薬師寺側は冷静ですべて計算尽くしだった。
マックは相手選手のみならず、トレーナーの性格まで調べあげていた。
ボクシングはあくまで陣営対陣営の総力戦と捉えており、愚直に相手陣営を翻弄し続けた。
薬師寺はそんなマックの戦略を理解していたので冷静に舌戦に参加していた。
マックの描いた作戦計画は見事にはまり、辰吉サイドは大久保トレーナーを筆頭に本能むき出しで舌戦に対抗し、もはや勝負はボクシングなのか舌戦なのか分からないほどにチームワークをかき乱れていた。
一方、薬師寺サイドは勝負はあくまで試合であり舌戦は相手を翻弄する手段に過ぎないと完全に線引きしていた。

両者の入場シーンでこのことが顕著に表れる。
先に入場していた辰吉は薬師寺が入場してきてリング上でダンスを踊っている間、舌戦で予告していた通りムキになってモンキー拍手をしまくったが、
一方の薬師寺はそこに辰吉など存在していないかのように余裕しゃくしゃくでダンスしていた。