(略)
●「単に長期金利を上げたら、経済にも金融機関にもプラスにならない」

 16年1月29日に決定されて2月半ばから実行に移されたマイナス金利が「急性ショック」的に、金融機関貸出の利ざやを縮小させたことは事実である。
しかしそれは、貸出市場の需給バランスが非常に緩く、約定金利が低下するという大きな枠組み・流れの中での、アクセルが踏まれたかのような一幕にすぎない。
そのことは、日銀が発表している貸出約定平均金利の過去の推移を眺めれば、容易に理解されることだろう(1ページ目、関連画像参照)。
 当の日銀は上記の問題の関連で、ほかにどのようなメッセージを発しているだろうか。
筆者が大いに注目したのが、読売新聞が9月1日の朝刊に掲載した黒田東彦日銀総裁への独占インタビューに含まれていた、以下の発言である。

 「地方銀行では、貸し出しによる業務純益が減ってきている。ただ、長いトレンドでみると、地域の人口が減り、地域の企業数も減っている」
 「利ざやが拡大しても、それだけでは解決できる話ではない。(地銀同士の)経営統合や合併、あるいはリストラなどを考えてもらうことになる」
 「単に長期金利を上げたら、経済にも金融機関にもプラスにならない。貸し倒れも増えるし、意味がない」

 最後の「単に長期金利を上げたら、経済にも金融機関にもプラスにならない」という単刀直入な発言には、強烈なインパクトがある。
 以前から筆者が主張していることだが、貸出金利が上昇基調になるなど経済の実情見合いで金利の環境が大きく変わっていれば話は別だが、
そうはなっていない中で、市場金利だけを強引にスティープ化させようとしても、その度合い・持続性には難がある。
 また、金融システム全体の問題にならないように金融行政を運営している中心的な主体は、日銀ではなくて、金融庁である。
そのあたりを見落としたまま、金融機関周りのことは何でも日銀が担当しているかのように書かれたマスコミ記事も散見される。
 上記の黒田総裁インタビューの内容は、債券などの金融市場には今一つ浸透していないようである。
金融機関の収益面をサポートする目的で、日銀が近い将来にマイナス金利を解除したり長期金利ターゲットを持ち上げたりするというシナリオの実現確率はほぼゼロに等しいと、筆者はみている。