世界謀略白書 丸谷元人 ダイレクト出版政経部門発行

第1章 世界の現実を忘れてしまった日本人

P15 ■謀略アレルギーに陥っている日本人
理由はあとでお話しますが、北方領土にしろ、竹島や尖閣諸島にしろ、これらの問題の背後にアメリカがいたというのは、間違いのない歴史的事実です。
私がそのことを説明すると、たとえ高名な方であっても、「じゃあ、アメリカというのは悪い国じゃないか!」と反応する日本人は多いものです。

しかし、これは「良い悪い」という観点で括れる話ではないのです。
戦後のアメリカの帝国主義的な世界支配というのは、まさにこういうものだからです。

仮に、日本が第二次大戦で負けず、アジアを中心に巨大な帝国を築いていたとしたら、そんな帝国の権力と自国の国益を守るために、
今まさにアメリカと同じようなことをやっていたかもしれないのです。
「本は絶対にそんなことをしない」とは、とても言い切れません。

実際に、戦国時代の武将などは、みな同じようなことをやっていました。
日本でも、かつては謀略やスパイ活動は日常茶飯事だったのです。
問題は、われわれがこうした「謀略」というものの存在を忘れてしまったということ。

あまりに平和ボケしてしまったので、そういう情報を聞いても受け付けられず、感情的に反応し、見ないようにしてしまうのですね。
そんな心優しい日本の人々をなだめるために、メディアはいろんな情報をオブラートに包んで発信してくれます。
われわれはそれを聞いて、「今日も世の中は平和だ」「少なくとも日本は平和だ」と安心しているのです。
でもそれは、砂漠にいるラクダと同じじゃないかと私は思います。

ラクダは、砂漠を歩いているときに毒を持ったサソリが目の前にあらわれると、砂のなかに頭を突っ込んでしまうそうです。
怖いから見ないようにして、目の前の危機をなかったことにしてしまうのですね。
しかし、危機は引き続きまだそこにあるわけです。
日本人の平和ボケも、ラクダの平和主義と同じです。