むかしむかし、あるところに、おほりに囲まれた古いお屋敷がありました。
そのおほりのしげみの中で、一羽のアヒルのお母さんが巣の中のタマゴをあたためていました。
やがてタマゴが一つずつ割れると、中からは黄色い色をしたかわいいひなたちが顔を出します。
ですが、巣の中で一番大きなタマゴだけが、なかなか生まれてきません。
しばらくたって、やっとタマゴを割って出てきたのは、たいそう体の大きなみにくいひなでした。
みにくいアヒルの子はどこへ行ってもいじめられ、つつかれて、かげ口をたたかれます。
はじめのうちはみにくいアヒルの子をかばっていたお母さんも、しまいには、
「本当にみにくい子。いっそ、どこか遠い所へ行ってくれたらねえ」と、ため息をつくようになりました。
それを聞いたみにくいアヒルの子はいたたまれなくなって、みんなの前から逃げ出してしまいました。
あてもなく飛び出しましたが、どこに行ってもきらわれます。
アヒルの子は人目につかない場所を選んで眠り、起きればまた逃げ続けました。
季節はいつの間にか、秋になりました。
そんなある日、みにくいアヒルの子はこれまで見たこともないような、美しいものを目にしました。
それは、白鳥(はくちょう)のむれでした。
長くしなやかな首をのばし、まぶしいばかりの白いつばさをはばたいて、白鳥たちはあたたかい国へと飛んでいくところでした。
アヒルの子はあっけにとられて、その美しい烏たちが空のかなたへ去っていくのを見送っていました。
「あんな鳥になれたら、どんなにか幸せだろう。 いや、アヒルの仲間にさえ入れないくせに、そんな事を考えてどうするんだ」
冬が来て、沼には氷が張りはじめました。
アヒルの子はアシのしげみにじっとうずくまって、きびしい寒さをたえしのびました。