夏の甲子園が佳境を迎えている。

 今年で100回目を数える夏の風物詩は、酷暑の中で連日好ゲームを見せてくれている。プロ注目の選手たちをはじめとした高校球児の一生懸命な姿は、見ているこちらの気持ちも熱くさせてくれる。

 その一方で、毎年この時期、高校野球で報じられる“ある数字”を見て心を痛めている人たちもいる。

 それが全国の陸上競技関係者の面々だ。

ほぼありえない眉唾ものの記録
「50m5秒7の俊足」

「俊足巧打の1番打者で、50mは5秒8――」

 甲子園の結果を報じる新聞やテレビのニュースでは、今年もこんな言葉が躍っている。

 野球における選手の走力の高さを示すのに、読者が身近にイメージしやすい50mの記録というのはわかりやすい指標なのだろう。誰もが学生時代に体力テストで測定経験があるし、記録のインパクトも伝わりやすい。

 だが、実はこれらのタイム、ちょっと眉唾ものの記録なのだ。

 50m走の日本記録は、100mでも日本歴代4位となる10秒02の記録がある朝原宣治が持つ5秒75。世界記録保持者のウサイン・ボルトでさえ5秒47だ。つまり、毎年甲子園には日本記録を上回る選手が何人も出場しているということになる。

「野球選手がみんな申告通りのタイムを競技場で出せたら、100mで日本人が9秒台を出すのにこんなに時間がかかっていませんよ(笑)。俊足のひとつの基準なんだろうけど、陸上選手と比べるなら測定の方法や気象条件くらいはしっかり書いてほしいよねぇ」

 そんなぼやきをこぼす陸上関係者が多いように、結論から言えばこれらの記録は陸上競技で採用される正式な測定方法では、ほぼありえないと言っていい。