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日本記録を打ち立てたあとの記者会見で田中は「レース前にトラブルがあって頭が真っ白になった」と明かした。そのトラブルとはシューズに関するもの。世界陸連により先月、800メートル以上のトラックレースでは靴底は厚さ2・5センチ以内と新たな基準が設けられた。田中の所属チームはそれに合わせたシューズを用意していたはずだったが、レースの約25分前、選手招集が始まった段階になり、新基準に適していないとの指摘を受けた。

スタート直前に発生した緊急事態。チームメートは競技場に持ち込んでいた別の靴に履き替えるなどして対応したが、あいにく田中の予備シューズは競技場近くの宿舎に置いてあった。健智コーチは大急ぎでそれを求め、競技場とホテル間を「往復10分」で疾走。現役時代は長距離走者だった健脚を発揮し、時間までにバトンならぬシューズをしっかりと娘に手渡した。そのスパイクを履いた田中は「無心」で駆け抜け、14年ぶりの日本記録を樹立した。