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【テレ朝】林美沙希part14【Jチャンあいつ今麻雀LOVE】 [無断転載禁止] [無断転載禁止]©2ch.net
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0001名無しがお伝えします
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2017/07/26(水) 01:12:46.82ID:CpBW4+fF
【テレ朝】林美沙希part14【Jチャンあいつ今麻雀LOVE】 [無断転載禁止]


テレビ朝日アナウンサー・林美沙希(はやし・みさき)さんを応援するスレッドです


■前スレ
【Jチャンあいつ今】林美沙希☆テレ朝part13【麻雀LOVE】
http://itest.2ch.net/test/read.cgi/ana/1498317668/

■プロフィール
http://www.tv-asahi....n/hayashi/index.html
生年月日: 1990年5月2日
出身地 : 愛知県
学 歴 : 愛知淑徳高校→明治大学情報コミュニケーション学部卒
入 社 : 2013年

■林アナ専用リンク
https://www.facebook...om/misaki.hayashi01/
https://www.instagra....com/misaki0hayashi/

■担当番組
スーパーJチャンネル
http://www.tv-asahi.co.jp/super-j/
あいつ今何してる?
http://www.tv-asahi.co.jp/aitsuima/
サンデーステーション
http://www.tv-asahi.co.jp/sun-st/

■学生時代の記事
http://www.meiji.ac.jp/koho/m-style/6t5h7p00000bj3lh-att/025.pdf
http://www.meiji.ac.jp/koho/m-style/misakihayashi/hayaship1.html

■その他
天使さん 
http://pbs.twimg.com/media/C0m2-lBUoAAUGaq.jpg
VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:----: EXT was configured 👀
Rock54: Caution(BBR-MD5:0be15ced7fbdb9fdb4d0ce1929c1b82f)
0077名無しがお伝えします
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2018/05/30(水) 18:51:40.59ID:/gbWe7FL
スーパーJチャンネル 生放送出演中
0078名無しがお伝えします
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2018/05/30(水) 23:03:59.26ID:wEFh7RV6
みさみさぺろぺろ(´・ω・`)
0079名無しがお伝えします
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2018/06/14(木) 23:03:02.52ID:iFyFU3kC
スーパーみさみさちゃんねる(´・ω・`)
0080名無しがお伝えします
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2018/07/01(日) 23:14:18.91ID:X8D38/S0
みさみさいい匂いしそう(´・ω・`)
0081名無しがお伝えします
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2018/07/25(水) 23:15:56.87ID:6cAJN7DE
みさみさんさん(´・ω・`)
0082名無しがお伝えします
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2018/08/06(月) 19:40:19.41ID:Gvb25ElI
みーさん(´・ω・`)
0083名無しがお伝えします
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2018/08/24(金) 19:28:24.99ID:2b+sBVjL
みさんがろく(´・ω・`)
0084名無しがお伝えします
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2018/09/02(日) 22:59:34.28ID:Sz8z5r2u
みさみさちゃんねるメインMCおめでとぅー(´・ω・`)
0085名無しがお伝えします
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2018/09/13(木) 22:55:04.54ID:xt2+SoYW
みさみさー(´・ω・`)
0086名無しがお伝えします
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2018/10/03(水) 23:06:58.23ID:+E2xrKFa
みさみさ綺麗(´・ω・`)
0087名無しがお伝えします
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2018/10/11(木) 23:11:07.31ID:FzbwyRsB
みさみさきゃわいい(´・ω・`)
0088名無しがお伝えします
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2018/10/15(月) 18:10:01.30ID:+D+uCEJp
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0089名無しがお伝えします
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2018/10/18(木) 22:54:10.26ID:5o+x6Ah1
みさみさドアップもきゃわわ(´・ω・`)
0090名無しがお伝えします
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2018/10/18(木) 23:26:15.77ID:6hzlnKN2
みさみさ可愛くない瞬間が無いみさみさ
(´・ω・`)
0091名無しがお伝えします
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2018/10/25(木) 23:16:59.36ID:Sbq+jRoB
みさみさ可憐だ〜(´・ω・`)
0093名無しがお伝えします
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2018/11/01(木) 18:00:35.38ID:djrkGKLF
ハロウィン騒動

スーパーJチャンネルにていろいろ放送中
0094名無しがお伝えします
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2018/11/01(木) 23:26:54.26ID:afO2d91Q
みさみさのコスプレ見たい(´・ω・`)
0095名無しがお伝えします
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2018/11/06(火) 18:20:41.34ID:PiSJC0QM
はやしみさき
0096名無しがお伝えします
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2018/11/06(火) 19:32:55.75ID:FopiPzKk
みさみさのオナニーみて見たい(´・ω・`)
0098名無しがお伝えします
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2018/11/12(月) 18:00:50.31ID:divFyYZk
スーパーJチャンネル  生放送出演中
0101名無しがお伝えします
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2018/11/15(木) 21:36:05.98ID:DxlGVDN8
(´・ω・`)もう、林美紗希ちゃんでいいから結婚したい
0102名無しがお伝えします
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2018/11/18(日) 23:01:37.04ID:4CA0tQto
みさみさのアナル舐めたい(´・ω・`)
0103名無しがお伝えします
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2018/11/20(火) 11:03:42.70ID:ny1dt6X3
(´・ω・`)もう、林美沙希ちゃんでいいから結婚したい。
0104名無しがお伝えします
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2018/11/20(火) 18:12:04.81ID:AnfCC9B+
スーパーJチャンネル  生放送出演中
0105名無しがお伝えします
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2018/11/22(木) 17:53:49.72ID:mAClzUKB
スーパーJチャンネル  生放送出演中
0107名無しがお伝えします
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2018/11/24(土) 23:19:25.70ID:PddPvF+J
みさみさのクリトリス舐めたい(´・ω・`)
0108名無しがお伝えします
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2018/12/05(水) 23:20:12.65ID:tk2Dxd2r
みさみさと突き合いたい(´・ω・`)
0110名無しがお伝えします
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2018/12/10(月) 19:00:42.29ID:JEAmWSXP
渡辺キャスターが「忘年会好き?」林アナ「人ぞれぞれ・・・苦笑」

スーパーJチャンネル 生放送出演中
0111名無しがお伝えします
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2018/12/13(木) 23:20:08.72ID:S7/TxZDl
みさみさのウンコなら食べれる(´・ω・`)
0112名無しがお伝えします
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2018/12/17(月) 06:26:59.65ID:7FlMWyIc
長兄の榮一が奈良から出した繪葉書は三人の弟と二人の妹の手から手へ渡つた。が、勝代の外には誰れも興を寄せて見る者はなかつた。
「何處へ行つても枯野で寂しい。二三日大阪で遊んで、十日ごろに歸省するつもりだ。」と鉛筆で存在に書いてある文字を、鐵縁の近眼鏡を掛けた勝代は、目を凝らして判じ讀みしながら、
「十日と云へば明後日だ。良さんはもう一日二日延して、榮さんに會ふてから學校へ行くとえゝのに。」
「會つたつて何にもならんさ。」良吉は卒氣なく云つて、「今時分は奈良も京都も寒くつて駄目だらうな。わしが行つた時は暑くつて弱つたが、今度は花盛りに一度大和巡りをしたいな。初瀬の方から多武の峰へ廻つて、
それから山越しで吉野へ出て、高野山へも登つて見たいよ。足の丈夫な間は歩けるだけ方々歩いとかなきや損だ。」
「勝は何處も見物なぞしたうない。東京へ行つても寄宿舍の内にぢつとしてゐて、休日にも外へは出まいと思ふとるの。」勝代はわざと哀れを籠めた聲音でかう云つて、
先つきから一言も口を利かないで、炬燵に頬杖突いてゐる辰男に向つて、「辰さんは今年の暑中休暇にでも遠方へ旅行して來なさいな。
家の者は男は皆んな東京や大阪や、名所見物をしとるし、温泉へも行つたりしとるのに、辰さんばかりは些とも旅行しとらんのぢやから、氣の毒に思はれる。自分では東京へ行つて見たいとも思はんのかな。」
「行けりや行つてもいゝけど……。」辰男は低い錆びた聲で不明瞭な返事をして、口端を舐めづつた。
「わしが東京に居る間に來りやよかつたのに。下宿屋に泊つてゝ電車で見物すりや幾らも金は入らないんだから。」
「勝と辰さんは電車を見たこともないのぢやから、兄弟中で一番時代遲れの田舍者だ。勝は岡山まで汽車に乘つてさへ頭痛がするのに、東京まで何百里も乘つたら卒倒するかも知れんから、心配でならんがな。
その代り東京へ行つたら、三年でも四年でも家へは戻らんつもりだ。」
「わしの春休みの間に行くやうにすりや、連れてゝやらあ。さうしたら歸りに大和巡りも出來るし丁度都合がいゝんだよ。」
「いや/\、勝は一人で行かう。それくらゐの甲斐性がなければ、自分の目的は遂げられやせんもの。」
0113名無しがお伝えします
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2018/12/17(月) 06:29:27.64ID:7FlMWyIc
「口でこそ元氣のいゝことを云つてゐても、途中で腹が痛んだり、汽車に醉つたりしたらどうするんだい。
自分の村でさへ出歩けない者が、方角も分らない東京へ行つてマゴマゴすると思ふと心細くなるだらう。
東京のいゝ家では、つい近所へでも若い女一人外へ出しやしないよ。榮さんが歸つて來たらよく聞いて見るといゝ。」
「死んだつて關はん覺悟をしとるんだもの……。」
勝代は負けぬ氣でさう云つて口を噤んだが、ふと不安の思ひが萌して顏が曇つて來た。良吉も話を外らして、小さい弟を綾しなどした。
そこへ晩餐の報知が階下から聞えたので、皆んなドヤドヤと下りて行つたが、勝代は一人後へ殘つて、
二三度母の呼び立てる聲を聞いてから、やう/\炬燵を離れた。机の上の繪端書帖に兄の繪端書を插んだ。
そして、目を顰めて、夕月の寒さうに冴えてゐる空を仰ぎながら、雨戸を鎖して階下へ下りた。釣ランプを取り圍んで、
老幼取りまぜて十人もの家族が、騷々しく食事をしてゐた。勝代は空いた席へ割り込んで、獨り生冷たい※(「睹のつくり/火」、
第3水準1-87-52)返しに柔かい菜浸しを添へて、不味い思ひをして箸を執つた。
外の者の膳には酸味噌の飯蛸や海鼠などが付けられてゐて、大きな飯櫃の飯の山が見る/\崩されてゐた。
隣村まで來てゐる電燈が、いよ/\月末にはこの村へも引かれることに極つたといふ噂が誰れかの口から出て、
一村の使用數や石油との經費の相違などが話の種になつてゐた。電燈を見たことのない子供達は、いろ/\に想像しては喜んでゐた。
良吉はメートルとかスヰツチとかタングステンとか洋語を持ち出して電燈の講釋をし出した。
「僕は東京の下宿にゐた時には、五燭の球を外して、二十五燭のを使つてたよ。さうすると晝のやうに明るかつた。
此方でもさうするといゝ。一つで家中明るくならあ。そして長い紐で八方へ引張るさ。」
0114名無しがお伝えします
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2018/12/17(月) 06:32:05.46ID:7FlMWyIc
「そんなことが出來るんかい。電燈も村へ來りや丸で斷る譯にや行くまいから、
まあ義理に一つだけは付けることにしようが、畢竟無用の事ぢや。」と、老父は云つた。
「しかし、皆んな電燈にすると、手數が掛らんし、火事の危險も少なうなつてよう御座いますぜ。」と次男の才次はさう云つて、
少なくも二つは引かなきやなるまいと言ひ張つた。そして、博覽會見物に行つた際に見た東京のイルミネーシヨンの美しさを語つた。
良吉もそれに相槌打つた。「夜も晝のやうだ。」
平凡で簡單なこの言葉ほど、都會を知らぬ者の心に都會の美しい光景を活々と描かす言葉はなかつた。
が、辰男はこんな話に些しも心を唆られないで、例の通り默々としてゐたが、只竊かにイルミネーシヨンといふ洋語の綴りや譯語を考へ込んだ。
そして、食事が終ると、直ぐに二階へ上つて、自分のテーブルに寄つて、頻りに英和辭書の頁をめくつた。かの字を索り當てるまでには餘程の時間を費した。
「あゝこれか。」と獨り言を云つて、搜し當てた英字の綴りを記憶に深く刻んだ。次手にスヰツチとかタングステンとかいふ文字をも搜したが、それはつひに見付からなかつた。
廣い机の上には、小學校の教師用の教科書が二三册あつて、
その他には「英語世界」や英文の世界歴史や、英文典など、英語研究の書籍が亂雜に置かれてゐる。洋紙のノートブツクも手元に備へられてゐる。
彼れは夕方學校から歸ると、夜の更けるまで、滅多に机の側を離れないで、英語の獨學に耽るか、考へ事に沈んで、四年五年の月日を送つて來た。
手足が冷えると、二階か階下かの炬燵の空いた座を見付けて、そつと温まりに行くが、嘗て家族に向つて話を仕掛けたことがなかつた。
直ぐ下の弟の良吉とは、一時隣國の山間の小學で一緒に教鞭を執つたことがあつたので、多少打ち融けた話もしてゐたのだつたが、
それさへ年を經ると共に、隔りが増して、この冬の休暇には親身な話は只の一度もしないで過した。
でも、良吉が傍で洗濯物や乾魚を小さい行李に收めて明日の出立の用意をしかけると、辰男も書物を措いて屡々その方を顧みた。
七八年前の冬休みに、兔を一匹需めて、弟と交互に擔いで、勤め先から歸省したことが、ふと彼れの心に浮んだ。
0115名無しがお伝えします
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2018/12/20(木) 23:06:31.42ID:/JewS5zB
みさみさの唾欲しい(´・ω・`)
0116名無しがお伝えします
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2018/12/27(木) 18:40:22.53ID:HxtQxF3I
階下では、老父母も才次夫婦も子供達も、彼方此方の部屋に早くから眠りに就いて、階子段の下の行燈が、深い闇の中に微かな光を放つてゐた。
二階では良吉と勝代とが炬燵に當つて、一しきり東京話を聞いたり訊かれたりしてゐたが、やがて別々の部屋に別れて寢支度をした。
「良さんには當分會へんかも知れんな。來年高等學校を卒業したら、成るべくなら東京の大學に入れるやうな方法を取りなさいよ。」
と、勝代は兄の寢床を延べながら云つた。
そして、自分は寒さに傷まぬやうにと、懷爐を腹に當てゝ眠つた。
弟と妹の安らかな寢息を耳に留めながら、辰男はまだ椅子に腰を掛けて、雜誌に出てゐる和文英譯の宿題をいろいろに工夫してゐた。
アルハベツトの讀み方から、滿足に教師によつて手ほどきされたのではないので、
全くの獨り稽古を積んで來たのだから、發音も意味の取り方も自己流で世間には通用しさうでない、
二年間東京の英語學校で正則に仕上げて來た良吉に屡々「田舍で語學を勉強したつて骨折り損だ、それよりや早く正教員の試驗を受けた方がいゝぜ。」と忠告されて、
父や兄からもそれを最も賢い方法として説き勸められたが、彼れは馬の耳に風で聞き流して、否か應かの返事をさへしなかつた。
で、家の者は彼れの心の中を量りかねて、涼み臺や炬燵の側での茶呑み話の折々、眞面目の問題として持ち出されたことは二度や三度ではなかつた。
0117名無しがお伝えします
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2018/12/27(木) 18:42:23.60ID:HxtQxF3I
「最初ヴアヰオリンを習つて音樂家になりたいと云つたのを聞いてやらなんだから、それであんな風になつたのぢやないかと思ふ。」と、ある時父が思ひ當つたやうに云つた。
「そればかりぢやない。鼻がまだ直り切らんのでせう。一寸見ると拗ねて居るやうぢやが、五年も六年も拗ね通されるものぢやない。
身體に故障があるからでさあ。」と、才次は云つた。
「あれぢや商人にもなれんし、百姓にもなれまいし、まあ粥でも啜れるくらゐの田地を配けてやるつもりで、抛つて置くか。」
とゞのつまり、かう解決をつけて、最早彼れの身の上を誰れも問題にはしなくなつた。見馴れた目には彼れの行爲もさして不思議には映らなくなつた。
十一時が鳴ると、辰男は椅子を離れて押入から夜具を取り出した。 そして、便所へ行つた歸りに、階下の炬燵の殘り火を掻き起して、半身をずり込ませて、氣儘に温まつた。
自から睡氣の差すまで、かうして過してゐる二三十分間が、彼れには一日中の最も樂しい時間であつた。……今日新たに習ひ覺えた英語を口の内で繰り返してゐたが、
ふと、弟の明日の出立が思ひ出されて、自分が眠つてゐる間に出掛けられては殘念な氣がしたので、例よりも早目に炬燵を出た。
0118名無しがお伝えします
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2018/12/27(木) 22:55:49.07ID:ucdJrjWT
みさみさのウンコ欲しい(´・ω・`)
0119名無しがお伝えします
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2018/12/28(金) 19:24:06.43ID:TlIA0XSo
閾で仕切られてゐるだけで、嘗て襖の立てられたことのない自分の居間で、短い敷蒲團に足を縮めて横になつて目を閉ぢた。
何時もならば、目を閉ぢると直ぐに睡眠に落ちるのだが、今夜は慣例を破つて、まだ眠氣の催さぬ前に炬燵を離れたゝめか、頭が冴えて眠付が惡かつた。
何處かの障子を破つてゐる猫の爪音が煩く耳に付いた。辰男は「シツ。」と云ひながら疊をバタバタ叩いたが、
やがてランプを點けて音のする方へ行つて見ると、猫は最早障子の破れ目から縁側へ飛び下りて啼き聲を立てゝゐた。
雨戸を少し開けて猫を屋根の方へ追ひ出しながら、辰男は久し振りに自分の村の夜景色を眺めた。
十數町を隔てた小學校へ往來する外には、春にも秋にも殆んど一歩も門を出たことがないのみか、家の周圍にどんな騷ぎがしてゐようとも、
滅多に窓の外へ顏を出したことがなかつたので、平生雨戸一枚隔てた外の景色とは馴染みが薄いのだつた。
夕月は既に落ちて、幾百もの松明が入江の一方に繪のやうに光つてゐる。耳を澄ますと小波の音が幽かに聞えたが、空も海も死んだやうに鎭まつてゐる。
宮を圍んだ老松は陰氣な影を映してゐる。彼れは他郷から歸省した者のやうに、今夜は少年時代の自分の姿を闇の中の彼方此方に見詰めた。
……もつと快活で元氣のよかつた昔の事が未生前の事件のやうに心に浮んだ。
冬でも藺の笠を被つて濱へ出て、餌を拾つて、埠頭場に立つたり幸神潟の岩から岩を傳つたりして、一人ぼつちでよく釣漁をしてゐた。
釣れても釣れなくても、兄弟や近所の友達と遊ぶよりは面白かつた。潮が滿ちて潟が隱れると、衣服を胸までまくし揚げて、陸へ上るので、衣服は何時も汐臭かつた。
あの時分は川尻に蘆が生えてゐた。潟からは淺蜊や蜆や蛤がよく獲れて、奇麗な模樣をした貝殼も多かつた。
が、今は入江の魚が減つて、岩のあたりで釣魚をしたつて、雜魚一匹針にはかゝつて來ないらしい。
山や海の景色もあの時分は今よりも餘程美しかつたやうに思はれる。向ひの小島へ落ちる夕日は極樂の光のやうに空を染めてゐた。
漁夫の身體付きからして昔は巖のやうだつたり枯木のやうだつたりして面白かつた。
0120名無しがお伝えします
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2018/12/28(金) 19:34:08.87ID:TlIA0XSo
お宮の松には梟が棲んでゐたのぢやがと、その不氣味な鳴き聲を思ひ出しながら、暗い梢を見上げてゐると、その木蔭から一羽の鳥が羽叩きして空を横切つてゐるやうな氣がした。
辰男は雨戸を閉めて寢間へ戻つてからも、何となく物哀れな氣持がした。側の壁に懸けて置きながら日頃忘れ果てゝゐた、
ヴアヰオリンに目がついて久し振りで彈いて見たくなつた。樂器を包んだ黄ろい袋は夜目にも目立つほどに汚れてゐた。
山間の寂しい小學校にゐた間、俸給の餘剩を積んで購つて、獨り稽古で勝手な音を出して、夜毎にこれを弄んでゐたことが、涙ぐまるゝやうな追憶となつて、乾いた彼れの心を潤はした。
「明日の晩には是非彈いて見よう。春高樓を彈いて見よう。」……彼れは新しい英字の變則な發音よりも、昔馴染みのヴアヰオリンの變則な音色に、
一層強く自分の魂が打ち込まれさうに思はれた。
辰男の明け方の夢には、薇の萌える學校裏の山が現れて、其處には可愛らしい山家乙女が眞白な手を露出して草を刈りなどしてゐた。
……と、誰れかに呼び立てられたやうな氣がして目を開けたが、左右の室には誰れもゐなかつた。良吉は最早出立したのか知らんと、急いで階下へ下りると、
弟は竹の手のついた煙草盆を膝に載せてゐる父親の前に不恰好なお辭儀をして、これから出掛けようとするところだつた。皆んなが上り框に突立つて見送つてゐた。
辰男はそつと皆んなの後ろに寄つて、默つて弟の出て行くのを見てゐたが、直ぐに二階へ引返して、
弟を乘せた俥が濱通を過ぎるのを見下ろした。俥の音の消えるまで窓際を離れなかつた。「良さんも行つてしまうた。」何時の間にか勝代が傍に來てゐた。
「これで勝が出て行かうものなら、辰さんは二階に一人法師で淋しうなるぞな。」「…………。」辰は默つて茫然してゐた。
0121名無しがお伝えします
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2018/12/28(金) 19:38:26.23ID:TlIA0XSo
「早う嫁さんを娶りなさいな。小串に丁度よさゝうなのがあつて、東屋の爺さんが話を持つて來たから、も一度よく問ひ糺して、成るべくならそれにでも極めたいと、
お父さんが云うて居つた。少々氣に入らんところがあつても我慢して、その女を嫁さんに貰うたらえゝにな。傍の者が皆んな相應だと思ふたら、
辰さんも強いて否とは云はんでせう。」勝代は母親の命令で、何氣ない風で兄の腹の中を索つて見た。
「……そんなことはお前が訊かいでもえゝ。」辰男は鬱陶しい聲でさう云つて、自分の居間から齒磨粉と手拭を持つて來て、靜かに階下へ下りて井戸端へ出た。
大きな酒樽にどつさり大根が漬けられてあつて、大嫌ひな糠味噌の臭ひが鼻を襲つて逆吐きさうになつた。
勝代は、「何であゝ變人なのであらう。家中で私だけが同情してやつてるのぢやないか。」と忌々しく感じた。が、
しかし、後で直ぐに心を和げて、自分がかうして一緒にゐるのも今暫らくの間だから、出來るだけ大切にして上げて惡く思はれぬやうしたいと思ひ返した。
……外の兄弟は皆んな好きな學問をしてゐるのに、辰さんばかりは一生こんな汚い村の先生をして暮すんだもの、可哀さうだ。お父さんが不公平だと、兄の身の上を不仕合せな人として憫んだ。
そして、紙箒を持つて兄の机の上の埃を拂ひながら、書物の間に插んである洋紙を覘いて、拙い手蹟で根氣よく英字を書き留めてゐるのに、感心もし、冷笑を浮べもした。
その中には、同窓の誰れにも劣らなかつた英語自慢の勝代にも解き得ない文句が多かつた。
“Nonsense”といふ言葉には圈點を附けて、ノンセンスと假名をも振つて大事さうに記してゐる。
「貴女の云ふことはノンセンスよ。」などゝ、朋輩の間で言ひ合つたことを勝代は思ひ出して獨り笑ひをした。
そして、「辰さんはこの英語の意味を理解して居るのか知らん。」と訊きたかつた。
0122名無しがお伝えします
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2018/12/28(金) 19:43:00.46ID:TlIA0XSo
と、そこへ、辰男は梅干で茶漬の朝餐を濟まして、齒を吸ひ/\上つて來たので、勝代は押入から洋服を取り出してやつて、
「晩まで勝にこのテーブルを貸してお呉れな。腰を掛けて勉強したら、お腹がよう減つて氣持がようなるかも知れんから。」
「…………。」辰男は自分の机や椅子を他人に――たとひ妹であつても――使はれるのが厭であつたが、
他人に向つて――たとひ妹であつても――否と斷言することは出來なかつた。無論快い承諾を與へる氣にもなれないのだが。……
「使うてもよからう! 本はちやんとこのまゝにして置くがな。」「フーン。」と辰男は微かな返事をした。
カラアもネクタイも付けない洋服の上に短いトンビを着て、辨當を提げて裏口から家を出て、狹い裏道を通つて學校へ向つた。
子供達も揃つて出て行くと、廣々とした家の中は大風の跡のやうに靜かになつた。母や兄嫁は立つたり坐つたり、
何となしに家事に忙しかつたが、勝代はざつと二階の掃除をして、時間外れの朝餐を一人で食べると、下女に吩咐けて、二階の炬燵に火を入れさせて
、閉ぢ籠つた。良吉の歸つてゐる間入學試驗の準備を怠つてゐたので、最早小説など讀み耽つてはゐられなかつた。
上京までの日數を數へると心が惶しかつた。……若しも落第をしようものなら、一年前に入學してゐる朋輩に對しても、
家の者や村の者に對しても、おめ/\顏は合はされない。とても生きてゐられないと、神經を昂らせながら、英語讀本を披いた。
が、辭典を片手に勢一杯研究してゐながら、心は動もすると書物から離れて、外の思ひに疲れた。深夜も白晝のやうな東京で、
落第した自分がモルヒネか何かの毒藥を飮んで自殺する悲しい有樣を空に描いたり、
西洋の婦人と自在に會話を取りかはしてゐる得意な有樣に胸を轟かせたりして徒らに時を過した。
運動不足のために、柔かい食物も消化が惡くて、勉強に取り掛ると、腹の重苦しいのが一層氣になつた。
辰さんのやうに一心不亂に勉強するつもりで、炬燵を離れて兄のテーブルに向つたが、裾の方が寒くて、手の先も冷えて、とても長い辛抱は出來なかつた。
で、再び炬燵の側へ戻つて、額を櫓の縁に押し當てゝ、取り留めのない空想に耽り出した。
好きな蜜柑を母親が籠に入れて持つて來て呉れると、胃に惡いと知りつゝ手を付けて二つ三つ甘い汁を啜つた。
0123名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:00:27.98ID:BCC0C/ko
辰男は極つた時刻に學校から歸つて、テーブルの位置も書物の配置も亂されてゐないのに安心した。
衣服を着替へて椅子に腰を掛けると、昨夕ヴアヰオリンの音を戀しがつたことを思ひ出して、壁の方へ目を向けたが、
感興は何時の間にか消えてゐて、そんな物を手に執るのさへ懶かつた。矢張り英語修業に心が惹かれた。
夕日は障子の破れ目から、英文典の上に細い黄ろい光線を投げてゐる。
下女はランプに油を注いで、部屋々々へ持ち廻つてゐる。
十日には味い魚を買ひ溜めて待ち設けてゐたのに、榮一は歸つて來なかつた。
「もう四五日遊んで歸る。」と、大阪の市街を寫した繪端書を寄越した。
誰れよりも勝代が一番長兄の歸省を待ちかねて、母親に向つて頻りに噂をしてゐた。
「榮さんが春まで家に居つて呉れると、勝も東京へ隨いて行けるのぢやけれどな。戻つたと思ふと、直ぐにまた行つてしまふんでせう。
東京で暮すよりや田舍に住んで居る方が仕合せだと、よく手紙に書いて來るけれど、自分だつて一月とも田舍にはぢつとして居られんのだもの。
……學問した者はこんな下等な人間ばつかり住んで居る村へ戻つて來たつて話相手はないし、見る者聞く者が嫌になつて仕樣があるまい。
勝には榮さんの心持がよう分つとるがな。
……勝も今の間にせつせとお姉さんや祖母さんのお墓へ詣つて置かうと思ふとるけど、途中で人に顏を見られるのが氣味が惡いから、
どうしても出て行かれん。
勝は外を通つてる人の聲を聞いても時々氣疎いことがありますぞな。ようあんな下卑たことを大きな聲で喋舌つて、げら/″\笑つて居られると愛相が盡きてしまふ。
こんな人間ばかりのゐる村で一生を暮すとすりや聾になりたいと勝は思ふがな。」
無口な母親は、娘の言葉に輕く雷同するだけだつたが、才次が傍で聞いてゐようものなら、默つて妹に話を續けさせて置かなかつた。
兄弟中では稍々常識に富んだ穩やかな彼れは、決して烈しい口は利かないが、
小間癪れた妹の言語態度が女學生めいてゐるのが氣に觸つて、揶揄ふか冷かすかしなければ蟲が收まらなかつた。
ある夜も勝代が、上京心得と云つたやうな事を書いてある東京の友達の手紙を母に讀んで聞かせて、
母子が炬燵に差向ひで話し込んでゐるところへ、筒袖を着た才次は、兩手を細い兵兒帶に突込んだまゝ、のそ/\傍へやつて來た。
0124名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:02:06.01ID:BCC0C/ko
「お前の友達は皆んなペンで手紙を書くんかい。」と、四角な桃色の封筒を手に取つた。
「昔風の候づくめの手紙なら卷紙に筆で書くのがよう似合ふとるけど、言文一致にや西洋紙にペンを使ふた方がえゝ。
第一一枚の紙にも仰山に字が書けて、お父さんの口癖の經濟的にもなるんぢやもの。」勝代は皮肉をまぜて答へた。
「まだ友達同士英語で手紙のやり取りは出來んのかい。」才次は差出人の名前を見て封筒を下へ置いて、
「この女も東京言葉を勉強しに、高い資本を費うて東京の學校へ入つとるのかい。」
「そないな惡口は勝等には何ともないがな。此方に居る者でも、手紙にはお互ひに東京言葉を使うとるんぢやもの。」
「……東京の女子も變梃な言葉を使ふぜ。一寸道を訊いても、ぺら/\と云うて何やら譯が分らん。」
「東京の人は一體に口が早いんぢやらうか。」勝代はふと眞面目に尋ねた。そして、卑しい田舍訛を朋輩に哂はれはしないかと氣遣つた。
「口が早いばかりぢやない、何か知らん忙しさうでゴタゴタした所ぢや。若い間はあんな町で好きなことをして暮すのもよからうが、
歳を取つたら居れる所ぢやない。田地まで賣つて大阪や神戸へ行つた者が、よく見い。大抵は失敗つてヒヨコ/\戻つて來るぢやないか。
儲けて他所の錢を持つて戻る者は十人に一人もありやせん。大抵はこの貧乏村の錢を持ち出して都會へ捨てに行くんぢやから、
村はます/\貧乏になるばかりぢや。近い話が寺の坊主からして、わざ/″\損をしに神戸へ投機をやりに行くといふ有樣だもの。」
「來月の祖母さんの十三回忌までには、お住寺さんは戻つて來るのぢやらうか。」と母親が口を出した。
「法事よりも村に葬式があつたらどうするつもりでせう。坊主は寺の物を賣り飛ばして他所へ行つてもよからうが、さう荒して出られちや、
後ではこの寺へ來て呉れ手がないから檀家が迷惑ぢや。」
「耶蘇教で葬式をすると、却つて輕便で神聖でえゝがな。勝はお經も嫌ひだし黒住のお祓ひも嫌ぢや。」
0125名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:04:30.76ID:BCC0C/ko
才次は宗旨などどうでもいゝので、妹が友達の耶蘇信者が女學校で死んだ時の儀式の樣子を話すのを難癖をつけずに聞いてゐたが、
やがて、先つき云はうとしたことに話を戻して、
「家の者も東京なり神戸なり、出て行く以上は、その土地々々に一生落着くことにして、生活が六ヶ敷うなつて生家へ轉がり込まんやうにきつぱり極りをつけとかにやならんと思ふ。
都會住ひをした者に田舍を手頼りにせられちや、此方で質素な生活をしてる者は迷惑するし、第一割に合はん話ぢやから。
兄弟だからまさかな時にや世話になりやえゝといふ量見で居られちや共倒れぢや。」
「それは利己主義ぢやがな……。」
「どうせ皆んなが利己主義ぢやから、初めからさう極めとくに限るんぢや。辰男だけはこの村で別家さすにしても、此處とは少し離れて家を建てゝやるとえゝ。
直ぐ側に親類が並んでると、よけりやよし、惡けりや惡しで、嫉んだりけなしたりし合つて煩いものぢや。」
「昔は兄弟は近い所に居るのがえゝと云うて、高松の伯父さんなぞは直ぐ裏の地續きに、自分の家と間取りから柱の數まで同じい家を弟に建てゝやつたのぢやが、
今時はさうは行かんぢやらう。」と、母親は反對もしなかつた。
「兄弟同士嫉むことまで考へとかいでもえゝがな。家の兄弟にはそんな下等な人間はありやすまいに。」
勝代は細い眉の間に皺を寄せて、「辰さんはあないな風なのに、誰れも構うてやらにや可哀さうぢやがな。
勝は貧乏しても何處で暮しとつても、辰さんの力になつて上げにやならん。」と、昂奮した調子で云つた。
「他人のことよりや、勝は自分の身に間違ひのないやうに考へとれ。女子が愚圖々々して歳を取つて、英語を喋舌つて學校の先生になつたつて、
何が面白いことがあらうぞい。」才次は、眼鏡を掛けた妹の平たい顏を憐憫な思ひをして見入つた。
0126名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:06:25.26ID:BCC0C/ko
「才さんに學資を出して貰やあせず……。」勝代は兄が動もすると、自分の樂しい理想を破らうとするのが口悔しくて、
かう言ひ放つて、顏を見られぬやうに炬燵の上に首伏した。才次は澁い顏して口を噤んだ。
「女子で月給取りになるのも、容易なことぢやあるまい。」と、母親は感じのない聲で獨り言のやうに云つた。
皆んなが暫らく默つてゐるところへ、辰男は階子段を軋ませて、のつそり下りて來て炬燵の空いた所へ足を入れた。
「辰さんはテーブルの下へ火鉢を置きなさいな。辰さん一人火の氣のない所に居つちや割に合はんぞな。」勝代は今氣がついたやうに云つた。
「ランプを點けつ放しにしといちや危ないぜ。」才次は二階から差して來る燈火を見上げて云つた。
勝代は腹がチク/\痛みかけると、懷爐だけでは心許なくて、熱湯を注ぎ込んだ大きな徳利を夜具の中へ入れて眠ることにしてゐたが、
ある夜、徳利の效き目がなくつて、眞夜中頃に暫らく忘れてゐた激しい痛みを感じ出した。
階下へ下りて母親や兄嫁を驚かすのは氣の毒であるし、それよりも自分の腸胃のまだ癒つてゐないことを家の者に知られて、東京行を引き止められるかも知れないのが恐しくて、
腹を壓へて唸きながら我慢してゐた。が、疼痛は容易に收まらなくつて、唸き聲は自然に高くなつた。
次の室に寢てゐる辰男の耳にも入つた。彼れはふと目を醒まして、それと氣がつきながら、妹の樣子を見に行かうともせねば、聲を掛けもしなかつた。
寢返りを打つて再び眠りに就かうとした。が、呻吟が次第に耳障りになつて仕樣がない。
猫を追ひ出すやうにこの睡眠の邪魔物を遠ざける譯には行かない。……で、彼れはランプを點けて、そつと自分の寢床を、先日まで良吉のゐた次の室へ持つて行つた。其處では呻吟聲が大分遠くなつた。
「辰さん……。」と、勝代は襖を洩れる燈火に目をつけて、術なげな聲を出した。
辰男は返事をしない。夜半の寒さに身震ひして寢床の中へ藻繰り込んで、燈火を消した。
0127名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:09:01.07ID:BCC0C/ko
勝代は再び兄を呼んだが、返事がないので、寢床から匐ひ出して襖を開けて更に呼んだ。
「お父さんの机の上にある藥を取つて來て呉れんかな。」と頼んだ。
藥嫌ひで醫者が呉れた藥さへ二度に一度は祕密で棄てたほどなのに、今の場合父の常用の消化藥をさへ手頼りにする氣になつた。
確かに兄は起きてゐたのにと訝りながら、勝代は手索りでマツチを搜して、ランプを點けて見ると、兄は例の所に寢てゐなかつた。
近眼を顰めてやう/\その寢床を見付けると、腹を壓へながら側へ寄つて耳許で聲を掛けた。誰れにも知らさないでそつと取つて來て呉れと頼んだ。
辰男は物をも云はず、突如に起き上つた。そして、裾の短い寢衣のまゝランプを持つて階下へ下りて行つた。
行燈の火は今にも消えさうに搖らめいてゐた。彼れは父の部屋や兄の部屋には年に一度足を入れることがあるかないかで、部屋の樣子がどうなつてゐるか知らなかつた。
音のせぬやうに襖を開けて入ると、子供の時分から見馴れてゐた赤毛氈を掛けた机が以前の通りに壁際に据ゑられてあつた。
机の上には大きな硯や厚い帳簿や筆立てや算盤がごだ/″\と一杯に置かれてあつた。新聞に蔽はれてゐる碧い藥瓶を搜し出しながら、
彼れはふと大谷圓三といふ封筒の文字に目を留めた。母が先日問はず語りに云つてゐた縁談の周旋者の名前が大谷だつたので、
彼れは封筒を取り上げて覘いたが、手紙を引き出して讀まうとはしないで、元の所に置いた。そして、柱に掛つた寒暖計を見て、
「三十五度か、寒い譯だ。」と思ひながら部屋を出た。どの室からも安らかな寢息が洩れてゐて一人も目醒めてゐなかつた。ガランとした家の中には寒い風が流れてゐる。
勝代は待ちかねた藥瓶を兄から渡されると、直ぐに手の平に藥を移して、「このくらゐの分量で利くぢやらうか。」と兄に訊いた。
「そんな藥は毒にもならん代り利きやせん。」と、辰男はぶる/\慄へながら、顏を蹙めた妹の苦しげな樣を見下ろしてゐた。
「水を持つて來て呉れなんだのかな。」「……徳利の湯で飮んだらよからう。」
0128名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:12:36.02ID:BCC0C/ko
勿體振つた兄の言葉を妹は可笑しく感じた。教へられた通りに、徳利の栓を拔いて口移しに湯を啜つた。
大息を吐いて、いくらか安らかな氣持になつて、「階下では皆んな眠とつたかな。勝は心細いから、も少し其處で起きとつてお呉れな。」
さう云はれると、辰男は自分の寢床へ退くことが出來なかつた。
「勝はこないに身體が弱うちや困るがな。外の兄弟は丈夫なのに勝一人だけは……。」「……運動せんからぢや。」
「この村にや厭らしい人間ばつかり居るから外へ出るのが恐しいもの。……辰さんは身體が強いからえゝなあ。家ぢやお姉さんが早う死んだし、
勝も長生きをせんやうに思はれるけれど、女子は婆さんになるまで生きて居らん方が結句仕合せなやうに思はれる。お姉さんは家で皆んなに介抱されて死んだのぢやけれど、
勝は他所の土地で一人で死ぬのぢや。」勝代は疼痛が和ぐのにつれてこんなことを云つて涙を浮べた。
辰男は幾度も嚔をした。寒さに堪へられなくなるし、妹の愚かな言ひ草に興も起らないので、言葉の切れ目にその側を離れて、自分の寢床へ入つた。
夜具の中へ首をすつ込めて足を縮めて、冷えた身體の暖まるので、いゝ氣持になつてゐたが、すると今見た手紙の内容がいろ/\に想像され出して、自
分に女房の出來るのが不思議でならなかつた。……學校の小さい生徒か母か妹かの外には、女と口を利いたこともなければ、染々女の顏を見たこともないので、思ひ出にも若い女の影ははつきり浮ばない。
山間の學校にゐた時分には土地の若い女に逢ふと極りの惡い思ひをして顏を外らせてゐたのだつたが、今は平氣でゐて自然に目がつかぬやうになつてゐる。
……彼れは自分の縁談から、どんな男にも女房のあることに思ひ及んで、妙な氣がした。そして、勝代が出て行つた後で、まだ見たこともない女と自分とが、この二階に住ふことを夢のやうに感じながら、ぐつすり眠睡に陷つた。
翌日學校への往き返りの途中でも彼れは屡々結婚について珍しげに考へた。擦れ違ふ女の姿形を無心には見過せなくて、穢しい田舍女の一人々々が頭の中に浸み込んだ。
0129名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:16:21.24ID:BCC0C/ko
テーブルに向ふには向つたが、今日は英字の解釋に早く根氣が疲れて、所在なさに屡々机を離れては障子を開けて外を眺めた。
西風の凪いだ後の入江は鏡のやうで、漁船や肥舟は眠りを促すやうな艫の音を立てた。海向ひの村へ通ふ渡船は、四五人の客を乘せてゐたが、四角な荷物を脊負うた草靴脚袢の商人が驅けて來て飛び乘ると
、頬被りした船頭は水棹で岸を突いて船を辷らせた。辰男は暫らく船の行方を見入つてゐたが、乘客の笑ひ話は靜かな空氣を傳つて彼れの耳にも入つた。入日の海や野天の風呂場をも彼れは久し振りに見下ろした。夜は例よりも長く炬燵に當つて過した。
榮一が歸つて來たのは、豫報の日取りよりも遲れ/\て、最早誰れも忘れたやうに噂にさへ上さなくなつた頃であつた。夕餐の膳が片付いて、皆んなが彼方此方へ別れてゐるところへ、俥夫の提灯を先に、突如に暗い土間へ入つて來た。
散らばつてゐた家の者はまたぞろ/\出て來て一ところ/\に集つた。
勝代も物音でそれと知ると、書物を措いて二階から下りて來た。が、辰男一人は椅子から身動きもしなかつた。二三日前から作り始めた英文に心を打ち込んでゐた。
「眠つた海」「無用な行爲」などが自ら選んだ課題であつた。大谷が間に立つて取り做しかけた縁談は、碌に話の進まぬ中に立ち消えになつて、父の口から明ら樣に彼れに告げて意向を確める必要もなくて濟んだが、彼れは二三日妄想に惱んだゞけで、元の彼れに返つて、
テーブルに釘付けのやうになつてゐられた。……「風が吹けば浪が騷ぎ、汐が滿ちれば潟が隱れる。漁船は年々殖えて魚類は年々減りつゝあり。川から泥が流れ出て海は次第に淺くなる。幾百年の後にはこの小さい海は干乾びて、魚の棲家には草が生えるであらう。……」
こんな自作の文章を、辭書を繰つては、一々英字で埋めて行つた。
以前二三度英語雜誌へ宿題を投書したことがあつたが、一度も掲載されなかつたので、今は全くそんな望みを絶つて、只自作の英文は絹糸で綴ぢた洋紙の帳簿に奇麗に書き留めて置くに止めてゐる。自分ながら、初めの方のに比べると文章は次第に巧みになつてゐるやうな氣がする。
熟語なども折々使はれるやうになつた。
0130名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:20:05.25ID:BCC0C/ko
階下が賑つてゐるので、炬燵に當りに行くのを遠慮してゐたが、末の妹が息をせか/\吐きながら上つて來て、「榮さんのお土産。」と云つて、栗饅頭を二つ机の上に置いて行つた。辰男はインキに汚れた骨太い指で抓んで大口に食べた。
そして、冷たくなつてゐる手を内懷に入れて温めながら暫らく息休めをした。
妹と母とは、階下から夜具を運んで、次の室へ兄の寢床をのべた。と、間もなく榮一が上つて來たが、辰男の方を一寸振り返つたばかりで、次の室へ入つて襖を締めた。直ぐには寢ないで、手紙を書いたり雜誌を讀んだり、良吉が殘して行つた書物を手に取つたりしてゐた。
矢鱈に吸つてゐる煙草の煙は、襖の隙間から洩れ出て、辰男の顏のあたりにも漂つた。
階下が寢鎭まつてから暫らく立つて、榮一は部屋に漲つた煙を外へ出して、燈火も消して寢床に就いた。平生眠付きの惡いのが病ひなのに、堅い寢床が身體に馴染まなくてますます寢づらかつた。
「辰はまだ寢ないのか。燈火が邪魔になつていけないな。」
四年目で耳に觸れた兄の聲は、相變らず尖つてゐた。辰男はその聲を聞くと同時に、ペンを筆筒に收めてインキ壺に蓋をした。ランプをも吹き消した。
翌日は日曜なので、辰男は目が醒めても容易に起き上らないで、寢床の中で書物を讀んでゐた。お土産の栗饅頭を一つ母が枕許に置いて行つて呉れた。風もないし障子に差した朝日は春のやうに麗らかだつた。
榮一は早く起きて海岸を散歩して來たが、朝餐後に一時間ばかり讀書すると、また外へ出ようとして階子段の方へ行きかけたが、ふと振り返つて、「辰。……山へ登つて見んか。」と誘つた。そして、二三歩辰男の居間へ踏み込んで、テーブルの上に目を据ゑた。
辰男は立ち上りざま初めて兄の顏を熟視した。……四年前よりも父の顏に著しく似通つてゐた。兄が身體を屈めて、英作文を一二行見てゐる間に、辰男は帽子を被りトンビを着て直立してゐた。
0131名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:21:54.17ID:BCC0C/ko
一人はステツキを持ち草履を穿き、一人は日和下駄を穿いて、藪蔭を通り墓地を拔けて、小松の繁つてゐる後ろの山へ登つた。息休めもしないで一氣に登つたので、二人の額からは汗がぽた/\落ちた。頂上近い所にある小祠まで來て、その側の石に腰を卸した。
小祠は田舍の郵便箱のやうな形をしてゐる。扉は壞れて中には枯松葉が散つてゐるだけで、神體はなかつた。
其處からは曲りくねつた海を越し山を越して、四國の屋島や五劒山が幽かに見えるのだが、今日は光が煙つて海の向うは糢糊してゐた。
草履を穿いてゐる兄の方は却つて足が疲れ息切れがしてゐたが、冷々した山上の風に汗を乾かして爽やかな氣持になると、今までの沈默を破つて、弟に向つていろ/\の話を仕掛けた。彼方此方に見える島の名を訊いたり、近くの山の裾の村々の有樣を訊いたりしたが、
はつきりした答へは得られなかつた。辰男は全で他郷を見渡してゐるやうで方角も取れなかつた。萬國史で見た西洋の天子の冠のやうな形をした小さい島が入江から眞近い所にあるのに、今始めて氣がついた。入江に出入りして來る漁船は皆その側を通つてゐるのに、
彼れは嘗て其處までも行つたことがなかつた。「あれが鍋島だ。樹がよく茂つてるから、あの周圍にはよく魚が寄つてると云ふぢやないか。」と、却つて兄に教へられたが、さう聞けば島の名前は子供の時から聞き馴れてゐるのだつた。
「しかし鍋よりや王冠によく似てゐる。」と思つて、冠島といふ課題で英文を作らうと思ひついた。目の下の墓地も、海を渡つてゐる鳥の群も、辰男には皆英文の課題としてのみ目に觸れ心に映つた。飛んでゐる五六羽の鳥は鳶だか雁だか彼れの智識では識別けられなかつたが、
「ブラツクバード」と名づけただけで彼れは滿足した。「辰は英語を勉強してどうするつもりなのだ。目的があるのかい。」冬枯の山々を見渡してゐた榮一は、ふと弟を顧みて訊いた。
ブラツクバーヅの後を目送しながら、「飛ぶ」に相當する動詞を案じてゐた辰男は、どんよりした目を瞬きさせた。直ぐには返事が出來なかつた。「中學教師の檢定試驗でも受けるつもりなのか。……英語は面白いのかい。」と、兄は疊みかけて訊いた。
0132名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:24:07.37ID:BCC0C/ko
「面白うないこともない……。」辰男はやがて曖昧な返事をしたが、自分自身でも面白いとも面白くないとも感じたことはないのだつた。
「獨學で何年やつたつて檢定試驗なんか受けらりやしないぜ。外の學問とは違つて、語學は多少教師について稽古しなければ、役に立たないね。」
「…………。」辰男は默つて目を伏せた。「それよりやそれだけの熱心で小學教員の試驗課目を勉強して、早く正教員の資格を取つた方がいゝぢやないか。
三十近い年齡でそれつぱかりの月給ぢや仕方がないね。」「…………。」足許で椚の朽葉の風に飜つてゐるのが辰男の目についてゐた。いやに侘しい氣持になつた。
「今お前の書いた英文を一寸見たが、全で無茶苦茶で些とも意味が通つてゐないよ。あれぢやいろんな字を並べてるのに過ぎないね。三年も五年も一生懸命で頭を使つて、
あんなことをやつてるのは愚の極だよ。發音の方は尚更間違ひだらけだらう。獨案内の假名なんかを當てにしてゐちや駄目だぜ。」
「…………。」「娯樂にやるのなら何でもいゝ譯だが、それにしても、和歌とか發句とか田舍にゐてもやれて、下手なら下手なりに人に見せられるやうな者をやつた方が面白からうぢやないか。
他人には全で分らない英文を作つたつて何にもならんと思ふが、お前はあれが他人に通用するとでも思つてるのかい。」
さう云つた榮一の語勢は鋭かつた。弟の愚を憐むよりも罵り嘲るやうな調子であつた。「…………。」辰男は黒ずんだ唇を堅く閉ぢてゐたが、目には涙が浮んだ。
無論他人に教へるつもりで讀んでゐるのではないし、 他人に見せるために作つてゐるのではないし、正格でないことは常に承知してゐるが、
全然無價値だとこの兄に極められると、つく/″\情なかつた。
0133名無しがお伝えします
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2019/01/03(木) 09:30:05.93ID:BCC0C/ko
「さあ、歸らうか。」と云つて、榮一は裾の埃を拂つて、同じ道を下つた。墓地近くなつて、のろ/\下りて來る弟を待ち合せて、妹の墓と祖母の墓とへ詣つた。
目が窪んで息の臭かつた妹の死際の醜い姿は辰男の記憶にはまざ/\と刻まれてゐて、妹といふと直ぐそれを思ひ出したが、今墓場に立つてゐると、×子の墓と彫つた新しい石碑に對して追慕の感じは起らないで、
石の下の棺の中で蛆に喰はれてゐる死骸の醜さが胸に浮んだ。僧侶が投機に凝り出してからは、寺は雨戸を鎖して空屋のやうに汚れて、墓場の道は草が生え木の葉の散るにまかせてゐた。兄弟は朽葉を踏んで墓地を下つた。
「辰は家で許したら、學校へ入つて眞劍に英語の稽古をしようといふ氣があるのかい。」榮一は前とは異つて穩やかに話しかけた。が、辰男は兄の言葉に甘えた快い返事をしようとはしなかつた。
「別段學校へ入りたいといふことはありません。」と、干乾びた切口上で答へた。「せめて、もう四五年早く決心して、強硬に親爺を説き付けたなら、東京へ英語研究に行けんことはなかつたらうのに。
勝代さへ行くやうになつたのだもの。……しかし、お前は今からぢやあまり遲過ぎるね。」家へ歸ると、辰男は外に自分の身を置く所がないやうにテーブルの前に腰を掛けたが、作りかけの文章に目を向けるのが厭な氣がした。午過ぎになると
、所在なくて、文典など讀みだしたが、今までのやうに傍ら人無きが如き態度ではゐられなくて、兄の足音が聞えると書物を脇へ片寄せた。
階下で兩親や才次などが一家の雜務に取り掛つてゐる間に、二階では三人が各自の部屋に籠つて、それぞれに讀んだり書いたりしてゐた。一人も他の部屋へ入つて無駄口を利くこともあまりなかつたが、階下から才次などが上つて來て勉強を亂すことは尚更稀だつた。
良吉のゐた時分のやうな賑やかな笑ひ聲や打ち解けた雜談は二階では跡を絶つてゐて、榮一の歸省は勝代が豫期したやうな明るみを家の中へ齎さなかつた。榮一は自分を憚つてゐる辰男に向つて強いて話を仕掛ける氣はなかつたが、でも、折々辰男に對しては神經を凝らしてゐた。
ランプの下で難解な英字に青春の根氣を疲らせてゐる弟の青黒い顏の筋肉の微動をも、襖越しに見透してゐるやうに感ずることもあつた。しかし自分に親しみを寄せたがつてゐる勝代をば、極めて淡く見過してゐた。
0134名無しがお伝えします
垢版 |
2019/01/03(木) 09:33:50.66ID:BCC0C/ko
妹の聞きたがつてゐる東京の女學校や女學生の氣風について話をしてやるでもなく、妹の東京行について一口も明ら樣に可否の意見を述べなかつた。
二十未滿の女が小説で知つてゐる東京に憬れて、東京の何とか云ふ英語學校へ入つて、
學問で身を立てゝ、一生獨身で通すといふやうな乳臭い言ひ草を眞面目に聞いて、兔や角と無用な陳腐な意見を述べる氣にはなれないのだつた。
そして、竊かに、「女の子にまで高等な學問をさせるやうになつたとすると、家の身代にも大分餘裕が出來たな。」と思つた。
大勢炬燵を圍んで居る時、「わしが初めて東京から歸つて來た年に大病に罹つて座敷で寢てると、勝が蚊帳の側へ匐つて來ちや惡戲をしたり小便を垂れたりして煩くつて困つたよ。
それが一人で東京へ行くやうになつたのだから、わしも知らない間に歳を取つたのだね。」と、榮一は幾年か隔てゝ會ふたびに不思議なほど異つてゐる妹の顏を見入つた。
「榮さんよりや才さんの方が老けて見えるがな。才さんの頭にや白髮が仰山生えてる。もう若白髮ぢやないなあ。」勝代がさう云つて、兄達の顏を見比べると、外の者も知らず/″\相互の顏や頭に目を留め出した。
よく見ると、離れてゐた間の年月は誰れの顏にも刻まれてゐた。發育盛りの妹ばかり違つてゐるのではなかつた。
「何と云つても四十近くなると、人間はそろ/\衰へ出すんだね。」榮一は弟に向つて云つて、「おれ達が一生にやりたいと思ふ好きなことをやつて見るのは今の中だぜ。金を活して使ふのも今の中のやうな氣がするよ。」
0135名無しがお伝えします
垢版 |
2019/01/03(木) 09:58:44.39ID:SsnvmpJy
榮一は毎日の日課として後ろの山へ上つて沖を見渡した。瀬戸通ひの汽船が島々の彼方にはつきり見えて、春めいた麗らかな日光が讚岐の山々に煙つてゐることもあれば、
西風が吹き荒れて、海には漁船の影もなくつて、北國のやうな暗澹たる色を現してゐることも偶にはあつた。そんな風の強い日には、大きな家の中がさながら野原のやうで、
いくら襖や帶戸を閉め切つてゐても、何處からか風が吹き込んで、寒さを防ぐ術がなかつた。「これでは冬籠りも出來ないね。早く東京へ歸ることにしようか。」
と、榮一は故郷の樣子を見たゞけで滿足して、再び都の小さい借家へ歸らうとした。不漁つゞきで、海鼠や飯蛸などの名産もあまり口に入らないし、落着いて勉強も出來ないし、
殊に家族の中に交つてゐると、急に歳を取つたやうな氣持になるのが厭だつた。「明日の中に立たう。」と、榮一は急に決めたが、竊かにそれを喜んだのは、辰男だつた。
明日の晩から、何時までランプを點けてゐようとも、最早苦情を云ふ者はなくなるのである。彼れの英語の發音を試驗したり、
彼れの英文について無慈悲な批評を下したりしたがる素振を見せて驚かす者がなくなるのだ。……辰男はこの頃英字に親しめなくなつて、動もすると心が外へ散つて、
寂しい詰まらない氣持がし出したのを、兄の所爲と思つてゐた。「この書物は讀んでしまつたからお前にやらう、荷物は成るべく輕くしときたいから。」
と、出立の前の夜、榮一は弟のテーブルの上に英書を二册置いて行つた。辰男は表題と著者の名前とを見詰めたが、讀み方をも意味をも判じかねた。
そして、知らない文字に攻められるのが恐しさに、内部をば開けて見ないで、手馴れてゐる自分の書物で蔽うて机の片隅へ押し遣つた。 
今夜一晩と極つたゝめ、階下の炬燵には皆んなが集つた。珍しく親爺も加つて、何か知ら話が賑つてゐたが、辰男一人は相變らず、二階にぢつとしてゐた。
書きかけの英作文にも取り留めのない疑ひのみ頻りに起つて容易に書き續けられなかつたので、懷手をしてぼんやり、風に唸いてゐる障子を見てゐた。
0141名無しがお伝えします
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2019/01/04(金) 00:48:18.51ID:d1ADlre0
こんどこそ闇落ちさせて暗黒の魔導師にしろよ
0142名無しがお伝えします
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2019/01/04(金) 01:25:41.22ID:keQS0H3A
帯番組だけでなくアベマ社長に気に入られて趣味の麻雀を活かせる番組出演
充実してるな〜
0144名無しがお伝えします
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2019/01/04(金) 02:43:21.96ID:1KA6A0cm
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0146名無しがお伝えします
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2019/01/04(金) 03:43:11.54ID:z9JRWNF0
    ∧_∧
  O、( ´∀`)O   みさきゅんに放銃!
  ノ, )    ノ ヽ
 ん、/  っ ヽ_、_,ゝ
  (_ノ ヽ_)
0148名無しがお伝えします
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2019/01/04(金) 10:04:06.71ID:ZiRp2FtI
今日のJチャン18時台の特集は
断らない救急診療所〜年末年始も急患が次々…泥酔!転倒!SOS!
0149前スレ>>979
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2019/01/04(金) 11:16:39.02ID:kVbpIbBT
>>146
そっか(´;ω;`)
綾香のことは忘れて、
頑張って生きるんだよ(´;ω;`)
0152名無しがお伝えします
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2019/01/04(金) 20:23:22.57ID:KkJqk9ms
>>151
グロ
0159名無しがお伝えします
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2019/01/05(土) 11:23:11.31ID:8uyMapz+
スーパーJチャンネル
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0160名無しがお伝えします
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2019/01/05(土) 11:23:26.85ID:8uyMapz+
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0161名無しがお伝えします
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0162名無しがお伝えします
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0163名無しがお伝えします
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2019/01/05(土) 11:24:15.49ID:8uyMapz+
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0164名無しがお伝えします
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2019/01/05(土) 11:24:40.80ID:8uyMapz+
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0165名無しがお伝えします
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2019/01/05(土) 11:25:18.26ID:8uyMapz+
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0166名無しがお伝えします
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2019/01/05(土) 11:25:50.98ID:8uyMapz+
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0171名無しがお伝えします
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2019/01/06(日) 19:27:25.34ID:ArqETQpa
鼻がテカテカwww
0173名無しがお伝えします
垢版 |
2019/01/07(月) 07:03:41.59ID:Iw32bbc7
今日のJチャン18時台の特集は
年末年始の人間模様…なぜ大衆食堂に集う?客たちの驚きの事情!
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