カットオフ周波数が等しい 6 dB/oct. の LPF 出力と HPF 出力は
位相が互いに常に 90 度ずれており、加算すると理論上伝達関数は1、
すなわち完全に元の波形に戻り、振幅特性も位相特性もフラットとなる。
このためホームオーディオでも分割回路にこのような構成をとる自作派がいるが、
メーカー製品に用いられることはほとんどない。
理由は 6 dB/oct. ではスロープが緩すぎるからで、
音圧一定のスピーカーの振動板振幅は -12 dB/oct. で低域になるほど大きくなるので、
たとえばツィーターを 10 kHz の HPF でカットしても、
9 kHz, 8 kHz, 7 kHz, ... と周波数が下がるにつれ帯域外なのに振動板振幅が増大し、
見るからに面白くないし最大入力の面でも不利だ。
そこで 12 dB/oct. で同じことをすると、
LPF 出力と HPF 出力の位相は互いに常に 180 度ずれており(常に逆相)、
カットオフ周波数で両者の振幅が等しくなるので、
つまり加算するとカットオフ周波数で音が出なくなってしまう。
それでは困るので、どちらか一方、
たとえば HPF 側の位相を反転して加算すれば今度は互いに常に同相となり、
カットオフ周波数で -6 dB となるようにしておけば (Q=0.5)
合成振幅は周波数によらず一定となる。
合成位相は 0 度から 180 度までぐるりと回転することになるが耳ではわからないので、
このような構成が広く用いられている。
しかしもし 12 dB/oct. で LPF, BPF, HPF の3つの出力を加算できれば、
理論上伝達関数は1、すなわち 6 dB/oct. の場合と同様に完全に元の波形を復元できる。
たとえば 1 kHz に対してウーハー、ミッド、ツィーターの3つのユニットを用い、
ウーハーとツィーターの正相接続でできる 1 kHz のディップをミッドで完全に補正できる。
しかしよく考えてみると、逆相接続すればウーハーとツィーターの2つで済むものを
位相を合わせるためだけにもう1つユニットを使い、
しかもウーハーとツィーターの帯域は同じだけ必要ということで、
いかにも金をドブに捨てることになり、ほとんど用いられない。