●高校ではクロスカントリーの練習が多かった萩谷

 萩谷もクロスカントリーの難しさを昨年の3位のときに感じたが、その一方で別の思いも持っている。昨年のトラックで田中に負け続けた経験から、思い切ったスパートを仕掛けることも考えているのだ。
 昨年7〜8月に萩谷は、3000m、5000m、1500mと自己新を連発した。その全てのレースで田中の後ろを走ったが、最後まで前に出ることができず勝負には敗れている。田中は先頭を引っ張っても、最後に(あるいは中盤に)切り換えてペースを上げられる選手なのだ。普通に勝負をしようとしても勝てないことは、経験上わかっている。
 昨年の今大会で敗れたが、この1年間の実績を見たら萩谷は大きく成長している。本人も上りが得意とコメントしたが、母校の長野東高はクロスカントリーの練習を積極的に行っていた。
 長野東高は萩谷が3年時に全国高校駅伝で2位になるなど、駅伝の強豪校で、和田や萩谷、細田あい(ダイハツ・25)など卒業生が活躍している。長野東高を長年指導した玉城良二現日体大監督は、「練習のほとんどが河川敷のクロカンコースで行っていた」と話している。
 萩谷は会見で、レース展開について次のようにもコメントした。
「今回は周りの人のレース展開を考えるより、自分自身にチャレンジしていきたい。いつも田中さんの後ろを走って、最後も離される展開が多いので、途中で前に出られることができれば、今後につながると思っています」
 萩谷が自身の殻を破るために、思い切ったスパートをするかもしれない。
 会見では慎重なコメントが多かった田中も、展望記事3で紹介したように、以前の取材では「スタート後に様子を見ながらになりますが、こうしたい、という何かが出てきたら実行に移したい」と話していた。田中のこの1年間の充実を考えれば、例年と同じペースが遅いと感じる可能性は想像できる。
 クロスカントリー攻略の難しさを2人の成長が上回れば、今年の日本選手権クロスカントリーは例年以上の激しいレースになる。