>>888
「あのね、お通夜っていうのはね」

と言い出したから、

「お通夜の形式も大事ですが、何より気持ちでしょうが!」

と怒鳴りつけ、おばさんと言い争って見かねた祖母に止められたのが修羅場。

私は両親に確認して、おじいさんに

「あしたの おそうしきまで いてください。よかったら、かそうばで、ほねをひろってあげてください」

とお願いした。

火葬場で、おじいさんはずっと泣きながら弟の骨を骨壺に入れてくれた。

骨壺ひとつじゃ成人男性の全部の骨は入らない、頭がい骨も砕かなきゃと言われ、

両親が頭がい骨をそのまま入れられるものを追加で用意してもらい、遺灰まで全部すくった。

お骨を分けることはできないけど、と、葬儀会社の人にお願いして、遺灰を入れる箱みたいなのを用意して、それをおじいさんに渡した。

拝むように、何度も頭を下げられた。

その後、形見分けもしなきゃな…と遺品整理をしていたら、弟の日記みたいなものが出てきた。

中学生くらいの時のものだった。

「△△(当時の担任)に、○○さんとの意思疎通に手話覚えろって言われた。そんなんいらん。俺が手話できても、○○さんはできん。

もうおじいちゃんやから、漢字覚えるのも難しいって言う○○さんに、何で必要のない手話なんか勉強させなきゃいかんのや」

「A(弟の友達)が、○○さんはセーカツホゴやって馬鹿にした。○○さんに、お金、大丈夫なんかってきいたら、ナントカ年金があるって言った。俺らのお父さんのゼーキンむだにしていきててごめんなあって泣かしてもうた」

「俺は、ちっちゃい時、いっつも○○さんが遊んでくれたから、

姉ちゃん学校で、おとんとおかんが仕事で、ばあちゃんらもいそがしい時でも楽しかったよ、ありがとう」 最後のページに、

「ゆいごんです。おれが死んだら、○○さんに、絵本を買ってあげてください。

ひらがなのやつがいいです。 ××神社の御守りもあげてください。

次のお寺の寄付の時は、おれの貯金箱のお金を、○○さんの分で出してあげてください。

○○さんに回らん板を持っていく人のかわりに、ちゃんとひらがなでふりがなをつけてあげてください」

弟と、おじいさんの間に何があったのかは今もわからない。

弟が死んで数年で、おじいさんも亡くなってしまった。

お葬式は親族の方があげていて、参列した時、弟の形見分けで渡したアルバムをお棺に入れてもいいかと聞かれた。

とても大切にしてくれていて、死んだら棺に入れてほしいという遺言だったそうだ。

アルバムには、

「ぼくを しょうがいしゃとして にんげんとして そのまんまうけいれてくれた弟くん ありがとう」

と書いた便箋が挟まっていて、泣いてしまった。