本作が奥底に秘めたメッセージは「災害への警告という”想い”を後世に伝えるためには、形を残すだけではなく、語り伝えることが必要」ということ。

繭五郎の大火によって伝承の意味は失われて形だけが残ったと、観客は錯覚している。
しかし、最も重要な「時間は戻りまた繋がる」という意味は、一葉が語り伝えている。
※重要な言い伝えだが、宮崎アニメ(カリオストロ・ナウシカ・ラピュタ)のように「代々伝わる言葉だ」と前面に押し出してはいない。
※むしろ、奇術師が右手で物を投げる仕草に観客の注意をひきつけて左手でタネを準備するように、巧みに観客の注意をそらす演出なのが新海監督の腕だろう。

「ここより下に家を建てるな」という石碑に込めた先祖の想いが伝わらずに形だけが残り、低い土地に家を建てた人達は津波の犠牲になった。
一方で「先祖が警告してるから低い所に家を建てるのはやめよう」と想いを語り伝えてきた人たちは助かった。
「時間は戻りまた繋がる」という意味を後世に残すべく語り伝えてきた先祖の想いによって、瀧は三葉を救うことができた。

だから災害を語り伝えることが大事なんだよ…などと説教臭くないのが、この作品の魅力でもある。
このメッセージに気づかなくとも、エンタメ作品として充分に楽しめる。
しかし大勢の観客がこのメッセージを無意識にでも受け取ったからこそ、心を震わせこれほどの大ヒットに至ったのだと思う。