【「山口組三国志」のこれから】
週刊現代12月2日号(3)

〈忠誠の見返りがない時代〉

山口組に限らず暴力団社会に今働いているのは求心力ではなく遠心力なのだ。ともすれば組員の心はバラバラにほどけがちである。
もちろん生活苦もある。抗争で男を売り出すどころではない。
下の組員が食うや食わずで月の会費を組に納めて上の組長を養うのは親子盃を交わしているからだが、その盃による擬制血族関係が崩れ始めている。
だからこそ「逆盃」とされるタブーを犯してでも分裂劇が起きた。
だいたい組長が忠誠の見返りに与えるはずのお返しがない。
組長は組員にその組の代紋(バッジみたいなもの)の使用権を許すが、今は山口組の代紋だといって稼げる時代ではない。
代紋は警察の介入を招き、かえって邪魔という声さえある。
組長や組のため、抗争などの際、体を賭けて敵を討ち、長い懲役に行っても出所後、組長は褒賞を渡せない。
以前は若頭や若頭補佐など重要ポストを用意する、家を建ててやるなど、形で報いることができたが、今は出所したものの組は消滅、となりかねない。
刑の長さも無期や懲役25年、30年であり、結局は骨折り損のくたびれ儲け、ヤクザ世界での出世どころか、再起の人生さえ望めない。
こういう中で任侠山口組の織田代表は新路線を打ち出した。トップによる下部からのカネの吸い上げをまず否定する。
ちなみに六代目山口組では100人前後いた直系組長たちは各自毎月100万円前後の月会費を納めていた。
暮れには直系組長たち全員が拠出し、司組長に1億円を、盆には5000万円を、司組長の誕生日にも1億円を、差し出していた。
またカネの吸い上げを否定して叛旗を翻した神戸山口組では、表向き直系組長たちの月会費を30万円以下と定めたが、
井上組長が組長を兼任する山健組では、毎月直参から70万、80万円のカネを集め、他に臨時徴収としてほぼひと月置きに同額を、
また「登録料」として毎月、直参が抱える組員1人につき1万円(つまり50人の組なら50万円)を集めていた。
たしかに神戸山口組の、中でも山健組の苛斂誅求は司組長のカネ集めと五分を張るものだった。
織田代表は司、井上路線を否定して、任侠山口組の月会費は直系組長クラスで月10万円、それ以外のクラスは1万〜9万円と定めている。