話になって
若く見られたのか
「学生さんですかー?」とか聞かれたので
「今年で24ですよw」とか言ってはぐらかした
でもとても雰囲気の良い方で
この宿見つけてよかったなあって思った
部屋が3階だったので、しばらく部屋で外眺めたりしてマッタリして
頃合いを見て大浴場?のような所に行ってひとっ風呂浴びた
なんだかんだでけっこう堪能していた 風呂出てぼーっとしてたら8時前くらいになってて
そういや夕飯食ってねえな、と思い
一階の受付へ行った
するとさっきの女将さんが出てきて
「あ、そういえばお夕飯の案内するの忘れてました…ごめんなさい」と言ってきた
どうやら夕飯は18時〜食堂だったらしく、他のお客さんは食べた後だったようだ
俺は「いえいえ今からは申し訳ないんで」と言ったのだが
平謝りされ、俺だけ食堂に案内され遅れて夕飯をいただくことに 食事の時間が終わった食堂は
ほのかに夕飯の香りが残っていたけどガランとしていた
俺が椅子に座ると
すみにあるソファに座ってテレビを見ていた親父さんが近づいてきて
女将さんと何やら話していた
そして俺の斜め前に「よっこらせ」と言って座った 女将さんは奥の厨房でなにやらいそいそと準備をしていて
親父さんは俺の方を見て優しく笑った
親父さん「こちらのミスで、どうもすいません」
俺「いえいえ、遅かったこっちも悪いんですw」
親父さん「ビールでも飲みますか?」
と言って脇にあった冷蔵庫からビール瓶をとり出し始めた
「お言葉に甘えてw」と言って俺も差し出されたグラスを受け取る 「乾杯!」と言ってカチンとグラスをぶつけた
この親父さんもとても人当たりのイイ人で、話しやすかった
そうしてるうちにご飯が運ばれてきて
テーブルの上はたちまち暖かい食卓と化した
親父さん「今日は一人で?」
俺「はい、気晴らしにw」
親父さん「さっき家内に24と聞いたけどまだ若いよね、お休み?」
と聞かれた
すると立って仕事をしてる女将さんも
「若いよねーw」と声をかけてきた こうなったらもう言ったれ、と思った
どうせ旅の出会い、もう会うこともないし
「あー…なんというか、自分仕事はしてないんです。
フリーターでもなくて…ニートみたいな…」
きっとこんな事を言ったらどんびかれるし変なヤツに思われるだろうなぁ
と半ば諦めも含めて覚悟していた ところが親父さんの反応はあっさりしていた
「そうなんだ」と言って笑ってみせた
親父さん「色々大変な世の中だもんなぁ、若い人は辛そうだよ」
と言って優しく笑って「ビールつぐよ」と言ってくれた
俺はかなりの決心で言ったのだが全然態度を変えることなく
驚いた、驚いたし何より嬉しかった そのあと女将さんも立ちながら話に参加していた
親父さん「それでここまで一人旅か、いいことじゃないかうんうん」
と言ってニコニコした
女将さんも、「このへんは馬鹿みたいに広くて自然があるだけだよねーw」
と言って笑っていた
俺は本当に心を打たれた
今まで自分にとって決して向き合いたくないレッテルだった「ニート」「ひきこもり」というものを
こんなにも暖かく受け入れてくれるなんて 俺はそのあとビールが入っていたこともあって
楽しくて嬉しいのに、泣きながら自分のことを語った
今まで誰かに話したくてたまらなかったけど、誰にも言えなかったこと
自分がどれほど甘いかは分かっていて焦ってる
でも結局弱くて全然踏み出せないこと
まわりの友人達はどんどん立派に成長していく
それを痛感するたびどんどん相談できる人もいなくなって独りになったこと
親にはとても申し訳ないと思っていること
見ず知らずの親父さんと女将さんに、俺は自分の今まで溜め込んでいたことを
思い切り吐き出した
親父さんと女将さんも涙目になって「うん、うん」と話を聞いてくれていた 親父さんも女将さんも、俺の話を親身になって聞いてくれて、励ましてくれた
今日会ったばかりの、ただの客にすぎない俺なのに
そのあと、親父さんに誘われて玄関の灰皿が置いてある場所に行って
一緒に一服した
親父さん「人生って長いよな。色々あるんだ」
俺「はい…」
親父さん「焦りなさんな、まだまだ〇〇君も始まったばっかり。
これからゆっくり歩いてけばいいんだよ」
俺はその言葉に黙って頷いた
喋ると、また泣いてしまいそうだった すっかり親父さんと女将さんとも仲良くなって
面映いような気持ちもあったが
胸に熱いものがこみあげていた
夜もとっぷり暮れていたので
俺は部屋に戻って寝ることにした
この日、俺は密かにもう一泊していくことを決めた
見知らぬ町に来て、とても大事な場所を見つけたような気がした その日はいつもより格段に良く眠れた
目覚めると家じゃない、ってのがすげえ新鮮で
目覚めた瞬間一人で「おー…」とか言っちまったw
下に降りて女将さんに挨拶する
もう一泊したい旨を告げると
「いいよーwチェックアウトとかそういうのもないし、あの部屋そのまま使ってねw」
となんだかとてもあっさり承諾された。 朝飯を食べて、他のお客さんもぼちぼちいなくなり…
さて何しようか、となった。
とりあえず風通しの良い3階の部屋で窓から外を見つつ読書。
すごく気持ちいい、窓から見える景色はのどかな田舎の景色だった
読書をしていると部屋の外から掃除機をかける音や
パタン、パタンと女将さんやスタッフさんの歩く音が聞こえた
それもとても心地よくて
気付くと時刻は3時をまわっていた なんかすることないかな〜と思い
フラフラと下に降りて
受付に女将さんがいたので話しかけた
女将さん「ゆっくりしてる?」
俺「とっても居心地いいですw」
俺「何か、手伝えることとかあります?」
と聞いたら
「とんでもないw」と言われて遠慮されたんだけど
少しして女将さんが思い出したように言った 女将さん「あ、じゃあウチの犬の散歩にでも行ってみる?」
俺「ワンちゃんいるんですかw名前は?」
女将さん「ケンちゃんって言うんだけどね、まだ若い柴犬だよ」
と言われて俺はそれを喜んで引き受けた
女将さんいわく「そのへんを適当に歩いてきてごらん」とのことだった
散策にもなるし、一石二鳥だ
裏に回ると、とてもおとなしい可愛い柴犬と目があった
なるほど、これなら俺にも散歩を任せられるはずだ、と思った 渡された袋とカニバサミのようなものを持って
俺はケンを連れてゆっくり敷地から出た
来た時の道に出て
この宿を見つけたことでまだ先に行ってないな、と思ったので
来た道をそのまま歩いて行ってみることにした
もう夕方だったけど
まだ日は眩しくてまだまだお昼くらいのように感じた よく分からない更地であったり、畑であったり
その中に家がぽつぽつとあって…本当に田舎だった
俺の住んでるところも田舎だが…それ以上に田舎だった
ちょっと小道にそれれば舗装されてない道もあって
車は大変そうだな〜なんて思った
ケンもおとなしく歩いてくれるので気持よかった
ひとしきり歩いて
「空気が美味いなあ」と感じて
そろそろ帰るかーって思って来た道を引き返した >>71
いや、とんでもない
Fランだよ、はっきり言って 来た道を引き返していると、
途中で一人の女の子を見つけた
犬を連れていて、向こうも犬の散歩をしているようだった
若い子で、高校生くらいだ
道ですれ違ったら振り向いてしまう位、俺には可愛く見えた
でもその子はとても険しい顔をしていた、人を寄せ付けないくらい
そして通りすぎる時、少し立ち止まって
ケンを見つめて俺を見て、とっても怪訝そうな顔をした そしてまだすぐにプイっと振り返って通り過ぎていった
俺は「なんだ?」と思って振り返った
するとまた20メートルくらい離れたところで
こちらを振り返って怪しそうな目でこちらを見ていた
「俺なんかやったかな…?」と思いつつも
気にしないようにして宿への帰路を急いだ
一瞬のことだったからその時はハッキリ覚えていなかったけど
とても儚げで不思議に見える子だった
宿に帰る道で、その子のことが頭から離れなかった 宿に帰るとすっかり夕方
忙しい時間帯だった
宿の中は賑わっていて、バタバタしている
俺は先程の少女のこともあってなんだか落ち着かず
宿の受付前をフラフラしていた
すると玄関のはしっこに
「スタッフ募集」と書かれた紙が貼られているのを見つけた
俺はそれを見て一つ決心した 夕飯を食べた後、
人のいなくなった食堂に向かうと
親父さんはソファに座り、女将さんは厨房で何かしているようだった
俺が来たのを見つけると
親父さんは「やあ」と言って笑って近づいてきた
そうすると女将さんも気づいて
「あらどうもーw」と言ってくれた 親父さんはニコニコして「今日も飲む?w」
とか言いながら新聞を広げて斜め前に座った
カシャカシャと女将さんが洗い物をする音が響いていて
俺はしばらく黙ってテレビを眺めていた
言うか言わまいか、ドキドキしながら悩んだ
口を開くまでにけっこう時間がかかってしまった 俺「あの、玄関のスタッフ募集の紙見たんですけど…」
親父さん「おお、あれか」
俺「あれって今も…?」
俺は恐る恐る尋ねた
親父「パートさんの入れ替え激しいからね、いつもだねw」
俺はそれを聞いて意を決した 俺「ここでしばらく働かせてもらえませんか…?」
勇気を振り絞って言った
すると親父さんの顔から笑みが消え真剣な眼差しになった
親父さん「本気なの?」
俺「本気です」
俺は黙って親父さんの目を見ていた 俺の言葉を聞いて親父さんは優しく笑った
親父さん「いいよ」
俺「本当ですか?」
正直びっくりした、まさか快諾してくれると思っていなかった
親父さんは「かあさーん」と言って女将さんを呼んだ
「使ってない部屋あったよね?」「ええ」みたいな会話を始めた
親父さん「家、遠かったよね?住み込みで大丈夫?」
と言われたので、俺も「はい、はい!」と勇んで返事をした 嘘のように軽やかに、話がどんどん進んでいく
「○○君、パソコンには強い?」「ちょうどWEBサイトを作りたかったんだ」
「洗濯の仕方分かるかい?」「子どものゲームの相手はできるかい?」
親父さんと女将さんがにこにこしながら話しかけてくる
「若い人が来てくれると活気がついていいねえ」
親父さんは笑顔で俺に言ってくれる
こんな、クズニートの俺にも生きる場所があった
ガキ臭いが俺はそんな風に思って
凄く凄く嬉しかったよ 俺はその日を境に、今までの俺から変わった気がした
なんでもやってやる、やりたい、と思えるようになった
親父さんに言われて次の日、さっそく実家に戻って荷物を持ってくることにした
親に民宿のパンフレットと名刺を見せて
「ここで働く事にした。住み込みだから、しばらく家を出る」
と伝えた
今までニートで家から出もしなかった息子の行動に
とんでもなく驚いていたようだが
「もう24なんだし好きにしろ。でもすぐに辞めるなよ」
と言われた 辞めてたまるか、と思った
人生詰みかけてた俺に、こんな転機は二度と無い
もう、あんな暗い部屋でうずくまっているだけの日々はごめんだ、と思った
でも、話があまりにもポンポンと進んでいく事に対する不安もあった
働くとは言え、パートと同じ扱いだし
先が見えないことに変わりはなかったわけだが、
この時の俺は「とにかく何か始めなければ変われない」
そう考えていた
もちろん、この考えは間違いではなかったし
電車に乗って旅に出て、本当に良かったんだ そして俺は宿に荷物を持ち込んで部屋に入った
けっこう前まで住み込みの人がいたらしく、その人が使ってた部屋だ
4畳半ほどの狭い部屋
パソコンを置いて、布団を敷いたらほぼ一杯だ
でも、そんなの全然良かった
実家の鬱屈とした部屋に比べれば
今日からここが俺の新天地、そう思ってはりきった 親父さんに「仕事とかは明日からでいいよ」
と言われたので、俺はその日は一日プラプラすることに
夕方になって、あまりにも手持ち無沙汰だったのでケンの散歩へ行くことに
散歩しながら、もっとこの一帯の事を知ろうと思った
しばらく歩けば大きな国道にぶつかる事や、案外駅が近いと分かった
帰り道、一人で鼻歌を呟きながら帰っていると
この前会った女の子とまた出くわした すれ違う際、また不審そうに俺のことを睨んでくる
さすがの俺も、きまりが悪かった
女の子「あなたこの辺りの人ですか?その犬は…」
と突然話しかけてきた
俺は慌てて、「○○さんの所で働くことになった者です…」と答えた
女の子は合点がいったように「ああ、それで」と呟いた
そして一言「失礼しました」と言って足早に去っていった
一体何だったんだ、と少々イラッとしたけど
ケンが俺の方を見て尻尾を振っていたので、そのままおとなしく宿に帰った 夕飯を食べたあと、食堂のソファに座ってテレビを見ていた親父さんに呼ばれた
親父さん「今日はゆっくりできた?どうだいこっちは」
俺「とってもいいところです」
そう言うと「そりゃ良かった」と言って親父さんは楽しそうに笑った
俺は心に引っかかっていた女の子の事を、親父さんに尋ねてみた
「今日、ケンの散歩してる時に女の子に話しかけられたんですけど…」
と一部始終を話した
親父さん「ああ、そりゃきっとカドワキさんとこの娘さんだね」 俺は思わず「え?」と聞き返してしまった
親父さん「すぐ近所の家だよ」
近所の子だったのか、となんだか申し訳なくなった
親父さん「この辺りはみんな知り合いみたいなもんだからね」
親父さん「○○君がケンを連れてるのを見て変に思ったんだろう。気を悪くしないでやっとくれ」
そういう事だったらしい。なんだか申し訳ないと思った
親父さん「うちにも回覧板を持ってくる事があるよ。会ったら挨拶してごらん」
俺は「はい」と答えたものの、ご近所がみな知り合いって感覚が新鮮だった その後親父さんに「明日からは頼むね」って笑って肩を叩かれて
すっかり女の子のことは頭から抜けてしまった
そうだ、明日から俺は宿の一員となって仕事をする
こんな俺を拾ってくれたんだから一生懸命働きたい
俺はそう思って「任せて下さい!」って元気よく言った
4畳半の部屋で横になって、明日の仕事始めに備えた
嫌な気持ちなんてほとんど無く、ワクワクするくらいだった 宿の朝は早かった
まず起きて庭の草花に水やり、玄関の掃き掃除など
その後食堂で朝食の配膳を手伝う
慣れない仕事に戸惑いながらも宿の朝は賑やかに過ぎていく
その忙しさや活気が、なんだか俺には心地よかった
長年一人で篭もっていたことが嘘のように感じるほど
朝が過ぎれば各部屋の掃除に浴場清掃、ケンの餌やりに買い物等々
そして随時電話応対、予約の確認…
やることは本当に沢山あって忙しかった すいません今日はこれで落ちます
続きはまた明日に書きますね
見てくれている人はありがとう >>1です
ちょっとパソコンの調子が悪いので携帯からです
遅くなってしまうかもしれないけど、ごめんなさい 旅館での仕事は忙しかったが
どれもやりがいのあるものばかりだったと思う
ご飯の配膳をしていればお客さんに話しかけられるし
部屋をピカピカに掃除するのだって悪い気はしなかった
こんなクズニートの俺が、仕事を楽しいと思える
誰かの笑顔のためになってると思える
それが本当に嬉しくてさ
何より、親父さんと女将さんに本当に感謝してた 働き始めて間もない俺の事を
「○○君来てごらん!」「○○君調子はどう?」
と言っていつも気にかけてくれるんだ
そしてたまに、夜の暇な時間になると
食堂に俺を呼んで「どう、一杯?」と誘ってきたりする
優しくて温かい、でもどこかお茶目な
そんな人達だったんだ そんな風にして、俺の人生初の仕事生活は
上手くいかないこともあったけど、順調に進んでいった
俺が働き始めてから間もなく、子供のいる家族連れが来た
宿の食堂には、大きなテレビとゲーム機が置いてあって
親父さんに「子連れさん来たから、ゲームを出しておいてね」と言われた
Wiiやプレステ3など、新しいゲーム機の中に
スーパーファミコンと、何やらスコープのようなコントローラがあった
俺はそれが何か分からず、手にとってまじまじと眺めた 俺「これは何ですかw」
親父さん「ああ、それね。スーパースコープ…だったかな?」
俺「ああ、聞いたことがあります」
確かに聞いたことはあったが、けっこう往年のもので、
俺は持っている人を初めて見たくらいだった
俺「なかなか珍しいものだと思うんですけど…」
親父さん「そうなの?うちの子が小さい時に買ったんだけど」
俺「あれ、子供さんいたんですか」 俺がそう聞くと親父さんは
「二人ね、いるんだよ」と言ったきり続けなかった
あまり話したげではなかったので、俺も詮索するのはやめた
そうか、二人には子どもがいたんだ
でもここに居ないということは、外に働きにでも出たのか
俺はこの時、その程度にしか思わなかった そして夕飯が終わると、ゲームタイムだ
男の子の小学生の二人兄弟を相手に、Wiiスポーツやスマブラなどで激しく盛り上がる
「兄ちゃんふざけんな!」「今のはなし!なし!w」
などど言われながら、服を引っ張られたり叩かれたりするw
俺も童心に帰って楽しくゲームの相手をする
そのうちその子たちのお父さんや、親父さんまでもが混ざって
食堂はなんとも賑やかな雰囲気に包まれた 大の大人と小学生が一緒になって、ムキになって遊んでいるw
絶え間ない笑い声響いて、
こんな楽しいことが仕事でいいのか、と思うほどだった
夜もだいぶ暮れるまでゲーム大会は続き
ちびっ子たちは親御さんに促されて渋々部屋へと帰っていった
「兄ちゃん今度は負けねーぞ!」 そう言って指さして言ってくる姿がかわいかった その後、玄関の外で親父さんと煙草を吸いに行った
俺が親父さんに「楽しかったですねw」と言うと
親父さんは優しく笑って、「こういう事がね、結構あるんだ。」と言った
「だからいいものなんだ。これからも、色んな人に会えるよ」
そう言って、俺の横で笑顔で煙草をふかした
俺はそれを見て胸が一杯になった
親父さんはどれだけの人に出会ってきたんだろう?俺もこれからどれだけの人に出会えるだろう?
街灯もまばらな真っ暗な庭で煙草を吸いながら、頑張ろうって思った 次の日の朝、俺が朝食の片付けをしていると
昨日の親子連れが俺のもとへとやってきた
するとお母さんが、「あの…良かったら一緒に写真撮ってもらえませんか」と言った
俺は驚いて、「え、僕ですか?」と変な声を出してしまった
「この子たち、昨日からずっと楽しかったってそればっかりでw」
「お兄さんと別れるのが嫌みたいで…」
そう言われて見ると、お母さんの後ろで恥ずかしそうにしている兄弟がいた 俺は嬉しくなって「全然いいですよw」と答えた
すると親父さんが「なになに写真撮るの?w」と嬉しそうに近づいて来た
親父さんの「はい、チーズ」という声と共に
親子四人と俺、という何とも面白い写真が撮られた
兄弟のお父さんが「良かったなーちゃんとお礼を言いな」と言うと
ちびっ子二人は「ありがとう!」と笑顔で俺に言ってくれた お母さんも、「あの子たち本当に楽しかったみたいで。次も必ずここに来ますよ」
と俺に言ってくれた
玄関で俺が手を振って見送る最後まで、兄弟は「ばいばい!」と手を振り続けた
振り返ると、番台で親父さんが「良かったね」と言って笑っていた
ああ、俺はどうしてしまったんだろう
もの凄く感激して嬉しくて、泣きそうになるのを必死でこらえた
この世界、まだまだ捨てたもんじゃない、本当にそう思えたんだ すいません、今日はこれで落ちます
携帯からだとやりにくいね…遅くてごめんなさい。
また明日、書きます
見てくれてる人本当にありがとう こんばんは
遅くなってごめんさい…
どうにもやっぱりパソコンの調子が悪いので、今日も携帯からです
申し訳ない。 働いてみて初めて、
誰かに本気で「ありがとう」と言われる喜びを知った
あのちびっ子二人の笑顔を見て
俺は今までに感じたことのない嬉しさや達成感を味わった
俺にも、誰かの役に立つ、そんな事ができるだろうか
そんな考えを持ち始めて、仕事にも徐々に慣れた頃
とある出来事が起こった その日は休日ということもあって、朝からバタバタしてたんだけど
ひと通りやる事が終わり
少し休憩をしていた夕方頃、呼び鈴を鳴らす音が聞こえた
玄関の方から、「ごめんください」という声がしたので
俺は駆け足で向かった
そこには、この前の女の子が立っていた 俺「こんにちは…」
女の子「あ… この前はどうも」
ときまり悪そうに言ってきた
俺「いえいえ…こちらこそ」
俺もどうしていいか分からず、どぎまぎして応対する
女の子「これ、回覧板ですんで…よろしくお願いします」
俺「あ、わざわざどうも」
女の子「いつもの事ですから」
そう言うと、「それじゃ」とだけ言い残し
何か急いでいたのか、そそくさと女の子は出て行ってしまった 相変わらず、何か引っかかる人だなぁと思いつつ
俺は親父さんに回覧板を渡す前に
チラッと開いて中を見てみることにした
「河川及び路地清掃ご協力のお願い」
そこにはそう書かれた紙切れが一枚はさんであって、
俺は最初「なんだこれ」とまったくピンと来なかった 俺は不思議に思いながら、届いた回覧板を親父さんに渡した
俺「これ、例のあの子が持ってきてくれました」
親父さん「おおそうか、ありがとう」
親父さんは眼鏡をかけて、帳簿をつけながら受け取ってくれた
親父さん「何か言われた?w」
俺「いえ、何も…?w」
親父さんは、俺と「カドワキ」という女の子の関係を楽しんでいたのだろうか
正直、女の子は俺の好みではあったけれどw 俺「それより、この川と道の清掃っていうのは…」
親父さん「ああ、2月に一度くらいね、
ここらの町内会の人達で近所の川や道を掃除するんだ」
俺「掃除…?」
親父さん「え、そうだよ?○○君のとこではなかったの?」
いくらそういう類のことを親に任せきりだったとは言え
初めて耳にする風習だった 俺「でもそういうの、何かいいですね。」
親父さん「みんな、ここが好きだからね」
そう言って親父さんは笑った
俺「いいなぁ…」
俺がテンションを上げて言うと、親父さんは何か察したのか
親父さん「○○君、今度のやつ行ってみたら?ちょうどいい」
俺「いいんですか?」
親父さん「いいよいいよ。みんな若い人が来てくれると喜ぶし」
親父さんはそう言って俺の肩を叩いた
そうか、こんなものがあったんだ、と少しワクワクした
地区の行事、地域のつながり。
なんだかとても温かい 俺はそういうのに憧れてたんだ ごめんなさい、今日はこの辺で落ちます
明日はもっと早い時間に来ます
見に来てくれてる人、本当にありがとう こんばんは
みんな保守ありがとう
ちょっと昨日から体調崩しちゃって、今日は書けそうにない
明日書くので、それまで待ってください
本当にごめん 体調が一向に治らない…
本当にごめんなさい。
明日は必ず来ます、季節の変わり目は大変だ
みんなも気をつけて 本当に申し訳ない こんばんは
パソコンは直ったものの
体調はむしろ悪化しました…
マジでごめんなさい
ほんと早く直します
できたら保守お願いします
すぐ治します こんにちは
時間開けちゃってごめんなさい…
もう体調万全です
しばらくぶりですが、続き書きます。 河川清掃は朝早くから行われる
地区にはお年寄りが多いので、早い時間帯からやるのは昔からの慣例だそうだ
特にどこをやるだとか、何をしなきゃならないという決まりはなく、
各々が開始の時間になると外に出てきて
自分の家の周辺の側溝?であったり道を掃除する
初対面の人が大勢いるだろうから、かなり緊張した
タオルを首にかけて軍手して…変な感じだったなw とりあえず、俺は宿の敷地前の道の雑草にとりかかった
草取りなんて、学生時代の行事でやった以来だ…
実家の庭の草取りくらいしろ、とよく怒鳴られたっけ…なんて思い出した
草を抜いていると、何となくニート時代の事を思い出してモヤモヤした
それを振り払いたくて、しばらく路端に生えている雑草取りに熱中していると、
カランカランと音を立てて、誰かが近寄ってきた そこには、例の女の子が立っていた
髪を結んでいたので、最初すぐに誰か分からなかった
俺に気づいて、目を丸くした
女の子「あ、おはようございます…」
俺「ああ、おはようございます」
女の子「空き缶を集めてるので…もしあれば…」
気まずいのか、恥ずかしそうに話しかけてくる
でも俺はその気遣いが嬉しかったし、知り合いがいて良かったと思えた しかもこの偶然、俺にとってはとてもラッキーなものだった
偶然持て余していた空き缶ゴミがあったし、
その子も俺の近くで一緒に草を取るような流れになった
俺「親父さんに、この近くに住んでると聞きましたが…」
女の子「ええ…目と鼻の先ですよ。本当にすぐそこです。」
ぶっきらぼうではあるが、会話が成り立つ
それがとても嬉しくて、ウキウキして草取りに励んだ こんなに可愛らしい人と一緒に草取りしてる事が不思議だった
というより、なんだかシュールで笑えてきそうな位だった
俺「この辺っていいところですよね」
女の子「田舎ですからね…何もないですけど」
こんな他愛もない会話を繰り返していた
話し方にトゲはあるけど、きっとそれがこの人なんだろうって思って
最初ほど違和感や変な印象は受けなくなった
でもなんでこんなにドライなんだろう、という疑問はあったけど それでいて、やけに生真面目で
草をまとめると「それ、こちらの袋にどうぞ」とか、
靴が汚れそうになると「ああ、靴が汚れちゃいますよ」
とか言ってきて、なんだかとても不思議な感じだった
本当のアナタはどっちなの?って感じで
全然性格とかそういうのが掴めなかった
一緒にいて、特段居心地が悪いとかはなかったんだけど
今までに会ったことのない影を持った感じの人だったので
すごく興味深かった しばらく一緒になって草取りして、時間が過ぎた
すると唐突に女の子が立ち上がった
女の子「あ、時間ですね」
俺「え?何のですか?」
俺がそう言うと女の子は嫌そうな顔をした
女の子「知らないんですか?」
俺「ええ…」
女の子「取った草を燃やす時間なんです」
ため息混じりで教えてくれた。やっぱり、まだまだイラッと来るところはあるw 女の子「一箇所に集めて草を燃やすんです。そこで簡単なお茶会もします」
俺「あ、そういう事なんですか…」
女の子「集まりだって大切な行事の一貫ですからね?一人だったらどうしたんですか?」
何故か知らないが怒られた
俺に落ち度があったとは言え、なんだかあんまりだ…
女の子に促されるまま、草が目一杯入った袋を抱えて歩いた
小さな空き地に出て、すでに焚き火が行われていた
その周りを、何人もの人が取り囲んで談笑していた 女の子「お疲れ様です」
「あ、カドワキさんご苦労様ー」「カドワキちゃんだ、いつもありがとねー」
輪に入っていった女の子は次々と声をかけられる
地区の人からの評判はとても良いみたいだ
コミュニティ、人付き合い…そんなワードが頭に浮かんだ途端
俺は緊張して足が前に出なかった
家に引きこもっていた時間が長かった分、こういう場が本当に苦手になってたんだ
どうしたらいいんだ、と顔が熱くなって変な汗が出そうだった 俺がどうしようもなくて輪に入らず立ち尽くしていると
女の子が向こうから「来なよ」と言って手を振った
俺はそれでもダメで、グズグズとして動けない
すると、女の子が輪から飛び出してきて俺の前に来た
「大丈夫だから」そう言って笑って、強引に俺の腕を引っ張っていった
女の子「〇〇さんとこで働いてる俺さんです」
俺「あ…初めまして。〇〇と言います」 「あー◯◯さんとこの人なんだ」「まだ若いねーよろしくねー」
と、輪の中に入ると瞬く間に会話が走りだした
近くにいたお婆ちゃんに「疲れたでしょ」と言ってチョコレートを渡された
「どこからきたの?」とか「若いのに行事に来て感心だ」
とか、地区の人はみんな暖かくて、本当に安心した
女の子が小声で「ね、大丈夫でしょ」と笑ってた その時の笑顔が印象的で、俺はドキッとしてしまった
正直、俺はこの時に女の子の事を好きになったんだと思う
勇気が出なくて一歩踏み出せなかった俺を
腕を引いて輪の中に連れて行ってくれた
その瞬間のときめきが、忘れられずにいたんだよ
女の子がいたから、地区の人達とも関係を築けて
打ち解ける事ができた
女の子が、俺を助けてくれた そんな風に思ったんだよな ごめん、ちょっと急用だった 再開します
草を燃やす焚き火をみんなで囲いながら
水筒に入った温かい緑茶をもらって団欒する
みんなが他愛もない会話で笑っていて
俺は自分がそんな場所に居合わせられる事に感動した
前の俺だったら考えられない
宿で働き始めたこと、女の子と出会ったこと
そういうことが全部作用して
こういう事が楽しめるくらいに、段々変化してきてたんだと思う 帰り道、方向がまったく一緒だったので女の子と2人で帰った
俺「なんかその…ありがとうございました」
女の子「何がですか?」
俺「あの…輪に入れてくれて…」
俺は恥ずかしいのに耐えながら、お礼を言う
女の子「ああ。だって何か躊躇してましたから…」
俺「いえ、ありがとうございます」
女の子「そうでしたか」
そう言うと女の子は、珍しく笑ってくれた かつてなくいい雰囲気だったので、俺はここで勇気を出した
今しかない。
俺「あの、ご近所さんですし…良かったら連絡先教えてくれませんか?」
女の子「いいですよ」
そう言うと、女の子はすぐに携帯を取り出してくれた
やった、これはやったぞ!と思ったのも束の間
女の子「でも忙しいんであまりメールとかしませんよ」 メールする前からの念押しか…
これは脈なしか…?と少し落ち込んだけど
何はともあれ連絡先はゲットできた
これは凄い進歩だぞ!と思った
俺「全然大丈夫ですよ。ありがとうございます」
そう言って意気揚々とアドレスを交換した
少し前までニートだった俺が、もの凄く進歩だ
仕事も始めて、外交的にもなってきた
自己満足かもしれないけど、そう思えるだけで凄く嬉しかったんだ こうして、今では連絡もとることのない寂しい名前の並ぶ携帯の電話帳に
「カドワキ」という新しい名前が増えた
アドレス交換なんて、何年ぶりだったろうか。
丁寧に「さよなら」と言ってぺこっと頭を下げてカドワキさんは家に帰って行った
俺はなんだか久しぶりに胸がドキドキしちゃって、
宿の自分の部屋に帰ってから
ひたすら「よし!よし!」って言ってガッツポーズをしてた
馬鹿だったよなぁw それから俺は、さらに宿の仕事を一生懸命やるようになった
真面目に働いて、沢山お客さんの笑顔見て、それが楽しかった
そして、早くカドワキさんに会いたい
次会ったらどんな顔をするかな?どんな事を話すかな?
そればかりが頭を過るようになっていた
やっぱり、恋のパワーって半端ないね
毎日を全力で生きる原動力になっていたもの だが、昼の休憩時間にフラついても
夕刻にケンの散歩に行っても、一向に会えなかった
学校だろうか?忙しいのだろうか?
色んな考えが頭をよぎった
そして例の清掃からけっこう時間が空いた日だ
俺はその日は休みをもらって、一日好きに過ごしていた
夜になって蒸し暑くて、散歩ついでにコンビニ向かったんだ 煙草と飲み物を買って、ボーっと帰り道を歩いてた
街灯があまりなくて、夜になるとなかなか不気味な道なんだよな
そんな事考えてたら、前方から人が歩いてきて少し身構えた
こんな時間に一人で歩いてるって、けっこう怖い…
カドワキ「こんばんは」
俺「あ、こんばんは…」
思っていたのとは違う形でドッキリした
前から歩いてきたのは犬を連れたカドワキさんだった 俺は思わぬ偶然に飛び上がるくらい嬉しかった
俺「こんな時間に散歩なんて…部活とかだったんですか?」
俺がそう言うと、カドワキさんは苦い顔をして「え?」と言った
カドワキ「私働いてるんですが…」
俺「え?」
そう、高校生だというのは勝手な俺の勘違いだったんだ
正直、本当に驚いた
見た目はもの凄くあどけないから、高校生だって言われても全然分からない カドワキ「私はもう今年で20歳で…社会人ですが」
俺「そうだったんですか…」
そういえば、この前の清掃の時にお互いの事をまったく聞いてなかった
俺はなんだか怖くなった
カドワキ「さっき仕事から帰ってきて…だからこんな時間で」
俺「ああ、大変ですね…」
カドワキ「そういえば、〇〇さんは何歳なんですか?」
俺はこの質問に「え?」とどもってしまってなかなか答えられえなかった 俺「24歳ですが…」
まずい、この流れはまずい…俺は凄く嫌な感じがした
少し前までの、恥ずかしい自分を必死に押し殺して隠してきた感情だ
カドワキ「24?若いから珍しいとは思ってたんですが…」
カドワキ「前は何かやってたんですか?」
来た。この質問だ。
この質問が怖いんだ よりによって自分が惹かれている異性に、この質問をされるなんて 言うのか?好きな人に、
自分が「今までニートしてたんです」ってことを。
言いたくない、そりゃそんなの誰だって言いたくない
でも俺は咄嗟に上手い言い逃れも思い浮かばず、
カドワキさんを信じて、全てを曝け出すことにしたんだ
どうせ、いつかは絶対にバレることだしね。
そんなの、ニートをやっていた奴の宿命だろう 悪いのは全部自分だ 俺「あの…大学を卒業してから…その…」
カドワキ「はい?」
俺「ちょっとの間ニートだったんです」
俺がそう言うと、彼女は目を見開いた
カドワキ「ニートって?あのニートですか?」
俺「はい、そうです」
カドワキ「え、本当ですか?」 カドワキ「うっそ…初めて見た…」
俺「ですよね」
彼女の表情がどんどんこわばっていく
カドワキ「信じられない…どうして?なんでそんな事したんですか?」
俺「それが…自分でも分からなくて…」
カドワキ「分からない?何ですかそれ?なにやってたか分かってるんですか?」
俺「ええ…」
彼女がどんどんヒートアップしていく
まずい流れだ カドワキ「それでここに来たんですか?なんで?なんでですか?」
俺「いや、とてもいい所で…」
カドワキ「夢とか、やりたい事とか、ないんですか?」
俺「いや、特には…あることにはあったんですが…」
カドワキ「なんですかそれ?」
俺も、どんどん感情的になる彼女に押される一方だった
カドワキ「結局、ニートができるだけの環境と余裕があったからですよね?」
カドワキ「必死にならなくても、それができるだけの自由があったんですよね?」
普段からは到底考えらないくらい、彼女は感情を剥き出しにした 彼女は大声で「信じられない」と言って首を振った
俺は、もう呆然として見つめているだけだった
カドワキ「どうしてそんな恵まれていて…そんな事したんですか?」
カドワキ「あり得ないです」
そう言って彼女は大きく息を吐いた
俺は、ただ黙るだけだった
カドワキ「私、ダメです。ごめんなさい」
そう言い残し、彼女は駆け足で俺の元から去って行った 怒涛の罵声を浴び、一人取り残された俺は
「まあ、そりゃそうだよな」って自分に言い聞かせるように考えた
ニートなんてしてた自分が悪いのだから
でも、あそこまで感情的になるなんて思わなかった
それも、好きになっていた女の子に、あそこまで言われると思わなかった
ニートとかそういった類のものに、何か特別な想いがあるのだろうか
流石の俺も、この日のカドワキさんからの言葉は
かなり心に重くのしかかってしまった ということで今日はこの辺で落ちます
明日あたりに終わらせると思います
見てくれてる人、ありがとうです。 俺はとにかくショックだった
あそこまで言われた事はもちろん、
好きになった人に嫌われてしまった事実が、どうしようもなく嫌だった
こんな歳になってせっかく恋に落ちて、こんな終わり方をするんだなって
一人虚しくなった
俺はこの時初めて、実感的に、自分がニートだったことを
心底後悔して恨んだ
馬鹿やってたなぁ、って 今思えば、あそこまで言うカドワキさんも少々変だけど
この時の俺は不思議と、全面的に自分がいけないんだって信じて疑わなかった
宿に戻ってから、玄関に置いてある灰皿の前でひたすら煙草を吸った
なんかもう、この世の終わりと感じるくらいに悲しかった
次の日から朝起きるのもひたすらしんどくなって
あと一歩でまたニート時代に戻る寸前だった
親父さんにも「元気ないけど大丈夫?」と心配されるくらいだった 勝手に落ち込んで、元気をなくして周りに心配させる自分
そんな状態が本当に申し訳なくて、自分に嫌気が差した
あんなにも楽しかった宿の仕事の一つ一つが、
「なんで事してんだろう」に変わり始めて
「そろそろ辞めてしまおう」そんな思考になりかけていた頃だった
昼のヒマな時間、休憩してる時
滅多に鳴ることのない俺の携帯に着信があった 俺「もしもし…」
カドワキ「あの…」
その声は、聞いてすぐに普通じゃないと分かるくらいにしゃがれ声だった
俺「どうかしたんですか?」
カドワキ「助けてくれませんか」
俺「え?」 カドワキ「いあ…その、なんというか…」
俺「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
カドワキ「体調を壊して…」
俺は突然のことだったので動転した
カドワキ「動けないんです…今…」
俺「は、はい…」
カドワキ「凄く近所なので…何か食べるものを…」
俺「持っていけばいいんですね?」 カドワキ「は…はい…」
俺「分かりました。てきとーに見繕ってすぐ行きますね?」
カドワキ「ごめんなさい…」
この時、様々な疑問が浮かんだ
何故俺なんだ?確かに至極近所ではあるが
他に頼る人は?親はいないのか?
しかしそんな事は気にせず、
とにかくすぐにカドワキさんの家へと向かうことにした 俺はコンビニへと走って、
栄養ドリンクやバナナ、お粥のパックなんかを買って
すぐにカドワキさんの家へと向かった
自分が何をしていて、何故こんな状況になっているのか
よく分からなかったけど、必死になって走って
早く届けてあげよう、と思った
あんな事を言われた後だったのに、頼ってくれた嬉しさがあったんだ
なぜか、ドキドキしてる自分がいたんだよな コンビニの袋を下げて、必死になって走った
6月の終わりくらいでもう凄く熱くて、汗だくになった
カドワキさんの家の前に着くと、息が上がりきってクラクラした
「カドワキ豆腐店」と書かれた家の前は、シャッターが下りていた
豆腐屋だったのか、と一人で思って
急いで入れるドアを探す
回りこんで家の側面に入ると、玄関らしき扉があったので
インターホンを鳴らして「いますかー?」と必死に呼びかけた しばらく待っていると、古ぼけた薄茶色の扉が開いた
マスクをして、目を真っ赤にしたカドワキさんが出てきた
俺「大丈夫ですか…?これ、買って来ましたよ」
カドワキ「ありがと…」
そう言ってだるそうにして差し出した袋を受け取る
本当に虚ろと言った感じなので、俺は心配になった
俺「いや、熱何度あるんですか…?」 カドワキ「ん…40度くらい…」
俺「はい?そんなんじゃお粥なんか自分で作れないでしょう」
カドワキさんは「う〜…」という返事ともとれない返事をしたので、俺は決心した
俺「嫌かもしれませんが、お粥くらい作ってきますよ?」
カドワキ「あ…え…」
俺「なんか食べないと本当に死んじゃいます」
カドワキ「う…」 俺「お粥だけ作って、すぐに出て行きます…」
カドワキ「あー…」
俺「ちょっとだけ、入れてもらえますか?」
俺が意を決してそう言うと、
カドワキ「どうぞ…」
とだけ言ってフラフラと家の中に戻っていった
俺は「お邪魔します…」とだけ生真面目に言って、カドワキさんの家に入った カドワキさんの家の中は昔ながらの感じで
イメージとはまったく違った 何というか、年季が入っている
板張りの廊下は昼間なのに暗くて、なんだかひんやりしていた
もっと、小綺麗でおしゃれな感じにしてるかと思っていた
俺が居間に入ると、カドワキさんはその場に座り込んでしまった
カドワキ「ごめんなさい…」
俺「いいんです。すぐにお粥だけ作っちゃうんで、少しだけ待っててくださいね」 台所に続く玉のれんをくぐると、使い込まれたキッチンがあった
年季が入った家ではあったけど、いつも綺麗にしてるんだなってすぐ分かった
買ってきた栄養ドリンクやゼリーなどを冷蔵庫に入れていると
冷蔵庫に貼ってある一枚の写真に気付いた
あどけない少女と初老の男性が、ピアノの前で花束を持って笑っている
カドワキさんだろうか?そんな事を思ったけど
すぐに袋からお粥のパウチを取り出して、
今自分がやるべきことに専念することにした 鍋を探して、水を入れて、火にかける
沸騰するのを待ってる間、買ってきた冷えピタをカドワキさんに渡し
スポーツ飲料をコップに入れて居間のテーブルに置いた
カドワキさんは「ありがと…」と言いながらグッタリしていた
本当に朦朧としている様子
俺はありがとう、と言われることが何だか嬉しくて
こんな状況ながら、少しだけときめいていたんだ そうこうしてるうちに鍋の中が沸騰して、お粥が完成した
俺「お粥できました。卵は無理だろうから、普通のやつです」
俺「海苔とか、塩とかで味つけましょうね」
カドワキ「ありがと…」
俺「いえいえ」
そう言って、居間のテーブルにお粥と、塩を並べた
そして、しばらくぼーっと出来上がったお粥を眺めているカドワキさん 俺「食べられそうにないですか?」
カドワキ「うん…」
俺「まいったな…少し、頑張ってみましょう」
そう言って俺もゆっくり待つことにした
居間を見回していると、わきにピアノがあるのに気付いた
さっきの写真は、やっぱりカドワキさんだったのか…
気づけば、そのピアノの上に幾つかの盾やトロフィーも並んでいた しかし、こんな状況下でさすがに
「カドワキさんピアノ弾くんですかー?」なんて話しかけることもできず
自分の中で納得しただけだった
趣味でピアノ弾くのかな…なんて一人で思っていたら
カドワキ「だめ…だめだ…」
と話しかけてきた
俺「え、やっぱり無理ですか?」
カドワキ「食べる…どころじゃない…」 参った、これが食べられないなら、とうとう急いで病院に行かないと
俺「少しも無理ですか?」
カドワキ「ん…」
そして喋るのすら辛そうになってきている
俺「分かりました。カドワキさん、外に車ありましたね?」
カドワキ「え…はぁ…」
俺「病院行きましょう」 カドワキ「あ…え…」
俺「いやいや、悩んでる暇ないです。」
俺「大丈夫です、安全運転で連れてってあげますw」
そう言うと、カドワキさんの顔が少しだけほころんで、
「わかった…」とだけ俺に言った
俺「財布はどっちでもいいですけど、保険証だけは持ってくださいね」
カドワキ「うん…」
もうフラフラだったので、俺が肩を貸して外に出て、車に乗せた 正直、俺はペーパードライバーに近かったので、かなり緊張した
ただ、助手席で今にも崩れ落ちそうなカドワキさんを乗せていたので
そんな事は言い出せなかった
幸い、一度こっちに来てから消化不良で内科に行ったことがあったので
病院の場所だけは頭に入っていたんだ
カドワキさんを安心させたかったので、
「すぐに着きますよ」とか言いながら車を発進させた 道中、俺が車の運転に集中していたのもあって、沈黙が続いた
すると、熱に浮かされたのか、カドワキさんが喋り出した
カドワキ「良かった…」
俺「はい?」
カドワキ「ありがとう…」
シートを倒して背もたれに倒れかかっているカドワキさんが
必死になって喋っていた
俺「無理して喋らなくていいんですよ」 カドワキ「いいの…あのね…」
俺「はい…」
熱気が溜まって蒸し暑い車内で、カドワキさんは必死に喋る
カドワキ「頭のこれ…が」
俺「ええ」
カドワキ「ひんやりしてて…気持ちいい」
俺「ああ、冷えピタですね。買ってきて良かったw」 カドワキ「昔…さ…」
俺「はいはい」
カドワキ「よく…お父さんがね…」
俺「ええ」
カドワキ「氷枕を…作ってくれて…」
俺「氷枕ですか。」
カドワキ「すごく…嬉しくて…」
俺「へえ、そうなんですかw」 カドワキ「なんだか…それをね」
俺「はい。」
カドワキ「思い出しちゃった…」
俺はその言葉に、何も言い返せなかった
信号に止まって横を見ると、ぐったりして椅子に寝ているカドワキさんがいる
カドワキ「本当はすごく…不安で…」
俺「はい」
カドワキ「嬉しい…よ」 俺「嬉しいって…何がですか?」
カドワキさんは、そんな俺の言葉も意に介さず続けた
カドワキ「誰かと一緒だと…」
カドワキ「こんなに嬉しいんだね…」
俺はその言葉に胸がきゅんとしたが、何も言えず
そして、カドワキさんもそれだけ言うと
疲れてしまったのか、まったく喋らなくなった しばらく車内は沈黙のまま病院に向かった
カドワキさんのお父さんはどんな人なんだろう?
さっきの写真の人?それにしても何故食べ物くらい買ってこないのか?
今はお父さんは家にいないのか?
いろんな考えが頭を渦巻いた
そして小十分車を走らせると、病院に着いた
ドアを開けて「さ、行ける?もう大丈夫ですよ」と言ってカドワキさんの手を取る
カドワキさんはもう限界のようで
無言のまま俺に手を取られ、病院に入った まあ予想通りというか、カドワキさんは典型的な風邪だった
しばらく何も食べてないと伝えると、点滴を打つことになったので
俺はベッドで朦朧としてるカドワキさんに
「これでもうバッチリですね。」と話しかけた
するとカドワキさんは寝たままこちらを見上げて、口元だけで笑ってみせた
それを見て、これならもう安心だな、と気が抜けた
点滴が終わるまで駐車場に戻って煙草を吸う事にした 1時間ほど経って、カドワキさんを迎えに行く
相変わらずフラフラな状態は変わらなかったので
病院のお金と薬代は、俺が立て替えた
俺が腕を引いて、カドワキさんを車まで連れて行く
俺「点滴もしたし、これでひとまずは安心です」
するとカドワキさんは笑顔になって
「ありがとう」とだけ言った 帰りの車も、カドワキさんは点滴を打って眠くなったのか終始無言だった
俺も、負担にならないようにゆっくり運転して、黙って帰った
家に着いて、カドワキさんを部屋まで連れて行く
カドワキさんはやはりよっぽど辛いのか、着替えることもなくベッドに倒れ込んだ
俺「もらった薬はここに置いておきます」
カドワキ「うん…」
俺「ゼリーとかバナナがあります。夜になったら食べて、ちゃんと薬飲んでくださいね?」
カドワキ「うん…」 俺「ここにタオルも置いときますね。汗かいたらちゃんと拭くんですよ?」
カドワキ「うん…」
俺もすっかり安心して、帰ろうとする
俺「もう大丈夫です。何かあったら、電話してください」
そう言って部屋から出て行こうとした
カドワキ「あ…」
カドワキさんが不意に俺を呼び止めた 俺「どうかしました…?」
カドワキ「まだ…その…」
とてもか細い声で話しかけてくる
カドワキ「氷…枕…」
俺「え?でも…そんな作り方とか知らないですし…」
カドワキ「や…やだ…」
正直驚いた 普段強気なカドワキさんが
こんな風に駄々をこねてわがままを言うなんて、想像がつかなかった カドワキ「台所の下に…あるから…」
俺「は…はあ…」
それを無視することもできず
俺は言われるまま、台所下の収納を探す
すると、グレーのゴムで出来た枕?が見つかる
これに氷水を入れればいいんだな、と分かり
急いで水道水と冷凍庫の氷を突っ込んで、氷枕をこしらえた。 このまま頭を乗せたら冷たかろう、と思って
台所にあったタオルを巻いて、俺特製氷枕の完成だ
それを急いでカドワキさんの待つ部屋に持っていく
部屋に戻ると、カドワキさんはもうグッスリ眠っていた
そのまま起こさないようにゆっくり頭を持ち上げて
枕を氷枕に入れ替える
少し揺らしてしまったが、一向に起きる気配はなかったw さっきまでとても辛そうにしていたのが、氷枕に入れ替えて
より一層心地よく眠っているように見えたので
俺は嬉しくなって、一人で「良かったね」と呟いてしまった
そのまま「薬はここに置いときます。ちゃんと食べて飲んでね。」
というメモだけ残し、俺はカドワキさんの家を後にした
できる事なら、もう少し寝顔を眺めていたかったけど
俺が宿を出てから、実に2時間以上が経っていた 俺はこの間、宿に連絡するのをすっかり忘れていた
いくら暇な時間帯とは言え、無断の長時間外出は許されない
そのことを、宿に戻ってから気付いたのだ
玄関から入ると、番台に親父さんが立っていた
親父さん「おかえり。どこに行ってたの?」
俺「すいません…全然連絡もなしに外に出て行ってしまって…」
親父さん「さすがに困るよ。最近、おかしいんじゃないのかい?」 普段優しい親父さんも、この時ばかりはだいぶ怒っていた
親父さん「仕事なんだから…許されないよ、こんな事」
俺「本当に、すいません…」
もうだめだと思った
カドワキさんとのひとときの時間の代償に
俺は今日で終わりなんだなぁって思いもした
それだけ、無責任な事をしたんだって、自覚してたんだ 親父さん「…で、どこに行ってたの?」
俺「はい…?」
親父さん「ワケがあるんでしょう。君が理由もなくそんな事しないって知ってるから。」
親父さん「話してよ。」
親父さんは、厳しい表情をしながらも、俺の事を見つめて
俺の言い分を聞こうとしてくれた
それで、俺は勇気を持って話そうと決心した カドワキさんが死ぬほど体調を崩して、苦しんでいたこと
俺はいたたまれなくなって、全てを投げ打って助けに行ってしまったこと
普通の大人なら、到底聞き流して「理由」とも捉えてくれない事を
俺は一生懸命に親父さんに伝えた
すると、親父さんも玄関の方に出てきて、煙草を吸い始めた
親父さん「なるほどね…」
親父さんは固い表情を保ちながらも、俺に「〇〇君も吸えば?」
と優しく促してきた 促されるまま、俺も煙草に火をつけた
親父さんは厳しい表情のまま、淡々と話を続けた
親父さん「なるほどね…でも、ダメだろ?仕事なんだから」
俺「そうですよね…」
親父さん「でもさ」
俺「え?」 親父さん「困ってる人を見ると、ほっとけない。」
親父さん「誰かの力になりたい気持ちは止められない。」
俺「え…?」
親父さんは粛々と語り続けた
親父さん「そうだろ?」
俺「はい、そうです…」 親父さん「そんでもってさ」
親父さん「〇〇君は、カドワキさんの事が大好きだ、だろ?」
俺は突然の指摘に思わず吹き出しそうになった
でも、それは間違いなく本当の事だったんだ
俺「大好きです」
俺が親父さんの方を見て真剣にそう言うと、親父さんは大声で笑い出した
親父さん「やっぱりかw 親父さん「今回の件は、事が事だし、大目に見るよ。」
親父さん「でも、次はないからね」
そう言うと、親父さんは俺の肩を叩いて「恋する少年!」
と言って笑ってみせた
その瞬間、俺の中で鬱屈として、刻々と溜まっていた何かが一気にはじけて
俺はどうかしたのか、本当に何故か分からないが、
その場で涙を流して泣いてしまった 大の24の男が、古びた宿の玄関で涙をこぼして泣いている
その光景は、はっきり言って相当痛いものだったろうな
でも、俺はそんな温かい言葉をかけられてしまって、本当に崩れてしまった
ちょっとでも、こんな仕事辞めてやる、と思っていた自分が情けなくて
もう、本当に言葉にできない感情だった
俺が泣いているのを見て、親父さんは笑うのを辞めて
「なんか辛かったみたいだな」と優しく頭を叩いた どうしようもなくなって、子どものようにただ涙を流すだけの俺
親父さんはそんな中でもまったく動揺しなかった
親父さん「溢れる涙も青春だな」
俺はボロボロ泣いてしまって、上手く返答ができない
親父さん「歳の割に◯◯君は本当に子どもだね。子どもだよ」
親父さん「でも大丈夫さ」
親父さん「それでいて凄くひたむきだから。」 親父さんはそう言ってニッコリ笑うと、そのまま奥に入っていった
「ひたむきだ」
そんな事を言われたのは人生で初めてで、俺は今でも忘れない
この時の親父さんの言葉があったから、今の俺もあるんだと思う
こんなクズの俺の事を、そんな風に思ってくれる親父さんに出会えたことは
本当に、俺の人生という人生を大きく変えてくれた 今日はここで落ちます
続きはまた明日書きます
見てくれてる人ありがとう
なんだかんだ言ってもう佳境なので… こんにちは
お久しぶりです
遅くてごめんなさい
続きを書いていきますね カドワキさんが倒れた一件以来
俺はまたやる気というか、エネルギー?みたいなものを取り戻して
一生懸命働くようになっていた
でもあれから、カドワキさんから特に連絡がなくて
もういいんですか?みたいなメールを打っても返信がなくて
俺はけっこう心配していた まったく連絡もしないほど不義理な人でもないだろうし
かと言って連絡もないし
休んだ分仕事も忙しいのだろうか?なんて考えてた
そろそろ流石に治ったろうな…と思っていた頃
宿の仕事が一通り終わって一息つく時間帯
確か夜の9時か10時くらいだったと思う
部屋でゆっくりしてたら呼ばれたんだ 親父さん「〇〇君、お客さんだよ」
そう言ってニコニコしながら親父さんが来た
俺にお客さん?と思ったけど、言われるまま玄関に行った
カドワキ「こんばんは…」
俺「あっ…」
カドワキ「こんな時間に、ごめんなさい」
俺「あ、いえ…」 カドワキ「この前は本当にありがとう…ございます」
俺「いやいや…もう、いいんですか?」
カドワキ「ええ、すっかり」
そう言うと、笑って小さくガッツポーズしてみせた
俺「そっか、よかったです本当に…」
カドワキ「あの…お金なんですけど…」
俺「ああ、それなら別にいいですよ」 カドワキ「アナタが良くても私が良くないんで…」
相変わらず、トゲのある言い方をしてくるw
でもそれ聞いてすっかり元気になったんだなって思えた
彼女は真剣に「診察台と薬代で…」と言いながら
小さなお財布から、お金を取り出して渡してくれた
俺「なんだかわざわざすいませんw」
カドワキ「いえいえ、こっちですから…」 カドワキ「いや本当、この前は突然…」
カドワキ「助かりました…ありがとうございました」
よっぽど悪いと思っていたのか、何度も何度もお礼を言ってくる
俺「いえいえ、本当に気にしないでください」
俺もひたすらそう返すしかなかった
俺「じゃ、お金も確かにもらったので…いいですかね…?」
カドワキ「あ、その…ちょっと待って下さい」 カドワキ「少し散歩にでも行ってみませんか…?」
俺「え?」
あのカドワキさんが、俺を呼び止めている
好きな人が呼んでいる!ドキッとしちゃったよw
カドワキ「その辺を…ぷらぷらと…」
気恥ずかしそうに、そう呼び止めてきた
俺「え、え、いいですけど…いいんですか?」
マジで焦って変な喋り方になってたかもしれない カドワキ「や、やっぱりこんな時間だしアレですか…」
俺「あ、いえいえ、少し外の風浴びるのもいいんじゃないですか…w」
カドワキ「じゃあ…」
と言って、2人して玄関から出た
俺が玄関から出て行く瞬間、
番台の奥から親父さんが出てきて
ニコニコしながら俺のことを見ていた 俺は急いで外に出てきたので
たまたま玄関にあった下駄を履いてきてしまった
歩く度に、「カラン、カラン」と音が鳴った
その音が妙に響いて、歩きづらかったw
俺「うわー、なんだこれw変なの履いて来ちゃったなー」
カドワキ「え、いいじゃないですか」 カドワキ「涼しげで、良い感じです」
俺「えーw本当ですかー?w」
カドワキ「どうですかね?w」
なんて感じに笑いのタネになってくれたから、良かった
しばらく2人で、街灯もまばらな夜の道を歩いた
どこからともなく虫の音だけが聞こえた
家の中は暑いけど、外は本当に涼しげだった 俺「カドワキさんは、ピアノを弾くんですか?」
俺は気になっていた事を唐突に質問した
カドワキさんは一瞬「なんでそれを」みたいな表情をしたけど
すぐに納得して話し始めた
カドワキ「ああ…弾くというか…弾いてた、が正しいですかね」
俺「え、今は弾かないんですか…?」
カドワキ「いや、今も好きなんです…けどなんというか、弾く時間が…」 俺「ああ、忙しいんですよね…」
カドワキ「ええ、今日もさっき帰ってきたので…」
凄く寂しそうな顔になってしまっていた
俺「でも、トロフィーとかあったし、やっぱり上手なんですよね?」
カドワキ「ああ、あれは…」
俺「なんかそういう道を目指そうとか、考えなかったんですか?」
すると、カドワキさんはしばらく黙ってしまった カドワキ「そんな風に思ったことも…ありましたね」
そう言って寂しそうに笑ってみせた
俺は、「じゃあなんで…」と言いかけてやめた
きっと何か理由があったんだろう
俺「俺、カドワキさんのピアノ聞きたいです」
そして思わず、こんな事を言ってしまった
カドワキ「え……」 すると、カドワキさんはたちまち笑顔になったんだ
こんな顔が見れるなんて、って少しドキッとしたよ
カドワキ「本当ですか…?」
俺「ええ、すごく聴いてみたいです」
するとカドワキさんは、履いていたレギンスのポケットから鍵を取り出した
銀の輪に、鍵がいくつもついていた 俺「なんですか?それ…」
カドワキ「いいからいいから」
そう言うと、カドワキさんは少し早足で、俺の前を歩き出した
普段は割と冷めてる事が多いカドワキさんが、やけに楽しそうになった
そしてしばらく歩いて、小さな家のような、施設のような建物が見えた
カドワキ「ここです…」
俺はワケが分からなくて、「はい?」と間抜けな返答しかできなかった カドワキ「ここは何というか…公民館みたいな…」
俺「あ、なるほど…でもなんでここに?」
そう言うと、カドワキさんはニコッと笑った
カドワキ「ピアノがあるんです」
俺「なるほど…」
俺が一人で納得してると、カドワキさんは先に行って
「こっちですよ」と手を振って呼んだ カドワキさんは入り口の引き戸を開けていたので、俺は不思議に思った
俺「でもなんで鍵を…?」
カドワキ「ああ…お父さんが町内会の役員?なんで…」
俺はなんでそれをカドワキさんが持ってるんだろうってさらに不思議に感じたけど
それ以上は突っ込まないことにした
カドワキ「すごくちっちゃくて、一階建ての大広間と休憩室しかないんですw」
確かにそうで、中に入ると板張りの広間しかなかった 俺「でも、案外広いんですね」
カドワキ「そうですかねw」
中が予想以上に蒸し暑かったので、二人して窓を開けていく
「虫が入ってきそうですね〜」「ありますあります」なんて言いながら
そして、広間の隅っこにピアノが一台置いてあった
その場に置いてあったはたきでパタパタとしながら
カドワキ「久しぶりだなー」
とカドワキさんはピアノを開けた カドワキさんはもうニコニコして、椅子をギコギコ引いて場所を調整した
「よし」と言って椅子に座って、腕まくりをした
そして俺の方を向いて、「どんなのがいいですか?」と聞いてきた
俺はその顔があまりに明るくて、瞬間ドキっとして
「一番思い入れのある曲を…」と言った
カドワキ「そうですか…実は」 カドワキ「私…この場所で、初めて人前で演奏したんです」
カドワキ「確か小学生の時…地区の行事で」
俺「あ、そうなんですか」
カドワキ「だから今日も…なんとなく緊張します」
そう言って、ピアノの前ではにかんだ
その姿が印象的で、すっごく惹かれてしまった
カドワキ「じゃあ、その時に弾いた曲、いきますね」 俺は、「やった」と言って拍手をした
彼女はすぐに真剣な顔つきになって、ピアノの上に手を置いた
目の前で、優しくて静かな旋律が流れ始めた
生まれて初めて、誰かに自分のためだけに演奏してもらって
なんとも言えない、とても不思議な気分だった
大学時代、一瞬バンドにいたからキーボードは知っていたが、
クラシックのピアノは、また全然違った 凄く雰囲気のあるウットリとした曲で、
殺風景な広間の中が、ピアノの旋律で満たされてく感じがした
時折、弾いてる最中に彼女が笑顔をこぼすので
俺もそれに合わせて笑って頷いた
すごく、楽しそうに、本当に楽しそうにピアノを弾くんだ
月並な感想だけど、本当に感動したんだ
目の前でピアノが演奏されて、本当に心を打たれたんだよ 曲が終わると、俺はすぐさま拍手して
「すごい!!よかったー!」と声を上げた
カドワキさんは照れくさそうに「ありがとう」と笑ってくれた
本当に印象的なメロディーと優しい曲調だった
俺「今のは、何ていう曲なの?」
カドワキ「渚のアデリーヌっていう曲です」
俺「へえ…いい曲だったなぁ」
カドワキ「簡単な曲ですよwもちろん小学生にも弾ける…」
俺「いえいえ、すごく良かった!」 俺はものすごくワクワクした
カドワキさんは、なんて魅力的な人なんだろうって思った
俺「いいなあ…ピアノが弾けるってすごいなぁ…」
そう言って感心しきりだった
カドワキ「ちょっと調律がずれてますね…w」
そう言ってカドワキさんも嬉しそうにしていた
俺がよっぽど期待の眼差しを向けていたのか、
カドワキ「他にも何か弾きますか?w」
と言ってくれた 俺「聞きたい聞きたい!」
そう言うと、カドワキさんは笑って頷いてくれた
カドワキ「じゃあ、私が一番好きな曲を…」
そう言って、またあの真剣な顔つきになってピアノに手を伸ばした
弾き始めた途端、鳥肌が立った
綺麗だし…聞いたことがあった
どこでかは分からないが、聞いたことのある曲だった 前半は静かにゆっくりと、物語が始まる感じで
段々、段々と物語のピークに向かって曲がうねって行く感じ
そして、物語は情熱のピークに達して、俺はそこで完全に持っていかれた
「すごい」とか「きれい」とかじゃなく、文字通りもう言葉では表現できない感覚
ずっと自分の殻に篭もって引きこもって過ごしていた俺
この世は馬鹿ばかりで、誰も俺のことを分かってくれないとか思っていた
そしてそんな俺はもっとクズで、この世は心底終わっていると思っていたこと それがどうだ、今目の前にある世界は
こんなにも美しい世界は、ちゃんとあるんだなぁ…
カドワキさんの奏でるピアノを聴いて、そんな事を思ってしまったんだ
曲が終わると、俺は涙目になって笑いながら
「だめだ…本当に良かった。上手く言えない」
って言いながら必死に拍手した
俺「良かったよ!マジで良かった!」
俺はカドワキさんに向かって何度も何度も言った 何故か、カドワキさんも少し涙目になっていた
カドワキ「ありがとうございます」
そう言って俺の方を見て笑ってくれた
カドワキ「これは、リストの愛の夢って曲です」
俺「そういう曲なんだ…聞いたことあったよ…」
カドワキ「有名な曲ですよね」 カドワキ「聴いてくれて、ありがとう」
カドワキ「久しぶりに誰かに聞いてもらえて、凄く嬉しかったです」
カドワキさんは、満面の笑顔で俺に向かってそう言った
俺「いえいえ…こんな機会滅多にないから…素敵だった」
そう言うと、カドワキさんはまたニコニコして、
「そろそろ行きましょうか」と言って席を立った 2人で、何か少し恥ずかしなるくらいニコニコしながら
広間の窓を閉めて、電気を消して、
公民館の玄関に鍵をかけて、外に出た
外に出ても、あの綺麗な旋律の余韻がまだまだ残っていた
俺「とっても贅沢な演奏会だったよ」
カドワキ「そうでしたかw」
なんだか、とても幸せな時間が流れているように感じた また、街灯のまばらな夜道を2人で歩き出す
俺「あの場所は、絶好の演奏スポットだねw」
カドワキ「ほんとですねw」
俺「よく使うの?」
カドワキ「たまに…ですね」
カドワキ「昔はよく、お父さんと行ったりしてました」 俺「あ、そうだ」
俺がそう言うと、カドワキさんは振り返って「はい?」と言った
俺「こんな時間まで外にいて…お父さんに何も言われない?大丈夫?」
カドワキ「ああ…大丈夫というか…」
カドワキ「お父さんは…もういないんで」
俺「え?」
カドワキさんはそう言うと、上を見上げた カドワキ「去年亡くなったんです」
俺「あ…ご、ごめん…」
カドワキ「いえ、全然大丈夫です」
カドワキ「このどこかに、多分いるでしょうから…」
そう言って、カドワキさん夜空を指さした
その日は雨続きの毎日には珍しく晴れた日で
空には満天の星が光っていた カドワキ「だから今日は、とっても懐かしくて」
カドワキ「少しだけ、少しだけ思い出しちゃいました」
カドワキさんは静かに話し始めた
カドワキ「愛の夢は…あの場所でお父さんに聞かせた事があって…」
カドワキ「今日の〇〇さんみたいに喜んでました」
俺も、だまってうんうん、と頷く カドワキ「もう、随分昔の事なんですけど…」
そう話しながら、カドワキさんは次第に涙を流し始めた
カドワキ「お父さんは、ピアノを弾く私をいつも応援してくれてました…」
カドワキ「だから、私はずっと頑張ってこれた…」
カドワキ「いつだって客席で、お父さんが笑顔で見ていてくれたから…」
泣きながら必死に、でも確かに、カドワキさんは話す
俺も、もらい泣きで泣きそうになるのを必死にこらえた カドワキ「お父さんは一人で、ずっと私を育てて、いつも苦労してて…」
カドワキ「だから、ピアノを弾いてお父さんの笑顔が見れるのが、嬉しかったんです」
泣きじゃくるカドワキさんに、俺はうんうん、と真剣に答えた
カドワキ「私は、音楽の先生になるのが夢でした」
カドワキ「大好きなピアノとずっと一緒で、生きて行きたいと思って…」
カドワキ「でも…でも…」
俺「でも…?」 カドワキ「私が高校生の時に、お父さんが入院したんです」
カドワキ「うちは…元々…そんなに裕福じゃないからぁ…」
彼女はさらに息を大きく上げて泣き始めた
カドワキ「大学への進学を諦めて、働くことにしたんです」
カドワキ「それで、少しでもお父さんの支えになろうって決めたんです…」
カドワキ「そしたら、お父さんは最後まで「俺のせいで夢が叶わなくてごめんな」なんて言うんです…!」 カドワキ「でも、違うんです…違うんです…!」
カドワキ「私が自分で決めたことなのに…なのに…」
カドワキ「私は、ピアノが好きでした。音楽の先生になるのも夢でした」
カドワキ「でも、お父さんがいなくなってから、それに何の意味があったんだろうって、凄く悩んでました」
カドワキ「だから、ピアノもあまり弾かなくなってました。どうせもう、誰も聴いてくれないから」
彼女はグスグス言いながら、必死にしゃべり続けた カドワキ「ごめんなさい。だから前、ニートだって言われた時、あんな風に怒っちゃったんです」
カドワキ「正直、羨ましかったんです。だからあんな事言っちゃって…」
俺「いえいえ、全然いいんですよ…」
俺「むしろ、こっちこそ申し訳ない…」
そう言うと、カドワキさんの涙でグシャグシャの顔が少しだけ笑顔になった
カドワキ「〇〇さんに会えて、良かったです…」
俺「え、どうしてですか?」 カドワキ「なんとなく、またピアノを弾く意味が見つかったというか…」
俺「ああ…」
カドワキ「この前もあんなに面倒見てもらって…」
カドワキ「正直、すごく嬉しかったんです」
俺「いやいやそんな…」
カドワキ「これからも、私弾きますから。また、聴いてくれますか?」
そう言って、俺の方を見つめてきた
俺「うん、是非。今日のコンサートも凄く素敵だったよ」
そう言うと、「コンサートってw」って笑ってくれた そうこうしてるうちに、俺の宿の前に着いた
玄関に向かう俺の前で、彼女はこっちを向いて小さく手を振った
カドワキ「夢の続きが見つかりました」
そう言って、少しだけ首を傾けて笑ってくれた
俺もそれを見て、「お伴するよ」と言って手を振った
この日、俺とカドワキさんの仲の何かが、劇的に変化した
それも、とてもいい方へ この日の一件は夢のようだったけど、
次の日起きるとカドワキさんから「昨日はありがとう」というメールがあって
夢じゃなかったんだって再認識した
これから、俺の日々の体感速度が格段にスピードアップした
あっという間に7月になって、宿での仕事に懸命に向かった
たまに、暇な時間を見つけて夜にカドワキさんと一緒に散歩したりするのが嬉しくて
とても純粋に、一生懸命に、俺は自分の想いを燃やしていったんだ 一度、俺が買い物から戻ると、食堂で言い合いをしている親父さんを見かけた
俺と同世代くらいの女性と、声を張り上げて言い合いをしていたんだ
親父さん「お前、いい加減にしろよ!」
女性「うっせーんだよ!だからこんなとこ戻って来たくねえんだよ!」
俺は、それが親父さんの娘さんであることにすぐ気付いた 女性「もう知らない!!行くからね!!」
そう言うと、食堂の入口で棒立ちしていた俺には目もくれず、女性は飛び出していった
親父さん「ああ…恥ずかしいとこを見られちゃったな」
親父さんは俺に気付いて、苦々しく笑ってみせた
親父さん「参ったもんだ、言っても全然分かってくれなくてね…」
そう言って、親父さんはそそくさと奥に引っ込んでいってしまった 俺はどうしたもんか…と思って
とりあえず煙草を吸いたいな、と思い
玄関にある灰皿の場所へと向かった
引き戸を開けると、そこには先程の女性がしゃがみこんで煙草をふかしていた
俺「あ…どうも…」
女性「え?アンタ誰?お客さん…ですか」 俺「いや、違くて…最近働き始めた者です」
娘さん「あー、パートさんか」
俺「ま…そんなとこです」
娘さん「さっきの見てたの?」
俺「ええ…まあ…」
そう言いつつ、俺も煙草に火をつける
こういう初対面の人と話す時、煙草は便利だ
火を点けて吸ってしまえば、ある種の気まずさや壁がなくなる 娘「なーんであんな、何言っても分かんないかね」
俺「何がですか?」
娘「え?私がずっとフラフラしてるからだよ」
フーっと煙を吐きながら話し続ける
俺「フラフラ?」
娘「高校出てからだから…4年くらい?ずっとフリーター。んで今は彼氏んとこいんの」
俺「ああ、俺もニートでしたよw」 なんで俺は、こんな軽々しく自分でニートだった事を言ったのか分からないが
ある種、もう過去の自分に決別し始めていたんだと思う
娘「ニート?マジでw超ウケるなそれw」
俺「まあ、そうですよねw」
娘「本当さは…分かってんだよ…やばいってこと」
娘「でもどうしたらいいかなんて、わかんねーし…」
明るい茶髪に派手なメイクという容姿をした娘さんが、急に静かになった 俺「分かりますよ…」
そう言って俺も煙を吐く
そこに、女将さんがやってきた
女将さん「あらあら、賑やかなのね」
娘「お母さん…」
女将さん「帰ってくるなら、連絡くらいしなさいよ」
娘「ごめん…でもさ…」
俺は黙って煙草を吸って様子を見ていた 女将さん「ご飯くらい、食べて行きなさいよ」
娘「ごめん、今日は帰るね」
そう言って、娘さんは吸いかけの煙草を灰皿に投げ捨て、
そそくさとその場から去って行った
女将さん「あの子はあの子なりに、分かってはいると思うんだけど…」
そういう女将さんの顔がとても切なかった
俺も、親にこんな想いをさせていたんだろうか その夜、俺は食堂で親父さんと飲んだ
話しにくいが、娘さんのことを親父さんに聞きたかった
ビールの入ったグラスを乾杯して、俺が切り出す
俺「娘さん…いらっしゃったんですね」
親父さん「ああ…上の兄貴はいいんだがね、あの子は本当に…」
俺「それなんですが」 俺「こんな事自分が言うのもオカシイですが…」
俺「焦らなくていいと思います、本当に」
親父さんは、「ほう」と言って俺に顔を向けた
俺「僕より年下じゃないですか。分かるんです。この時期って、本当に色々考えるんです」
俺「悩んで…でも何もできなくて。だからその差にイライラするんです」
親父さんはふんふん、と頷いて俺の話を聞いていた
俺「だから僕もちょっと前までは引きこもって…」
俺「でもきっかけなんて、分からないじゃないですか。」
俺「僕は、変わりましたし、これからももっと変わりたいって思ってます」
親父さん「なるほどな…」
俺「無責任な事は言えませんが、必ず分かり合える日が来るというか…」 親父さん「ありがとう。余計な心配をかけてしまったようだ。」
親父さん「そんな日が、来るといいね…分かってはいるんだ…」
親父さんは遠い目になって、噛み締めるようにそうつぶやいた
世の中、万事順調になんていかないもんだな
みんな、誰だって何かしら悩んでいて、上手くいかないことがあって
でも、いつかは…明日こそは…って考えてるんだ
俺は宿でのこの一件を見て、そう思ったんだ いつだって自分だけがかわいそうで
自分だけが悩んでるんだと思い続けてきた俺
でもこの宿に来て働いて、色んな人に会って、色んな事を経験して、
世の中は本当に酸いも甘いもあると痛感した
一件楽しそうにしてる大学生の団体客も揉め事で喧嘩したり、
一人で暗い顔をして宿泊する女性がいたり
この仕事をしてから、本当に色んな人がいて、色んな事があるんだと体感したんだ そして、とうとう俺にとっての転機の日がやってきた
宿で働きながらも、このままずっとここにいるわけにもいかないよな…
と一抹の不安を感じ始めていた頃
宿に、変わったお客さんがやって来る
なんでも、昔からの親父さんの友人の方だそうで
その日は、親父さんは朝からはりきっていたんだ 一通り、宿の仕事を終えた夕食終わりの時間帯、俺は親父さんに呼ばれ食堂へ行った
親父さん「〇〇君、一緒に飲まないかい。面白い人が来てるよ」
俺「え、はい」
俺が食堂へ行くと、シャツにジーンズというラフな格好をしたおじさんがいた
おじさん「はじめまして」
俺「あ、はじめまして…」
親父さん「〇〇君、ガーデンイシダって知ってる?」 俺「あ、知ってます。県内に何店舗かある花屋さん…」
親父さん「そこの社長さんだ」
俺「ええ!!」
俺は心底驚いた
生まれて初めて社長というものを間近で見た…
よく見ると、本当に普通の気のよさそうなおじさんだった その後、3人で食卓を囲んで酒を飲み交わした
「いつもあの花屋さんで花を買っていて…」「花はいいですよね」
実は俺、親の影響で本当に少しだけ華道をやったことがあって
花の知識には普通の人より若干精通していた
そのおかげもあってか、歳のいったおじさん2人と俺という構図でも
だいぶ話は盛り上がった そして、俺が24歳で、どういった経緯でここにいるかの話になった
俺は、自分の歩いてきた道を、忌憚なくそのイシダさんに話した
自分が就活で失敗したこと、公務員試験も落ちたこと
腐ってしまって、引きこもり生活をしていたこと
決心して、変わりたいという一心でこの宿にお世話になっていること
その度に、親父さんも「そうなんだよ」とか「頑張ってるんだよ」と付け足す
親父さん… 「変わりたい」その気持ちは徐々に現実になっていたかのかもしれない
今までだったらはばかられたことも、イシダさんにどんどん伝える
俺「今は、ここで働くのも楽しくて、毎日大変ですけど、お客さんの笑顔も見れて…」
イシダさん「いいねえ。その若さでここで働いたのは、いい経験だよね」
親父さん「そうなんだよw歳のくせに、ひたむきで可愛い奴なんだよw」
そんな感じで、俺が話の主役となって酒の席の会話に花が咲く
今までの人生で、誰かにここまで語ってもらう事があっただろうか? 俺「でも、不安でもあります…この先、誰かと一緒になるかもしれないし…」
親父さんは、それを聞いてニヤッとした
俺「ありがたいんですけど、いつまでもここにお世話になってるワケにいかないというのも、分かっていて…」
親父さんも黙って頷く
イシダさん「いや、君見込みあるよ。うちの若いのよりずっと素直だし」
イシダさん「なんなら、全然ウチにおいでよ」
俺「え?」 俺「本当ですか?」
イシダさん「嘘は言わないよww」
親父さんもビックリして目を見開いていた
イシダさん「〇〇(親父さんの事)が、ここまで可愛がるなんて、絶対魅力があるんだろうよ」
イシダさん「連絡先教えなよ、社員でおいで」
俺「え、え…?」 イシダさん「すぐには厳しいもんな…9月から、どう?おいで」
俺「とても嬉しいですが…え、いいんですか?」
俺は親父さんの方を見る
イシダさん「あ、可愛い従業員を連れてったらダメかー?w」
イシダさんは笑って親父さんの方を見た
親父さん「巣立ちの時かな…」と泣くフリをしてみせた
それがおかしくて、3人で声を上げて笑ってしまった もしかしたら、親父さんとイシダさんは事前に口裏を合わせていたのかもしれない
それは、未だにわからないことだ
でも、親父さんはいつも俺をパートのような環境で働かせて
給料が少ない事を、申し訳ないねって気にしてたんだ
もし、親父さんが作ってくれた機会なのだとしたら、
俺は親父さんに感謝してもしきれない ということで、その後諸々の事務処理があって
俺は9月からなんと花屋で社員として働くことになったんだ
意外だった 本当に
人生、何が起こるかなんて、本当に分からないな
でも俺は宿での暮らし、仕事を気に入っていたから
8月一杯までは働くことにしたんだ
夏休みは、なんと言っても繁忙期だしね 8月になる
別れの時が差し迫ると、途端に寂しくなって
宿での日課、仕事の一つ一つが、とても名残惜しく思えた
朝早く起きると、空気が澄んでいて朝顔が咲き誇る庭も、
山の至るところから騒ぎ出す蝉も、夜遅く一人で入る大浴場も…
全部が懐かしく思えた
相変わらず、カドワキさんともメールをしていて
花屋に行くことは、字面で伝えてあった
でも、俺はどうしても直接会って伝えたくて、
その時を今か今かと待っていたんだ
よく考えるとカドワキさんとも離れてしまうことになるんだから
ちゃんと伝えたかったんだ 夕方のいつも手すきになる時間、俺はいつものように家の裏手にまわって
「よ、ケン、いこーぜ」
と言って犬小屋でグッタリしているケンを呼び出す
呼びかけると、尻尾を振って出てくるのが可愛い
来たばかりの頃に比べれば、ケンもだいぶ懐いてくれた…
そういえば、初めてカドワキさんと会った時も、
ケンがいてくれたからだっけ…なんて思い返していた
この数ヶ月の間に、怒涛のように色々な事あったんだ ケンを連れて少し歩き始めたら、携帯が鳴った
カドワキさんだった
俺はウキウキして、電話に出る
カドワキ「もしもし」
俺「お疲れ様。どうしたの?」
カドワキ「私今日、珍しく午後休だったんです」
俺「おお、やったね」
カドワキ「高架橋の河原、分かります?」
俺「え?何のことですか?」
カドワキ「知りませんか」 カドワキ「家の近くに、〇〇川ありますよね?」
俺「ああ、あるある」
カドワキ「その川に沿って下って来てくれれば、途中で電車の架橋があるんで」
俺「うん」
カドワキ「今時間ありますか?」
俺「うん、ケンの散歩してたし」
カドワキ「よかった。じゃ、待ってます」
俺「え?」
そう言って、電話は切れてしまった
相変わらずな人だw 俺は言われるまま、家の近くの川沿いの道を歩いて行った
川が景気の良い音を立てて、流れている
それに蝉の声が混ざって、なんとも夏らしさ満点だ
暑さもあったが、もう夕方ということもあって日差しはそれほどじゃなかった
あたりもすっかりオレンジ色だったし
俺は一人でケンに話しかけるように、
「カドワキさんはなんだろうな〜?」
とかつぶやきながら歩いていた しばらく進むと、道から河原に降りられるようになっているところがあって
そこを使って河原へと降りた
砂利と呼ぶにはかなり大きい石が並ぶ道を進んでいった
すぐ横を水が流れていてさ
こういう所って夕立とかきたらあぶないんだろうな〜とか余計な事を考えてた
そんな事を考えてると、前に大きな高架橋が見えてきた
間違いなく、俺が来た時に乗っていた電車が通る橋だ
こんなものあったんだな〜って感心した すると、遠くからカドワキさんが手を振って俺を呼んだ
カドワキ「早く早く!こっちに来てくださーい!」
俺「ど、どうしたの…?」
カドワキ「突然呼び出してごめんなさい…」
カドワキ「でも、見てもらいたいものがあって」
そう言うと、カドワキさんはしばらく黙った
俺はなんだろうと思いつつ、その高架橋を眺めていた
シャラシャラシャラ…という静かな川の音だけが響いた どこからともなく、ドドドン、ドドドン、という重低音が響いてきた
カドワキさんは、「来た!」と言って顔を明るくした
すると高架橋の右方向から電車が現れて
川の上を突っ切るように走っていく
夕方の時刻も相まって、橙色の逆光に車両が溶けていくようだった
夕日に溶けていった3両編成の電車はそのまま、橋の彼方へと消えた
すると、また元の川の水流の音だけになって
辺りは静けさを取り戻した 今まで見てきた景色の中で、本当に一番綺麗だったかもしれない
印象的で、叙情的で、忘れられない
横にいたカドワキさんは俺の前に立った
珍しく、少しはしゃいでした
カドワキ「あれに乗って、来たんですよね?」
カドワキ「もう行っちゃうなら、最後に見せたかったんです…」
そう言って、カドワキさんは俺の前で恥ずかそうに笑ってみせた
彼女もまた、逆光を背負って溶けてしまいそうだった その瞬間、ああ俺はきっとこの子を一生守るために、ここに来たんだろうかと思った
「ありがとう」と言って、カドワキさんを軽く抱きしめた
凄くか細くて、今までよく一人で頑張ってこれたな…って思った
カドワキさんは俺の耳元で
「寂しいですね」と小声で言った
俺はまだそれに応えられなかった
寂しくても、未来に踏み出すために、俺はここから出て行くんだから その日、俺たちは手をつなぐ事もなく
微妙な距離感を保ったまま、帰り道を歩いた
「そろそろ離れる時が来る」
もちろんそれが今生の別れじゃないくらい分かっていたけど
何とも不思議な感じだったんだ
今までのようには、もう会えない
でもそれは、俺のため… そして、俺の人生で一番色濃かったであろう8月は
あっという間に過ぎ去って行った
とうとう、愛すべき宿とも、別れの日がやってきたんだ
少ししかいなかったし、部屋にほとんど荷物の無かった俺は
段ボール4つ程度しか荷物が無く、全て宅急便で発送
その他の小さいものは、全てリュックに押し込んで背負った
なんとも、身軽な引越しだ 毎日行ったケンの散歩、毎朝の庭の手入れ、けっこうきつい浴場清掃…
親父さんと毎晩のように晩酌した食堂、いつも煙草を吸った玄関の灰皿
自然がいっぱいなこの街が俺は好きで、ここに住む人達も大好きで…
第二の故郷になったことは間違いない
全力で生きたこの数ヶ月間、まったく数ヶ月という気がしない 俺「今まで、本当にお世話になりました。本当に、こんな僕なんかを…ありがとうございます」
半泣き状態だった
親父さんも女将さんも、目に涙を浮かべていた
親父さん「本当に楽しかったよ。新しい息子が出来たような気分だった。」
親父さん「何か辛いことがあったら、またいつでもおいで」
女将さん「また遊びにおいでね。待ってるから」
俺は泣くのをこらえるのに必死だった
俺の人生は、まだまだ始まったばかり
これからまだまだ、沢山の人に出会い、沢山の事を経験するだろう
だからこそ、わずか数ヶ月でも、この宿にいることが出来て良かった 親父さん「変わるのも大事。でもそのままの気持ちも忘れるなよ」
俺「はい…」
宿の外まで、親父さんと女将さんは見送りに来た
黙って、涙目の笑顔で手を振り続ける
俺は、深々と頭を下げて、駅に向かう
宿を振り返って見た
あの時、ここを見つけなければ…
あの時、あの電車に乗らなければ…
人生、何が起こるかわからない
分からないから、行動を起こした者勝ちなんだろうな 宿の敷地から出た瞬間、待ち伏せていたかのようにカドワキさんがいた
カドワキ「こんにちは」
俺「あれ、休みとれたんだ…」
カドワキ「はい、隠しててごめんなさい…」
俺「いや、でも良かったよ」
カドワキ「目が真っ赤ですねw」
俺「ああ…w」
カドワキ「別に急いでは、いませんよね?」
俺「そうだね…」 カドワキ「それじゃ…コンサートにご招待しますね」
俺「え?本当に?」
俺は途端に嬉しくなってテンションが上った
カドワキ「特別ですよ」
俺「うんうん」
そう言って、俺は前を歩くカドワキさんに着いて行った しばらく歩いて、公民館に着く
慣れた手つきで、カドワキさんは鍵を開けた
引き戸を開けて
「どうぞお客さん」と言って俺を中に促した
俺が「なにそれ〜w」と笑うと
「え、え、ダメですかね…」と言って恥ずかしそうにしていた
最後の最後まで、本当に相変わらずな人だ 俺が荷物を端において、ピアノの横に立つと
彼女も丁寧に椅子を弾いてピアノの前に座った
カドワキ「今日は、とっておきを、1つだけ用意してあるんです」
俺「おお…」
カドワキ「〇〇さんのためだけに、練習してきました…」
俺「ありがとう」
俺がお礼を言うと、少しはにかんでから
カドワキ「じゃ、いきます」と言った
俺は小さく拍手して、真剣な表情になった彼女を見つめていた 彼女の手から、繊細な旋律が流れ始めた
俺は、この瞬間のカドワキさんがたまらなく好きだ
それは、紛れもなくショパンの「別れの曲」だった
優しい、暖かなメロディーから始まるこの曲は
なんとなく懐かしい気持ちになってくる
そう思っていると、中盤にかけて、突如荒々しい旋律がやってくる
その部分が何かの慟哭のようにも感じられて、
ハラハラして、不安な気持ちになる 別れの辛さを謳ったメロディーなのだろうか 彼女の手から、繊細な旋律が流れ始めた
俺は、この瞬間のカドワキさんがたまらなく好きだ
それは、紛れもなくショパンの「別れの曲」だった
優しい、暖かなメロディーから始まるこの曲は
なんとなく懐かしい気持ちになってくる
そう思っていると、中盤にかけて、突如荒々しい旋律がやってくる
その部分が何かの慟哭のようにも感じられて、
ハラハラして、不安な気持ちになる 別れの辛さを謳ったメロディーなのだろうか そう思っていると、また最初の穏やかな川の流れのような旋律が戻ってくる
先ほどまでの荒々しい旋律も相まって、その静かな旋律が
旅立つ人を、励ましているかのように聴こえた
曲が終わると俺は自然と拍手をしていた
さっきまで泣いてたのに、また涙目になってしまっていた
俺「ありがとう!ありがとう…!」
俺がそう言うと、カドワキさんはふふ、と笑って
「どうでしたか?」と聞いてきた 俺が涙目で「本当に良かった…ありがとう…」
と言っていると、カドワキさんは笑顔になって
カドワキ「これからも、ずっと聴き続けてもらうんですから」
カドワキ「今日で終わりになんて、なりませんよ」
と言ってきた
椅子に小さく座っているカドワキさんの方が、俺よりずっと強いじゃないか
俺がカドワキさんを守っていくと決めたのに、これじゃカッコがつかない 俺「わかってる…そうだね…そうなっていくんだ…」
俺はもう涙で視界がよく分からなかった
カドワキ「さ、行きましょう。電車、来ちゃいますよ」
そう言って彼女はパタパタと駆け出して
公民館の引き戸を勢い良く開け放った
西日が差し込んで来て眩しかった
その先で、カドワキさんが早く早く、と呼んでいる 駅まで、2人で並んで歩いた
手を繋ぎたいが、勇気が出ない
ヒグラシやツクツクボウシ?が鳴いていて
やたらと騒がしい
歩いているうちに、汗も出てくる
蜃気楼で、道の先が歪んだ
もう後何歩で、カドワキさんと別れるのか
いつ俺は、カドワキさんに想いを伝えるのか
駅舎が見えてくる
タクシーの列が見えてくる
自販機の群れも見えてくる
もう、着く 小さな小さな駅舎の中で、俺は切符を買うのに手間取った
家までいくらなのか、すっかり忘れていた
後ろで、カドワキさんが柱に寄りかかって見ている
小銭を入れる、切符が出てくる
切符を手に取る、うるさい警告音が消える
俺は手を上げて「じゃあね」と言った
カドワキさんも少しだけ笑って「さよなら」と言った
さよならじゃないだろ、と思った
次の瞬間、俺は口にしていた 「大好きです。本当に大好きです。これからもずっと一緒に居てくれないか」
気がつくと、俺はこんなことを言っていた
それを聞いてカドワキさんは、一瞬とても驚いたが
すぐに花が満開になったような笑顔になって
「はい、もちろんです」
カドワキさんがそう言った瞬間、ホームにドドドドド…と電車が来た
俺「バイバイ、またすぐ迎えに来るからね」
カドワキ「ずっと待ってます」
そして、俺は3両編成の小さな電車に乗り込んだ 帰り道、高架橋の上から
俺のいた小さな小さな町を見渡した
ここに、俺はいたんだ…
来た時とは逆、家にむかう電車の中で、俺はしみじみとそう感じた
9月になれば、またまったく新しい生活が始まる
本番は、そこからだ
そう心に思い、やる気が湧いた こうして、俺の短くも長い、宿での住み込み仕事暮らしは終わった
数えきれないほどの貴重な経験に、最高の出会い
何に、どれだけ感謝すればいいのだろうか
そして、俺は9月からの花屋での仕事にも耐えぬいたさ
花屋といっても、店舗での営業だけじゃなく
通販を扱ったり、イベントをやっているホールに花を持ち込んでいったりなど
その業務は様々なんだ
でも俺は元々花が好きだったし、新しい仕事も、好きになれたんだ 結論から言うと、俺は今でも花屋で働いていて、仕事はめちゃくちゃ楽しい
実家ぐらしもあってか、貯金もだいぶ貯まってきた
すごく、今は充実してる
だから平日とかはけっこう忙しいけどなww
さて、ここからだ
スレタイにもした、本題の夢の話
シメに、どうか聞いてってくれ。 俺は夏ごろ、カドワキさんと入籍することに決めた
今は一緒に住んでないけどさ
週2〜3とかそれ以上のペースで会ってるんだ
それで、2人で決めたんだよ
結婚式で連弾でピアノを弾こうって
どっちかが弾くとかじゃなく
結婚式で2人で一つの曲を弾きたい
それで、カドワキさんの演奏みたいに、散々お世話になったオカンと親父を感動させたいんだ
これが、俺の夢なんだ だから、今はそのためにピアノ猛特訓中だ
今まで全然弾いたこと無いから、大変で大変でw
どうせやるなら、お遊戯会レベルとかじゃなく、
ちゃんとガチで弾いて、今までお世話になった人たちを感動させたいんだ
もちろん、親父さんと女将さんだって呼ぶぜ
そんで、晴れ舞台でカドワキさんと俺の2人でスポットライトを浴びる
これが俺の、クズだった俺が見ている夢なんだ 実はもう一つの夢はもう叶えたんだ
カドワキさんの成人式に花を持って行ってプレゼントっていうやつ…
当日本当に驚いてたけど、晴れ着の姿が見れて良かった
俺が選んでプレゼントした花、凄く気に入ってくれた
これからこうやって、人生の節目一つ一つを、共にしていけたらいいな
本当に、何があるか分からない
昨日まで、家に引きこもってた俺が、あの日電車に乗って
目まぐるしく人生が走りだしていった
人生なんて、いつ走り出すか分からない
本当に、これからも行動し続けていくよ これで、俺の話は終わりです
みんな、二週間以上見てくれて、本当に感謝です。
またどこかで会えたらいいな…
そして、最後に1つだけ言わせてください >>859
確かに…携帯をマナーにしていて見落とした的な解釈でw
うーん…まだまだでしたね >>863
その通りです 酉も変えます
やっぱり文体からバレちゃうんですかね…すいません
書きためはしてなかったので、後半、特に最後の詰め込み具合半端ないですね… 今日中に書ききろうという精神が働いて
後日談的なものが全然書けなかったのがちょっとなぁと
最後展開が早すぎましたね
それ以外でも釣りだとバレバレな所はあったかと思いますが
面白かったって言ってくれた人、ありがとう ああそっか、自分はゲーセンの作者でもあります
ゲーセンで出会った不思議な子の話も、自分が書いた釣りでした
ごめんなさい
普段ツイッターで意見や批判も聞きます
https://twitter.com/Tomizawa_2ch
みんなありがとう またいつか
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NG🙅??♀深夜に麺類??🌛カモン👏日清焼きそば🍜U.F.O.🛸(なんてな!) >>886
Twitterとか見た感じだとスターバタフライ無いみたい
残念だ・・・ >>887
そっかぁ…
まだディズニーチャンネルのコンテンツも少ないし様子見かな… 夢を捨てて二浪した俺が、一夏に体験した忘れない思い出
暇な奴がいたら聞いてくれ
夢を諦めた・忘れたって人がいたら、特に聞いて欲しい 俺は高校時代、バレー少年だった
昔から背だけは高くて、中学の時に何の気なしに始めたバレーボールだった。
これが本当に面白くて、俺はたちまち虜になった。 仲間と協力して連携プレーを決めた時。
捕れない!と思ったボールに滑りこんで指先で上げた時の快感。
何より、相手のブロックを打ち抜いてスパイクを決めた時の歓声。
俺はその全てに魅せられ、バレーボールに夢中になった。 中学の時は弱小校ながらも熱心な顧問の元、エースとして頑張った。
その甲斐あってか、俺は都内でもそれなりの強豪と呼ばれる高校の監督に声をかけられ
そこでプレーすることとなった。
俺のこの進路を、両親はとても喜んでくれた。
俺がバレーで頑張ることを、いつも応援してくれていたように思う。
特に母さんは、俺が高2になるまで、本当に熱心に応援してくれていた。 強豪校でありながらも、「楽しくバレーする」ことがモットーだったうちの高校は、
厳しくしごかれる時もあれど、監督や先輩の指導には、常に愛があった。
一年の時からレギュラーとして試合に出場し、監督や先輩からも、
「お前はどんどん伸びていく。これから凄く楽しみだ」と期待されていた。
俺もその熱い期待に答えるべく、毎日練習を重ねた。
部活が終わって、最後の最後の片付けが終わったあと、一人で体育館に残って筋トレを続けた。
時にはネットの片付けは一人でやると言って、練習後にスパイクを100本近く打ち込んだ。 その全てが、「バレーが好きだった」から。
俺は本当に沢山の人に応援されて、いい仲間に恵まれて、最高の環境でバレーをしていた
そんな日々がたまらなく楽しくて、大切だった。 でも、俺が高2の春くらいにそんな日々がほころび始めた。
二人揃って俺のバレーを応援してくれていた両親が離婚した。
なんでも、親父に浮気の疑いがあったとかなんとか。
俺はその時、親父に対してものすごく怒りが湧いた。
俺は母さんにとても同情し、これからは俺が一人前の男になって、
母さんを支えないといけないんだ、と思った。
私立の高校に通っていたから、これからは母さんも仕事頑張るし、俺も奨学金でなんとかやっていくよ、
なんて二人でよく話していた。 でも、母さんは離婚から半年も経たないうちに、新しい男を家に連れてきた。
俺はそれが信じられなかった。
正直、ショックで言葉も出なかった。
まだガキだった俺には、すぐに現実を飲み込むことができなかったが、
それでも母さんが、家族が、幸せにやっていけるならそれでいいんだと言い聞かせ、
なんとか状況を受け入れることができた。 新しくきた男は、義父ということになるんだが、すぐにはなじめなかった。
なんでも都内の大手銀行に勤めているという、お堅い男だった。
俺はその男のことを、決して父さんとは呼べなかった。
だって俺は、別れてしまったけど、元の親父の事が大好きだったからだ。
ちょっとテキトーでだらしない所もあったけれど、
俺はそんな親父の事が大好きだった。
でも、大好きという気持ちだけでは「家庭」は上手くいかなかった。
きっと現実なんて、そんなもんなんだろうな。
だからこうして母さんは親父と別れ、新しい男が家にやってきた。
単純に、それだけのことだったのだ。 その男が来てからというもの、母さんが俺から学校の事や、部活の事を聞く機会がめっきり減った。
毎日欠かさず作ってくれていた弁当も作ってくれなくなった。
朝、「ごめんね」と言いながら俺に千円札を渡すだけになった。
昼休み、毎日クラスの奴らと一緒に弁当を食っていた習慣も、
俺だけ一人、千円札を握りしめて学食に行く日々に変わった。
母さんが離婚してから、少しずつだけど俺の毎日も変化が起き始めていたんだ。 そんな風にして、突然の環境の変化で気持ちが追いつかず、フワフワしていた時だった。
俺の人生において最悪の日が来た。
高2の夏も終わり、秋の入口が見えてきた頃だったろうか。
去年の春高バレーの予選で悔しい想いをした俺のチームは、
春高バレーの予選に向けて、猛練習をしていた。 その時俺はすでにエースとして、チームを引っ張る立場だったから、
その日の練習でも、スパイク打ち込みをやっていた。
本当に、いつも通り打ったつもりだった。
ネットの向こう側には後輩たちがレシーブしようと構えていて、
後ろからは、「いけー!」というチームメイトの掛け声が聞こえた気がした。 着地した瞬間に腰に激痛が走って、
俺はうめき声を上げてその場にうずくまった。
もう立ち上がることすらできなくなってしまい、
その日のうちに監督の車に乗せられ、病院に運ばれた。
俺は重度のヘルニアになり、腰を痛めてしまった。 前々からフォームに癖があり、腰に負担をかけるぞ、
と監督に言われていた矢先の事だった。
医者から告げられたのは、
「手術するかぎりぎりのライン。少なくとも1年くらいは安静にしろ」という内容だった。
薬を飲んで、安静にしているのが一番の治療だ。
ヘタしたら一生スポーツの出来ない体になる、と言われた。
1年間安静、それはすなわち、もう高校バレーは諦めろ、と言われたのと同じだった。
しかも、1年間安静にしたところで完治する保証もなかった。
跳びあがって、思い切りスパイクすることは最早困難だろう、とまで言われた。 大好きで、ずっとずっと続けてきたバレーボール。
春高バレーの舞台に立って、あのオレンジコートの中で
仲間と同じ景色を見るのが、夢だった。
俺は冗談じゃなく、本当に夢に見ていたんだ。
それが突然奪われてしまうという喪失感、残酷さ、
俺はどうしようもなく落ち込んで塞ぎこんでしまい、高校を数日間休んだ。
俺からバレーボールがなくなったら、一体これから何をすればいい?
そんな思考が頭の中を駆け巡った。 こういう状況になった時、
「俺はそれでも好きだから、マネージャーになって影で支えるぜ」
なんて行動に出る人もいるんだろうが、俺は全然違った。
腰を痛めたあと、俺は硬いコルセットを巻いて部活の手伝いをしたんだが、
コートの中で力いっぱいに躍動するチームメイトたちを見ているのは、
本当に辛かった。 本当は、俺もあのコートの中にいるはずだった。
見るだけで、何も出来ない自分。
俺は、バレーを見ていたいんじゃない。あのコートの中で、誰よりも高く飛んで、
俺の視界を塞ぐ3枚ブロックを突き破りたいんだ!
自分勝手かもしれないが、俺には本当にそんな風にしか思えなかった。
そして俺は仲間たちの春高予選を見届け、バレーボール部を退部した。 それからの日々は、毎日頭にちらつくバレーボールの事を忘れるのに必死だった。
監督やチームメイトも、俺を強く引き止めることはなかった。
俺の落ち込みようが本当に凄まじかったからだと思う。
ただ、ひどく残念がっていた。
お前がプレーできなくなるなんて、1がいなくなるなんて、とただ悲しんでくれていた。 そんな目的を失って絶望していた俺は、
想いを寄せていた女の子に気持ちを伝えようと考えた。
1年のバレーをやっていた頃からずっと好きだった、美香という同級生だ。
俺の事をいつも応援してくれていて、事あるごとに放課後体育館に来ては
バレー部の部活の様子を見ていた。
周囲からは「両想いなんだぞ!」と囃し立てられたこともあった。
バレーを失ってからっぽだった俺には、美香という好きな女の子への気持ちだけが残っていた。
だから俺は寂しさや悔しさを紛らわすために、美香と一緒にいたい、と強く願った。
けど、美香から返ってきた言葉は俺の想像とは違うものだった。 美香「え、1ってケガしてバレーできなくなっちゃったの」
美香「残念だなぁ。私は、バレーをやっている1がかっこよくて好きだったのに」
美香「…ごめんね」
俺は、好きだった子に、あっけなくふられたのだった。
俺は、バレーボールができなければなんなんだろう?
バレーのない俺なんて、一体何のためにここにいるんだろう?
美香のこの言葉に俺は深く傷ついて、もうどうしてかいいか分からなくなってしまった。 それからは毎日夢で見てうなされるほどになった。
白光がふりそそぐ体育館のオレンジコートの中で、セッターのイイダ(チームメイトだった)が
いい感じにふわっと浮かせたボールを、
誰よりも高く飛んで、打ち下ろす。
瞬間、一際大きな歓声を一身に浴びて、コートの中を走り回って…
そんな夢だ。
目が覚めるととてつもない虚無感に襲われ、泣きそうになった。 3年になった頃、元々部活には消極的で、
難関荘蛯ヨの進学を望bナいた義父の演e響もあり、
俺は大学進学を目指して、身を粉にして受験勉強に向かった。
母さんも「きっとそれがいい」と言っていた。 いざ受験勉強を始めてみると、
俺が今までずっとバレーボールを続けてきたことなんて嘘のようで、
何もかも最初からなかったんじゃないのか、と感じた。
初めて綺麗にサーブカットを上げられたあの時の達成感も、
先輩たちに囲まれて初めて公式戦に出たあの時の緊張感も、
みんなで組んだ円陣も、スクイズボトルの冷たさも、負けて流した悔し涙も、
全部全部、夢だったんじゃないのか?
と、そんな風に感じてしまった。 そんな時俺は、部屋の片隅にあった煤けたバレーボールを見ては、
「俺は確かにあそこにいたんだ。大丈夫」と自分を鼓舞した。
「バレーがしたい」「仲間と一緒に飛び跳ねたい」
そんな想いと必死に闘いながら、俺は1年間受験勉強に食らいついた。 ただ、結果は残酷なもので、志望校に合格することはできなかった。
色んなものを犠牲にして臨んだ受験だったはずなのに、俺の努力は実らなかった。
義父は考える間もなく、「浪人にしろ」と俺にすすめた。
何もかも上手くいかない現実に、俺は本当に荒れそうになったが、
「車の免許だけはとらせて欲しい」という俺の希望を義父が飲んでくれたので、
俺はなんとか浪人して勉強しようという気になれたのだった。 義父のすすめで、俺は新宿の某予備校に通うこととなった。
浪人中は、本当に辛かった。
どうして俺はこんなところで、やりたくもない勉強をしているんだろうか?
何のために?自分のため?将来のため?
本当は俺は、今頃大学で大好きだったバレーをやっているはずだった…
浪人しても、バレーへの未練はまったく消えていなかった。 中学生の時からずっと思い描いていた夢。理想の自分。
その夢と現実とのギャップは、19歳の俺を苦しめるには、十分すぎるものだった。
今思えば、少し甘えていたような気もするが、
夢を失うっていうのは、本当に「つらい」の一言では片付けられない。
浪人して、夏が過ぎ、秋が終わり、あっという間に冬が来た。
さすがの俺も「今度こそは」と思っていた1月のこと。
センター試験を一週間後に控え、世の中は受験に関係ない人達でさえも、
なんとなく「受験ムード」に包まれ始める。 そんな折、俺の家の近所の体育館で「あれ」をやっているという事を耳にする。
春高バレーの決勝だった。
俺がずっとずっと追い求めていた、夢の舞台。
その年は、なぜだか知らないが埼玉の片田舎の体育館で春高の決勝が行われており、
俺の家からすぐに行ける場所だった。
俺は行こうか行かまいか、心底悩んだ。 センター試験は一週間後。
世間の受験生は今頃死ぬほど追い込みをかけている…
それまで受験のために、バレー関係の事は全て意図的に避けていたのだが…
もう、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
俺の見れなかった夢舞台、見に行こうじゃないか!
内心、罪悪感や焦る気持ちもあったが、
久しぶりに「あの空気」を感じられると思うと、嘘のようにワクワクしている自分がいた。 ということで、今日は一旦ここまでにします。
見てくれた人ありがとう
続きは明日の夜書きに来ます。 こんばんはー
昨日の続きを書いていこうと思います。 体育館に着いてみると、中は満員だった。
中学の時にも一度春高の決勝は見に行ったことがあったが、
その時以上に混んでいた。
注目の対戦カードは、S高校-O高校。
注目の大エース擁する優勝候補のSと、変幻自在のOがどんな戦いをするのか。
俺はこの決勝に、本当にワクワクしていた。
応援の歓声も、会場の熱気も、とても真冬とは思えない。
ああ、これだ!この感覚!と笑顔になるのを抑えきれなかった。 試合はやはりS高有利に進んでいく。
両者の高校も、バシン!と決めて一点入るたびに、
ワッ!と歓声が起きて、「ドドドドドン!」と応援の地響きが湧き上がる。
俺も一緒に「オッケーー!」と叫んでしまう。
大エースを率いるS高に世間の注目が集まる中、俺は近くにいた高校生の会話が耳に入った。
「O高のレフトエース、身長175ないらしいよ」
「らしいねー。ほんと、どんだけ飛ぶんだって感じ」
「しかも2年生って、すごいよなぁ」 俺はこの会話に耳を疑った。
確かにコートを見てみれば、
オレンジコートで躍動するその姿は、どの選手よりも小柄に見えた。
でも、誰よりも高く飛んで、その小柄な体で大きなブロックを打ち抜いていく。
それも、春高バレーの決勝の舞台で。
彼が決めるたびに、チームが沸き立つ。風が吹く。走り回る。
俺は、この時見たO高校のエースの姿が、目に焼き付いて離れない。 それはまるで俺に、
「できないことなんて何もない。諦めなければ誰だって輝ける」
と言っているかのようだった。
試合も終盤に差し掛かれば、
1プレー1プレーに悲鳴のような歓声が湧き起こる。
最後はやっぱり、S高の大エースのサーブで決まり、S高校は優勝した。 オレンジコートの真ん中で、感極まって抱き合うS高校に、
がっくりとうなだれ、コートの外に並んでそれを見つめるO高校。
まさに明と暗。しかし、負けてもなお表情を崩さず、凛と相手の栄誉を称えるように、
コートの外に佇むその姿は、美しささえあった。
俺は、強く憧れた。
優勝したS高校にも、散ってしまったがコートに沢山の風を吹かせたO高校にも。
俺は強く憧れ、もう戻れないバレーの日々を思い出した。 俺もあんな風に飛んでみたかった。
どうして俺は…こんな腰にならなければ!
そんなことを思ってしまった。
憧れの舞台で輝いていた彼らを見て、キラキラした感情が込み上げた裏で、
何もできない自分に対する絶望の念が、心にずっしりとのしかかった。
高く高く舞い上がって躍動していたO高校のエースの姿が、
俺の心に刻み込まれて、離れなくなった。 そして俺は、そんなバレーへの情念を忘れられないまま、
一週間後のセンター試験を迎え、案の定、失敗した。
その後の本試験も、そのまま上手くいかなかった。
自分でもバカだなって思う。
バレーを諦めて勉強に専念しているのに、その勉強すらおぼつかない。
俺は何にもなれない、なんて半端者なんだろうって、自分でも馬鹿らしかった。
そのまま義父に強く叱責を受けて、俺はそのまま2浪した。
自分の行く先も、将来も、何もかもが不透明なまま、
失った夢の幻影だけが心にずっしりと残って、
俺は再び浪人の一年を迎えたのだった。 義父も何かを感じ取ったのか、
さすがに新宿の予備校は負担が大きいだろうと言って、
2浪目からは、家の近所の予備校に通うこととなった。
だが俺の腐り加減は凄まじく、予備校に通うフリをして、
毎日公園に行ってぼーっとしたり、ゲーセンに一日中篭っていたりした。 時には、夜も友達の家に泊まると偽り、
秋葉のアニクラに行って朝まで騒いでいる、なんてこともあった。
バレーに夢中だった頃の自分なんてすっかり影を潜め、
もう本当に、ただの「ダメ人間」でしかなくなっていた。
それを自覚する度、昔の自分や、昔の仲間、美香のあの一言、そして、
春高のオレンジコートで羽ばたいていた、あの小さなエースの事を思い出した。 もう俺には何も出来ない。
あんな風に輝けることは、一生ない。
そんな気持ちだけが、いつも心にあった。
夏前になって、予備校に連絡を入れた義父によって、
俺が予備校をすっかりさぼっていることがバレて、本当にひどく怒られた。
そこで、義父から思いもよらない提案を受けた。 義父「お前は東京にいるから、勉強に散漫になるんだ」
義父「夏の間、田舎に行って勉強に集中してこい。俺の実家に泊まれるから」
それはまったく予期せぬことで、
俺はこの提案に驚いたが、自分でもちょうど東京から少し離れたいと思っていた。
全然知らないところに行って、少し何も考えない時間が欲しかった。
勉強するかは、別として。 >>69
堅い人ではあるけど、決して悪い人ではないんだ。
まあ、それでもやっぱり色々考えちゃうけどな 俺は義父の提案を受け入れて、2浪目の夏、
義父の故郷の田舎に行くこととなった。 そんなわけで、簡単な着替え一式と勉強道具を担いで
一路義父の故郷へと向かうことになった。
季節は7月も中盤。まさに、夏の始まりの頃だった。
新宿から慣れない特急列車に乗った。
高1の時、Vリーグの試合観戦のために一度だけ乗ったことのある特急だった。
そして揺られること1時間以上、幾つものトンネルを抜けて、
山あいの田舎に辿り着いた。 電車から降りると、けたたましいほどの蝉の声が俺を包んで、むわっと熱気を感じた。
でもそれは東京とは違って嫌な熱気ではなく、
どこか溌剌とした、爽やかな暑さだった。
小さな駅舎の古びた改札を抜けると、
目の前には信じられないほどひらけた景色が広がっていた。
少しだけ標高が高く、視界を遮るものが何もないから、遠くの山がよく見える。
山と青空の境目がくっきりと浮き立っていて、遠くには麓の市街地が見えた。 山側を振り返ると、畑のようなものが斜面にいくつも広がっていて、
これが教科書で見た「扇状地」ってやつなのかも、って思った。
そこら中を沢山の緑や畑が埋め尽くしていて、
「ああ、これは田舎だわな」とすぐに思った。
一体なんの畑なのか、木の棒が打ち付けられた畑が沢山並んでいる。
よく見れば房のようなものがぶら下がっていて、ぶどう畑か何かなのかな、と思った。 駅に面した道はそれなりの大きさだけど、
ぐらぐらと陽炎で揺れていて、滅多に車が通る様子もない。
道沿いには軽トラが止められていて、
近所のおばさんたちが世間話をしている。
なんてのんきな所なのか。
生まれてからずっと東京で過ごしてきた俺にとっては、
「本当にこんなところもあるんだな」と太陽の熱射線に朦朧としながら思った。 義父からもらった地図を頼りに、駅前の道を右に進んで、
線路沿いの坂道をずっと登って行く。
坂道には木漏れ日がちらちらと差し込み、蝉しぐれが降り注いだ。
暑くて暑くて、もうダメだ、なんて思っていると突き当りにタバコ屋があって、
そこを右にまがって線路を越えると、義父の実家があった。 今日は一旦ここまでとします。
続きもまた明日書きに来ます
それでは〜 こんばんは
今夜も続きを書いていきたいと思います。 >>89
確かにそうだね
でも、あえてそうしてる部分もあるんだ
後々、わかるかもしれない 「○○書道教室」と小さな看板が掲げられていて、入り口が二つあった。
「書道教室ってことはここだな…」と思いつつ、
なかなか家に入れずその場で立っていた。
わきにまた木の杭の打たれた畑があって、
「ここにもあるよ」と思ってまじまじと眺めた。
やっぱり実っているのはぶどうで、この家でもぶどう作ってるのかな、
なんて余計な事を考えていた。 そんな風にして数分家の前で立っていると、
ガシャン、と自転車を降りる音が聞こえた。
振り返ると、大きなエナメルのバッグを背負った制服の女の子が立っていて、
そわそわした様子で俺を見ていた。
俺は焦ってすぐさま「こんにちは、」と言うと、
女の子も「どうも…」と小さく会釈をした。
炎天下の中自転車をずっと漕いできたのか、顔は真っ赤だった。 そのまま家の横の水道の近くに自転車を置くと、ぱたぱたと家の中に入って行き、
「お母さん、来てるよー!」と声を上げた。
俺は瞬時に、「行かなきゃ」と思って、続けざますぐに家に入った。
家の中にはおばさんがいて、
「はじめまして、1君来てたんだね」と俺に挨拶してくれた。
「聞いてはいたけど、やっぱり背が大きいね」
ちなみにおばさんは義父の弟の嫁さんに当たる。
俺も初対面で緊張していたが、ここに来るまでに何度か電話で話した事はあった。 俺が、「お世話になります」と言うと、優しく笑って
「1君の部屋は2階のあいてるとこだから。荷物、入れちゃってね」と言ってくれた。
そのあとすぐに、おばさんが
「奈央!ローファーのかかと踏んじゃダメだっていつも言ってるでしょ!」
と声をあげると、2階から
「うるさいなぁ!分かったよ!」という女の子の声が返ってきた。
そこには確かに、かかとを踏み潰されたローファーが転がっていて、
俺はそのやりとりが微笑ましくて、思わず笑ってしまった。 自分の荷物を2階の部屋に入れ、1階のリビング(と言っても、畳張りなのだが)へ降りると、
台所から出てきたおばさんにすぐに声をかけられた。
おばさん「悪いじゃんね、奈央がうるさいと思うけど、許してあげて」
俺はすぐにあの子の事だな、と察して、
「いえいえ、全然大丈夫ですよw」と答えた。
俺「奈央ちゃんは、今何年生なんですか?」
おばさん「高3だよ、だから受験なの〜」
俺「え、そうなんですか」
俺は自分と2つしか歳が変わらない事に驚いた。 おばさん「全然勉強する気がないから、困るじゃんねー、1君勉強教えてあげてw」
そう言われて俺は、「それはさすがにw」と苦笑してしまった。
おばさん「ここまで来るの、迷わなかった?」
俺「あ、それが。案外すんんり来れましたね」
俺がそう言うと、おばさんは「わ、それはすごい」と驚いた様子だった。
おばさん「そうそう、スイカがあるんだった。切ってあげるから、1君食べなよ」
俺「え、そんな、悪いですよ」
おばさん「いいのいいの。暑い中歩いてきて、喉も渇いたでしょう」
おばさん「今、冷たい麦茶とスイカ出すからね。待ってて」
ぱたぱたと支度を始めるおばさんを前に、俺も言葉に甘えてしまう。 遠慮しつつも、炎天下の中を歩いてきてとても疲れていたから、
冷たい麦茶にスイカ、考えただけでワクワクしてしまった。
おばさん「奈央ー!スイカ切ったげるから、1君と一緒に食べたらー!」
おばさんが、階段下から2階に向かって呼びかける。
だけど反応はなく、奈央が下に降りてくる様子はない。
おばさん「うーん、あの調子じゃ、来ないかも」
俺の方を見て申し訳無さそうに苦笑いするおばさんを見て、俺は答える。
俺「いや、それは仕方ないですよ。こっちも突然押しかけて、申し訳ないです」 おばさん「いや、全然そんなことはないんだけどw」
おばさん「あの子、人見知りだから。慣れるまで、ちょーっと時間かかるかもね」
おばさんはそう言い残して、いそいそと台所へと入っていった。
しばらくすると、俺の期待通りのスイカと、氷がごろごろと入ったグラスに麦茶が出てきて、
思わず「うわ、すごい!」と口をついて出てしまった。
「いただきます」と言ってスイカを頬張ると、
まだ少し早い、夏の入り口をかじったような気がして、
受験勉強をしに来たというのに、心が躍った。 おばさん「ごめんね、こんなスイカしかなくてさ」
おばさん「夜は、もうちょっとちゃんとするからね」
俺「いや、とんでもないですよ。スイカ、久しぶりに食べました」
俺「こんなに、美味しかったんですね」
俺が感激してそう言うと、
おばさんは少し笑って「それならよかった」と安堵の表情を浮かべた。 そんな風にして、俺はスイカを食べながらテレビで昼過ぎのワイドショーなんかを見て、
まだ始まったばかりのゆったりとした夏の時間を過ごしていた。
すると、ぱたぱたぱた、と慌ただしい音が聴こえてきて、玄関の方から声がした。
奈央「お母さーん!ちょっと、出かけてくるからね」
おばさん「あら、どこ行くの」
奈央「ちょっと友達と勉強しに行ってくる」
おばさん「勉強なんて、家でもできるのに」
奈央「家じゃ集中できないの!」
俺はもう食べきったスイカを眺めながら、ぽかーんとその会話に耳を傾けていた。 奈央「じゃあね!」
おばさん「ちょっと奈央、夕飯はどうするの」
奈央「多分夕方には帰ってくるから、食べる!」
おばさん「気をつけて行くのよ!」
そして、バタン!と音がすると、窓の外でガシャ、と自転車を出す音が聞こえて、
奈央は勢い良く出かけていった。
俺は一連のその様子を見て、このクソ暑いのに元気だなーなんて思っていた。
「ごちそうさまでした」と言いながらスイカの器を台所まで運んでいき、
「あら、そのままで良かったのに」なんて言われながら「いえ」と会釈して、
再び自室である2階の部屋に戻った。 畳六畳ほどはあろうかという部屋に、整然とたたまれた布団が置いてあって、
その脇には小さな机が置かれていた。
扇風機なんかもおいてあって、窓からは山あいの緑の景色と青空が広がっていた。
扇風機のスイッチを入れて、心地良い風を浴びながらその景色を眺めると、
「夢みたいなところに来ちゃったなぁ」と思った。
おまけに、窓際に吊るされたくすんだ風鈴の「チリン」という音が、
その夢見心地になおさら拍車をかけるようだった。 あんまりに気持ちいいものだから、
俺はそのまま畳まれていた布団にもたれかかって横になった。
でも、こんな状況になっても浮かんでくるのはやっぱりバレーのことだった。
半分眠りに落ちていくフワフワとした頭のなかで、
コートを駆け巡ったあの日の光景とか、美香に言われたあの一言とか、
春高の決勝で羽ばたいていたあのエースのこととか、
色んな記憶が頭をよぎった。 そんな事を考えているうちに、俺はすっかり眠ってしまって、
目が覚めるとすっかり外は夕方の光景に様変わりしていた。
さっきまでの真っ白な陽の光ではなく、景色は若干オレンジがかっていた。
体中汗だくになっていて、俺はリュックに入っていた生ぬるい水を飲んだ。
そんな風にしてぼーっとしていると、窓から風が入ってきて風鈴が音を立てる。
ああ、やっぱり夢じゃなかったのか、なんてぼんやりと考えていると、
何やら「バン、バン」とボールを弾く音が外から聴こえた。 「なんだなんだ」と不思議に思って、窓から外を眺めてみても、
その音の正体は掴めなかった。
俺は仕方なく、起き抜けの怠い体で1階に降りていき、玄関から外へ出た。
夕方とはいえ、外に出ると熱気が一気に押し寄せてきて、心が折れそうだった。
とても近くで、ジワジワジワジワ…と蝉が鳴く声が聞こえた。
家のもう一つのドア(書道教室側)の前には沢山の自転車が止まっていて、
どうやら書道教室の時間になっていたらしい。
おばあちゃん、義父の母にあたる人がここで書道教室をしている、
というのは話に聞いていた。 もしかしたら、さっきの音はこの教室からだったのか?なんて思ったけど、
家の裏の方から「ばん!」とボールを叩く音が聞こえて、
俺はすぐに家の裏へと回った。
俺「あ……」
奈央「あ、どうも…」
そこには、家の裏手の斜面に向かって壁打ちをしている奈央がいた。
しかも、持っているボールは紛れもなくバレーボールだった。
俺はそれに気付いて、瞬時にドキッとしてしまった。 俺「練習…かな?バレーするんだね」
奈央「ええ…まあ」
奈央はそう言うと、軽く頷いて再び壁打ちを始めた。
俺「3年生って聞いたけど、部活はまだ引退じゃないんだ」
奈央「…はい。最後の試合がまだあるんで」
練習の邪魔をされたくない、とでも言わんばかりに、
奈央は俺の質問に淡々と答えた。 俺「バレーって、楽しいよね」
俺のその一言にはっとしたように、奈央はこちらを見た。
奈央「え、バレーやってたんですか?」
俺「うん、ずっとやってたよ。すっごい好きだった」
奈央「そうなんですか…!そういえば、東京って…どんな高校だったんですか?」
先ほどまでの平板な顔色が一変して、奈央の表情が笑顔に変わっていた。
俺はそれに気付いて少し嬉しくなりながら、会話を続けた。
俺「うーん…まあまあ強かったかなぁ…○○高校っていう…」
奈央「あ、なんか聞いたことあります」
俺「そっか、それは嬉しいな」 ジワジワジワ…という蝉の声が俺たちを包んで、少しだけ空間が間延びした。
奈央は、一心に壁打ちを続けた。
奈央「じゃあ…その、けっこう本気でやってたんですか」
俺「ん…まあね。春高出場とか、もっと言えば優勝とか…考えてたな」
奈央「すごい…え、でも。もうバレーは…?」
奈央の質問にちょっとだけドキッとしたものの、俺は続けた。
俺「まあ、色々あって…やめちゃったんだよね」
奈央「そうなんですか…」
俺「ん、まあね」 時たま吹き抜ける風が、木々のさざめきと共に少しだけ涼しさを運んでくれた。
家の表の方から、書道の帰りなのか子供たちのはしゃぐ声が聞こえた。
奈央「あの…」
俺「どうしたの?」
奈央「もし良かったら…ちょっとだけ対人、付き合ってもらえませんか」
奈央「壁打ちだけだと…やっぱりあれで」
俺「ああ…いいよ、全然オッケ」
対人というのは、バレーの基礎練の一つだ。
二人で向い合って、ボールをパスしあう。 奈央「いきます」
俺「よし、来い!」
奈央がボールを掲げ、俺の方に打ち込んでくる。
俺「お、なかなかイイ球打つね」
俺がレシーブを上げると、そのまま奈央からトスが返ってくる。
俺は「いくよ」と言ってそのままボールを打ち放つ。
バシン、と手のひらにミートして、気持よく奈央の元にボールが向かう。
久々にボールに触ったけれど、そこまで感覚は鈍っていないようだった。 奈央が、「はい!」と言ってレシーブをする。
ふわりと浮かんできたボールを、俺は両の手でキャッチし優しくトスを返す。
瞬間、少しだけ陰っていた空からにわかに光が溢れて、構える奈央を照らした。
俺は動揺して、打ち込まれたボールのレシーブを失敗した。
奈央「あ、ごめんなさい…」
俺「いや、今のは捕れた…こっちがごめん」
夏の夕暮れに、こうして対人をする…
俺は、大事な事を思い出していた。 中学の頃、体育館が満足に使えず、こうしてよく外で対人をすることがあった。
バレーを始めたばかりで、上手くなっていくのが本当に楽しかった。
夕暮れから、真っ暗になってボールが見えなくなるまで、仲間と無心にボールを追いかけまわした。
あれは、なんだっけ。夏の総体の前で、みんな燃えていたんだっけ。
奈央「どうかしました…?」
俺「あ、ごめん。なんでもない」
考え事にふけってしまったせいで、奈央が心配そうにこちらを見ていた。 奈央「たまに、上手く打てないことがあるんですよね…」
俺「ああ、強く打ち込もうとか、叩きつけるとか考えないほうがいいよ」
奈央「あ、はい!」
俺「手のひらでボールをしっかり捉えれば、力む必要はないから」
奈央「…なるほど。もう一回いいですか?」
俺「うん、全然いいよ」
この子、案外一生懸命なんだなぁって、
俺は思わず笑ってしまいそうだった。 すみませんが、今日は一旦ここまでにします
見てくれている人、ありがとう!
また明日来ますー 奈央「…あの」
奈央がボールを追いかけながら、俺に質問してくる。
俺「…うん、何?」
奈央「ポジションはどこだったんですか」
俺「俺は、レフト。一応、エースだったんだよね…」
奈央は「へー…」と言いながら夢中でボールを追いかけていた。
俺「じゃあ、奈央…さんは?」
奈央「私も…レフトで、一応エース…」
俺「お、すごいね!」
奈央「いや、全然そんなんじゃないです…」
俺の言葉を聞いて、奈央は表情を曇らせた。
何か、まずいことでも言ったんだろうか。
こうして、しばらく二人で対人を続けた。 奈央「あの、少し休憩しませんか」
奈央はそう言うと、家の表の方へと駆けて行った。
玄関の脇に水道があって、勢い良く蛇口をひねって水を飲み始めた。
水道の下にはバケツに入ったキュウリの束が置かれていた。
奈央「おばあちゃんかな、こんなとこにおいて」
奈央「いいや、水入れといちゃえ」 そう言って、バケツにじゃばじゃばと水を入れていく。
青々としたキュウリの群れが、気持ちよさそうに、
ぷかぷかと水の中に浸っていく。
奈央「どうせだから、水もあげちゃうか」
続けざまに、近くにあったひなびたジョウロに水を入れていく。
そして玄関付近の花壇に、ばーっと、何というか大雑把に、水を蒔いていく。
奈央「うん、これでいいかな」
そう言うと、奈央は少しだけ笑みを見せた。
俺はその様子を見て、少し感心して聞いてみた。 俺「この黄色い花、なんていうの?」
奈央「えっと……確か、マリーゴールド、だったかな」
俺「そうなんだ。綺麗だね、なんか夏っぽくて」
奈央「確かに、この燃えてるみたいな色、いいですね」
奈央「個人的には、ひまわりのが好きだけど…」
俺「あ、そうなんだw」
夏の明るい夕日を浴びて、花壇の花達は元気に揺られていた。 そんなやりとりをして、また少し沈黙になりそうな時だった。
奈央「はーあ、もう少しで部活も終わっちゃうなぁ…」
奈央がため息を漏らすように、口にした。
俺「あー、確かに。でも、もう総体とかは終わった時期…だよね?」
奈央「そうですね…総体は負けちゃいました」
俺「大会って言ってたけど、何の大会?」
奈央「地区の、夏季大会です。ちっちゃいですけど…どうしても勝ちたくて」
奈央「最後に、みんなで何かを成し遂げたいなって……」
座り込んで、愛おしそうにボールを眺める奈央に、俺ははっとさせられた。 俺「奈央さんは…バレーがすごい好きなんだね」
奈央「はい、好きです!…できたら、ずっとみんなでバレーしていたいです」
照れ隠しなのか、奈央はちょっと苦笑いだった。
奈央「1さんは、バレーやめちゃったって言ってましたけど…」
奈央「大学に行ったら、きっと続けるんですよね」
奈央「きっと、上手いだろうし」 「あ……」
瞬間、言葉が詰まって何も言えなくなる。
奈央の言葉が俺の胸に突き刺さって、じんじんと痛みを感じるくらいだった。
どうしよう、なんて答えればいいのだろうか。
俺「もう、バレーはやめたって言ったじゃん」
奈央「え…?」
俺「ごめん、俺先に家の中に戻ってるね。」
戸惑う奈央をよそに、俺は急いで家の中へ戻って2階へと駆け上がった。 俺は、何をやってるんだ。
明らかに不機嫌な態度をとってしまった。
奈央は別に何も悪くないのに。
俺はただ、奈央が羨ましかった。羨ましくて、悔しかった。 屈託なく「バレーが好きです」と言い切れる奈央が、羨ましかった。
俺にとってバレーは「好きだった」ものに成り果てていたから、
今を楽しくバレーができる奈央が、羨ましくて、一緒に居られなかった。
そして相変わらず、腰からはあの鈍い痛みを感じた。
たった一瞬、奈央と対人をしただけだったのに。
部屋に戻ってからも、奈央のバン、バン、という壁打ちの音はしばらく聞こえた。
俺はその後、夕飯の時間まで部屋に篭って勉強に没頭した。
奈央についてしまった悪態も、バレーのことも、これからの事も、何もかも忘れたかった。 すみませんが、今日は一旦ここまでにしますー
また明日書きに来ます。
それでは おばさん「1君、夕飯できたよー」
気づくと、1階から自分を呼ぶ声が聞こえた。
「はーい」と生返事をしつつ1階の居間に降りると、
おじいちゃん、おばあちゃん、おじさん(義父の弟)、奈央がテーブルを囲っていた。
俺は身構えて再び自己紹介をして、食卓についた。
おばさんが台所から出てきて、「とってもいい子だよ」と言って笑った。 おばあちゃんはにこにこして「よく来たじゃんねぇ」と喜んでくれた。
おじいちゃんはあまり表情を崩さず、少し怖い印象を受けた。
そして、おじさんはビールを飲みながら
「まあ何もない田舎だけど、ゆっくりしてけしw」と笑っていた。
義父の堅い印象とは裏腹に、とても温和そうな人に見えた。
なんでも、地元の農協で働いているのだとか。 奈央はテーブルの向こうに座っていて、力なく笑っていた。
さっきはもっとハキハキした子に見えたけど、家族の前だとやはり恥ずかしいのだろうか、
それとも、俺の最後の態度にひっかかる所があったからだろうか…
どうしようか、奈央にいつ謝ろうか、そんな事を考えているうちに、
目の前には沢山の料理が出てきた。
初日の料理は印象的で、おばさんが張り切ったせいなのか、
豚の生姜焼きに、そうめんに、外で冷やしてあっただろうキュウリの浅漬やトマトなど、
夏っぽいメニューがわんさか出てきて、それはもう食べ切れなかった。 おばさん「奈央、1君とは話した?」
奈央「え、うん…ちょっと」
おばさん「そう、それならよかったw」
奈央はいかにも気まずい、という感じで下を向いてしまった。
おじさん「奈央も見習って勉強しっかりやらんとだめだぞ」
奈央「わ、わかってるよ、そんなこと」
おじさん「信用出来ないな〜w」
どうやらおじさんは、少し酒に酔っているようだったw
みんなでテレビを見て元気に笑いながら夕飯は進み、
夏の宵闇の時間が過ぎていった。 夕飯が終わるとおばさんが片付けを始めたので、
俺も率先して洗いものを手伝ったりした。
奈央に一言声をかけようと思ったものの、
ご飯が終わるとすぐに部屋に戻ってしまった。
ふと、縁側で食後の一服をしていたおじさんに呼ばれた。
おじさん「1君、こっち来おし」
俺「あ、はい」
縁側に座ると、外の青臭い夏の匂いを感じた。
わずかに、「リリリリ…」という虫の声も聞こえた。
空には、微かに星が光っていて、俺は「はー…」と唸ってそれらを眺めた。 おじさん「どうでこっちは?すごい田舎でしょw」
俺「ああ…そうですね。色々初めてです、こういうの…でも、いい感じですね」
おじさん「それはよかったw」
おじさん「でもなんだか不思議なもんだよねぇ」
おじさんは、そう言ってゆっくりと煙を吐き出す。
俺が「何がですか」と聞き返す前に、おじさんは続けた。
おじさん「1君は、今いくつ?酒は飲めんのけ」
俺「あ、20歳なので…たまには飲んだりも」
おじさん「それはいいなw」
おじさんは嬉しそうにおばさんを呼んだ。
おじさん「母さん、ちょっと瓶持って来てよ!あとグラス2つね」 家の奥から「もー、はいはい」という声が聞こえて、
俺とおじさんの間に、冷えた瓶ビールとグラスが置かれた。
おばさん「1君は勉強しに来たんだからー…あんまり変なことさせちょし」
そう言われて、おじさんは「わーかってる!少しだけだから!」と苦笑いした。
こうして見ているとおじさんはまるで小学生のように楽しい人で、(酔っているのもあるが)
あの義父の弟さんには、やっぱり見えなかった。
そして独特の方言も、なんだか俺には心地がよかった。 おじさん「ほらほら」
おじさんが楽しそうに俺の持ったグラスにビールを並々と注いでいく。
もう大丈夫ですwと言ってもおじさんは子供のように「まだまだ」と言って聞かなかった。
おじさん「じゃ、乾杯だな」
そう言われて、カチンとグラスを突き合わせた。
夏の夜風に混じって「リーーン」と虫の声が聞こえる中で飲むビールはやっぱり美味しくて、
思わず二人で「かぁー!」とうなってしまった。
しばらくおじさんは、黙って煙草を吸い続けた。
途中、「吸うけ?」と言われたが、俺はそれとなく断った。 このスレッドは1000を超えました。
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